生き方
「この人の人生が気になる!」そんな旬なゲストと、LOCAL LETTERプロデューサー平林和樹が対談する企画『生き方 – 人生に刺激を与える対談 – 』。
第7回目のゲストは数々の飲食店を経営する一方で、市町村でも都道府県でもなく “九州”という単位に可能性を見つけ出し、「九州パンケーキ」をはじめとする「KYUSHU ISLANDⓇ(九州アイランド)」プロダクトシリーズを全国に展開する村岡浩司さんです。
村岡さんは「ONE KYUSHU」という概念で、地域活性へとつなげていく「ONE KYUSHUサミット」も開催し、周りからは “九州国王” の愛称で慕われています。
そんな “九州国王” の原動力に触れた前編でしたが、後編では無限に繋がり続けられる時代だからこそ「自分が発揮できる価値」について語られました。
自分自身の人生を精一杯生き続けているアナタに注ぐ、一匙の刺激をお届けします。
平林:優しくて僧侶みたいな村岡さんですが、村岡さんの「欲望」はどこにあるのでしょうか?
村岡:それは言わないでしょ!(笑)でももっと自由になりたいし、もっと解放されたいし、生きていく上で 背負った“カルマ” を一つずつ降ろしていかないといけない。僕はもうすぐ53歳なんですよ。ちゃんと降ろしていかないと間に合わなくなるなと。
一方で今まで積み上げてきた会社や、会社を支えてくれたスタッフ・チームがもっと輝けるようにしていく責任もあるじゃないですか。それこそコロナ禍で事業が落ちた分だけ「引き上げていかないと」と思っています。僕だけが抜けるわけにはいかないので。そこはしっかり感じています。
平林:やっぱり、村岡さんは全然視点が違いますね。本当に尊敬します。
村岡:それは当たり前ですよ。ぽぽ君(平林愛称)はまだ30代。人生を山登りに例えると、山頂を目指してる急な登りの時が一番キツくて、ぽぽ君は今そのフェーズじゃないですか。一番楽しいのは、登る前に計画をしてる時。登り始めると、斜面を登り続けなくてはいけないから、心拍数がぐんと上がってキツイ。
キツイ状態に慣れてくるのは3合目ぐらいからですが、更に上に登っていくと今度は「擬似ピーク」が見えてくるんです。登っている側は「あそこが山頂だ」と思って足を進めるんだけど、近づいてみると実は山頂はその奥にあって、また近づいていくと更に先に山頂が、という疑似ピークの嵐(笑)。
登ってる時は「山頂に辿り着くためにどうしたらいいか」を考えますが、実業家として自分なりの山頂(ピーク)が見えた時に考えるべきは「降りること」。登りっぱなしは不可能でしょう? だから一気にすべり降りるのか、途中で休みながら降りるのか、はたまたもう1個山登りをするかを考えないといけない。
平林:村岡さんは絶対に次の山に行くじゃないですか(笑)。
村岡:僕は事業家として、そろそろ自分なりの山頂を見ないといけないと考えています。売上だけが全てではないと思っていて。「どこまで会社を大きくしたら自分は引退する」を考えはじめちゃうと、全部が疑似ピークになってしまい、下山する方法がわからないまま山頂を目指し続ける人生になる。
僕はどこまで登るのかは自分で決めたい。エベレストみたいな山に登る人もいれば、700mぐらいの小さな裏山に登る人もいると思うんですけど、僕はどんな高さの山であれ、チャレンジするという一点で価値は一緒だと思うんですよ。挑んだことが大事であって「何mの山に登った」はどうでもいい。
平林:自分が本当に登りたい山に登ることが大事ですよね。
村岡:だから僕自身が「スタートアップの起業家の人生を理解してるか?」というと、全然理解できていないんです。だって別の生き方だから。
もう一度山登りに例えると、多くのスポンサーがついてお金をたくさん持って世界最高峰を目指すことになれば、途中で辞める落胆が大きすぎて、辞める辞めないを自分だけじゃ決められなくなるんです。だからこそ、どれだけ悪天候でも行かないといけなくなる。
村岡:こうしたチャレンジ精神溢れる生き方を「アントレプレナーシップ」と言う人もいますが、僕はそれだけが人生ではないと思っています。それぞれの人生があっていい。
僕の知り合いで、大分県で「どら焼き屋」をやっている方がいるんですが、元看護師で看護師として働いていた時に、毎日通っていたどら焼き屋さんに癒されていたら、どら焼き屋の店主が「もう店を畳もうかな」と言うわけです。彼女は咄嗟に「私にやらせてください!」と頼んで、看護師を辞めてどら焼き屋をはじめるんですけど、これがめちゃくちゃ大成功したんですよね。
売り方としては、お店を出さずに来週つくる分をSNSで公表して予約注文を取る形なんですけど、「自分がつくれる範囲で、つくれる範囲の笑顔をつくって幸せにします」みたいな生き方と、「数十億円調達して、何万人の社員を幸せにします」みたいな生き方の「どちらが優れてるか?」と言われた時に、誰が答えを出せるのって思うんです。どちらもスタイルの違いでしかないんですよ。
平林:先ほどの「アントレプレナーシップ」のお話しなんですが、僕は「アントレプレナーシップ = 起業家精神」ではなく、「アントレプレナーシップ = 自分の人生の主導権を手放さないこと」だと思っていて。この辺りをもっとメディアとして伝えていきたいなと思っています。
村岡:僕自身は「アントレプレナーシップ = 諦めないこと」だと思っていて。みんな、いろんな悩みがあるじゃないですか。実業家も子育て中の方も、会社員も、みんな。
例えば子育て中の方であれば、子どもが不登校になって悩んでいるかもしれない。でも諦めずに毎日子どもと向き合い続ける。誰もが日々何かと戦っている中で、アントレプレナーシップって、自分が生み出したことに対して責任を持って諦めないことなのかなって。
平林:先ほどスタッフやチームを「引き上げていく」というお話もされていましたが、村岡さんは実際にメンバーに対してどんな関わり方をしているんですか?
