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LOCAL LETTER

長野県松本市で「りんご音楽祭」開催。逆境の中でも挑戦し続ける主催者・古川陽介氏の持論

SEP. 24

MATSUMOTO, NAGANO

※本記事に使用している写真は全て昨年度以前に開催されたりんご音楽祭のものです

拝啓、地域に根付くフェスが好きで、今後も数々のフェスへ訪れたいと思うアナタへ

長野県松本市で毎年開催されている「りんご音楽祭」をご存知だろうか?

今や長野県内に留まらず、全国から2日間で延べ1万人のファンを集めるりんご音楽祭だが、記念すべき開催第1回目は、大赤字に。今回取材したのは、りんご音楽祭の主催者であり、借金返済のために1日20時間364日バイトをし、月45万円ずつ返済したという伝説をもつ男、古川 陽介氏。

今年は、新型コロナウイルスの影響を受け、多くの音楽祭をはじめとしたイベントが中止に追い込まれる中、古川氏は2020年9月26日、27日に第12回目のりんご音楽祭を開催することを決断。

そんな逆境の中でも挑戦を諦めず、自分のやりたいことに貪欲に、率直に向かっていく古川氏に、音楽活動の域を超えて、人生において大切にしている持論をお聞きしました。

古川 陽介(Yosuke Furukawa)氏 りんご音楽祭 代表・瓦RECORD 経営者/ 神奈川生まれ、山梨育ち。信州大学在学時より18年間、長野県松本市に在住。20歳の時松本市でハウス「瓦RECORD」を立ち上げ、オーナーを務める。2009年、26歳で「りんご音楽祭」を初めて開催する。以降現在まで毎年開催を続け、秋を代表するフェスとなった。活動は松本にとどまらず、現在沖縄にも「瓦RECORD」の姉妹店「on」を展開(2020年閉店)。dj sleeperとしても全国各地のパーティで活躍している。
古川 陽介(Yosuke Furukawa)氏 りんご音楽祭 代表・瓦RECORD 経営者 / 神奈川生まれ、山梨育ち。信州大学在学時より18年間、長野県松本市に在住。20歳の時松本市でハウス「瓦RECORD」を立ち上げ、オーナーを務める。2009年、26歳で「りんご音楽祭」を初めて開催する。以降現在まで毎年開催を続け、秋を代表するフェスとなった。活動は松本にとどまらず、現在沖縄にも「瓦RECORD」の姉妹店「on」を展開(2020年閉店)。dj sleeperとしても全国各地のパーティで活躍している。

ローカルの「ご近所付き合い」を大切にする

今回、取材を行ったのは、りんご音楽祭の東京事務所。6月中旬に古川氏が東京出張に来るというタイミングでお伺いすると、一生懸命、事務所に掃除機をかけている古川氏がいた。

「自粛期間中はずっと自宅がある松本にいたので、東京に来たのは2ヶ月半ぶりだったんで、掃除からしていたんです」という古川氏。久しぶりだからこそ、東京の現状に驚いたと、話してくれた。

「昨日まで名古屋にいて名古屋のパワーに圧倒されながら、久しぶりに東京に来たらパワーがあまりにもなくて驚きました」(古川氏)

実は、県外移動自粛やイベント自粛が解除された直後、名古屋のクラブでパーティーを開催し、そこで尋常じゃない盛り上がりを感じていた古川氏。その勢いのまま東京に訪れたら、まるで街自体が死んでいるような熱気のなさに驚いたというのだ。

「僕自身は同じことをやって全国を回っているし、パーティーも似通ったフォーマットでつくっています。遊ぶ時も友達全員に連絡しますが、地域によって全然反応が違うんですよね。名古屋は10人誘ったら10人がノリノリで連絡をくれましたが、東京は20人に送って反応があったのが5人ほどでした。政府からの情報は同じなのに、まだまだ東京は自粛ムードが強いんです」(古川氏)

