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LOCAL LETTER

まちと関係人口をつなぐ新しいカタチ。“pre relay”から始まる事業承継への道

DEC. 04

ZENKOKU

拝啓、好きなまちと関わるきっかけを、「仕事」の中に探しているアナタへ

地域で愛されてきたお店や工場が、姿を消していく——。

そんな現実を前に、「何かできないかな」と感じたことはありませんか?

ですがもし、「移住でも起業でもない、事業承継という関わり方」ができるなら?それは、地域との関わりを“継ぐ・支える”という形に広げる、新しい選択肢になり得ます。

株式会社ライトライト(以下、ライトライト)は、その可能性にいち早く着目し、後継者を探す人(譲り手)と事業を継ぎたい人(継ぎ手)をつなぐ事業承継プラットフォーム「relay(リレイ)」を運用してきた企業です。

そして、2025年には内閣府が実施する「令和7年度関係人口創出・拡大のための対流促進事業」の採択事業の一つとして、「おためし」で譲り手と継ぎ手の関係を育む事業承継体験プログラム「pre relay(プレリレイ)」の提供も開始しました。

地域と都市をゆるやかにつなぐ、新しい関係づくりの秘策とは。ライトライトで取締役COOを務める齋藤めぐみさんにお話を伺いました。

齋藤 めぐみ氏 株式会社ライトライト 取締役COO/宮崎県出身。老舗出版社勤務を経て、フリーランス編集者として活動。2016年株式会社サーチフィールドFAAVO事業部マネージャー就任。2018年株式会社CAMPFIREへの事業譲渡にともない移籍。2021年株式会社ライトライト 取締役COO就任。

地域の店や工場が「静かに消えていく」現実に立ち向かう

毎日通っていたうどん屋さんが突然閉店し、食事する場所がなくなる。
1日何百人もの患者を診ていた地域の病院が急に廃業し、まちのインフラがなくなる。

齋藤さんらがrelayを始めたきっかけは、そんな体験をしたり、困っている地域の人を目の当たりにしたりしたことにあったといいます。

「後継者の不在を理由に、『閉店します』の張り紙1枚で廃業する小規模事業者さんがあまりにも多いと思って。最終日に行列ができて、惜しまれながら閉店、という流れがニュースになり、美談で終わる現実に違和感も感じていました。もっと早く周りが知っていたら継ぎ手も見つかったかもしれないのに、なんてもったいないんだろうと」

経済産業省は、2016年からの10年間で、約127万人の経営者が廃業に陥る*と予測されています。その主な理由は「後継者未定」。経営自体は黒字なのにもかかわらず、人材の不足によって事業が継続できないというのです。

(*総務省行政評価局,2021,「地域住民の生活に身近な事業の存続・承継等に関する実態調査 第2  調査の背景、視点等」参考)

ですが、そもそもなぜ、小規模事業者は「突然の廃業」に追い込まれやすいのでしょうか。その原因を、齋藤さんはこう分析します。

家族以外の第三者に承継することへの理解が追いついていないのが理由のひとつかと思います。日本には、親子承継が正義という考え方がまだまだ根強く残っていますから。

『息子・娘が家業を継がないのが恥ずかしい』『親子関係がうまくいっていないと思われるのでは』と悩んだ末に、後継者がいないことを口に出せず、年齢を理由に前触れなく廃業してしまう、というパターンがよくあります。

ですが、これだけ多様性が謳われる時代に『子どもが継ぐ』ことはもう当たり前ではありません。後継者問題という喫緊の地域課題を解決するため、第三者承継をもっとカジュアルにしようとはじめたのがrelayです」

従来の事業承継は、情報保護の観点から匿名で行われるのが一般的でした。一方relayは、企業の名称や事業内容を公開する「オープンネーム」で後継者を公募する点が最大の特徴です。

承継についての情報がオープンになることで、より裾野を広げて人材を募集することができます。

それだけではなく「誰が、どこで、どんな思いで事業を継いでほしいのか」がわかることで、事業承継がよりポジティブなものに転換されるのです。

「とはいえ、『全ての譲り手さんがオープンネームにすべき』とは考えていません。情報を公開すると、風評被害を受ける可能性があったり従業員を不安な気持ちにさせたりと、それなりのリスクも伴います。なので、譲り手さんには情報公開を『推奨』するのではなく、relayのやり方にメリットを感じるようなら利用していただく、というのが基本の流れです。

