KYUSHU
九州
※本レポートは「2030年の九州を語ろう!ONE KYUSHU サミット 宮崎 2024」内のトークセッション「ライフスタイルとそれに伴う産業の変化ー2030年の九州」を記事にしています。
今、生きている環境で様々な問題に振り回されているのが「普通」の人なのかもしれません。ただ、いつまでも何かに追われるだけでいいのでしょうか。
このセッションの登壇者の皆さんは、どうしたら自分の世界を先に広げることができるのかを考えて実践してきました。
前編記事では、6年後の社会課題解決に向けてなすべきことについてお話いただきました。
後編記事では、地域だけでなく日本、果ては地球規模で物事を捉えるために個人ができることについてお話しいただきます。
石山アンジュ氏(モデレーター、以下敬称略):前編では2030年に起こりうることについて、それぞれお話をいただきました。では今年2024年に皆さんが期待していること、あるいは今お持ちの危機感についてお話しください。
齋藤潤一氏(以下敬称略):キーワードは「今・ここ・自分」で、それを大事にしながら地球環境の課題解決にみんなで向かって行く。資本主義の追求ではなく、地球主義の追求と変革が重要になってくると思います。
このたび宮崎で始まるMOCも同様のスタンスで、食糧問題解決に向けたローカルスタートアップを行います。
石山:昨夜開催されたONE KYUSHUサミットの前夜祭でお会いした地域活動をされている方たちとの会話で「日常的に地道な業務をしていると世界や社会に自分が紐づいている感覚がない」という話題が出ました。皆さんは地域と世界とをどう結びつけていますか。
齋藤(潤):僕は「地域」という言葉を早く捨てたほうがいいと思っています。地方創生とか地域のような言葉は都会の人たちが考えた都合のいい言葉です。例えばだけど「地球」に置き換えてみる。「地球ってちょっと大きすぎて」と思うかもしれないけど、皆さん地球に住んでいますよね。
本当に今、自分が住んでいるところをよくしたいと思うなら、ビジネス的にいうと「俯瞰逆算思考法」で、地球をよくするにはどうしたらいいのかを考えた方が早い気がします。
川原卓巳氏(以下敬称略):僕は仕事上、外側から日本を見ることが増えていて、結果日頃から「ONE JAPAN」なり「地球単位」のスケールで物事を考えている方とご一緒することが多いんです。では僕が日本にいた時はどうだったかというと、多くのことが「他人事」でした。
川原:仕事で世界一と呼ばれる人たちとお会いしますが、例えばイーロン・マスク氏ならテスラやスペースXをつくって人類を火星に送ることを日々考えています。でも彼だけが突然変異の化物だからできているわけではなく、彼もまた僕らと同じ「人」なんです。では彼と他の人との違いって何でしょう。それは「何を考えて」「何をしているか」の差だけです。自分からつくっていった未来が違っているだけです。
僕は今、この壇上に立たせていただいていますけど、会場にお座りの皆さんも同じ「人」だと思っています。それぞれに情熱を持ち、自分自身が気になる課題や夢を叶えていっています。そこに「ONE KYUSHU」とか「地方」「地球」とか、なんのために力を合わせるのかの同じ「人」同士として会話ができればもっと物事は大きく進められるし、自分ごととして考えられるようになるのではないでしょうか。
結論で何をすればいいと考えているかを言うと「もっと友達つくった方がいいんじゃない?」と思っています。例えば能登半島の地震で、そこに友達がいたら自分ごととして寄付しようとか、できることはないかとか考えますよね。それと同じで「ONE KYUSHU」の中にたくさん友達がいたら「あの地域のあの産業をもっと盛り上げたいな」と思うのではないでしょうか。
石山:より多くのことを「自分ごと化」できる人を増やそうということですね。
川原:僕は地球単位で友達が増えたので、戦争が起きたら気になることが増えたし「あいつ大丈夫かな」と思うようになりました。でもぶっちゃけ僕自身は、正直関わりのない人まで助けようとか崇高には思わないけど、そこに友達がいたら何かしたいと思う。
この会場にいる皆さんとも友達になりたいし、皆さんの友達とも繋がって「一緒にこの地球でどう生きていくかを本気で考えませんか?」とするタイミングだと思っています。
石山:素晴らしいお話でしたね。地域という言葉を一旦やめてみようとか、大きな感覚は持つけど人を見よう、点を見よう、目の前のことを見ようという脳内思考を拝見しました。
齋藤隆太氏(以下敬称略):川原さんに質問ですけど、アメリカだと地域とかローカルに対する見方って、日本と違うんでしょうか。
川原:全然違いますね。アメリカは各州が自治を持つので、互いに同じ国という意識が非常に低い。それぞれの州が好きなようにビジネスをするし、住民の文化や習慣も全部違う。だからアメリカという国の括りは非常に曖昧です。よく見せて力を持つためにまとめて考えようとしているだけですね。
齋藤(隆):川原さんや石山さんは「多様性やものの在り方に気づくべきである」という発信が多くて、潤一さんは「地域の捉え方を変えてグローバルに考えるべきだ」という主張ですね。でも世界の動きについていけなくて、取り残される層も存在します。僕の事業はどちらかというとそこへ寄り添うタイプです。
