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美しいもの、細部までこだわって作られたもの、歴史や伝統があるもの。
これらはわざわざ素晴らしさを語らなくても、きっと多くの人が感覚的に「いい」と判断するでしょう。とはいえ、その全員が具体的な行動を起こすわけではないですよね。
「評判は上々なのに、なぜか選ばれていない」
芸術や文化の領域に興味がある人は、一度はそう感じたことがあるかもしれません。
実際に選ばれるには、価値を理解して言語化できる人が必要です。
世界的な経済誌の日本版『Forbes JAPAN』で活躍していた柴田良祐さんは、『CULTURE-PRENEURS(カルチャープレナー)』のプロジェクト* に取り組むなかでそのことに気づきました。
*カルチャープレナーとは文化起業家のこと。文化に関する事業を立ち上げ、日本の価値を高めていこうとしているプレイヤーに世の中の注目を集めるためのプロジェクト。
CULTURE-PRENEURSについてはこちら(https://forbesjapan.com/feat/culture-preneurs30-2025/)

日本の伝統文化が選ばれるための仕組みづくりには、どんな視点が必要なのでしょうか。日本の伝統工芸品を販売するスタートアップを立ち上げ、普及に取り組んでいる柴田さんの思いを伺いました。
柴田さんは現在、東京を拠点に全国を巡り、伝統文化の担い手を支援する活動をしています。
「伝統文化の作家さん・職人さんの作業場や流通の現場など、全国各地に顔を出しています。イベントやウェブ周りのお手伝いをしたり、新商品の打ち合わせをしたり。事業者さんが自分たちの目標を達成できるまで、時間が許す限り対応しています」
『Forbes JAPAN』時代の経験やフリーランスとしての活動を通し、柴田さんは日本文化の魅力を言語化して説明する必要性を強く感じたといいます。
「出会ってきた職人さんたちの中でうまく説明できる方はほんのわずか。そもそも職人さんは作り手なので、ほかにプロの話し手がいるべきじゃないかというのが僕の考えです」
そんな経験から、柴田さんはトライビジネス型のECプラットフォーム『RAKUDA』を立ち上げました。

『RAKUDA』は、日本の伝統的な「いいもの」を自分の言葉で紹介したい人のためのサービスです。
「会員登録するとその人専用のURLが付与されます。このサイトを通して商品を紹介し、相手が実際に購入した場合、僕たちの売上から一部を紹介した人に戻す仕組みです」
このサービスでは、紹介する会員が直接、自分で在庫を持つ必要はありません。
「『RAKUDA』はあくまでも口頭での紹介を想定しています。魅力を感じてもらうには、対面で反応を確認しながら、相手に合わせて説明する必要があると考えているからです」
柴田さんは、相手の顔を見て、相手の温度感に合わせて伝え方をチューニングすることが重要だといいます。
「話をして日本の商品を売ったり、紹介して使ってもらったりするところまで持っていける人を増やしたいです。僕のゴールとしては、そういう人を増やして、職人さんや作家さんたちがビジネス面で成功できる世の中を作りたいなって。まずはトライする人を応援するために、このサービスを始めました」

