レポート
※本レポートはPOTLUCK YAESU様、株式会社SHIFT PLUS様のスポンサードによって行われた、地域経済活性化カンファレンス『SHARE by WHERE』で行われたトークセッションを記事にしています。
日本全国、地域にはさまざまな資源がある中で、自分たちならではの個性を活かすことで地域の価値を高めたい。そんなアナタに向けてお送りするのが、各地域の第一線で地域創生に関わるプレイヤー4名が「文化資本を高付加価値に変えるローカルラグジュアリー」をテーマに行ったトークセッション。
前編では登壇者それぞれの視点から語られた、住民にとっては当たり前になりがちな『地域の魅力を引き出す方法』をお届けします。
上田氏(モデレーター:以下、敬称略):まず最初に皆さんにお伺いしたいのは、地域の価値の見つけ方や気づき方についてです。地域にはさまざまな資源が眠っていますが、そこで暮らす人々にとっては当たり前すぎて、その魅力に気づいていないケースが多い。
まちづくりの界隈では「地域の魅力を、新しい外の視点から見つけましょう」という言葉が使い古されてきており、言うのは簡単ですが、実際にはできていない地域が多く、まだまだ課題解決への道が示されていないようにも思います。
どのように眼差しを変えることで、地域の価値に気づくことができるのか。立場の違う皆さんにぜひ聞いてみたいです。
山添氏(以下、敬称略):地域の当たり前に対して、価値を感じていただくのはなかなか難しいことですよね。 行政の立場、特に観光づくりに関して私たちがよく言うのは「近き者説(よろこ)び、遠き者来たる」ということです。つまり日常生活を自分たちが楽しむことで、来訪者に対してもより良い時間を提供できるのではないかと考えています。
ですから私たちの町では、地域の皆さんに対して「地域の資源や日常を大切にしていこう」と、普段からよく言っていますね。だからこそ手前味噌ですが、与謝野町の皆さんには地域が持つ魅力や価値の意識づけができているのではないかと思います。
山添:自分自身にとっては当たり前だけど、実は当たり前ではないことって、地域をよく見ていくと沢山ありますよね。例えば、与謝野町における農業もその一つかと思っていて。与謝野町では、農家の皆さんと協力して自然と共生する農業を推進していますが、昨今ではクラフトビールの原料の一つであるホップの栽培をしています。日本国内におけるホップの生産量のうち90%が輸入に頼っている中で、この取り組みには大きな価値が出てきていると感じます。
地域の価値に気づくための視点として「地域で売られているものに、本当にその土地の魂が込められているのかどうか」は大事なのではないかと思いますね。
山添:まとめると、私たちができることは「日常を大切に過ごすことが、一番価値がある」ということを地域住民の方にしっかり伝えていくことだと思っています。そして併せて、その地域で提供するサービスや商品などにできる限りその土地の魂を込めること。それらを意識していくことが大切だと思います。
上田:「近き者説び、遠き者来たる」は論語の一説ですよね。まずはその地域に住む皆さんが、自分たちの日常に価値を感じることが重要なのかもしれませんね。続いて、秋元さんはいかがでしょうか?
