NAGANO
長野
「家庭料理」と聞いて、アナタが思い出すものは何ですか?
幼い頃から今までの、喜怒哀楽それぞれの思い出や感情が蘇ることでしょう。
また、引っ越しや職場の移動で、関わる人が変化する時…、周囲の人とつながる媒体として「食事」はあります。
「一緒に食事をすることで、1番早くコミュニケーションが取れると思う」
そう語るのは、東京から長野県松本市に移住し、定食屋を営むハルカさん。
松本に移住してから2年弱。食を通じて現地の人と交流を深めてきたハルカさんは、店に立ち寄る人に「家庭料理」と共に「あたたかな場所」を提供しています。
土地を変えても、「食」と触れ合い、人と繋がり、日常を生きる。
そんなハルカさんに、食を通して広がり深まり、心和らぐ生き方を伺いました。
ハルカさんの食への興味は、幼い頃から始まりました。料理が出来上がっていく工程を見ていることが大好きだったといいます。料理番組を見るのはもちろん、台所で作業する母の姿を見る日々。
母の料理で好きなメニューは「鶏そぼろ」。
「鶏そぼろとごぼうを煮て、卵でとじたやつをよくうちのママが作ってた。それが超大好き。今も作ってもらう。普通なんだけど、全然普通なんだけど、それが大好き」(ハルカさん)
目の前の食卓に作りたての鶏そぼろがたった今出てきたかのように、弾んだ声色で語ります。
「私が作った方が美味しいかもしれないけど、やっぱりママに作ってもらうのが美味しいって思うんですよね。おむすび1個にしたって、ママが作ると美味しく感じる」(ハルカさん)
その「美味しさ」とは、技術や固定のメニューにあるものではなく、「料理が纏う雰囲気のこと」だと言います。実家の台所での料理姿を幼い頃からたくさん見てきて、長い時間をともに過ごしてきた母のつくる料理は美味しい。
一方で、「知らない」からこそ、美味しそうに感じさせる料理もあるといいます。
「人んちのご飯って美味しくない?人んちのお弁当とかも美味しそうに見えなかった?お弁当の時間、おかず交換したりとか」(ハルカさん)
「自分の家の母」は同じ屋根の下、思春期や反抗期を経験する学生時代をともに過ごし、嫌な思い出や感情をもつこともある。しかし「人の家の母」にはそれがない。
ハルカさんにとっての食事は、料理を作った相手との関係性や思い出までが反映され、食べたときに染み渡るもの。
「知っている」母の味も「知らない」母の味も、纏う雰囲気はことなり、どちらも美味しい母の味。食べるその瞬間だけが食事ではありません。
幼い頃から食に興味を持っていたハルカさんが、初めて「お客様と接し、お客様に料理を作る」経験をしたのは高校生のとき。地元・横浜での蕎麦屋のアルバイトでした。食材の扱い方、お茶の出し方、料理の盛り付け方と、お客様に料理を出すために大切なことをたくさん教わります。
「思えば、この頃から飲食業に魅了されていたのかも」と高校時代を振り返るハルカさんは、高校卒業後に調理師の専門学校へ入学。1年間かけて調理師免許を取り、19歳から都内の飲食店で働き始めます。
いくつかの店舗で働いていくうちに、オープニングスタッフを担うなど、メニュー開発を行うことが多々ありました。その中で新たな「家庭料理」の魅力に出会います。
「うちの実家、『ピーマンの肉詰め』といえば煮物なんです。私はそれが普通だと思っていました。
でも、お店で『ピーマンの肉詰め』を出した時に、お客さんはハンバーグみたいな形を想像している人が多くて。『ピーマンの肉詰めってこのスタイルで出てくるんだ』って言われた時に、家庭料理って面白いなって思ったんです」(ハルカさん)
家庭料理には、「ベースはそれぞれの料理のままでも、枠にとらわれない自由さがある」と気がついたハルカさんは、活動の主軸を「定食」においていきました。
現在は、自身が営む店で定食を提供するハルカさん。日替わりの主菜と、いくつかの小鉢に入った副菜で、お盆が彩られます。地元の常連さんは、ハルカさんのInstagramで発表される日替わりのメニューを見て楽しむ姿も。
定食という形を選んだのは、「自分が作っているお料理の中で、定食が1番表現しやすかった」からだそう。
「料理は自分を表現する手段の1つだと思うから。ご飯を食べてもらったら、自分のことを知ってもらえる気がする」 (ハルカさん)
とは言っても、料理をつくるときやメニューを決めるときに「こういう私を見て!」と具体的に想像してつくっているわけではないそう。
それでも「食べてくれる人はみんな、ハルカちゃんっぽいねって言ってくれるんです」と笑みをこぼします。
ハルカさんにとっての「食事」は、コミュニケーション。誰かと食べる食事も、作って提供する料理もすべて。
「人と喋って、笑ったり、怒ったり、泣いたり。ご飯食べながらさ、話して帰ったら、なんかちょっと気持ちが明るくなって。それが『食事』。
やっぱり食べ物って人を繋げるから。みんな多分無意識だと思うけど、食を通じてコミュニケーションとってる」(ハルカさん)
ハルカさんが松本で営む定食屋の店名は「mealstop」。オープンキッチンで、カウンター席からは、ハルカさんが料理する姿を見ることができます。
幼い頃のハルカさんが、母の料理姿を見ていたときのように。料理を待っている間も、店内のあたたかな空気と、ハルカさんの手際の良い作業音に包みこまれます。
「mealstop」は「ラフに立ち寄れる食事の停留所」の意味を込め、来る人にとってそれぞれ「便利な使い方」をして欲しいというハルカさんの願いを表しています。