柔軟な思考の人、地域から世界を変えていきたい人はグローバルミッションの会社に入ればいい。でも全員がそうではなくて、地域に古くから住み続けたい人もいます。我々はその人たちへ社会的なサービスをするポジショニングだと思っています。
齋藤(潤):補足すると、地球規模で考えることは地域の人を見放すことではないです。地域をよくしたいならグローバルな視点で考えないと、本当に地域が衰退しますよということです。
齋藤(潤):AGRISTが事業をしている宮崎県新富町だけがよくなればいいと思っていたら事業は成立しないし、幸せじゃない。でもその地域で行った事業を元にしたデータを日本全国や世界の食糧問題解決に生かせば「ヒト・モノ・カネ」の動きも大きく変わってきますし、小さな地域からもチャレンジしやすくなります。
これまで地方創生という言葉がひとり歩きしていた時代は「自分のまちに移住者さん来て」でしたが、そこから進んでSDGs的な視点になると「広くよくなろう」になる。さらに上位概念で日本全体や地球規模の視点を持つことが大切だと思っています。
石山:地方創生でお金を配る移住政策だと、各自治体が頑張っても衰退していく日本全体の人口を奪い合うだけですよね。
齋藤(潤):「地球全体の枠組みで考えた時に、地域ってどうなんだろう」と考えています。2023年のG7宮崎農業大臣会合に出席した際に各国首脳の方々と話しましたが、皆さん食糧問題については危機感を持ってアクションを起こさないと地球がヤバいと思っていることを痛感しました。G7農業大臣声明 2023が出たのも意義があることでした。
川原:僕はこの場の皆さんと分かち合いたいことがあって、それは「衰退は悪いのか?」と「成長は絶対の善なのか?」です。
例えばGDPのように、今まで測られてきた豊かさの指標とは資本主義的な定義であって、人口が減れば当然GDPも減ります。そこにかさ増しをして成長したように見せかけるまやかしを追うために、僕らはあくせくしなくちゃいけないんでしょうか。
川原:片付けがなぜ必要になったかというと、資本主義が行きすぎて人がモノをたくさん買いすぎたからです。狭いところにモノがある→散らかる→ストレスが溜まっている人が地球上に増えました。ここで「モノを減らす」というある種の衰退の形をつくることによって、個人の幸福度を上げている事実があります。
つまり日本という国をひとつの「家」として見立てた時に、今の状態は「日本の家」の中にモノが散らかり終わっているところです。そこから人がどんどん巣立っていった時に、この「日本という家」で家族がどうしたらもう一度快適に暮らせるのかと考えればいいだけだと思っています。
人が減れば、不要なモノをつくって売って捨てる必要はありません。だからこそ僕は、個々人が自分の幸せについて取捨選択することが必要だと思っています。個のミクロ単位でそれぞれが考えたことが、総和としてマクロとなった幸せをつくりたくて、片付けを伝えています。
齋藤(隆):とても共感します。少数のスタートアップに大資本を注いでグローバルに勝てるようにすることも大事だけど、「ジャストサイズ経営」の企業のように地元でささやかに暮らす人たちも共存しています。どちらかが正解ではないので、お互いにリスペクトできる状態にしたいです。
石山:皆さんが今後何をアクションしていくのか、最後に伝えたいことがありましたらお願いします。
齋藤(隆):本来は一緒に働いているメンバーやクライアントを幸せにするサービスのはずなのに、それがよく分からなくなることがある。「誰を幸せにするために、そのサービスが存在するのか?」を問い直してみてはどうでしょうか。
川原:僕は常に一期一会で、機会を共にした人とは何か意味のある繋がりだと思って生きています。その人たちと共にどうしたいかというと、シンプルに「片付けてください」という結論になっちゃうんですよ。
川原:片付けとはジャストサイズ経営の個人版で「自分には何が必要で何がいらないのかを見定める作業」です。「自分はこの先の人生で何を得たいのか」という価値観が明確になります。だから僕は出会った人が片付けを終わらせて、余計なことを考えなくてもよくなり世の中に目を向けられるようになることが、最も大きな社会変革だと思っています。
例えば誰かを家に招く日を決めてそれまでに片付けるとか、具体的なアクションを皆さんにおすすめします。家に人が来ると、片付けるんですよ(笑)。なのでぜひ片付けて、地球のことを考えていきましょう。
齋藤(潤):アクションとしてのキーワードはやはり「今・ここ・自分」です。個としての生き方を充実させる、自分のやりたいこと、それも現状の外側にあることをやって、未来をつくりましょう。
Editor's Note
片付けが、広い世界にそんな形で繋がっていくのかと、目からうろこが落ちる思いになりました。自分の価値観を見定めて個としての生き方を充実させることは、簡単なようで実は難しいけど、誰でも実現可能であることを学びました。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子