TOKYO
東京都
前略
地方の中に入り込むのに、少し恐れがあるあなたへ
地域はよそ者に冷たいかもしれない。
そんなイメージは、地域に1年近く仕事で関わっている私でも未だに頭をよぎる。初めての土地に足を踏み入れる時は、まさに緊張の連続だ。肩に力が入り、すれ違った人とは挨拶をするが同時に顔色を少し伺う。「拒絶されたらどうしよう」そんな思いから、思わずニコニコした顔を一生懸命作る。何事もなく地域に溶け込めたときは嬉しさがあるが、同時に体の疲れをドッと感じる。
だから、私は時に思う。複数の地域に同時に関わっている人は、この緊張の連続をどう乗り越えていきながら、日々活動をしているのか。
TURNSのプロデューサーを務める堀口氏と、弊社(株式会社WHERE)代表の平林はまさに該当する人たち。
そんなふたりが登壇者となって開催した『LOCAL LETTER LIVE』では、地域に入り込むためのスタンスについて熱い討論が行われた。
イベントの一部始終から、私はこの疑問が吹き飛ぶ学びがあった。地域と関わり続けるふたりが大切にしている「スタンス」を3つにまとめてみた。(前編はこちら)
司会(LOCAL LETTER 編集長 杉山):今回のLOCAL LETTER LIVEのテーマは「人が変われば地域が変わる」です。会場からは地域と関わるときのスタンスについて知りたいという声も上がっていますが、意識されていることはありますか?
平林:僕自身、これまでいろいろな地域と関わってきた中で、地域は会社と変わらないなと思っています。地域を管理している自治体とはつまり会社で、地域住民とはつまり社員。そう捉えると、私たちの日常の周りにある会社の経営構図と変わらないと思いませんか。
会社が何からできているかって考えたら「人」です。そして、会社が変わるには社員が変わる必要がある。この構図は地域も変わりません。
熱量のある人や地域を前に進める力のある人がしっかりと地域に入れる流れがつくれたら、地域全体も変わっていくと僕は思っています。
堀口氏(以下敬称略):地域と会社は同じという考え方は私も共感します。私自身はよく「地域で成功する人はどんな人ですか?」と聞かれるんです。もちろん断言はできませんが、ひとつ言えるのは、東京でコミュニケーションスキルを鍛えてたくさん人脈を作ってきた人は、地域に行ってもその人脈を生かして成功する人は多い。
例えば元エンジニアの女性が移住を期にフリーになった時、東京のお客さんからたくさんの受注を受けて、その稼ぎを地域に還元していました。地方に行くと、自分の環境も変わるから鍛えられる。鍛えられていくから、さらに自分も変わっていく。そういう風に人と地域が刺激しあって、変わっていく姿を私はたくさん見てきました。
地域で活躍するには、都会で活躍できるくらいのスキルは必要かと思われます。
平林:堀口さんと話す中で移住のお話が出てきたのですが、移住したら幸せになれるのでしょうか。
「移住」ってなんだか特別なものだと感じる方もいると思います。でももっとシンプルに捉えられるんです。「移住」とはただの「引っ越し」。こう捉えると非常に動きやすくなるんじゃないかな。僕自身も移住者に言われてハッとさせられた名言です(笑)
では、どうしたらこの”引っ越し”で幸せになれるか、つまり移住で幸せになれるかというと、これにはとある前提条件があります。それは「自分で自立して生きていける」ということ。環境にとらわれず自立して生活できる力を身につけていれば幸せに近づける可能性は高いと思います。
司会:ちなみにおふたりは移住をされていない中で色々な地域に溶け込んでいるかと思われますが地域との信頼関係は具体的にどのように築いているのでしょうか?
