地域おこし協力隊
本記事では、官民共創の取り組みで注目されている埼玉県横瀬(よこぜ)町と、多くの副業人材が活躍している福島県磐梯(ばんだい)町で活躍中の4名の地域おこし協力隊(以下、協力隊)OBの対談※1 の様子をご紹介します。
隊員ごとの多様な働き方や暮らし方の様子と、現場で体感した課題も含めた赤裸々な対談内容は、今後協力隊への応募を検討している方や地域での活動に興味がある方にとって参考になるはず。ぜひご一読ください。
※1 本記事は、2023年1月21日にSHIBUYA QWSで開催された「今小さなまちが面白い! 場所を超えて連携する2つのまちの担い手募集! 地域おこし協力隊採用ミートアップイベント」の後半のプログラム「先輩協力隊員が語る、まち・チャレンジの面白さ」の内容をまとめたものです。
五十嵐「僕はキューズ(イベント会場でもある、SHIBUYA QWSのこと)でのイベント等の企画・実行と、DX(デジタルトランスフォーメーション)を担当しています。
磐梯町出身で、Uターンして今協力隊の仕事をしています。高専卒業後に新宿伊勢丹に勤めたのですが辞めて、フリーランスや飲食店で働きました。震災をきっかけに自分の町を盛り上げたいと思うようになり、磐梯町の物産展に関わったのち、協力隊に応募して今に至ります。
委託型の地域おこし協力隊なので、東京にあるIT企業の仕事とあわせて兼業のスタイルで働いています。キューズにも入っている“官民共創未来コンソーシアム”と関わる仕事をしたり、自分で会社も経営しています。
官民共創のプロジェクト事例だと、ホリエモンさんがやっている通信制高校の生徒さん向けの “街歩きゲーム” 企画があります。様々な自治体に企画実施を断られる中、磐梯町はどうですか?とパスが来て、1週間後には町長に直接プレゼン、官民共創のプロジェクトができています」
加藤「協力隊の活動は鳥獣害対策で、獣を捕まえて、活用する仕事をしています。26歳まで名古屋に住んでいたのですが、山賊ダイアリーという漫画を読んで、猟師って面白そうと思い、狩猟免許を取得、東京の田舎にまず移りました。
横瀬町に「狩猟をみんなでやろうよ!」というグループ “カリラボ” があり、そこの方に鳥獣害対策の協力隊募集を教えてもらったことがきっかけで、協力隊に応募しました。カリラボがジビエの処理施設を作り、先日には(株)カリラボと横瀬町が協定を結んだので、“官” で獲って、“民” で無駄にしないよう出荷する取り組みを今頑張っています。
狩猟の楽しさを伝えるため、食育などの講師もしていて。狩猟界の後継者の高齢化という課題もあり、猟師は減るのに鹿は増える状態が続いておりますので、DXの力も借りて継続可能な採集活動の推進もしたいです」
石田「今は武蔵野美術大学でデザインを学びながら、磐梯町駅舎の利活用をしています。八王子市出身で、大学卒業後に神奈川県警の内定をもらったのですが、辞退しました。4年時に “さとのば大学” で宮崎県に行き、地域の面白さを感じ、ファーストキャリアは福島でと決めた後に参加した磐梯町のイベントをきっかけに協力隊になり、現在任期3年目ですが(コロナ禍の制度で)2年間の延長ができるので、活動を継続予定です。
協力隊の活動以外に、磐梯町内の小中学生の制服販売会社の事業継承をし、 “And.on” という屋号を作って活動をしています。その他、町内で暮らしを体験できるようなゲストハウスの新設も進めています。旅のデザインをしたいというのが大学生の頃からの目標で、今後は磐梯町と他の地域を行き来しながら仕事をするための準備中です」
山田「横瀬町と同じ秩父郡皆野町の出身で、子どもの時に野山を走り回った原体験をきっかけに、埼玉にUターンしてゼロから林業を生業にしてみたいと思いました。大学で物理学を学んだ後、東北新報社の記者になり、全然違うことを転々として、去年から林業の活動をしています。
