地域おこし協力隊
コロナ禍で地方移住や二拠点・多拠点生活が加速する中、その選択肢のひとつとして注目度の高い「地域おこし協力隊(以下、協力隊)」。現在多くの地方自治体で募集を行っているが、受け入れる自治体側の体制や姿勢によっても活動の仕方は多様である。
本記事では、官民連携の取り組みで注目されている埼玉県横瀬(よこぜ)町と、多くの副業人材が活躍するDXのまち福島県磐梯(ばんだい)町の両町対談※1で語られた、“小さな町” だからこそ広がる協力隊の可能性について紹介する。
両町とも人口1万人に満たない自治体だが、“小さい” からこそ出せるスピード感と受け入れ体制の柔軟さで行う取り組みが今注目をあびている。
※1 本記事は、2023年1月21日にSHIBUYA QWSで開催された「今小さなまちが面白い! 場所を超えて連携する2つのまちの担い手募集! 地域おこし協力隊採用ミートアップイベント」の様子を二分割してまとめた内容の前半です。後半はこちらから。
福島県磐梯町は、会津地方にある人口3,300人の “顔が見える” 町。渋谷のスクランブル交差点を一度に渡る人数が約3,000人なので、だいたい同じ規模感というから驚きだ。会津磐梯山の麓に位置し、水道は地下水を利用している名水の町としても有名。
佐藤「水道をひねれば名水が出てくるので、お米を炊くのも、お酒を造るのも、洗車をするのも名水。町民も名水でできているので、性格もいたってマイルド!なのが特徴です。笑」
人口約3,000人のうち1,700人は、世界中で大ヒットした映画「トップガンマーヴェリック」の撮影で使われたデジタルカメラのレンズなどを生産する(株)SIGMAの従業員という特殊な構成になっている。
一方、埼玉県横瀬町は池袋から特急で73分という首都圏に近い場所にある。こちらも武甲山という山に隣接している自然豊かな町で、人口は約8,000人。田舎だが農地は少なく、人口の中で多いのはサービス産業の従事者だという。
両町とも人口1万人に満たない小規模自治体だが、町の外から来た企業や人材と組んで地域を活性化していく取り組みが様々なメディアで取り上げられるなど、今注目を集めている自治体だ。
自然の豊かさや立地条件・人口など、共通点も多い二町の魅力を、他己紹介という形で両町長に語ってもらった。
富田「(横瀬町長から磐梯町長を他己紹介)実は今日、この渋谷の一等地の場所を借りているのは磐梯(町長)さんなんですよ。人口3,200人の町が渋谷の一等地を借りられるってすごいことです。町のプロモーションが上手で、有名なレンズもそうですが、田舎ならどこにでもあるお米でも上手く宣伝して、ふるさと納税が成り立っている。
富田「全国の自治体で初めてCDO(最高デジタル責任者)を定めて、DX(デジタルトランスフォーメーション)も積極的に進めている町です。二町とも、LivingAnywhere Commons※2 があるという共通点もあり、まちづくりにおいて相談しやすい相手ですね」
佐藤「(磐梯町長から横瀬町長を他己紹介)二町とも田んぼや畑がある中山間地域ですが、それらがメインの産業ではないという特徴があります。横瀬町はどぶろくが最高に美味しいんですよね。それから、総務省のふるさとづくり大賞の優秀賞も受賞した “横瀬町とコラボする研究所- よこらぼ” の取り組みが素晴らしい」
※2 場所に縛られない自由なライフスタイルを実践する拠点を日本全国に展開しており、会員制の滞在サービスを提供している。
両町長の考えに共通するのは、町という行政単位を一企業として捉え、 “自分たちでブランドを作り、魅力をつくる” という点だ。
佐藤「町内だけでは刺激がないので、町の資源を活かして、企業と一緒になってやっていくというのが非常に大事。様々な企業が町に入りこんで、モノを立ち上げたりすることで、ノウハウが町に活かされてくるんです。行政は事業をやるのが不得意。不得意だからこそ、そこを切り離してちゃんと専門家にやってもらいましょう、という取り組みを実践しています」
こうした佐藤町長の考えのもと、実際に磐梯町では、道の駅やふるさと納税を協力隊と一緒に仕掛けている。両町ともにみられる地方自治体としての先進的な取り組みは、外部人材や企業と上手く連携していくことが鍵だということを改めて実感する。
佐藤「両町長とも民間企業出身なので、行政を知らない。全く知らないので、(行政施策に対して)攻めているというか、自分でこれはできるんじゃないかということをやっています」
富田「一緒ですね。だから佐藤町長の攻め所を見て、学ぶところが多くて。そこにいろんな人が入ってくれて、新しいフェーズなんです。どんどんいろんな人が入ることによって、両町ともより外の人が入りやすい空気になっているかなと思います。