秋元氏(以下、敬称略):本人たちにとっては当たり前だけど、実は価値があるものをいかに見つけるか。私は必ずしもアンケートを取って見つかるものではないと思っていて。
秋元:私は愛知県岡崎市で中小企業向けの経営相談所のセンター長をしており、日頃から事業者の強み(価値)を発見して言語化する仕事をしています。「強みを発見して言語化する」には6つのステップがあるのですが、今日はそのうちの1つである「リフレーミング」についてご紹介いたします。
リフレーミングとは、物事を見る枠組みを変えて別の視点から捉え直すことを言うのですが、私は物事の見方を変えることで、実はそれがとても魅力あるものになることが往々にしてあると思っています。
例えば、青森県五所川原市金木町の事例でお話しすると、金木町の皆さんにとって、冬になると本当に嫌でしょうがないのが「地吹雪」なんだそうです。真冬に雪が降って辺り一面ザーッと真っ白になるあの現象です。ところが雪のない地域に住む人々の中には、人生に一度くらいは地吹雪を体験してみたいと思う人もいて。金木町では「地吹雪体験ツアー」という取組みを始め、今では他地域からお金を払って参加する人たちが来るそうです。
他にも例えば、山奥で何もない、虫しかいない民宿にお客さんを呼ぼうとしたらどうしたらいいか。皆さん既にご存知かもしれませんが、ビジネスのヒントは本屋に行くと沢山あるんですが、今回本屋をまわって見つけたのが『月刊むし』という雑誌。つまり世の中には昆虫好きな人がいっぱいいらっしゃるわけです。その人たちにとっては、人がいなくて虫が沢山いる民宿は、魅力的かもしれませんよね。
秋元:つまり圧倒的に雑多な情報収集が、最終的には強みに気づくきっかけになっていくと思いますね。
上田:見方を変えると、短所だと思っているところが実は長所になる。自分が勝手に短所だと思い込んでいるものが、他から見たら全然違っていたりもする。そういう思考のクセづけは大切ですよね。
秋元:仰る通りです。ある一面においてはネガティブに見えることも、ある人たちにとってはとてもポジティブに見える。こういうことを日常的に意識することで、地域の持つ良さに気づきやすくなると思います。
上田:橋村さんはどうお考えでしょうか?
橋村氏(以下、敬称略):僕は日本にある面白い遊休資産を、キャンプ場やグランピング場などにしてエンタメ化していく事業をやっているのですが、最初に作った拠点は「夕日日本一」と言われている場所でした。でも正直、太陽に境界線はないので隣町でも同じ夕日は見られますよね。自分たちがアドバンテージに感じているものが、実は売り物にならない場合もあるんです。本当の価値に気づくためには、自分たちのことだけでなく周囲のことも知っていく必要があると思います。
橋村:先ほどのお話にもあったように、自分たちにとってディスアドバンテージだと思っているところに、宝の山が眠っているケースは多いんですが、外の人と接点を持ったり、客観性を持つことをしないと、その宝には気づけない。人間はどうしても主観的になりやすいので、外の人とディスカッションしながら宝に気づいていくことが非常に重要だと思います。
ちなみに僕らが拠点を作る時には、大体「この土地最高でしょ」と言われていない地域でスタートするんです。僕らが一番大事にしているのは、土地の素晴らしさよりもそこに変態、つまり変革者がいるかどうか。
橋村:トランスフォーム・メタモルフォーゼできる人ということを、リスペクトを込めて僕らは「変態」と呼んでいますが、要は一緒に共創してくれる人がその土地にいるかどうかを特に重要視しています。その変態たちとアジャストしながら、手を替え品を替えトライしていく。その段階で「皆さんがネガティブに考えていることは、実はポジティブなんです。売り物になるんですよ」とお話ししていきますね。
上田:そうお話しする時に、地元の人がピンと来ない場合は実際にやってみせて気づかせるのでしょうか?
橋村:そうです。実際に拠点を作って、人が来て喜んでいるところを見せるのが一番。それが一番のリアリティですよね。今までのマーケットではなく、その良さは眠っている部分だから、リアルで見せていくしかないと思います。
上田:やはりそれが一番説得力がありますよね。
Editor's Note
今回のテーマでもある「ローカルラグジュアリー」とは何か。共通していたのは、「当たり前だけれど気づいていないもの」という認識だったように思います。どんな地域にも良さが必ずある。けれど、そこに住む当事者たちはそれに気づいていない。ネガティブに捉えているもの、あるいは短所だと思っているものは実は素晴らしいものになり得る。登壇者の方々それぞれから、そのようなメッセージを受け取った時間でした。
上記のような考え方は、地域の在り方、それから人間としての生き方としても非常に大切になってくるのではないかと思います。本記事を通して、登壇者の方々の想いが届いていたら嬉しく思います。
KANA KITASHIMA
北嶋 夏奈