この反応の違いは何が要因なのか、これをきっかけに改めて考えたという古川氏。

東京は不安が不安のまま残り続けていると感じています。例えば、名古屋や松本のようにローカルと呼ばれる舞台では、コロナ関係なく、音楽祭を開催するとなったら、周りの方々に挨拶にいかなきゃいけないという暗黙のルールがあるんですよ。人によっては “めんどくさい” と捉える方もいるかもしれませんが、この “ご近所付き合い” を行うことによって、相手の反応を事前に知ることができます。例えば、僕は今年もりんご音楽祭を開催する決断をしましたが、ご近所付き合いをすることによって “今こんな状態で開催して平気なの?” というマイナスの意見を開催前に聞くことができますし、そういった意見を持った人を知っていれば、事前の話し合いや、多くの人から意見を聞いた上で再度判断をすることもできます」(古川氏)

事前に話し合った上で、実行に移すからこそ、相手を批判するのではなく、応援しよう・助けようというムードが高まる。“ご近所付き合い” はまさにローカルの強みであり、めんどくさいところだと古川氏は話す。

東京は “連携しない楽さ” を取りすぎてしまったんです。連携していないからこそ、楽だけど弱い。何か行動を起こすとき、誰にどんな反応をされるかわからないことが1番怖いんです。だからこそ事前にしっかりと伝えることはとても重要で、ローカルという概念こそが、これからは人を救うと僕は感じています」(古川氏)

「できる範囲」で助ける、「気づく」努力をする

「声には出せないけど困っている状況の人に対して、助けられる状況にいる人がどんな行動を起こすのかもとても重要だと思っています。例えば、我が子のベビーカーを運ぶのは親の仕事なのか? マルかバツかでいったらマルだと思いますが、それだけで全てを判断してはいけないとも思っています。ベビーカーを持ち上げて階段を上がろうとしている人が隣にいれば、片手が空いている人は手伝ったらいいじゃないですか。自分がやってもらって嬉しいことは、相手にもやったらいいんです」(古川氏)

少し極論かもしれないが、日本の女性やお母さんを助けてこなかったからこそ、少子高齢化が進み、年金が崩壊し、年金が崩壊したからこそ、給与が上がらないという、全ては回り回って自分に跳ね返ってくる連鎖を多くの人が意識することが大事だと話す古川氏。

冒頭で話していたご近所付合いだけでなく、「いいことも、めんどくさいことも、共有していくこと」がローカルの概念だと教えてくれた。

「ローカルの概念って本当にめんどくさいんですよ。僕が相手のためにと思ってやったことでも、相手から嫌がられることだってあります。そもそも家が近いご近所だからといって仲良くなれるわけじゃありませんしね(笑)。でも僕は、10年後のめんどくささよりも、その瞬間のめんどくささの方がマシだと思っていて。世の中が弱った時は、この “ご近所付き合い” が何よりも重要になってくる。反対に、“ご近所付き合い” さえあれば簡単に生き残れるんです。だからこそ、一人一人が自分のできる範囲で相手を助ける。相手の気持ちに立って、相手の困りごとに気づく努力をする。それだけで世の中はもっと良くなるし、ローカルにはあって、東京にはないものだと思いますね」(古川氏)

東京に暮らしていても、一人一人がローカルの概念を持ちながら、自分自身の意識や行動を変えていくことが重要だと話す古川氏は、同時に選択肢の幅を伝えることも必要だと教えてくれた。

「連携しない楽さを取ってきた東京が、いきなりローカルの概念を大切にすることは難しい。だからこそ、東京が生きづらいと感じてしまった人には、東京で仕事をしつつもローカルで暮らすという選択肢があることを教えてあげることも大切だと思っています。音楽業界でいうなら、僕は “僕がやっていけているのだから、全員誰でもやっていけるよ” と伝えています。僕が松本に行った時は、お金も繋がりもない学生でしたが、僕は松本に暮らし続けながら東京にも影響する仕事をつくれている。これまでは僕以外にやる人がいなかっただけで、本当は誰にでもできることなんです」(古川氏)