『RAKUDA』経由で商品を購入してもらうために用意したECサイトは、現在のところ特にニーズがある海外向け。柴田さんはオーストラリア人のビジネスパートナーとともに、海外と日本の状況について常に情報交換しながら事業を進めています。
「会員登録者は海外にいる人たちが多いです。自分のまわりにも、海外在住で日本文化が好きという人が増えていて。日本国内で外国人と接する機会が多い人も登録してくれています」
柴田さんは各地を巡るなかで、日本文化を海外に向けて伝えたいという人に出会うこともあり、手応えを感じています。
「ゲストハウスで宿主と『RAKUDA』の話をしていたら、宿泊客に声をかけられたことがありました。イギリスの芸術大学に通っていて、たまたま休みで日本に帰ってきていた人でした。その人は、ちょうどこんなツールを探していたと。海外で自分の日本人としてのアイデンティティについて話すとき、このツールがあれば日本のものを紹介するきっかけになると喜んでくれました」
柴田さんは経済誌『Forbes JAPAN』で活躍していた頃、新しいビジネスを作り出すビジネスプロデューサーとして幅広い情報発信やプロジェクトに取り組んでいました。
その頃、ファンド、ベンチャーキャピタリスト、投資家などさまざまな立場の人の話を聞く機会が頻繁にあったそうです。最前線の情報に触れながら仕事に取り組むなかで、伝統文化はこれからの日本経済を切り開く手がかりになると柴田さんは感じていました。
「日本の伝統文化に深く関わるようになったのは、京都市とのプロジェクト『CULTURE-PRENEURS(カルチャープレナー)』をプロデュースしたのがきっかけです」
選出されている文化起業家の顔ぶれは実に個性的です。柴田さんは、カルチャープレナーを「伝統文化を現代の感性に合わせてアップデートさせているプレイヤー」と捉えています。

プロジェクトに携わるなかで、柴田さんは日本の文化事業がもつ力に触れました。
「カルチャープレナーの特集号はとても好評でした。海外の人たちが、日本のいろいろなものを買ったり、体験したりする流れもできている。日本の文化事業者に、国内からも世界からも注目が集まっていて、大きなポテンシャルや可能性があることを感じました」
その一方、日本の文化事業の最前線を歩くプレイヤーたちと実際に話をしてみると、ビジネスとして成立させていく難しさや乗り越えるべきハードルも見えてきたといいます。
「文化事業者たちは、それぞれが思い描くゴールにすんなりとは辿り着けていません。こんなに面白い人たちなのになぜそうなっているのか、突き止めたいと思うようになりました」
柴田さんは、文化事業者がビジネス面において成功するまでのプロセスが確立されていないと感じ、具体的にどうしたらいいか模索を始めました。
当初、職人や作家などの文化事業者とほかの企業との新しい取り組みを促す際には、それまでの経験をもとに話を進めていたといいます。『Forbes JAPAN』に入社前、柴田さんは専門商社で新事業の立ち上げや新商品の開発などに取り組んでいたため、培ってきた営業スキルがありました。
「一般的なセールスの仕事をするときって、相手にとっての具体的なメリットを数字で分かりやすく説明できます。たとえば『このツールを使うと作業時間が15分短縮できます。15分あれば、これくらいのメリットがあるので、この価格です』とか」

それに対して、文化事業に関するビジネスの提案をして納得してもらうまでの道のりは、より複雑だと感じたそうです。
「日本の伝統文化に価値を感じていて、工芸品や日本文化の活動に関心を示してくれる企業は多かったです。ただ、「いいもの」だと認識できていても、その企業にとって具体的にどんなメリットがあるのか明確になっていない場合が多くて。だからこそ『一緒に何かやりましょう』といった提案に繋げるのが難しかったです」
文化事業者に対しては、一般的なスタートアップを成長させるのとは異なるサポートが必要だと分かってきました。
そのサポートとは、相手が行動を起こすメリットを言語化して説明すること。文化事業者と一緒に取り組むべき理由を明確にすることで、プロジェクトが成立しやすくなったといいます。
サポートについて考える過程で、柴田さんは相手に合わせて魅力を伝えるために、日本文化の特徴をピックアップして言語化しています。それは「精密性」「丁寧さ」「自然との調和」「歴史」「精神性の重視」「和の精神」の6項目です。
「もちろん捉え方は人それぞれだと思います。これは、僕が誰かと一緒に何かやろうするときに、価値を感じてもらえそうな要素を抽出したものです。たとえば、企業が自社の「丁寧さ」をアピールしたい場合、それが日本文化と重なる特徴だと説明すれば『一緒にこんな商品を作るとそのイメージを打ち出せますよ』という具体的な提案ができます」