これまでは匿名という方法しかなかったこと自体が問題でした。従来通り匿名がいいと感じる方は匿名、公開したい方はオープンネームで、どちらの選択肢も用意することに価値があると考えています」

relayを利用してきた譲り手の事業分野は多岐に渡ります。自治体からの紹介でrelayを知り、掲載に至る事業者も多いのだとか。

実際にサイトを訪問すると、飲食店を筆頭に、卸業者、工場、塾などの募集案件がずらりと並んでいました。

事業承継ならば土地と建物、資材があり、飲食店ならレシピ、工場ならノウハウがある。ゼロイチではないスタートを切れることが、継ぎ手にとって最大のメリットです。

引き渡して終わりじゃない。育て合い、進化させる承継へ

親から子へではなく、「やりたい人が継ぐ」第三者承継。当事者からはどんな反応があるのでしょうか。

「事業者さんにとっては、『自分の事業を継ぎたい人がいる』ことは大きな喜びです。なので、みなさん継ぎ手さんに感謝されますね。

ひっそりと事業を畳むのではなく、拍手で見送られ、花道を歩くように次の人へバトンタッチする。譲り手・継ぎ手の新しい関係をつくるきっかけの場として、当社のサービスがあると思っています」

自治体からの紹介がきっかけとなった成約の場合は、事業承継セレモニーも開催。ラーメン屋の事業承継の際には、テープカットの代わりに麺の湯切りでお祝いしたことも。画像引用:relay公式noteより

「特に印象に残ったエピソードはありますか?」と尋ねると、齋藤さんは「本当にたくさんありますが…」と言いながら、あるパン屋さんの例を挙げてくれました。

「地域で愛されるご当地パンをつくってきた譲り手さんがいたんです。その方が、relayを通して継ぎ手さんと出会い、リニューアルを経て新しいお店として再出発することになりました。

新店舗オープン前日の引き継ぎセレモニーで、継ぎ手さんがつくったパンを試食した元店主さんが、『懐かしい味だ。また食べることができてうれしい』と語ってくださって。こちらも心が温まりましたね」

パンを試食して喜ぶ譲り手さん(左)と笑顔を見せる継ぎ手さん(右)画像引用:relay公式HPより

「このパン屋さんもそうですが、承継した後も譲り手さんが何ヶ月も店舗に通って熱心にノウハウを伝授されたりするんですね。心強いアドバイザーのような立ち位置で、何年も相談に乗り続ける譲り手さんもいます。まるで祖父母と孫のように、家族ぐるみで良い関係性を築いている方が多いんです

長年守ってきた味やノウハウを確実に引き継ぐため、譲り手・継ぎ手が互いに高い熱量で向き合っている様子が伝わってきます。

さらには、その想いを受け継ぐだけでなく、クラウドファンディングをしたり、新たなメニューや商品の流通ルートを考案したりと、事業を次の展開に押し上げようとする継ぎ手も増えています。

また、譲り手側にも、ただ承継するだけでなく、さらに発展させてほしいという願いがあるようです。

「譲り手さんは、昭和・平成の激動を生き抜いてきた世代です。ビジネスに対して才覚のある方ばかりなので、みなさん本当はインターネットやSNSを駆使してもっと事業を伸ばしたいと思っているんですね。

でも、ご高齢なこともあってそこまで手を出すのは難しい。だからこそ時代に合った方法で事業をもっと大きくしてほしいと願う譲り手さんがほとんどです」

この事実から、ライトライトでは地域の小規模事業承継を事業のリノベーションをする機会と捉えているのだといいます。

「事業承継は、既にあるビジネスを何も変えずにそのまま引き継ぐだけ、と思われがちです。しかし、実際にはそれだけではうまくいきません。

継いだ後にビジネスを持続するためには、第二創業のようなイメージで、今ある事業に自分のスキルやアイデアを上乗せし、時代に合わせながら発展させていくことが重要なんです」