数々のメディアや自身のSNSでも積極的に発信を続けている古川氏。目立つことで要らぬ批判を受けることもある一方で、それでもあえて目立つ行動をするのは、「自分にできたのだから、誰にでもできるということを伝えたいから」だといいます。

「誰も困らない」を基準に考える

取材中、唐突に「自分の集中できる場所の条件を知っていますか?」と古川氏に尋ねられて、驚いた。

「僕は全てのことには必ず原因があると思っていて。その原因を読解するのがとても好きなんです(笑)。だから、自分が集中できる条件もわかっていて、だからこの事務所を選んでいるし、仕事机はあの場所に置いているんです」(古川氏)

以前、1年間近くホテル暮らしをしていたという古川氏。その際に全国の数々のホテルに泊まり、自分が1番仕事の捗る部屋があることに気づき、その原因を探ったのだという。

「人生で1番仕事が捗ったのが愛媛県にある松山城の前の東京第一ホテルで、そこは松山城がドカンと見えるんですよ。その次に捗ったのは、フジロックに行った時のホテル。そこからは自然とゴンドラが見えるんです。どうも僕は、リラックスさを演出する自然とスケールの大きい人工物のコントラストに美学を感じて、想像力を掻き立てられるみたいなんです。こうやって原因を読解していくと、ホテル選びもすごく楽で。全ての原因を突き止めていくと、正解ではないかもしれませんが、正解に近づいていく。生きている人生の日々を雑にできないからこそ、一つ一つの選択が将来に関わると思っていて、みんなが日々ちょっとずついいことをしたら、10年後の日本は良くなっていると本気で思いますし、そういう理屈が好きなんですよね(笑)」(古川氏)

限りある人生だからこそ、自分が何に心を動かされ、何には動かされないのか、常に原因を読解している古川氏。読解した正解に近い物事に沿って、仕組みをつくることが好きだとも教えてくれた。

「仕組みが全てだとは思いませんが、仕組みはいろんなものを救うと思っています。でも、仕組みを変える時には大きな注意が必要だと思っていて、例えば、満員電車って多くの人が疑問視していますが、満員電車を禁止したら誰かしら困る人が出てきてしまう。反対に、自分が階段を登るときに、階段の下で困っているベビーカーを持ったお母さんを助けることは誰も困らせません。この “誰も困らない” を意識することはとても重要だと思っていて、誰かが困ることなら、もう少し慎重に考えた方がいいなと、自分の行動の基準にしています」(古川氏)

例え、その仕組みで1万人の人が幸せになったとしても、1人が不幸になることであるならば、慎重に検討する必要があると話す古川氏。

「本人は全く気付かずに不幸な人をつくってしまうこともありますが、まずは少し考えればわかる部分での被害者を出さないという考えは大事ですよね。ご近所付合いはそれに似ていて、めんどくさいですが、大問題を起こさないように、被害者が出ないように、事前にお互いの認識をすり合わせができます。経済的には効率が悪いことかもしれませんが、たった1人であっても、相手の立場に立って、ないがしろにしないことが大事だと思っています」(古川氏)

「楽」であるか否かを大事にする

「あとは、何かをする時に “楽さ” も大事にしています。楽なことって、ストレスがないってことでもあると思っていて。ただ、全てが楽だといいのかというと、そうでもないんですよね。楽なことと楽ではないことを経験した上で、自ら選ぶことことが大事であり、それが豊かさだと思っています」(古川氏)

楽ではないが、人々があえて選ぶこととして、古川氏は登山を例に出してくれた。ひたすら歩いて山を登るという全く楽ではないことを自ら選んで行っている人間は、楽じゃない部分にも美学を感じる生き物だという。

「例えば、満員電車に乗ることしか選べないというのは、全く豊かではなくて。職場の近くに住むとか、家賃を解決するために、暮らす場所そのものを変えるとか、友達と一緒に暮らすとか、優先順位をつけて妥協点を探っていくのが東京。楽も楽じゃないことも、両方自分で選択できるのがローカルの醍醐味の一つだと思っています」(古川氏)