日本の伝統文化の価値がより伝わるためには、言語化できる人材が鍵になるのではないかと柴田さんは考えます。
「世界中からの関心は年々高まり、伝統的なものづくりをしている人も多くいる状況です。ただ、いまはその価値をきちんと説明できる人があまりいません。今後、伝える役割を担える人を増やしたいと思っています」
トライビジネス型のECプラットフォーム『RAKUDA』の立ち上げに取り組み始めた柴田さんは、新しい視点の獲得にも貪欲でした。
伝統工芸品だけでなく、より幅広い商品を扱うバイヤーの目線も知りたいという考えから、2025年の夏にWHERE ACADEMYの地域バイヤープログラムへ参加。
「僕はそれまで、地域の事業者さんから何かを買い付けた経験はありませんでした。バイヤーさんがどういう立ち位置でどんなふうに動いているのか、実際の様子を見てみたいと思いました」
地域バイヤープログラムは、地域発の魅力あふれる商品を発掘し、より多くの人に届けるためのスキルやノウハウを学べる講座。オンラインの講義で学んだ後、実際に地方を訪ねたりポップアップストアを出店したりと、実践的な内容が特徴です。
「フィールドワークに行き、誰にどのように売りたいか、どういうシーンで使ってもらうか言語化するリアルな現場を体験できました。共感したのは地域の事業者さんと接するときの温度感ですね。僕も普段からビジネスライクになりすぎない態度を心がけており、自分と共通する部分だと思いました」

日本文化やその担い手に向き合うとき、柴田さんは「文化を紡ぐ芸術家や職人の良き友人」というスタンスを大切にしているそうです。このスタンスにより、ビジネスや支援といった枠組みではなかなか出てこなかった話も聞けるようになりました。
「文化事業者が生み出す価値と社会をいかに結びつけるか、ともに考えながら挑戦したいという思いがあります」
地域バイヤープログラムを通し、自分のスタンスを再認識した柴田さん。普段の仕事とは異なる経験を通して、地域の事業者と一緒に仕事をするとはどういうことか、解像度が上がったといいます。
「目標としては『RAKUDA』の取り組みを通して、話し手として登録してくれたメンバーと協力し、文化事業者たちと経済を動かせるようなステージへ上がりたいと考えています」
さらに、将来的には日本の文化事業者のブランドを立ち上げたいという思いも語ってくれました。

「世界的な評価を受けるようなブランドを1つ立ち上げられたら、日本の経済にも貢献したと言えるんじゃないかと思っていて。日本文化の魅力とその価値の高さを示していきたいですね。もちろん、ブランドにするにあたって大事にしたいのは、作家さんや職人さん自身の意思です」
ビジネスの視点から日本の伝統文化の発展を支える柴田さん。その話しぶりからは、決して利益だけを追求するようなドライな態度ではなく、文化事業者と向き合いながら真の価値を理解しようとする真摯な姿勢と温かさが伝わってきました。
「いいもの」が選ばれないのを見過ごせない。だからこそ、柴田さんは文化事業者との関わりのなかで見つけた価値を、相手に合わせて言語化し、日本の伝統文化が選ばれるような決め手を示しています。
魅力を伝える話し手がいれば作り手はものづくりに専念でき、さらなる「いいもの」を生み出すことに全力を注げるでしょう。
『RAKUDA』は、そんな好循環を実現し始めています。
「いいもの」を「なんとなくいい」で終わらせず、その価値を言語化して世界中へ届けるために。
柴田さんは賛同するメンバーを募集しています。
RAKUDAについて気になる方はこちらから(https://rakuda-japan.com/)
柴田さんのように地域の作り手に寄り添い、魅力を正しく伝える「届け手」としての視点とスキルと経験を、アナタも『地域バイヤープログラム』で学んでみませんか?
Editor's Note
"総クリエイター時代"とも言われる昨今。文化事業者が選ばれるために必要な言語化は、作り手として活動するすべての人に通ずるものではないでしょうか。かくいう私もイラスト描いており、魅力や価値を言語化して伝えることの重要性を感じました。
MIKI SETO
瀬藤 美季