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話題を集める”日本で稀有な海に囲まれた”九州唯一のキャンプフェス「KSC」。仕掛け人が語った、成功の秘訣

JUL. 13

拝啓、地元に愛される「コンテンツ」をつくりたいアナタへ

佐賀県唐津市で開催された、日本では珍しい海に囲まれた九州唯一のキャンプフェス「KSC(Karatsu Seaside Camp in 玄界灘)2023」。

今年で2年目となる本イベントでは、豪華なアーティストによる圧巻のパフォーマンスはもちろんのこと、雄大な自然の中でのキャンプやサンセットなど、他のフェスとは一味違った“ここだけの楽しみ”が盛りだくさん。

そんな「KSC」を仕掛けた3名に取材をして、このフェスに込めた想いやこだわり、そしてこれからの「KSC」について伺います。

橋村 和徳 / 株式会社 VILLAGE INC 代表取締役社長 船でしかいけない1日1組のキャンプ場「AQUA VILLAGE」を皮切りに日本各地でアウトドアフィールドを手掛け、『KSC』の舞台である波戸岬海浜公園の管理者である株式会社VILLAGE INCの代表。KSC実行委員会の幹事メンバーとして今後もさらなる地域連携を担う。佐賀県唐津市出身。
橋村 和徳 / 株式会社 VILLAGE INC 代表取締役社長
船でしかいけない1日1組のキャンプ場「AQUA VILLAGE」を皮切りに日本各地でアウトドアフィールドを手掛け、『KSC』の舞台である波戸岬海浜公園の管理者である株式会社VILLAGE INCの代表。KSC実行委員会の幹事メンバーとして今後もさらなる地域連携を担う。佐賀県唐津市出身。
木下 裕晴 / ミュージシャン 91年にL⇔Rでデビュー。95年リリースの「knockin' on your door」がミリオンヒット。97年活動休止以降は様々なアーティストのサポート、楽曲制作に携わる。2022年、これまでの長年にわたるフェス、国内および海外ツアーの経験を活かして、KSCの立ち上げに参加。実行委員メンバーとなる。
木下 裕晴 / ミュージシャン
91年にL⇔Rでデビュー。95年リリースの「knockin’ on your door」がミリオンヒット。97年活動休止以降は様々なアーティストのサポート、楽曲制作に携わる。2022年、これまでの長年にわたるフェス、国内および海外ツアーの経験を活かして、KSCの立ち上げに参加。実行委員メンバーとなる。
野口 勉 / 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント ライブクリエイティブグループ企画制作部 担当部長 2009年、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。当初よりライブ事業に関わり、現在は、SMEライブクリエイティブグループ、ソニー・ミュージックソリューションズ、ライブエグザムの各社を兼任し、アーティストのツアー制作、各種イベントの企画制作に多数関わっている。
野口 勉 / 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント ライブクリエイティブグループ企画制作部 担当部長
2009年、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。当初よりライブ事業に関わり、現在は、SMEライブクリエイティブグループ、ソニー・ミュージックソリューションズ、ライブエグザムの各社を兼任し、アーティストのツアー制作、各種イベントの企画制作に多数関わっている。

コロナ禍でエンターテイメントが低迷していたからこそ生まれた、新たなキャンプフェス

2022年に初開催となった「KSC」。社会全体が新しい時代にどうアプローチするかと模索していたタイミングでの開催となりましたが、どのような経緯から本イベントは生まれたのでしょうか。

橋村さん「僕たちが出会ったのは2021年で、まさにコロナ禍のことでした。ちょうどエンタメ業界が暇になっていたタイミングで、逆にいうと、だからこそ一緒に何かをやりましょうという話ができたり、そういった時間をとれたりしたんです」

野口さん「そうですね。その時期、唯一流行っていたエンターテインメントがキャンプでした。それもあって、木下さんが野外フェスをやっている人間として僕と橋村さんを繋いでくれたのがきっかけです」

それぞれの分野で多忙を極める皆さんが集結するのに、コロナ禍が一役かっていたというお二人。では、そんなお二人を繋いだ木下さんにはどんな想いがあったのでしょうか。

木下さん「高校時代の同級生が橋村さんと知り合いで、ここ(波戸岬キャンプ場)をはじめとして、特徴的な面白いキャンプ場を運営している人(橋村さん)がいる話は以前から聞いていました。その場所を活かして何かできないかと改めて相談を受けたときに、僕がミュージシャンということもあり、やっぱり音楽がいいんじゃないかと思って。それで、お二人を紹介させてもらったんです」

