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LOCAL LETTER

不安のない「移住」に「創業」。等身大の自分で挑んだからできた、お店づくり

JUN. 27

NAGANO

拝啓、新しく何かを始めてみたいけど、何から始めたらいいかわからないアナタへ

なにか新しく始めてみたい。会社員じゃなく自分主体で働いてみたい。

そんな思いを持ちつつも、やりたいことも自分にできることも曖昧で、行動に移せない。
一度手に入れた物理的な豊かさや精神的な安定を手放すのも怖い。

そんな風に考えすぎてしまい、新しいチャレンジを始められない人は少なくないことでしょう。一方で、こうした思案にとらわれず、新しい環境に身を置き、自身のやりたいことに挑戦する人たちがいます。

長野県松本市で飲食店「mealstop」を営む、ハルカさんもそのひとりです。

アルプスの山々に囲まれ、1歩玄関を出れば雄大な自然を感じる松本市。自然の隣で生きていることを実感する環境でありながらも、人口24万人の中核市で、駅前には多様な飲食店が立ち並び、活気に溢れています。

ハルカさんは、東京で飲食業に10年ほど携わったあと、このまちに移住。ひとりで店を切り盛りしながら、家庭料理をふるまっています。

木製の引き戸を開けるとそこには、あたたかい料理の匂い。
部活から帰って、家の玄関のドアを開けたときと同じ匂い。
「今日こんなことがあったよー」と、嬉しいことも悲しいことも話したくなる。

そんな、あたたかくてどこか懐かしい空間を生み出しているハルカさんに、この地でお店を開いたきっかけやお店づくりについて、お話をうかがいました。

ハルカ 氏「mealstop」店主 / 神奈川県出身。高校卒業後、調理の専門学校へ進学。東京の飲食店で10年ほど働いた後に東京都渋谷区代々木上原で既存の飲食店を空き時間に借り、「チシタ食堂」を営業。その後、長野県松本市へ移住し、「mealstop」をオープン。 (photo by 鷲頭有沙)

「移住ってただの引っ越しだと思う」。旅先で感じた「ここでお店開きたい!」

神奈川県で生まれ育ったハルカさんは高校卒業後、調理の専門学校へ進学。調理師免許を取得し、東京の飲食店3店舗で正社員として勤めます。

10年ほど働いたのち、個人事業主に。東京都渋谷区の代々木上原で既存の飲食店を空き時間に借り、「チシタ食堂」として営業していました。その後、長野県松本市へ移住し、2024年に自身のお店「mealstop」をオープンしました。

photo by やまぐちなおと

ハルカさんは、3年前の2022年までは松本市でお店を持つことは考えておらず、東京で自身のお店を構えるための物件を探していたそうです。松本市でお店を開くきっかけとなったのは、2023年に旅行で松本市を訪れた時のことでした。

「東京で店舗物件を探していたんですけど、見つからなくて。そんな時、松本に旅行で来て、ここでお店やりたいなって漠然と感じて。そのまま引っ越してきました」(ハルカさん)

友人や周りの人からはいきなり東京を出ることに驚かれましたが、ハルカさん自身のなかでは、迷いや不安は一切ありませんでした。むしろしっくりきていたと語ります。

「松本市は飲食店が多く個人経営のお店もたくさんあって、まち全体としても飲んだり食べたりする人が多いので、いいと思って。駅前には歩いて行ける範囲にいくつものお店が並んでいて、地方でありながら車がなくとも何軒もお店をまわれるし。モーニングからランチ、夜の飲み歩きまで、すべて松本駅のまわりだけで完結するのも魅力です。

やっぱり東京出身だと田舎すぎるところは怖い。歩いてスーパーに行けなかったりするとどうやって暮らそうかって。松本はちょうどいい田舎で、狭い範囲にお店とか密集していてなんでもあるのも、ここを選んだ理由です」(ハルカさん)

photo by 鷲頭有沙

周囲から心配されても「引っ越すだけだよー」と答えていたというハルカさんは、移住に対する考え方をこう語ります。

移住ってただの引っ越しだと思う。ちょっと遠いところに引っ越すだけ(ハルカさん)

