KYUSHU
九州
※本レポートは「2030年の九州を語ろう!ONE KYUSHU サミット 宮崎 2024」内のトークセッション「ライフスタイルとそれに伴う産業の変化ー2030年の九州」を記事にしています。
ほんの1年の間でも、ものすごいスピードで思わぬ方向へ社会情勢が変わる。とりわけ2020年代になってからは予測不能な出来事に左右されたことも多いのではないでしょうか。
今から6年後の2030年、九州はどうなっているのか。今従事している産業のかたちを持続するべきか、はたまた変革が正解なのか。6年後、社会にとって有益な生き方をするために、九州から力強い提案をお届けします。
石山アンジュ氏(モデレーター、以下敬称略):このセッションでは2030年の九州について、今後世界は、九州はどうなっていくのかを語ります。
登壇者は、地域やグローバルの架け橋として第一線でご活躍の皆さんです。地域とグローバルを何回も往復するような、そんな話をしていけたらと思っています。
まずは自己紹介がてら、「2030年のライフスタイルと産業」に向けてのキーワードを一言ずつお伺いします。
川原卓巳氏(以下敬称略):僕の妻は“片付け”をしている「こんまりさん」こと近藤麻理恵です。21歳の時に妻と出会って一緒に生きていくことになりました。
彼女の仕事をサポートするようになり渡米。アメリカで経営をしてシリコンバレーに住みロサンゼルスに会社をつくり、その後Netflixで彼女のTV番組をつくったら世界一視聴されるなど、自分の意思がそこにはない人生をここまで生きて参りました(笑)。
川原:ありがたいことに現在、妻は「世界で一番知られている日本人」です。多くの人が日本のことを好きで、何度も訪日した方にも多く出会います。その一方、アメリカで生活している時には、全くもって日本の話(ニュース)を聞かない。そのことに強い危機感と違和感を感じました。
僕の知っている日本では、また日本のプレイヤーは、世界と比較しても価値のあるサービスや仕事をして、魅力的な商品を持っています。にも関わらずそれらが世界に出て行っていないのが現状で、僕はこれを変えたいのです。
川原:僕自身幸運なことに、世界で一番知られる日本人をプロデュースすることができたので、その知見・経験・人脈を生かして日本の価値や魅力を世界に届けることをしたいと、2020年から地方創生、地方プロデュースの活動を始めました。
その時にX(旧Twitter)上で、地方創生を面白そうにやっている人がいるなと見つけたのが、今横に座っている齋藤潤一さんです。彼の宮崎県新富町での活動の話を聞いて、1週間後にはロサンゼルスから宮崎へ向かい、そこから年に5回ほど宮崎に足を運ぶようになりました。
九州、そして宮崎という土地に対して非常に強く価値を感じており、可能性を感じている人間として今日この場に来させていただきました。
齋藤潤一氏(以下敬称略):齋藤潤一です。隣にいる齋藤隆太さんとは、藤原家までさかのぼると実は遠い親戚です(笑)。僕はビジネスで地球課題を解決していきたいと思っている起業家で、農業スタートアップのAGRIST株式会社と、こゆ財団の代表をしています。
川原さんと同じく僕も元はシリコンバレーのスタートアップで働いていまして、東日本大震災をきっかけにビジネスの力で地方経済を盛り上げていく活動を続けています。
こゆ財団では一粒1,000円のライチを開発し、ふるさと納税でも100億円以上の寄付を達成して国の優良事例になっており、新富町自体が起業家や若い人たちが集まって活躍する場となっています。
齋藤(潤):農業の課題を解決するAGRISTでは、行政の予算ではなく地銀や投資家など9ヶ所から資金調達をしています。人口16,000人のまちから、世界の食糧課題を解決しようと本気で取り組んでいるんです。小さなまちですが、国内外から20以上の賞をいただいた実績も。
そして2024年からは宮崎市の公民連携プロジェクトMOCが開始。声なき声を拾いながら、宮崎が持続可能になるための経済活動を行い、課題解決をしていきます。僕はローカルスタートアップを促進する役割で、ここに発起人として参加します。
齋藤隆太氏(以下敬称略):現在は株式会社ライトライトを運営しています。東日本大震災や、宮崎県での鳥インフルエンザ・口蹄疫の被害があった際には東京におりました。ですが、天災や被害があった時にだけではなく平時でも地元に協力したいと、2012年にクラウドファンディングサービスのFAAVOという会社をつくりました。ここで資金調達をして地元に還元することが目的でした。
同じ頃に潤一さんはNPO法人をやっていて、遠縁の僕のことを嗅ぎつけてきました(笑)。
齋藤(隆):僕はグローバルという発想は最初から持ち合わせていなくて、都市部の一極集中問題をどうしたら解決できるのか、ローカルが今後どうなっていくのかに興味があります。結果として、FAAVOが軌道に乗ったところでCAMPFIREへ事業譲渡をしました。僕自身もCAMPFIREへ移籍して執行役員を1年半務めましたが、ローカルにまつわるサービスをするべく、ライトライトを立ち上げたという経緯ですね。