平林:僕の場合は「人と人でコミュニケーションをとること」を大切にしているので、地域の人と一緒に温泉に入ったり、お酒を飲んだりすることを大切にしています。そこでは、仕事の話は一切しません。
あなたはどんな人ですか? って聞いた時に「地方公務員です」とか「地方創生を行っている会社の社長です」ってすごくつまらない答えだと思いませんか。
どんな情熱を持って、今何をしているのか、どんな経歴で、どんな価値観を持っているのか。
肩書きで人を判断するのではなく、本当にパーソナルな部分で繋がった人と仕事をしていくことが、信頼関係を築く上で大事なんじゃないかなと思っています。
堀口:私自身は地域に入り込む時、もちろん人としての人間関係を築くことも大切ですが、自らの役割を明確に持って地域と関わることが信頼関係を構築する上で、何よりも大切だと感じています。
はっきり言って、信頼関係を築くのに移住はしなくてもいいと思っています。移住しなくても自分自身が楽しみながら地域のためにできることを明確にして、ちゃんと地域に関わることが信頼関係を構築する上で一番の近道だと感じています。
平林:役割を明確にするのは大切です。「自分は相手に何をgiveするのか」ということですよね。
堀口:そうですね。そのgiveが地域に喜んで貰えることで、自分もやっていて楽しくて、さらにTURNSは株式会社なのでそれが利益に繋がることが大切です。私の場合はそれが「メディア」でした。
堀口:皆さんは地域にどうやって関わりたいと思っているのでしょうか。地域で何をしたいのでしょうか。漠然と「地方創生」「地方創生って楽しそう」という人は多いです。それは決して悪いことではありません。
ですが、まずは自分の地域との関わり方や、やりたいことを明確にしていくことが、地域と関わる上で大切ではないでしょうか。
そもそもなぜ地域に関わりたいのか。なんで地方創生なのか。あなたにとっての地方創生ってなんなのか。皆さんは、答えられますか?
平林:そうですね、この問いとても大事です。
堀口さんの今の問いに「正解」はないと思っていて、だからこそ自分自身が自信を持って自分が地域に関わる意味を伝えられるようになることは、僕も大切だと思います。
関係人口みたいな関わりがいいのか、がっつり移住という形がいいのか、ライフスタイルを構築するためなのか、、、ここを明確にしていくと、自分の役割も明確になりそうですね。
堀口:いろんな地域を見ていると、やっぱりそれぞれ違った地域の良さがあり、そこから私たちが自分自身の大切にしたいことに気づかされることも多くあります。考えすぎず私たちから「地域を好きになる努力」をする必要があると思いますね。
皆さんが今いる会社だって、ちょっと嫌になったからってすぐ辞めるわけじゃなくて、会社を好きになる努力をするじゃないですか。自分から相手のいいところを探す努力をする。そうすると、だんだんと相手の本心が見えてきて、愛おしくなってきたりする。地域も同じなのではないかなと思います。
平林:恋愛でも付き合った後から、好きになっていったみたいなことってありますもんね(笑)
「自治体」「移住」「地域選び」
地域にひもづくこれらのワードは都会の日常には存在しないため、一見難しく見える。
しかし二人の話を聞いていると、結局は「会社」「引っ越し」「恋愛」とあまり変わらなかった。
大切なのは自分にとっての「地方創生」を明確にし、自分から地域に歩み寄り、地域を好きになる努力をすること。
そんなことを考えていた時、就職活動の時言われていたことを思い出した。「就職活動に正解はない」。自分が就職すると決めた会社で必死にもがき、自分の選択を自分で正解にしていく必要がある。
地域に入るためのスタンスをあなたはきっとすでに知っているはずだ。地域だからって、特別扱いをする必要はない。
私も新しい地域に足を運ぶときは、このスタンスを大切にしてみたいと思う。
(前編はこちら)
Editor's Note
イベントが無事終了し、記事の構成を考えながら家路についた時、イベントに参加してくれていた私の友人から連絡が入っていることに気がついた。イベントの感想かな?と思いつつ携帯を開くと、そこには溢れ出る「興奮」が。
彼の興奮の一番の要因は、自らのFacebookに堀口さんから友達申請がきただけでなく、お礼のメッセージまでもが届いたことだった。
(いい意味で)鳥肌がたった。私が初めて堀口さんとお会いした日もそうだった。堀口さんと別れたあとすぐにお礼のメールを打っていると、堀口さんの方から連絡が入り、焦ったのをよく覚えている。。(笑)
結局、堀口さんが地域でいろんな人と信頼関係を作り続けている秘訣は、この誰に対しても誠実に向き合うスタンスなのだと私は思う。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々