これまで縁もゆかりもなかった新しい土地へ、身一つで移動。そうなると、多くのひとが気張ってしまいがちですが、ハルカさんはごく自然に移住と向き合っていました。

「東京で10年働いていたし、コミュニティもあったから。無理なら帰ればいいか。そんな風に思っていました」(ハルカさん)

ハルカさん自身がそう考えるように、東京での仲間たちも「無理だったらいつでも戻ってきたらいい」とあたたかく見送ってくれました。

みんなの居場所でありたい。目指すは「ひとんちの母ちゃん」

mealstopのメニューは日替わり定食。日替わりの主菜と色とりどりの小鉢、ごはん、汁物で構成されています。

この日の日替わりメニューは、れんこんのはさみ揚げ、小松菜を使った卯の花、きんぴらごぼう、こんにゃくの煮物、きゅうりの酢漬け、きのこのごま油和え、ごはん、お味噌汁。ワンオペで切り盛りしているとは思えない品数に、驚きが隠せません。(photo by やまぐちなおと)
どのおかずも馴染みのある味で、どこか懐かしく、自分自身が大切にされている気持ちにさせてくれます。(photo by みちる)

カレーでもラーメンでもなく、定食である理由をハルカさんはこう語ります。

わたしが愛しているのは家庭料理。なので自然と定食になりました」(ハルカさん)

東京で正社員として飲食店で働いていたころから、家庭料理を提供していたハルカさん。家庭料理の魅力は「おもしろさ」にあると語ります。

ある時、ハルカさんが定食の主菜をピーマンの肉詰めにしたところ、予想外の反応がありました。

実は、ハルカさんの実家では「ピーマンの肉詰め」というと、ピーマンと肉の煮物を指すのですが、お客さんたちは一般的な詰め物スタイルとの違いに驚いたのです。ハルカさん自身も、自分が作るものが一般的ではないと知り、大いに驚いたといいます。

「その時、『家庭料理っておもしろいな』と改めて思いましたね。ベースもそれぞれで、その家の味があったりして。家庭料理は枠にとらわれないところがおもしろい」(ハルカさん)

お店についても、特別な日ではなく、お腹がすいたらいつでもふらっと立ち寄れるようにしたかったそうです。フランクで居心地の良い空間にするため、店内にも工夫が仕掛けてあります。

「無機質でなく、温かみのある感じにしたい、生活感のある、ちょっと雑多な感じにしたいなと思って」(ハルカさん)

photo by やまぐちなおと

店内にはところどころに、ドライフラワーやお洒落な瓶、ちょっとした小物が並べられています。

「自分の部屋をイメージしてつくりました。結構なんでも自分が好きなもの置いちゃってます」(ハルカさん)

そんな空間を築いているハルカさんは、お店の中での自身の存在についてこう語ります。

ひとんちの母ちゃんみたいでいたい自分ちじゃなくてひとんちの。ひとんちの母ちゃんみたいな立ち位置でいれたらいいかな」(ハルカさん)

photo by やまぐちなおと

親ではないからこそ、気軽に何でも話せる。相手の将来に責任を持つ立場ではないからこそ、深刻に考え込まず、ちょっとした日常のことも共有しやすい。そんな「ひとんちの母ちゃん」のような店主でありたいとハルカさんは願っています。

ここに来たらなんか元気になって帰れたとか、思ってくれたらいいな」(ハルカさん)

そう呟いた後、仕事の休憩時間に定食を食べにきてくれるけれど、話したことのなかったお客さんから、お会計の時に言われた言葉が嬉しかったと続けます。

「ここに来ると仕事に戻りたくなくなります。実家みたいで落ち着きすぎて、仕事に戻りたくないです」

そう言われたときは、誰かの居場所をつくれているのだと実感し、とても嬉しかったそうです。そんなあたたかな居場所は、ハルカさん自身だけでなくお客さんと一緒につくっていると語ります。