横瀬を選んだ理由は、1歳と4歳の小さい子がいるので、実家の近くだと子どもを親にみてもらえるというのがまずありました。私はハーフなんですが、田舎の環境で周囲との違いを感じながら育ったこともあったんですが、横瀬はいろんな人が集まって賑やかな印象があり、溶け込みやすそうだったのも魅力でした。
林業といっても、チェーンソーの使い方など、様々なことを一から覚えないといけないので、秩父市にある秩父公益森林組合に所属しながら、今いろはを学んでいます。山を歩くということを4月に始めた当初に、すごく自由な爽快感を感じました。横瀬は森林比率が80%を超えますが、日本全体で見ても約7割が森林と呼ばれ、人が暮らし活動しているのは2~3割の場所に限られます。未舗装の野山を自由に歩けることは、日本全てがフィールドになる。フィールドが拡大することに林業の現象的な魅力を感じているところです」
司会「地域の魅力を感じて協力隊になった皆さんですが、実際に町に入って感じた課題や苦労はありますか?」
加藤(横瀬町・鳥獣害対策)「猟師の世界は縄張り意識がすごく強いんです。狩猟と有害鳥獣駆除という二つの側面があり、狩猟は趣味で自由に・税金を払ってやるもので、有害鳥獣駆除は農業や林業のために駆除をしている。やっていることは同じなんですが、有害鳥獣駆除の場合は、縄張りにも入っていかなければいけない。
僕は他の町から横瀬町に入ってきていて、地域の人に教えてもらわなければいけないのですが、その一方で間違ったやり方や、今の主流ではないやり方をされている先輩も結構いらっしゃいます。そこに敵対してもしょうがないし、同化してもしょうがない。仲間になりながらも、一緒に正しい方向に行っていきたいなというのが課題や苦労なのかなと思います」
石田(磐梯町・駅舎の利活用)「今賃貸で駅舎を借りて利活用をしているのですが、コロナの影響で賃貸の交渉に1年半かかりました。初年度は仕事がなく本当にしんどかった。課の人に相談し、宮城県のNPO法人に1年目の半年間はインターンさせてもらい、2年目から駅舎でのイベントや “まなびとき・ばんだい” で子どものサポートをしました。結局自分から動かないと始まらないというのが、課題というより苦労したことかな」
山田(横瀬町・林業)「林業は覚えることが多く、一人前になるのに年数がかかります。あと、昔から営まれている林業は、杉や檜などの住宅用の建材を植えて、管理、伐採する流れがある。そこでより視野を広げ、今流行っている森林浴やキャンプなど、人を呼び込むフックになり得るものをどう活かしていけるかを考えているんですが、限られた任期の中で今後の広がりをどう作るのか課題に感じているところです」
五十嵐(磐梯町・イベント/DX)「僕は広報のDXに関わって、SNSや電子回覧板を担当していますが、民間フリーランスの脳みそなんですよね。逆に行政職員は失敗しないことが大事だったりする。両者の落とし所を大事にしながら、物事は前進するよう上手く身をふりながらやっています」
司会「次に、課題の楽しみ方や解決方法について聞いてみたいと思います」
五十嵐(磐梯町・イベント/DX)「DXが進んでいる磐梯町には “磐梯コイン=地域デジタル通貨” があり、経済のデジタル化を進めています。横瀬町は官民連携や交流人口創出が得意分野だと認識しており、両町で使えるようになれば、双方の強みを発揮し、課題を解決するツールになると思いますね」
佐藤(磐梯町長)「磐梯コインは地域を活性化させるためのツールのひとつです。外に出ていくお金を、内部で回す。今は地域の商店やお店にお金が入るような仕組みにしていますが、最近始めたのは、ボランティア活動や町の行事に参加した時、もしくは誰かの除雪を手伝った時に、磐梯コインを差し上げる取り組み。お金を使わなくてもそこで生活できるような仕組みを作りましょうというのがまず一つです。
佐藤(磐梯町長)「もう一つは、外部からお金を稼ぐこと。町民でなくても入れるので、磐梯町に来ていただいた時に磐梯コインで10%お得に買い物をしていただく。今後はECサイトやふるさと納税でも使えるようにし、家にいても磐梯町のものを買えるようになります。今後はぜひ横瀬町とも連携し、どこでも使えるようになれば面白いと思っています。人材の交流も、経済の交流もということで」
