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LOCAL LETTER

「興味がない人」にも広がる、共感の輪。松本山雅FCがつくる多彩な感動体験

MAY. 30

NAGANO

拝啓、ささやかな活動を大きなイベントへと育てていきたいアナタへ

自分たちの活動を、もっと多くの人に知ってほしい。
地域の人たちを巻き込んで、まち全体が盛り上がるようなイベントにしていきたい。

でも、工夫を凝らして魅力を発信しても、なかなか人が集まらない……
どうすれば、幅広い世代や属性の人たちに、関心を持ってもらえるのか。
そんな壁に直面したことはありませんか?

今年で創設から60年を迎えた長野のフットボールクラブ、松本山雅(まつもとやまが)FC。
この記事では、松本山雅が広げる多様な事業展開とその真髄を、代表・小澤修一さんに語っていただきます。

小澤 修一(おざわ しゅういち)氏 株式会社 松本山雅 代表取締役社長 / 神奈川県横浜市出身。大学卒業後、静岡のクラブチームを経て、2005年松本山雅FCに加入し選手として活躍。現役引退後は広報や営業部、喫茶山雅事業などを担当。2024年4月より代表取締役社長に就任。

喫茶店でキックオフしたサッカーチーム

松本山雅FC(以下、松本山雅)は、長野県松本市に本拠地を置くフットボールクラブ。取材に伺った2025年3月現在は、J3に所属しています。

サッカークラブの成り立ちといえば、スポンサー企業が選手を集めて結成する例、もしくは学生のクラブ活動を出発点として発足する例が多く見られます。しかし、松本山雅誕生のきっかけとなったのは、一風変わった出来事でした。

チームの原点となった『純喫茶 山雅』のカップマーク。現在営業している喫茶山雅では、マークをあしらった店舗限定グッズも。

「1965年、松本駅前にあった『純喫茶 山雅』に地元高校のサッカー部OBがよく集まっていたそうです。たむろしていた彼らに、店のマスターが『どうせ暇してるなら、サッカーやりなよ』と言ってユニフォームをくれたことが、チームができる最初のきっかけだったと聞いています」

このとき発足したのが、サッカーチーム「山雅クラブ」。チームはその後、地元JC(青年会議所)の後押しなどを得て活動を続け、現在の松本山雅へと至ります。喫茶店から発祥したという、サッカークラブとしては珍しいルーツを持っているのです。

そして、現在の運営母体となっているのが株式会社松本山雅。昨年(2024年)4月に代表取締役社長に就任したのが小澤修一さんです。

チーム草創期のユニフォーム。「みやび(雅)の字が、幼稚園の『稚』になっていて。すごく弱そうな字面ですね(笑)」と語る小澤さん。このユニフォームは松本市緑町の喫茶山雅で見ることができます。

多角的に広がる事業は、選手のセカンドキャリアにも続く道

事業をしていく上で小澤さんが強く意識しているのは、多角的な展開です。

ただし、それは単なる事業拡大のためではありません。「チームを強くするため」という明確な目的があります。健康や運動といった、スポーツに近い文脈で事業を広げていくこと。それが結果的に、クラブや地域に還元され、チーム強化にもつながると小澤さんは考えています。

「山雅で活躍した選手が、引退後も松本に残っている例はたくさんあります。クラブの中だけでも、私をはじめ、山雅OBがたくさんいますし、クラブの外に目を向ければもっと大勢います。例えば、農業をやって長芋やキノコを作っている元選手もいますよ」

自分たちOBが、さまざまな仕事に関わる姿を見せること。それが、若い選手たちが将来のセカンドキャリアを考えるきっかけになれば——そんな想いで活動に関わっているそうです。

事業を多角化していくことで、関わることができる人たちが増えていく。それを強く意識して、さまざまな企画を立てています」

今回インタビュー会場としてお借りした、「喫茶山雅」も、株式会社松本山雅が手がける事業のひとつです。

「喫茶山雅」は、松本山雅発祥である『純喫茶 山雅』をルーツに、2017年に復活した喫茶店です。この復活プロジェクトの発案者は、他ならぬ小澤さん。現在 店舗マネージャーを務める阿部琢久哉さんは、松本山雅でも活躍した元・サッカー選手です。

クラブ発足のきっかけとなった『純喫茶 山雅』は1978年に閉店。現在営業している松本市緑町の店舗は、クラブ設立50周年を機に復活させたもの。

手が届かない層と繋いでくれるのは、山雅を愛する人たち

サッカーは言うまでもなく、人気の高いメジャーなスポーツのひとつ。しかし、それは「スポーツ好きな人の間では」という前提のもとで、成り立つ話とも言えるでしょう。

そもそも、スポーツ自体にあまり興味がない人も少なくありません。けれど実は、そうした「スポーツにあまり興味がない層」たちこそが、松本山雅の新たな観客となる可能性を秘めているのです。

ではどうすれば、松本山雅のサッカー、そしてスポーツへと目を向けてもらえるのでしょうか?