実は、古川氏が自らりんご音楽祭を始めたきっかけの一つに「楽なフェスがあってもいいのでは?」という考え方がある。楽さは音楽に集中するための重要なポイントだと考えたのだ。

「めちゃくちゃ暑い状況や、あまりにも混雑していたら、音楽を楽しむどころではなくなってしまう。だからこそ、毎年少しずつ便利や丁寧を増やしていました。ただ、どうしてもそこには費用がかかってしまうから、今年はやりたくてもできない部分も多い。だから今年はできるだけ、自分のことは自分でやるということを協力してもらえたら嬉しいなと思っています」(古川氏)

例年、トイレが混雑していれば、次の年には増設したり、毎年座る場所に困らないくらいの数の長椅子ベンチを用意することで、楽に遊べるを大切してきたりんご音楽祭。今年は、コロナの影響を受け、開催規模を約1/3まで縮小。集客も例年の1/5であることから、赤字を覚悟した上で、「人が集まって場所を共有する文化的価値をちゃんと繋げていきたい」という古川氏の強い想いと、スタッフ、アーティスト、地域の人たち、お客さんの声が重なったからこそ、開催を決断したと話す。

自分で考えて行動するための「隙間」をつくる

「りんご音楽祭を今年も開催すると決断をした時、周りからの反感は少なかったです。むしろ、理解してくれた方ばかりで。それは、僕が無茶をしないということを仲間が信じてくれているからかもしれません。あとは、僕は常に自分のやりたいことを伝えるし、その想いを話します。もちろん、誰もやったことのないことに挑戦する時には多くの批判も受けますが、だからこそしっかりと周りに話をしますし、周りの仲間や一緒に活動してくれるスタッフが世間からの批判対象にならないよう僕が前面に出るようにしています」(古川氏)

最初は、批判を受けている古川氏をみて傷つくスタッフもいたそうだが、古川氏の果敢なチャレンジと、その度に起こる意味のない批判にスタッフも動じなくなったと古川氏は笑って話す。

「僕の仲間も最高ですが、りんご音楽祭のお客さんもダントツで最高なんです。僕自身、基本的に “禁止” が嫌いで、自分で考えて行動して欲しいので、あえて “隙間” を残しているんです。一般的なフェスって商業化されてしまっているので、楽しみ方が決まってしまっているんですよね。例えば、Instagram用の映えスポットが予め用意されているとか。でも本来、自分のInstagramに映える写真は自分で決めるはずのもので、だからりんご音楽祭にはあえてそういうスポットは一切つくっていません」(古川氏)

お客さんが自分で考えて自分で選ぶ演出を考えてきたという古川氏。

「僕は、“あったら楽に遊べるもの” は大切にしていますが、“なくてもなんとかなるもの” をチケット代をあげたり、音質やお酒のランクを下げてまで用意しません。僕が1番やりたいことは、とにかく良いものを伝えていくこと。だから、世界で唯一、デコレーションしていないフェスだと思いますよ(笑)」(古川氏)

常にお客さんのため、仲間のため、地域のため、そしてそれは強いては自分自身のために考え、行動してきた古川氏は、最後にこんなことも教えてくれた。

「今日話したことは、相手に言っているようで、実は全部自分に言ってるんです。みんな気づかないうちに、誰かを傷つけてしまう発言や行動をしてしまうことがあるんです。僕もできていないことがあると思うからこそ、こういった取材や仲間同士で集まった時なんかにも今日お話ししたような話題を放り込んで話すことで、自分自身を喚起するようにしているんです」(古川氏)

自分の信じたことに真っ直ぐ行動し続けながらも、相手を思いやり、そして一つも飾らない古川陽介氏。りんご音楽祭だけでなく、個人としても多くのファンや仲間を魅了し続ける彼に、今後ますます目が離せない。

※本記事に使用している写真は全て昨年度以前に開催されたりんご音楽祭のものです

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