村岡:今日は自分自身の「生き方」を語る特別なインタビューなので、会社の代表ではなく、いち個人としてお話しすると。
僕は自分に自信がないから、「この人の人生を背負って大丈夫かな」と思っちゃうんですよね。だからこそ僕に人生を預けて、一生懸命やってくれるメンバーたちを本当に尊敬しています。だから正確にお伝えすると「引き上げる」じゃなくて「ありがとう」しかないんです。
村岡:企業成長において、社長が「僕でいいの?」というマインドでいることは良くないのかもしれないですよね。新しい人たちを迎えて、お互いが競争できる環境をつくっていくわけじゃないですか。
平林:チームの人たちは村岡さんのことをどう思ってるんですか?
村岡:それは聞いてみないとわからないけど、時々不思議に思ってるんじゃないかな(笑)。「社長はこうあらねばならない」という社長像が世間にはあると思っていて。昔は僕も先輩方に「こうあるべきだ」とたくさん言われてきました。ですが実際にはそんな完璧な社長像はなかった。自分は自分なので。だから僕のやり方で「どうするべきか」を考えています。
平林:僕も長年一緒にやってきたメンバーに「ぽぽさんは、いわゆる社長像を持っていますよね」と言われたことがありました。当時は「そんなことない」とムキになって返しましたが、今振り返ると「社長だから、こうあらねば」がすごく強かったんだろうなと思います。
村岡:でも、そのときの自分も正しいからね。そのときの自分がそう信じてやってるわけだから。その一方で、変化もしていいんじゃないかなって思ってる。今までの自分が、明日からの自分でなければいけないことはないし。行き詰まったら、今日から変えていいんじゃないですか。どうしようもなくなったら、逃げてもいい。
平林:さすがです。本当に悟りの境地。
村岡:いや、でも本当にそうですよ。無理だったら1回逃げてしまって、大丈夫になってからひょっこり帰ってくればいいんです。「ごめんなさい病んでました」って。そしたらまたみんな優しくなれるでしょ?
平林:村岡さんの包み込む力、本当にすごい。
平林:村岡さんは、今どんなことに時間をつかっているんですか?
村岡:コロナが始まった2020、21年は、不採算店を閉めるとか、マイナスの仕事がたくさんありました。でも今は「持っているリソースをどうやって最大化するか」を考えています。ここからは、新しく生み出すことを重ねていかないといけないなと。
平林:そうですよね。今は整理するための時期かなと思っていて。改めて自分がやっていきたいこと、実現したいことを整理して、何に集中していくかを考えることはすごく大事ですよね。
村岡:みんな整理のタイミングにきているのかもしれないですね。人との関係性も、事業との関わり方も。決断する時には「自分の心をざわつかせるものを消す勇気」が大事だと僕は思っています。
平林:村岡さんの「心をざわつかせるものを断つ工夫」を是非教えてください…!
村岡:SNSの友だちをそっと解除する…。
平林:めちゃくちゃ具体的ですね(笑)。
村岡:心をざわつかせるようなSNS投稿をする人や、人の悪口を言う人からは、そっと身を引きます(笑)。でも事業においては「何のためにやっているのか」をよく考えて整理した方がいいですよね。
平林:逆を言うと、自分が関わることで少しでも前向きになれるとか、相手にとってポジティブな存在であることも大事な観点ですね。
村岡:ますます時代はデジタルで際限なく繋がれるスーパーグローバルの世界になっていきます。そうであればあるほど、個性を尊重することや真の繋がりを選択するという観点は大事かもしれませんね。繋がりが無限に広がっていく世界だからこそ、大事なのは、無秩序なグローバルの対極にある、自分が大切に守りたい「スーパーローカル」だとも思っています。
「ローカル」が指し示しているものは場所に限らず、比較できないもの。例えばまちのみんなが誇りに思っている存在とか、際立った個性とかそういった唯一無二のもので、そこがバリューを持ち始めているんです。自分にしかできないことを追求したら、いつしかそれが価値を持つ。だから僕は色んなところに行って、パンケーキを焼いているんですよ(笑)。
村岡:「パンケーキを焼くこと」は、僕にしかできない場のつくり方であり、僕にしかできない貢献の仕方であり、僕しかできない武器であると思ってるから。みんなの中に入っていって、真ん中にホットプレートを置いて、パンケーキを焼いて食べたら、そこにいる全員がハッピーですよね。全員笑顔で、一瞬で世界平和になる(笑)。
「パンケーキを焼く」みたいな、くだらないことでもいいから、自分にしかできないことを何か1個持って差し出すことがこれからは大事なんじゃないかな。
平林:そういう世界は最高ですね。みんなが気持ちよくなれます。
村岡:ぽぽ君たちだってそう。こういう記事は、ぽぽ君たちにしかつくれないからね。そういう世界を目指していきたいですね。
平林:ますます村岡さんに興味が湧いた時間でした。本当にありがとうございました。
Editor's Note
なんて優しく、なんて包容力があるのか。お話を聴きながら、不覚にも頬を涙がつたいました。本当にたくさんの人から愛されているのにも関わらず「自分に自信がない」と話された村岡さん。ですが、自分に自信がないと弱さを知っているからこそ、人に優しくできる所以なのかなと思いました。心が軽くなりました。本当にお話ありがとうございました。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香