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LOCAL LETTER

ふるさとの魅力を広めたい。山梨県の玄関口、上野原駅前のコミュニティスペースがもたらす未来

DEC. 14

YAMANASHI

拝啓、最近ふるさとについて考えることが少なくなったと感じるアナタへ

※本記事は「【ADDress × LOCAL LETTER】ローカルライター向け滞在プログラム」にて取材したものを記事化しています。

育ったまちを離れて進学して就職して、そのまませわしない都会の日々に埋もれて暮らしてーー。だけど時々ふるさとのゆったりとした光景を振り返ると、「良いところだったな」と思い起こす人もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事ではふるさとの良さを改めて感じた結果Uターンをした、山梨県上野原駅前のコミュニティ&コワーキングスペース「見晴亭」のオーナー・小俣卓充氏の、地域への熱い想いをお届けします。

上野原の新たな交流拠点を目指して「見晴亭」開業

——見晴亭を開業するまでのいきさつをお聞かせください。

小俣氏(以下敬称略):上野原で生まれ育ちました。実家は僕で5代目です。都内でWeb制作プロダクションを創業取締役として経営する傍ら、5年前に上野原へUターンし、JR中央本線上野原駅前にコミュニティ&コワーキングスペース「見晴亭」を開業して1年半が経ちました。

大学を卒業してから約10年を東京で過ごし海外留学もしましたが、東京から上野原まで1時間強で着くので頻繁に帰省はしていて、故郷から心が離れた感覚はそんなにはありませんでした。

小俣 卓充氏 WADE株式会社 代表取締役 / 1983年生まれ。山梨県上野原市出身。祖父母が酪農をしており、牛の乳搾りや田植えなど手伝いながら自然豊かな環境で育つ。大学卒業後は、1年弱の海外留学を経て、モバイルコンテンツ大手にて3年間勤務し、主にサブスクリプション型のコンテンツビジネスの開発や運用を担当。2010年に株式会社コムリエ(現株式会社パノラマ)を設立し、取締役就任(現任)。プロデューサーとして、多種多様なクライアントのウェブサイトを担当。2022年5月、上野原駅北口に元旅館を活用した「見晴亭(コミュニティ&コワーキングスペース)」をオープン。地元上野原を盛り上げるべく活動中。
小俣 卓充氏 WADE株式会社 代表取締役 / 1983年生まれ。山梨県上野原市出身。祖父母が酪農をしており、牛の乳搾りや田植えなど手伝いながら自然豊かな環境で育つ。大学卒業後は、1年弱の海外留学を経て、モバイルコンテンツ大手にて3年間勤務し、主にサブスクリプション型のコンテンツビジネスの開発や運用を担当。2010年に株式会社コムリエ(現株式会社パノラマ)を設立し、取締役就任(現任)。プロデューサーとして、多種多様なクライアントのウェブサイトを担当。2022年5月、上野原駅北口に元旅館を活用した「見晴亭(コミュニティ&コワーキングスペース)」をオープン。地元上野原を盛り上げるべく活動中。

小俣:上野原駅前は昭和初期頃が最盛期で、市街を通る甲州街道沿いが繁華街でした。相模湖をつくったときに整備されましたが、それ以前は現在の駅付近までずっと川でした。特急は停車せずに通過するので通過点になってしまうことが多く、認知度が低いです。

東京で知り合った仲間を毎年夏休みや年末の餅つきなどで地元に連れてきていたのですが、皆揃って「上野原っていいところだね」と言ってくれました。自分でもいい環境で育ったと思いますが、「他の人から見ても魅力ある場所なんだな」と感じるようになり、もっと地元を知ってもらう活動をしたいと思ったことがUターンをするきっかけでした。

小俣:上野原には就職先が少なく、若者が市外に出て行く流れは以前から変わっていません。ですが今はリモートワークの環境が整いつつあり、市外に出て就職する以外の選択肢が増えたと思います。この選択肢を地元の人に伝える拠点づくりが必要と思い、上野原市と数年かけて協議しておりました。

構想を練っていたタイミングでコロナ禍になり、サテライトオフィスを誘致すると内閣府の補助金を使えることがわかりました。この補助金を元に、上野原駅前のこの場所に見晴亭を開業しました。

古い旅館を、コワーキングスペースへと蘇らせる

——見晴亭の建物は元は旅館だったそうで、どんな風にリノベーションをされましたか。

小俣:築70年以上経っているので改装前はボロボロでした。また元が旅館なので普通に住むには部屋数も多く広すぎることと、急傾斜地に建っており、一旦壊したら再建できないため、新しい建物を建てることは難しい場所でした。

1階は壁などを取り払って広いイベントスペースにしました。ここは最もたくさん改装した部分です。土地の後ろ側に水脈があるため湿気がすごく、カビだらけだったのですが、大きな窓を複数設置して換気を良くしています。日当たりが良く、人も出入りして窓開けなどの家の手入れもできますから、建物の状態はだいぶ改善されました。

——見晴亭は主にどう利用されていますか。

小俣:見晴亭の1階はイベントスペースやコミュニティスペース、2階は貸しオフィス・コワーキングスペース・サテライトオフィスとなっております。

特に1階は外部から訪れた人に講演をしてもらったり、地元の人たちが自分たちのイベントでも活用してもらったりと、交流的な使い方が多いです。仕事目的で利用いただくだけでなく、様々な人が集まることで、新たな機会や出逢いを創出する場となっております。

——開業当初はコロナ禍でしたが、1年半後の今は行動制限がゆるみ、人の動きも変わってきたかと思います。見晴亭の利用状況にも変化はありましたか。

小俣:もともと何もないところからはじまり、徐々に人が来てくれるようになりました。こちらに戻ってきてわかったのは、上野原に移住した人が増えていたことです。開業当初は個人でテレワークをしている人たちの利用者が多かったです。