磐梯町には去年初めて訪問しました。それまでは “DXが進んでいて、先進的な取り組みができて、外部人材もどんどん入ってきている” という町のイケてる部分しか見えていなかった。でも実際に行ったら、意外と役場は普通だった。だから一緒ですよね」
佐藤「そうですね。だからこそ、町のどこに注力すれば本当に変わるのかがポイントなのかなと思っているんです。全部変わるなんて、やっぱりないわけで。町長の任期は4年なので、その4年間でどこまで変えていくのか?というフェーズはすごく大事だなと思っています」
町の状況や町長の考え方も近しい二町だが、行政施策においてそれぞれ異なる “攻め所” を作りながら、成功も失敗も含めたナレッジのシェアを積極的に行っている。
富田「日本にたくさんの自治体がある中で、小さいまちが組むという形がとってもやりやすいんですよ。何かをしようとした時に、大きい自治体ではスピードが出にくく、小さいとスピードがでやすい。でも小さいとフィールドは小さい。連携することでフィールドが大きくなるけどスピードは落ちない」
佐藤「何かをやる時に瞬間にできる人口の規模というのはすごく大事で。企業さんが自治体と組む時も、結果がでやすいんです。町全体でやった時にすぐに結果が出て、それによって一つの自治体でやったという実績ができますから。
自治体の業務でできる・できないもあるので、そういったものをどんどん共有化することによって、もっと様々なことに手が出せるようになると思います」
富田「最近、企業さんからいろんな提案をいただくことが増えてきたんですよ。でも横のつながりがしっかりしていれば、横瀬はできないけど、磐梯だったらできますとか、横瀬単独よりも一緒にやったほうがいいねという話ができます。今までよりも我々の戦術的な選択肢も増えますし。
今後は、同じようなスピードで走れる自治体に加わってもらい、自治体のネットワークづくりというところまでいきたいと考えています」
参加者(質問)「お二人の話を聞いて、情報共有の仕方や、決済手続きなどにスピード感を出すのが難しいところもあるのではと思ったのですが、実際どのように進めているのでしょうか?」
佐藤「磐梯町の職員はみんなTeams(チャットツール)を使っています。チャットが来て、僕が “いいね” して決済。あとから紙(書類)回してね、みたいな」
富田「横瀬町はなぜかFacebookメッセンジャーがよく使われています(笑)あとは予算を使うかどうかでスピード感は変わります。予算を使うものは議会を通すので、議会にかけるものは気をつかないながら、根回しをしながらというところがあって、これは今の枠組みの中では若干時間はかかるかもしれませんね」
佐藤「そうですね。今だと予算を年に一回決めるのではなく、臨時委員会をばんばんやっていただいるので、結構スピードも早い」
富田「基本的に行政で一番大事なことは “間違わないこと” で、“スピード” ではない。ですが両町とも、そこをある程度振り切っています。スピードがあることに意味があり、一番乗りになることに意味がある。失敗もあるけれど、それも意味があり、というのが我々のスタンスで、今ある行政システムと折り合いをつけながらやっています」
佐藤「失敗の先にしか成功はないんです。失敗してもやり続けていれば形になるんだよね。やり続けてくれということと、失敗したら次の手段を使えばいいことであって。最終的な形として目的を達成するためにいろんな手段を使うのであり、過程をちゃんと説明できればいいと思っています」
ひとえに「地域おこし協力隊」と言っても、行政ごとに協力隊の受け入れ方法は様々で、その自治体の首長の考えが協力隊の活動にも大きく影響する。では実際にどんな協力隊が現在活躍しているのか。後半では、それぞれの働き方やこれまでの課題などについて4人の協力隊OBメンバーのクロストークで紹介する。
現在、磐梯町・横瀬町では令和5年までの地域おこし協力隊を募集中。詳細は各町のWebサイト等でご確認を。
Editor's Note
私自身も別の自治体で協力隊として活動した経験があるので、人口の規模感が協力隊個人の活動にも影響してくることは強く実感するところです。小さい町であればあるほど、首長の考えが協力隊の活動にも大きく影響するはずです。地域おこし協力隊への応募を検討している方は、自身の取り組みたい活動内容が実施できそうな地域かという点だけでなく、首長や協力隊OBOGメンバー、その他の外部人材の方などとタッグを組んで活動できそうかという点にも着目して活動地域を選ぶと、より活動の幅が広がりそうですね!
TSUKINO YAMADA
山田 月乃