いきなり継がなくていい。事業承継への“入口”としてのpre relay

relayは、これまでに全国の後継者募集案件を約700件公開、約140件の第三者承継マッチングに成功してきました。そこでライトライトが次なる手として打ち出したのが、地域の事業と人をつなぎ、承継の「入り口」となるプログラム「pre relay(プレリレイ)」です。

「relayには『移住したい』『起業したい』と毎月400件以上の応募がありますが、その半数以上がUIJターン希望者なんです。

地域と関わる選択肢のひとつとして、第三者承継を考える方がこんなにもいる。その層がもっと気軽に地域に足を運ぶ流れを作れたらという想いがありました」

pre relay(プレリレイ)は地域の仕事や暮らしを最短1日から「おためし」することができます。地域にとっては観光客でも定住者でもない関係人口を受け入れる入り口として継ぎ手候補者にとっては実際に地域へ出向いて事業を体験する場として機能します。そして、最終的に気に入れば承継の交渉に進むことができます。

いきなり後継者に名乗りを上げることへの心理的ハードルを下げることで、「地域外の人が地域に入ってくる流れ」をより活性化させようというこの取り組み。

事業承継は、「地元に帰りたいけれど、仕事がないから…」と諦めている関係人口の受け皿になり得る。そのさらに一歩手前の入口としてpre relayを利用してもらえたら、と齋藤さんは語ります。

現在は、ライトライトの本社がある宮崎と、自治体と広域連携している広島県の一部地域が対象です。relayに掲載中の事業者に声をかけることもあるのだとか。

「最初にpre relayに掲載したのは、宮崎市の古民家で料理教室を営んでいる事業者さんです。relayに掲載していたのでお声がけしたところ、ぜひpre relayにも、とのことで掲載が決まりました。

事前に雰囲気や業務内容を体験することは、お互いの相性をあらかじめ確認することにもつながりますそういう意味で、継ぎ手さんだけではなく譲り手さんにとっても、pre relayの仕組みは安心感があると考えています」

地域に光を。小さな承継から広がるまちの循環

今後もライトライトは「地域に、光をあてる。」をミッションにサービスを展開していく方針です。

「事業承継は、UIJターンのきっかけのひとつになると思っています。関係人口を地域に呼び込む糸口として、もっと気軽なものにしてきたいですね」

ライトライトでは事業承継をきっかけに地域の魅力が向上する、理想の未来を無限大記号(インフィニティ)になぞらえ「relay インフィニティモデル」と呼んでいます。このモデルにもとづいた地域活性も、目標のひとつです。

イラストで可視化されたrelayインフィニティモデル

「事業承継は、単なる譲り手と継ぎ手の関係だけで終わる話ではありません。原材料の仕入れを通じた一次波及効果や、雇用が発生することで所得や利益に基づいた二次波及効果も見込めます。また、そのまちにしかない唯一無二のお店が残るということは、来訪者を増やすきっかけにもなります。

地域経済が循環し、さらに新たなチャレンジが生まれ、地域の魅力が向上するそんな正のスパイラルを回していけたらと考えています」

relay・pre relayによって撒かれた小さなタネ。それはやがて地域活性化の架け橋として、大きな花を咲かせていくに違いありません。

今回ご紹介した、事業承継体験プログラム「pre relay」は、内閣府が実施する「令和7年度関係人口創出・拡大のための対流促進事業」の採択事業の1つです。

関係人口創出・拡大施策についてもっと知りたい方は、「かかわりラボ」(関係人口創出・拡大を目指す全国の組織や団体が集まり、情報共有や連携を行う協議会)もぜひチェックしてくださいね。

Editor's Note

編集後記

2025年6月、事業拡大のため本社を移転したライトライトさん。その際、旧オフィスを承継する人をrelayで自ら募集したのだそう。「譲り手側の体験もしてみたかった」という理由に、温かい社風を感じました。承継の体験は譲り手の気持ちにより深く触れられただけでなく、業務のフロー改善にも活かされていくのだとか。チャレンジし続ける同社の取り組みに、今後も目が離せません。


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