九州初、日本初。誰も見たことがない海に囲まれたフェスステージが誕生。この土地に決めたワケ

開催2年目でありながら、既に7,000人を動員し大規模なフェスとなっているKSC。実は「企画当初はここまで大きなものになるとは考えていなかった」と橋村さんは語ります。

橋村さん「僕が運営しているキャンプ場の一つに、西伊豆のプライベートキャンプ場があって、当初はそこで少人数の高付加価値なフェスをやるのはどうかと考えていたんです。ただ実際に視察に行ったら、フェスをやるには小さすぎるんじゃないかという話になって……」

木下さん「それで他の場所も見て回ろうと、伊豆の次に訪れたのがこの場所でした。常設のステージがあって、お客さんはそのステージの奥に海を見ることができる。トイレや運営本部に使える建物など細かなインフラも整っていて、まさに野外フェス向けの会場でした。車移動というアクセス面の心配はありつつも、ここが良いという確かな感触がありましたね

「KSC」の中心メンバーでありながら、ミュージシャンとして出演者側の立場でもある木下さん。そんな木下さんが惚れ込んだ“海に囲まれたステージ”は、数々のフェスを作り上げてきた運営のプロ・野口さんの目にも、やはり魅力的に映っていました。

野口さん「初めて場内を歩いた時からすぐに、ここでキャンプフェスをやるイメージが沸きました。フェスを作る側としては、何よりもこのロケーションに感銘を受けたのが大きかったですね。ちょうど九州にはまだ代表的なキャンプフェスがありませんでしたし、日本中を見渡しても海に囲まれた中でのフェスは存在していない。『九州初、日本初の海に囲まれたキャンプフェス』というコンセプトは、視察をしながらすぐに決まりました」

行政・地域の協力を得ながら、企画からわずか1年でのスピード開催。その秘訣は唐津の土地にあった?

彼らが最初に視察を行ったのは2021年のこと。その翌年には初開催となった「KSC」ですが、「このスピード感は誰も予想していなかった」と橋村さんは明かしてくれました。

橋村さん「本当は2年後くらい、つまり今年初開催のイメージで動いていたんです。それが1年前倒しで実施できた理由は、まずひとつに野口さんの経験が豊富だったこと。そしてもうひとつに、行政・地域の皆さんが乗り気になってくれていたことが欠かせません。こういったイベントをやるには、大小様々な協力が必要不可欠なんですが、そこに寛容でいてくれたことが大きかったですね」

実は、ここ唐津市がご出身だという橋村さん。「この場所は、古くは遣唐使のための港として、そして16世紀後半・豊臣秀吉の時代には7年間は実質的な首都で、茶会をはじめとする桃山文化が花開いた場所として、常に文化の交流地点になっていました。そういった歴史や風土も、この地域の皆さんが新しい取り組みを前向きに捉えてくれる一因になっているのかもしれないですね」と語ります。

1年目で苦戦した出店集めが、2年目には1.5倍に増加。主催者が感じる変化とは

順風満帆なスタートを切ったように見える「KSC」ですが、それでも初年度は飲食店の出店集めなどに苦労されたそう。しかし、2年目となる今年はそうした部分にも変化がありました。

橋村さん「昨年は準備期間も短く、こちらから声をかけさせてもらっていたんですが、今年はむしろ出たいとおしゃっていただけることが増えて、結果的に出店数が1.5倍くらいに増えました。

特にそうした変化を実感できたのが、Beach Stageの入口に並んでいる壺焼き小屋ですね。もともと観光客の方に人気の場所なので昨年は貸切にできなかったんですが、今年は『フェスの人たち限定で開けるよ』とすぐに許可をもらえて。そうやって地域の皆さんに快く参加してもらえるようになったのが本当に嬉しかったですね」

「フェスというのは3〜5年の歳月を経て、少しずつ出来上がっていくものなんです」と語る野口さん。こうした変化の要因はどういったところにあるのでしょうか。

野口さん「やっぱり、昨年の様子を見て楽しそうだと思ってもらえたことが一番なんじゃないでしょうか。あとは、コロナ禍に比較的落ち着いた規模感で始められたというのも、結果論にはプラスに働いているんだと思います。フェスが大きくなるほど車や人の数が増えて、どうしても地域の皆さんの生活に影響が出てしまう。だからこそ、無理のない範囲から理解してもらえたのが良かったですね」

教育委員会との連携や、立場関係なく楽しむコンテンツづくりなど、多彩な仕掛けも展開

雄大な自然の中での演奏はもちろん、地元の名産品を食べたりワークショップを楽しんだりと、他のフェスにはない魅力に溢れている「KSC」。運営メンバーの3名が考える“このフェスならではの魅力”とは、どんなところにあるのでしょうか?