「おしゃべりしなくても明るくなれる空間ってあるじゃん。ずっと楽しいみたいな。ここに来たら、なんか元気になって帰れたとか思ってくれたらいいな、居場所になれたらいいなっていうのを1番思ってる」(ハルカさん)
ハルカさんが思い描く、キッチンで店に来る人を迎え入れる姿。それは「自分ちの母ちゃんじゃない、人んちの母ちゃんみたいな立ち位置」。ハルカさんが作りたい「日常」です。
誰かと話したい時も、話す気分でない時も、ここに来てハッピーになってくれたら。
心が温まってくれたら。
そんな過ごし方を叶えてもらうために、「mealstop」の店内は「日常」を意識して作られています。木材が豊富に使われ、ハルカさんの好きなガラクタが置かれた、雑多で「自分の部屋」をイメージしたあたたかみのある内装。
「mealstop」に立ち寄る人は様々。友達同士で来る人、お勤め先の休憩中の人、パートナーと過ごす人。その中でも1番多いのはおひとり様。十人十色の使い方、立ち寄り方がされる定食屋です。
様々な人が立ち寄り、帰り、常連になり…、そんな中で知らず知らずの内に「mealstop」が居場所になっていたお客様との出会いもありました。
「仕事の休憩時間に定食を食べて帰る子がいたんだけど、その子が『ここに来ると仕事に戻りたくなくなります』って言ってくれたことがありました。『実家にいるみたいで落ち着きすぎて、仕事戻りたくないです』って。
そういうのめっちゃ嬉しいな〜と思って。 たまに来るなこの子とは思ってたけど、1回も喋ったことはなくて。けど、ある日お会計した時に急にそう言われて。めっちゃ嬉しかった」 (ハルカさん)
言葉にしなくてもハルカさんの想いが届いている、そんな瞬間でした。
1人で店を営むことによる大変さも当然あります。
「多少お客さんに協力してもらわないといけないし、お食事出すのがちょっと遅くなっちゃうこともある。待ってくれたりとかするのも、お客さんの協力だし。結構お客さんに協力してもらってるので、そういうのに癒されてます」 (ハルカさん)
ハルカさんにとっての「mealstop」は、会いたい人に会う時間でもあり、自分のやりたいことをやる時間でもある。仕事だから行かなければと思う日も時々あります。
立ち寄る人にとっても、ハルカさんにとっても「mealstop」は飾らない日常に溶け込みます。
松本に移住するまでは、東京の代々木上原で間借りの店舗を持ち、定食を提供していたハルカさん。東京で物件を探していた3年前、松本への旅行で転機が訪れます。
ひと目で気に入り移住を決意。
「それこそ私、移住するなんて3年前は思ってなかった。周りからするとかなりびっくりするみたい。でも私の中ではしっくりきてる」(ハルカさん)
「憧れみたいなのもあったかもしれないです。こういう地方の食文化とか」と語るハルカさん。
長野県の「お正月にブリを食べる文化に驚いた」そうです。年末年始、スーパーの食品売場にはたくさんのブリが陳列され、皆がそれぞれの家の食卓でブリを食べるんだと想像し、「家庭料理」の面白さが広がりました。
料理の素材にも新たな発見がありました。山に囲まれた盆地の松本では、昼夜の寒暖差が激しく、野菜に旨味がしっかりと出ます。また、湧き水が豊富な松本では、氷水を使わずとも蕎麦などの麺類をキュッと引き締め美味しくさせる、水に囲まれています。
「私とか本当にずっと都心部の近くで暮らして生まれ育ったから、松本にしたの。松本全然都会ですよ、でもちゃんと地方なんだよね。ちゃんとローカルみがあって、でも栄えてるから不自由しない。松本大好き」(ハルカさん)
そんな松本で店を構えて1年が過ぎたハルカさんは、これから先も、おばあちゃんになっても、飲食店を営み続けたいといいます。
「私も座りながらみんなと飲みたい、みたいな。そんくらいのテンションでやりたいな。死ななきゃいいのよぐらいの気持ちで」 (ハルカさん)
その時にハルカさんが構えるお店も、きっと来る人々の、そしてハルカさんの「日常」であり続けるのでしょう。「毎日でも立ち寄れちゃうな〜みたいな、感じの空気感。 特別なお店じゃなくて、いつでも行ける」そんな飲食店であり続けたいという思いを口にします。
「食事は、子どもの頃もそうだと思うんですけど、大人になってからもこの人とお話したいなって思ったら、ご飯行こうって言うじゃないですか」(ハルカさん)
ハルカさんの「食事」には人生の喜怒哀楽、さまざまな思い出が詰まっています。過去の出来事にも、現在いる場所にも、未来の新天地にも。松本に移住したことでできた友達とも「集まる時のベースは絶対食事会。たこ焼きパーティーとかね」と話します。
ライフステージや居住地が変わろうと、食卓を囲んで人とつながり、料理を提供して立ち寄る人を迎え入れる。
「やっぱり、ずっと私が愛しているのは家庭料理」と、笑顔で口にしながら料理をつくる手を動かし続けます。料理があるところに、ハルカさんの居場所もありました。
本記事はインタビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。
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Editor's Note
店内は温かな日常を感じられ、ハルカさんの明るい笑顔と手際のよい料理姿をカウンター席から眺めながら、ホカホカの定食を食べる時間は至高のひとときでした。いつ行っても安心してご飯を食べられる場所だと感じられる、それはハルカさんの「食事」への想いから来ているのでしょう。
MATSUBARA AKARI
松原 明莉