小俣:コロナ後の今は出社ベースに戻っているので、上野原在住の個人での利用者が減り、代わりに増えたのが企業の貸切利用です。都内のオフィスを縮小してテレワークを導入している企業が、東京に近い場所で地域を楽しみながら仕事をするワーケーションのスタイルが増えてきています。客層がシフトしていますね。

都内で働いている皆さんに上野原を知ってもらって、また気分転換に遊びに来ていただきたい。高尾や八王子の人たちは近いのでよく来てくれます。

人が集う場所をつくって地元の人たちにも知ってもらったら、移住者も溶け込みやすくなりますよね。上野原在住の人も外から来る人たちに刺激を受けます。お互い交流することで気づきがあるし、地域の魅力も感じられるのではないでしょうか。

広報を後押しする、多様なコラボレーションの展開

——見晴亭の広報について教えてください。

小俣:InstagramなどのSNSがメインで、SNS経由で来る人が約半数です。SNSを見ない人たち向けに市の広報や、地域の回覧板を活用しています。また、上野原の隣の藤野エリアにはコミュニティのメーリングリストがあり、そこにも情報を載せてもらっています。

見晴亭でのイベントは月に数回で、見晴亭主催のものと、利用者が主催のものとがあり、後者の場合は集客も手伝っています。地域のイベントにも出店していて、最近は「見晴亭、知ってますよ」と声をかけてくれる人も増えてきました。時間をかけて広報の機会を増やしたいですね。

——今までどんなところとコラボレーションされましたか。

小俣:市外から上野原へ移ってきたたこ焼き屋さんが出店したり、テイクアウトのカフェを開いたりしています。また隣の山梨県小菅村にあるFar Yeast Brewingさんがボトルショップを開いています。隣村のクラフトビールということで皆様にも好評です。

ブランドのファンからこの場所を知っていただくことも入口のひとつの形ですので、コラボレーションを1つでも増やしていけたらと思っています。

懇親会の際には「上野原のお店からケータリングを頼む」「フリーランスの料理人に地元の食材を使って料理してもらう」など、来訪いただいた方には上野原で食べられるものを提供しています。

食材としてはジビエもたまに出しますし、あとはなんといっても地元産の野菜ですね。同じ野菜でも東京にある野菜とは新鮮度が全然違うので、それだけでも十分楽しめます。「見晴亭が良い」と言ってくださるのも嬉しいけど、食の面でも「上野原って良かったね」と思っていただける工夫をしています。

地域のHUBとして見晴亭を活用。上野原を地域ブランドに

——WEB制作プロダクション「パノラマ」と、見晴亭とのバランスはどうなっているのでしょうか。

小俣:あくまでWEBのプロデューサーが本業ではあるので、パノラマの比重が大きいです。そのため、見晴亭は地域を盛り上げるための活動の一環ではあります。ゆっくりですが形にしていきたいと思います。

——見晴亭について、次の構想はありますか。

小俣:宿泊場所をつくりたいですね。都内へすぐ帰れるのはメリットですが、宿泊することでよりまちを知ってもらえますし、市内の飲食店の利用にも繋がると考えています。また、インバウンド需要もあるので、その受け皿としての宿泊施設がほしい。見晴亭はあくまで「貸しオフィス」のため、ここではなく別の場所での民泊でもいいので、泊まれる施設をなるべく近くにつくりたいと考えています。

宿泊は地域に行く目的としては1番わかりやすいけど、泊まるだけで完結せずアクティビティもいくつかつけて、絡めて楽しんでいただく。次の日にできることをこちらから提案すれば「じゃあ泊まるか?」と、山登りに来た人も泊まってくれそうですよね。そこを組み合わせたら幅が広がりそうです。

——宿泊施設のための新たなリノベーションをお考えでしょうか。

小俣:上野原には空き家になりそうな古民家がたくさんあるので、見晴亭同様に上手く改築して活用できればいいですね。

今、自分が住んでいる家も、築100年の古民家をリノベーションしました。その時に「リノベーションっていいな」と思ったんです。古い面影を残した見晴亭の2階は実際にリピーターもいますから、時を重ねてきた思い出を残すのも悪くないですよ。

——上野原のためにお考えのプランが他にありましたらお聞かせください。

小俣:地元の若者が地元で就職する選択肢が減っていますが、上野原には製造業をメインにしている工業団地があります。大手メーカーと取引できるような独自の技術を持つ企業もあるのですが、企業の魅力が伝えきれておらず、人を採用できていなくて困っています。

上野原で良いものをつくっていても情報発信が上手くできていないから知ってもらえないのはもったいない。地元の企業や人々と組んで、うまく見晴亭から情報発信をして紹介したいです。東京の会社で培ってきた経験を地域に還元して、ゆくゆくは上野原そのものを地域ブランドにできたらいいですね。

見晴亭でセミナーや講座、人材育成をする。アカデミーのような機能を持って学べる場にして、受講者たちが地元の企業で活躍する仕組みなどはどうでしょうか。いろんな情報が集まって人を繋げる、それをイベントで広めて上野原を知ってもらう。見晴亭をHUBとして機能させる流れです。アイデアは無限にあるので、常に地域貢献を念頭におきながら実現していきたいです。

Editor's Note

編集後記

東京から数駅と近いがゆえに、便利ではあるけど人が流れていってしまう。自然も豊かで利便性もあるのに地域が知られていない問題をどう解決するのか。生まれ育った、愛するふるさとを盛り上げたい小俣さんの取り組みは時流を読んでいくものが多く、実現可能性に溢れているように感じました。

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