橋村さん「僕が思うこのフェスならではの魅力は、やっぱり地域との一体感ですね。例えば一般的にボランティアというと、大人だけが参加するイメージですが、このフェスでは高校生にも大勢手伝ってもらっているんですよ。教育委員会に許可をいただいて、唐津市内の公立・私立高校合同で『高校生フェス部』というのを設立してもらって、事前準備からフェス当日の案内まで一緒に作り上げています」

「あとは、タイムテーブル上に『サンセットタイム』を作ったのも僕たちのこだわりですし、魅力になっているんじゃないかなと思います」と橋村さんは続けます。

橋村さん「19時を過ぎたその時間だけは、お客さんも出演者も運営も、その場にいる全員で海に沈んでいく夕日を眺めようと決めていて、そういうところは今後も大切にしていきたいですね」

野口さん「タイムテーブルのことで僕から補足すると、2つのステージで演奏時間が被らないようにしているのも、他のフェスではあまり見かけないものだなと感じています。見ようと思ったら、出演者の演奏を全部見ることができる。これは自分で楽しみながらも凄く良いなと思いましたね」

木下さん「お二人と別の視点だと、僕は楽屋作りにもかなりこだわっていて、そこも『KSC』ならではの魅力だと感じています。有難いことに、ミュージシャンとして長年色々なフェスに参加させていただいているので、ここの楽屋にはその中で感じてきた『こういう楽屋だったら良いな』という要素を詰め込んでいるんです。

具体的には、楽屋だけで地元の色がしっかりと出ることを意識していて。出演者はステージと楽屋でしか会場の雰囲気を知れないので、楽屋がそういった作りになっているとやっぱり嬉しいですし、パフォーマンスにも良い影響が出るんですよね」

「実際、出演アーティストでまた来年も出たいと言ってくれる方が本当に多いんですけど、その半分は楽屋が魅力的だからなんじゃないかと思っています」と、野口さんは頷きながら教えてくれました。

毎年の風物になるように。今に全力を尽くしながらも、地域の丁度良さを見つけていく

地域と繋がりながら、その規模を徐々に大きくしていっている「KSC」。取材の最後に、今後の展開やビジョンについて伺いました。

橋村さん「かつて大茶会をやっていたこの土地で、現代版の茶会としてフェスを続けていきたいですね。唐津には毎年11月に『唐津くんち』という伝統的なお祭りがあるんですけど、10年20年と経ったときに、春には『KSC』、秋には『唐津くんち』があると言ってもらえるくらいになっていたら嬉しいですね」

野口さん「継続的に続けていくためにも、まずは来年が大切だと考えています。今年は昨年と比べて動員数が上がって、地元の協力体制もさらにいただけるようになっている。でも今年はまだこのサイズ感(2日で7,000人)で、例えば1日で1万人が訪れたら、それはもしかしたら過ごしづらいのかもしれないですよね。この土地に合ったちょうど良い形というのは僕らにもまだ見えてないので、まずはそこを見極められたらなと。

それで橋村さんがおっしゃっていたように、毎年の風物として続いていくことが目標になりますかね。例えば、今参加してくれている『高校生フェス部』の皆さんが、5年後10年後とかに、音楽の仕事にプロとして携わるとか、あるいは自分のお店を持ったときに出店してくれるとか、そういうことがあったら凄く素敵ですよね」

お二人の後で恐縮なんですけどと言いながら「僕は今後のことに関してはまだ考えていないんです」続ける木下さん。

木下さん「ミュージシャンの感覚だからだと思うんですが、基本的に次があるという前提ではやっていなくて。まずは今回で最高なものを出し切る。それしか考えていないので、今年を無事にやり切ってから、それでまたお話をいただけたら、それ以上のものを作れるよう努力していきたいですね」

皆さんのお話を伺いながら、それぞれが主体性を持って自分にできること、そして地域にできることを考えて行動しているからこそ、このフェスが唯一無二の存在として魅力的なものになっているんだということが分かりました。

今回取材をさせていただいたのはフェス2日目。その後、木下さんがおっしゃられていたように最高なものを出し切った「KSC」は、2日間で動員数7,000人と大成功を納めました。

来年の開催はまだ未定とのことですが、また開催されることを楽しみにしつつ、引き続き「九州初、日本最初の海に囲まれたキャンプフェス」の動向を追っていこうと思います。

Editor's Note

編集後記

今回取材をさせていただいて印象的だったのが、「継続すること」を大切にする橋村さん・野口さんと、「今回で出し切ること」を大切にする木下さんの対比。それぞれの視点が交わることで初めて見えてくる景色があるのだなということを強く実感した瞬間でした。良いチームって、本当に格好良いものですね。

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