富田(横瀬町長)「協力隊の定着率が高い地域にはおそらく共通する特徴があって、それは周りにサポートがいることだと考えています。知らない人が一人で来るのだから、その人を一人にしない。例えば町長の立場であれば、猟友会の会長に『お願いしますよー、いい子だから』とか、森林組合長に『頼みますよー』という人が複数人いるのがポイントだと思うんです。磐梯も横瀬も協力隊を受け入れる素地があり、応援してくれる人がいて、地元の人との間に立ってくれる人がいるので、そこは安心していただきたいですね」
富田(横瀬町長)「あとは田舎に共通する、外から来た人が必ず言われる悪口が “あいつは挨拶ができない” というものです。『町長、あいつ挨拶もできないんで』とよく言われるんです。『いやいや、でもそれは知らないだけなので、教えてやってください』と私は言うんですが。逆に言うと、挨拶だけしっかりしていればだいたいOK。それが結構大事なので、来た人には必ず『挨拶だけしっかりできればOK。以上』と言っています(笑)」
佐藤(磐梯町長)「協力隊の人には必ず “磐梯町のためではなく、自分のためにやってくれ” と言っています。自分がここ来た目的を一つでも達成しろと。町のために活動すると “町のためにやっているのに” と、せっぱつまっちゃう。でも自分が何か得れば、それは町にとっても有意義ですし、プラスになる。あとは町に残ってもらう、もしくは町に貢献してもらうような仕組みも大事なので、協力隊の卒業後にどのような仕事をしてもらうのかはお互いに考えてやるべきだと思います」
富田(横瀬町長)「たかだか3年間で結果はいらないんですよね。その人が地域に入り、地域と関係性を持ち、その人の幸せにつながることをいつもイメージしています。私は毎年協力隊の面接で『まず幸せファースト。みんなの幸せをここで実現してほしい』と伝えます」
佐藤(磐梯町長)「あとは、楽しくやれなかったら意味ないですね。僕が今やっていることは楽しいからであって、楽しくなくなったらやめます。それぐらい重要です」
五十嵐(磐梯町・イベント/DX)「磐梯町は新幹線が通る郡山まで車で1時間半ぐらいかかり、住みやすくはないんです。今日は吹雪だったし。個人的には、そういうサバイバル感も楽しめる人。キャンプして虫嫌な人は来ない方がいいと思います(笑)逆に楽しめる人だったらすぐに溶け込める」
石田(磐梯町・駅舎の利活用)「磐梯町はカメムシがほんとに出るので(笑)僕はゲストハウスを作るという目的を持ってきていて、運良く物件を手に入れたのですが、あまり思い詰めない、楽観的な人のほうがいいですね」
山田(横瀬町・林業)「協力隊で地域に溶け込んでやってみたいと思う人は、自己中心というよりは、自分のやりたいことをやろうとしていて、結果的に活動に公益性が生まれているケースばかりだなと思います。林業に限ると、古いしきたりが残っている分野ですが、自分のやりたいことの実現を目指して一緒にやっていける人がいたらいいなと思います」
加藤(横瀬町・鳥獣害対策)「有害鳥獣駆除の分野に関しては、狩猟の技術はいらないです。僕が全て優しく叩き込むし、先輩猟師からの情報も共有します(笑)技術的な心配はいらないので、なぜやりたいのかの情熱を持った人に来てほしいかな」
両町での協力隊の活動に興味のある方は、Webサイト等で募集中の分野や採用形態をぜひご確認ください!
Editor's Note
地方移住や多拠点生活というと、悠々自適な生活のイメージもありますが、外から町に入りこむことの魅力だけでなく、苦労・課題についても赤裸々に語られていたのが印象的でした。楽しいことばかりではないけど、それも含めてチャレンジしてみることで全く新しい生き方・働き方を見つけられそうな予感にワクワクしました!
TSUKINO YAMADA
山田 月乃