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LOCAL LETTER

日々の“しんどさ”に麻痺していた自分。誰もがオープンになれる居場所づくり

JUN. 28

KYOTO

拝啓、誰もが生きやすくフラットな社会の実現を願うアナタへ

近年、地域活性化のキーワードとして「寛容性」が注目されています。地域からの人口流出と、各地域の「寛容性」の間に密接な関係があることも分かってきました。

しかし、そもそも「寛容性」とは何なのか、実現に向けてどのような課題があり、どのようにアプローチすればよいのか、具体的なイメージが湧かない方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そこで、LOCAL LETTERでは地域の「寛容性」×「地域活性」にスポットを当て、これらを後押しする活動をする皆さんにお話をお聞きします。まずはプライド月間*に合わせて、性の多様性にまつわる取り組みをする、阪部すみとさんにお話を伺いました。

*プライド月間…6月は「プライド月間(Pride Month)」と呼ばれ、セクシュアルマイノリティの人権に関わる啓発活動・イベント等が多く実施されます。

阪部すみとさんは、関西をベースにLGBTQ+フレンドリーなコミュニティ「Tsunagary Cafe(つながりカフェ)」を運営。同じセクシュアリティ同士で気軽に交流できる場所づくりから始まったすみとさんの活動は、今では法人化し複数の自治体からLGBTQ+支援業務を受託するほど広がりを見せています。

阪部 すみと Tsunagary Cafe(つながりカフェ) 代表 / 1976年生まれ。金融機関、自治体等の勤務を経て、自分らしく人生を楽しむ人のためのLGBTQ+フレンドリーなコミュニティ Tsunagary Cafe(つながりカフェ) を2014年より運営。約10年間に、延べ7,000名以上の参加者と関わる。その他にも、自治体の性的マイノリティ支援事業の運営サポートや講演活動、イベント開催のほか、メディアの取材対応等を通じて、LGBTQ+/SOGIE 理解促進のための情報発信も行なっている。
阪部 すみと Tsunagary Cafe(つながりカフェ) 代表 / 1976年生まれ。金融機関、自治体等の勤務を経て、自分らしく人生を楽しむ人のためのLGBTQ+フレンドリーなコミュニティ Tsunagary Cafe(つながりカフェ) を2014年より運営。約10年間に、延べ7,000名以上の参加者と関わる。その他にも、自治体の性的マイノリティ支援事業の運営サポートや講演活動、イベント開催のほか、メディアの取材対応等を通じて、LGBTQ+/SOGIE 理解促進のための情報発信も行なっている。

Tsunagary Cafeを始めて10年。LGBTQ+を取り巻く情勢にも、大きい変化が起きていると言います。今やLGBTQ+の方に限らず誰もが生きやすい社会であるために、地域や社会から必要とされているすみとさんの取り組み。

社会のニーズにあわせて活動をスケールアップしていった背景を踏まえ、社会的に意義のある活動を持続可能にしていくヒントをお聞きしました。

自治体から求められるLGBTQ+支援。自然と広がっていったTsunagary Cafe

阪部すみとさんはTsunagary Cafeの運営とあわせて、行政や教育機関などで、職員や児童・生徒、教諭にむけてLGBTQ+に関する理解を深める講演を精力的に実施。こうした活動を続けることで、性の多様性を切り口に「寛容」な社会づくりに取り組んでいます。

「自主事業であるTsunagary Cafeでは、LGBTQ+やアライ*の方が参加できる交流会のようなイベントを月に5,6回ほど定期開催しています。

*アライ…LGBTQ+など性的マイノリティに理解があり、支援をする人。

そのほか、自治体から受託している業務もあります。メインは、自治体が主催するLGBTQ+コミュニティの運営サポートです。交流会での具体的な運営を担当したり、当日にスタッフを派遣したりしています」

複数の自治体から、LGBTQ+の方にむけたコミュニティ運営業務を受託しているというTsunagary Cafe。しかし、これまで行政機関に対してすみとさんから積極的に営業をかけたことはなく、先方からのお声がけから仕事が始まることがほとんどだと言います。

Tsunagary Cafeのスタッフとすみとさん(一番右)
Tsunagary Cafeのスタッフとすみとさん(一番右)

「2014年から活動を始め10年が経ちました。その蓄積のおかげか、どこかで講演をやるとそこに自治体職員の方が見にこられていて、講演後に声をかけてくださるんです。そうして繋がった自治体から、他の地域を紹介していただくこともあります。

自治体の施策は予算が決まっているので、こちらから営業をかけても予算の関係上仕事に結びつかないことが多いです。日頃から自分たちの活動を発信し、必要としている自治体に情報が行き届くようにしておくことが大切だと考えています」

地道な活動から信頼を集め、広がりを見せているすみとさんの活動。活動のスタートラインには、LGBTQ+の当事者としてゲイ向けの交流会に参加し得た、原体験がありました。

目から鱗の原体験。日常生活で感じていた“しんどさ”が晴れていくコミュニティの存在

すみとさんが初めてゲイ向けのコミュニティに足を運んだのは21年ほど前のこと。「自分と同じセクシュアリティの人と交流がしたい」「仲間をつくりたい」。そうした思いで参加を決めたそうです。