齋藤(隆):ライトライトではrelay(リレイ)というサービスを行っています。事業承継のマッチングプラットフォームです。創業から4年経過して面白くなっています。
石山:私は現在シェアリングエコノミーを専門にしています。都市に一極集中してきた人・モノ・お金などが、全国各地へ分散するという思考が、これからの個人の豊かさのスタンダードになり、持続可能な社会ができていくということを書いた本『多拠点ライフ』をこのたび出版しました。
石山:全国にシェアハウスや、この人たちは家族だと思える人たち、すなわち「拡張家族」を増やしていく活動もしています。ですから私からしたらこのセッションにお越しの皆さんも、拡張家族になりますね(笑)。
石山:「どうなる?2030」ということで6年後の世界や九州はどうなっていると思いますか。会場の皆さんの視座をぐっと未来へ持っていっていただけるような、6年後のキーワードになりそうなものが整った方からお話しください。
川原:まずは大前提として、どんなに賢くても2030年の世の中を予測できる人はいない。けれど「こんな未来になりそうだな」という、僕から見えている真実をお話しします。
川原:2030年、データ上確実に人口が減るシナリオが起こるとして、だからと言ってそこに生きる一人ひとりが暗く生きる必要は全くないと思っています。
僕らがアメリカから190カ国を通じて番組を提供してその地域にコミュニティが生まれ、日々やりとりをする中で「自分自身が何を幸せとするのか、何にときめくのか。それについてより素直に生きるようになった人が増えていること」を感じるからです。
例え世の中がどんな状況であっても、ときめきは自分自身が選ぶもので、それは誰もができることだと僕らは確信している。そうやって生きていく人が増えていくほど個の単位での幸福度は上がるので、僕は2030年はもっと幸せな未来になっていると思います。
石山:ポジティブなシナリオをいただきました。
齋藤(潤):僕はポジティブでもありネガティブでもあります。農業課題に取り組んでいる中で、世界の食糧問題はかなり危機的だと思っています。今、この瞬間にも8億人の人がご飯を食べられない状態です。
齋藤(潤):先日行ったイスラエルでは到着した時にミサイルが落ち、翌日から戦闘状態になりました。そんな状況でもイスラエルの食料自給率は100%を超えているんですよ。小さい国なのにちゃんと養液栽培などをして備えているんですね。
一方日本の食料自給率は38%なのに、余った食べ物をどんどん捨てています。こういった世の中の不均衡って、絶対どこかに歪みが来るんですよ。それを改善しようとしているのが僕らのAGRISTという会社で、食糧問題の解決も今後宮崎市と組んでやっていきます。
僕らは全国に農場を持っていて、農場長とオンライン会議をします。会議では「ピーマンを収穫している時に、ただピーマンを収穫していると思わないでほしい」という話をしています。「遠い国の話だから関係ない」ではなく「このひとつひとつが食糧問題の解決に繋がっている」と思って作業をしてほしいのです。
既に人口16,000人のまちから食糧問題の解決にチャレンジしているので、九州も「ONE KYUSHU」としてひとつになって取り組めればというのが、2030年に向けての僕の希望です。
齋藤(隆):僕はネガティブ発言ですけど、2030年には収斂が始まると思っています。例としては「住みたいまちに、住めないかも」ということです。川原さんがおっしゃるところの「ときめき」や「個人の幸せ」を追求しないと論理的に無理な構造ができそうだと思っています。
2030年くらいになると、住民サービスの質が落ちてきて「地元だから本当はこのまちに住みたいけど、不便すぎるから他所に越そうか」みたいな人が相当増えてきそうな気がします。
僕らは事業承継のサービスをしているので、そういった事務所移転のような状態にならないように事業を繋いでいくわけですけど、結局日本全体が人口減なので人口の取り合いになってしまっています。どこからか人口を連れてきても、違う人口がいなくなるだけなので。
齋藤(隆):最終的には収斂すべきところに収斂をして、「自分が住みたいまちに住む」ではなく「住みたいまちの近くのまちに住まざるを得ない」ような未来が来そうだと思っています。
そこに行き着くまでに、そのことを皆さんが受け入れる時間が今後の6年間だと思っています。2030年頃に本当にそんなことが起こりつつあるとしたら、それに向けて公的機関も含めていろいろなことを思い切って決断していかないといけないんじゃないかと思っています。
前編では、6年後の社会課題解決に向けてなすべきことについてお話いただきました。後編では、地域だけでなく日本、果ては地球規模で物事を捉えるために個人ができることについてお話しいただきます。
Editor's Note
6年後に幸せな未来を実現するためには、なすべきこと、妥協しないといけないことの両面が必要なのかもしれません。「個々にときめきを」の生き方は九州だけにとどまらず、オールラウンドでの課題解決に役立つことを願っています。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子