J3でも突出した観客動員数を誇る、松本山雅。しかしそれでもなお、「スポーツにあまり興味がない」層へのアプローチは難しいと、小澤さんは打ち明けてくれました。

「スポーツへの興味関心があまり無い人たちに向けて、僕たち主催側が音頭をとって情報発信をしても、なかなか届かないのが現実です」

そこで重要視しているのが、松本山雅を熱心に応援してくれているファンやサポーターである『コア層』の存在です。コア層のみなさんからのライト層・無関心層への働きかけが、関心の輪を広げるために重要になります。

山雅を熱心に応援してくれているコア層の皆さんから、『なぜ自分は山雅の試合やイベントに通っているのか』『なぜ山雅を応援しているのか』を周囲の人に発信していただくそうすることで、周りにいるライト層・無関心層の方々にも、間接的にリーチしていくことができるんです」

お店の口コミと同じように、自分が信頼している人からの情報は肯定的に受け取りやすいもの。

松本山雅のことはよく知らないけど、あの人が言うなら一度行ってみようかなと思った人がスタジアムに行ってみる。このまずは一度来てもらうことが、次につながる大切な入口になるのです。

スタジアムへ行くのは観戦のため……だけじゃない!この『お祭り』を楽しんで!

一口に「スポーツ観戦」と言っても、そこで体験できるのは、試合を観ることだけに留まりません。

「グルメを楽しんだり、試合以外の催しとしてアーティストを呼んでパフォーマンスをやってもらったり、スタジアムにはスポーツに限定されないイベントがたくさんあります。そうした観戦以外の体験のなかにも、初めて来た方も楽しいと感じられる何かのフックがあるんです」

松本山雅のホーム試合の舞台となるのは、通称『アルウィン』という名のスタジアム。

その独特な建築設計や、スタジアム内から日本アルプスの山並みが眺められる素晴らしいロケーション、選手との距離が近い客席も、アルウィンに行くことでしか味わえない魅力です。

喫茶山雅の店内にディスプレイされた、松本山雅の応援グッズの数々。松本山雅サポーターの応援はとても熱く、チャント(応援歌やコールのこと)も数多くあります。

「Jリーグでは、ホームゲームとアウェイゲームが毎週交互に開催されます。つまり、2週間に一度、この松本という地域で大きなお祭りを開いて、たくさん人が集まって楽しんでもらっていると言えます。松本山雅の根本には、やっぱりホームゲームの活気や楽しさがあるんです

『土日になると公民館から人が消える』

これは、地域で冗談めかして語られている話だそう。ひと昔前ならば、週末にお年寄りが井戸端会議をしに集まっていたのは公民館。それが今では、土日に人々が向かう先はアルウィンになりました。

年齢関係なく多様な人々が、松本山雅のホーム試合に合わせて、アルウィンに集まっています。地域の公民館に集まっていた頃より、はるかに大勢の仲間たちと、会話に花を咲かせることができるのです。

「テレビ放送が始まった頃、人気番組が放送される時間になると、通りから人がいなくなった」なんてエピソードもありますが、それに近い現象がいま松本で起きているのかもしれません。

喫茶山雅の入り口にあるフィールドを模したプレートには、サポーターの皆さんが書き込んだ熱いメッセージが。

もちろんスポーツクラブである以上、ファンやサポーターの皆さんが持つのは、「山雅に強くなってほしい」という熱い思い。クラブの成績は、順位として明確に現れる以上、思うような結果が出なければ、厳しい声が届くこともあるといいます。

「それでもやっぱり、応援してくれる人たちの熱量が高ければ高いほど、広がっていく輪も大きいと思っています」と、小澤さんはサポーターへの信頼を、力強く語ってくれました。

喫茶山雅では、歴代のユニフォームや応援グッズに囲まれながら、オリジナルブレンドコーヒーやカレーをいただくことができます。ライブ配信でアウェイゲームを観戦するイベントも。

心が動く瞬間との出会いが人生の価値——「だから僕はこの仕事をやってます」

「人生の価値は心が動く瞬間にどれだけ出会えるかだと思っている」と、話してくれた小澤さん。

松本山雅とその周辺で展開するさまざまな事業やイベントが、地域に暮らす人たちの感動体験につながってほしいーー。そんな願いを込めて、日々の取り組みに向き合っているといいます。

「でも、心が動く瞬間は、必ずしもスポーツである必要はないとも思っているんです。地域に住む人たちが、豊かになっていくことがいちばん大事だと思っているので。ただ、サッカーやスポーツはその過程に寄与できると信じています

「だから僕はこの仕事をやっている」と続ける小澤さん。その飾らない言葉と真剣な眼差しに、長く地域に愛され共に支え合ってきた「松本山雅」というチームの真髄を垣間見たように思いました。

LOCAL LETTERでは、様々な活動や事業に取り組む方へのインタビューをお届けしています。

自分たちが始めた小さなアクションを、地域の魅力や価値のひとつになるような大きなイベントへと成長させたい。そんなアナタの「心が動く瞬間」が、LOCAL LETTERのインタビューの中に隠れているかもしれません。

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本記事はインタビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。

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Editor's Note

編集後記

「僕、平和主義なんです。……サッカー選手としてはどうかと思いますけど(笑)」その言葉に違わず、インタビューは終始和やかなムードで進みました。アルウィンから見える日本アルプスの山並みと松本山雅の応援を体感しに、アルウィンに行ってみたいと思いました。

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