「ゲイが集まるバーやクラブは周りにもあったのですが、お酒を飲むような場ではなく、もう少し気楽に話せたらいいなと思っていました。そこで関西でLGBTQ+支援をする『G-FRONT KANSAI』が開催した交流会に参加してみました。そこでの時間が本当に楽しかったんです。

その頃は日常生活で自分のことをオープンに話すことができていませんでした。恋愛の話になると適当に話を合わせたり、はぐらかしたり。でも、ゲイコミュニティでは好きな男性のタイプの話で盛り上がって。学生時代は疎外感を感じていた話題で『こんな純粋に楽しめるのか』というのが目から鱗でした。『こういう場所って大事なんだ』と思いましたね」

すみとさんとパートナーさん
すみとさんとパートナーさん

LGBTQ+の人たちの中には、日常生活で本来の自分をオープンにできず、息苦しさを感じている人もいます。すみとさん自身も、コミュニティでの交流を通じて日々の“しんどさ”を自覚し、気を張らずに過ごせる場所の大切さを実感しました。

そうして何度か交流会に参加し、コミュニティは居場所の一つに。繰り返し通っていく中で、コミュニティの運営にも関わるようになっていきます。

「最初はちょっと早く行って準備をしたり、残って片付けを手伝ったりしていたのが、次第にミーティングにも参加するようになって。運営に関わっていくうちに、コミュニティ運営の経験とノウハウを積むことができました」

そうした実践の中、すみとさんはもっと違った形のコミュニティを生み出すことへ関心を抱くようになっていきました。

「G-FRONT KANSAIはLGBTQ+の権利を主張する啓発団体としての側面が大きくありました。もちろん素晴らしい活動ですが、『固い活動を行っている』ようにも見え、コミュニティに参加しづらい人もいるのではないかと思いました。そこで『お茶を飲みに行くように気軽に参加できるコミュニティが作れたらな』といった気持ちでTsunagary Cafeを始めました」

すみとさんがTsunagary Cafeを始めた2014年は、偶然にも社会情勢が追い風となり始めていました。「日本国内でLGBTQ+を取り巻く問題がクローズアップされるようになりはじめた頃だった」とすみとさんは振り返ります。

「2013年に大阪市淀川区が全国の自治体に先駆けて『LGBT支援宣言』を発表し、2015年には渋谷区と世田谷区でパートナーシップ宣誓制度が始まりました。さまざまな自治体が淀川区役所を視察に訪れていましたし、全国にLGBTQ+の支援が広がっていくのを感じていました。

社会的なニーズを実感するなかで、Tsunagary Cafeをまずはゲイ向けのコミュニティとしてスタートしました。ゲイ向けに絞ったのは自分がゲイということもあり、参加者が集まってくれそうだなと需要を想像できたんですね」

そこですみとさんは、コミュニティを訪れた人たちが日常生活で抱えるモヤモヤを共有したり、楽しく語り合ったりするうちに晴れ晴れとした表情になっていく様子を目の当たりにします。参加者の姿には、かつての自分と重なる部分がありました。

インタビュー取材の様子。すみとさんの柔らかな空気感が画面越しにも伝わってきます
インタビュー取材の様子。すみとさんの柔らかな空気感が画面越しにも伝わってきます

表情が曇っていた人がスッキリした顔で帰って行くのを見て、やっぱりこういう場所にはニーズがあるんだと実感できましたね。参加者の人に感謝してもらえると嬉しくて、徐々に活動を広げていくことができました。」

安心して参加してもらえる場づくり。参加者目線で工夫し、運営する意義

最初はゲイ向けのコミュニティとして始まったTsunagary Cafeでしたが、次第にさまざまなセクシュアリティの方を対象に活動を広げていきます。

「活動を始めて1年経った頃に『Tsunagary Cafe for everyone』というゲイ以外のセクシュアリティやアライの方も参加できる会を始めました。ゲイ向けのコミュニティも続けながら、もっと多様な人が集まれる場所をつくることで、参加者が複数のコミュニティを行き来できるようにしたかったんです。そうすることで、コミュニティ全体や人の繋がりにも深みが出せるだろうなと」

コミュニティの入り口を広げていくなかで、すみとさんは「それぞれの立場の人が参加しやすい環境づくり」に気をつけています。

「一般に、ゲイ向けやレズビアン向けのコミュニティはクローズド形式で行うことがあります。外部の人に顔を知られたくない方への配慮として、申し込んだ人だけに開催場所などの詳細をお伝えするやり方です。周囲にセクシュアリティを公表していない方などへの心理的安全性が図られます。

一方で、属性に関わらず誰でも参加できる会をそうしたクローズド形式で実施すると、初めてこうしたコミュニティに参加する方やアライの方が参加しづらくなる。そのため、どなたでも参加できるイベントでは、告知をオープンに行ったり当日の進行や雰囲気作りも工夫しています」