「大変なこともあるけれど、お客さんが協力してくれたりすると嬉しいですね。ひとりだからお食事出すの遅くなっちゃうときに待っててくれたり。長いカウンターだから食事をまわしてくれたり。そういうのに癒されますね」(ハルカさん)

photo by やまぐちなおと

ハルカさんがお客さんを思いやる気持ちだけでなく、お客さんがハルカを思いやる気持ちが行き交って今のあたたかいお店が完成しています。

老若男女の居場所になればいい。そこまで間口が広いお店ではないけれど、みんな来てほしい。お腹すいた時にふらっと寄ってくれたらいいな」(ハルカさん)

「死ぬわけじゃないし」と、気負わないからできる挑戦

旅行で一度行っただけのまちへ移住し、お店を始める決意をしたハルカさん。知らない土地での暮らし、お店を開く上での金銭面、イメージ通りのお店になるかなど、そこに怖さや心配はなかったと言います。

「お金借りてみたかったんだよね」と楽しそうに話すハルカさんは、日本政策金融公庫の創業融資を使わず、返済後に実績がつき、信用を得られる銀行ローンを使用しました(※)。新しくお店を開くハルカさんが銀行ローンを借り入れることは、かなり難易度が高いことだそうです。

「銀行の担当の人がすごい頑張ってくれて、東京で間借りでやっていたときの実績とかも全部数字出してくれて、審査が通りました。だから銀行で借り入れができたのは、ちょっと自慢なんです」(ハルカさん)

(※)日本では、何か新しく事業をはじめる際に、お金を借り入れる方法は大きく分けて2つあります。ひとつは国の融資制度を利用する方法で、日本政策金融公庫から融資を受けます。新しくお店を持つ場合、創業時多くの人はこちらの方法を利用します。

メリットとしては比較的借入がしやすいことがあげられますが、デメリットとして返済後に実績がつかないため、新たにお金を借り入れる場合の信用が得づらいという部分があります。

ふたつめは銀行から借り入れる方法です。メリットとしては返済後に実績がつき信用を得られること、デメリットとしては審査が厳しく新しくお店を持つ場合はなかなか借り入れづらいことがあげられます。

photo by やまぐちなおと

正社員として働いていた頃、お店を開くことは考えていなかったハルカさんですが、なんとなくコツコツとお金を貯めていました。お店のガス台や調理台などの器具は自身の貯金でまかない、施工費については銀行のローンから用意しました。

貯金を使うことやお金を借り入れることに、全く不安はなかったと語ります。

お金を借りるって人生の面白い経験って感じ。返したら信用もうまれるし。返せなくたって死ぬわけじゃないし」(ハルカさん)

現在多くのお客さんが、ハルカさんのお料理とあたたかな居場所を求め、お店を訪れています。そのおかげでありがたいことに黒字経営であり、お店を立ち上げる際の自己資金分は既に回収できたそうです。

多くの時間とお金を費やしてお店を開いたハルカさんですが、「うまくいかなかったら…イメージ通りにならなかったら…」という不安はなかったと言います。

「だいたいイメージ通りのお店ができて、イメージ通りのお客さんがきてくれます。一人でお店やっていると私が空気感を出すので、やっぱり似た人が集まりますね私のやっていることだったり、お料理に共感してくれる人がきてくれます」(ハルカさん)

photo by やまぐちなおと

これから新しく何かをはじめたいと考えるひとに、ハルカさんが自身の体験からメッセージをくれました。

大丈夫
やるしかない
死にません

移住しても帰る場所がなくなるわけではない。行き詰まったら帰ればいい。
理想通りのお店になるか心配しなくても、雰囲気は自然と自分に寄る。
借りたお金を返せなくても、死ぬわけじゃない。

今回のハルカさんへの取材を通して、等身大の自分で、気負わないからこそできる挑戦があることを知りました。

アナタも、無理に背伸びせずありったけの自分で、1歩踏み出してみませんか?

本記事はインタビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。

Editor's Note

編集後記

お店を一人でテキパキとまわしており、とまることのない姿が印象的でした。しかし動きながら時折こちらを向いて目があったときの濁りのない瞳が印象的でした。この取材とハルカさんのつくるお料理から、ハルカさんの優しさを感じました。

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