「LGBTQ+のトピックに関心はあるけど、実際に当事者に会ったことがない方もたくさんいらっしゃいます。そういった方に実際に当事者と交流をしてもらい、直接話を聞いていただくことでようやく我々の存在に実感を持ってもらえます。

SNSなどではトランスジェンダーの方のトイレにまつわる問題などがよく取り上げられますが、実情にそぐわない言説が多い。当事者の方々が本当に困っていることは何か、直接話を聞くことで、アライの方たちにも問題の切実さを感じてもらえると思っています」

こうして活動が広がっていくうちに、自治体からもコミュニティ運営の仕事を頼まれるようになります。

「現在は京都府や府内の自治体を中心にLGBTQ+のコミュニティ運営をサポートしています。京都府内の仕事は京都市から広がっていきました。京都市職員の方がTsunagary Cafeに来てくださって、声をかけてくださったのが始まりです。

ひとつの自治体がこうした支援活動をやりだすと、近隣の自治体も動き始めます。『自分たちも同じような政策をしたい』と先行地域を参考にしようとするんですね。そうして京都市に視察にいらっしゃった自治体から輪が広がっていきましたね」

すみとさんの講演会の様子
すみとさんの講演会の様子

近隣の複数自治体が同時期に取り組みを始めることには、良いことも多いそうです。

「自分のセクシュアリティをオープンにしていない人は、自分の自治体でやっている会に参加するのをためらうことが多いです。でも隣の市であれば行ってみようかなと思ってもらえるようで。近隣市町村で連携し持ち回りで開催すると、知り合いに顔がバレたくない人も、隣の市町村のイベントに安心していらしてくださいます

一方で現在受託している福知山市は、他の受託自治体からは離れていて、単独で開催しています。ここでは参加者の安全を守るために、会場をクローズドにする手法をとっています。2024年の2月に初めて開催しましたが、京都の沿岸地域の方や滋賀県などの離れた地域からもいらしていただけました。やはり地方部にも、ニーズはあるんだなと感じます

なかなか日常生活の悩みや困りごとを相談できない地方部のLGBTQ+の参加者から「すごく楽しかったので、もうぜひ今後もやってください」と感想が寄せられることも。すみとさんは確かな手応えを感じています。

セクシュアリティも多様化した10年。誰もが気軽にアクセスできる場所であるために

社会のニーズを見ながら徐々に活動を広げていったすみとさん。LGBTQ+を取り巻く環境が大きく変わっていった、この10年間を振り返ります。

「ネットやSNSが発達していく中で、LGBTQ+の当事者が気軽に活動できる土台ができてきたのかなと思います。僕が活動を始めた頃は、ゲイやレズビアン、トランスジェンダーといったセクシュアリティの方がメインでしたが、この10年でLGBTQ+自体の概念も広がり、深められてきました。

性自認を男女に限定しないXジェンダーやノンバイナリーの方、恋愛感情を抱かないアロマンティックや、他者への性愛感情を抱かないアセクシャルといった方もいらっしゃいます。今まで自分が性的マイノリティだという自覚はなかったけど、こうした情報に触れるうちに自分も当事者なのかと立ち止まって考え、『コミュニティに行ってみよう』とアクセスされる方も増えています」

Tsunagary Cafeのコミュニティを訪れる人たちも多様化を見せるのと同時に、社会ではより一層、性の多様性への理解を深めるニーズが増加しています。すみとさんは今後の展望についてこう語ってくれました。

やはり正しい情報を届けることが必要だと思います。教育機関や職場、行政職員向けに勉強会や講演会を行うことで、普段は興味がなく自分ではそういう情報にアクセスしない人が、半ば強制的に知る機会を作れるんですね。

そういう人たちにもまず当事者の抱える課題や困っているリアルな声を聞いていただくことが大事です。ネットやSNSで拡散される偏った情報ではなく、コツコツと等身大の声を伝えていく。そうすることで、人々に気づきを生み出し、価値観を変えていけるのではないでしょうか」

始まりは同じセクシュアリティの人が交流できる「ちょっとしたコミュニティ」を作りたかったすみとさん。今では各所からのお声がけも増え、持続可能な形で活動を続けていらっしゃいます。

多くの社会活動家たちの希望の星となるほか、より良い社会をつくろうと動く行政機関などの心強い後押しになっています。

「自分が目指すライフスタイルの理想を持ち、そこへ向かって徐々に進んでいくことで、想いもしない広がりが生まれることがあります。

挑戦してみたい働き方やライフスタイル、生き方があるのであれば、スモールステップでも向かっていってみてください。まずは言語化してみたり、自分の中でそのビジョンをはっきりさせてみたり。すると気がついたら、ある程度のところまで来ていたということもあります」

自分たちが生きやすい“寛容”な社会づくりに向けて、まずはみなさんもコツコツと取り組み続けてみてはいかがでしょうか。

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Editor's Note

編集後記

自分が感じていた社会の生きづらさを認識し、それが少しでも生きやすくなるように、コツコツと活動された阪部さん。“寛容”とは今より少し生きやすくなること、なのではないかと感じました。

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