SHIMANE
島根
新たな挑戦に必要になる、大きな勇気。
アナタが勇気を出すとき、本当の意味での「応援」をしてくれる人がいたとしたら、どんなに心強いでしょうか。
今回お話を伺ったのは、AMAホールディングス株式会社代表取締役の大野佳祐さんです。
大野さんは、島根県北部に浮かぶ人口約2,300人の小さな離島・海士町で、ふるさと納税を原資とした「海士町未来共創基金」を行政と共に考案。この基金を通じて、島民の「やってみたい」というアイデアを事業化するための支援を行っています。
前編では、ふるさと納税や海士町未来共創基金など、大野さんが関わってきたプロジェクトを中心にお話をお伺いしました。
今ではAMAホールディングス株式会社の代表取締役を務める大野さんですが、元々は「教育」に携わる仕事をされていました。当時に教育の目線から見えた島の課題が、今の活動に繋がっています。
「僕は教育分野がキャリアのバックグラウンドにあって、ビジネスとは縁のない世界でやってきました。
この島には大学や専門学校がないので、生徒たちが育って18歳になると島を出ていくことが多い。その姿を見送っているときにふと、島を出た彼らが『戻ってきたい』と思えるような仕事が全然ないんじゃないかということに気がついたんです。
その「戻ってきたい」と思える仕事は誰がつくるんだという話をしていたら、現在「Entô」を手がけている青山(青山さんの記事はこちら)から『それなら、お前がビジネスをつくるほうに越境して来い』と言われて。
ちょうどその頃に、前町長が代表となる「AMAホールディングス」ができるタイミングだったこともあり、縁あって僕も取締役として参画することになりました」(大野さん)
創業当初のAMAホールディングスでは、現在のような「ふるさと納税の支援業務」や「ふるさと納税を原資にした未来共創基金の支援業務」は行っていなかったといいます。
「メンバーの全員が片手間でやっていたこともあって、会社を設立してからしばらくは、売り上げが立たない状態が続いていました。
設立から2年ほど経ったある日、たまたま、九州のとあるまちで「ふるさと納税達成率600%を達成した」というグラフを見せてもらう機会があったんです。その時、会社が生き残る道はこれしかないと感じて。これ以上何もできないなら僕は退任しようと思っていたので、『ふるさと納税を伸ばす』ことに挑戦しはじめました」(大野さん)
それまでふるさと納税にはあまり馴染みのなかった大野さん。様々な自治体の事例を参考に勉強を重ねたといいます。
同時に当時60品目程度だった返礼品を増やすために担当スタッフとともに積極的に行動を続けていきました。その結果、返礼品の数は約400品目にまで増加。「これ以上、まちの中に産品はありませんよ」と、返礼品を探し尽くした大野さんは笑みをこぼします。
寄付金額は当初の3,800万円から、なんとわずか半年で目標の1億円を達成するほどに急成長。現在では約3億円もの寄付を受けるに至っています。
「CAS(キャス)商品*をはじめとして、隠岐牛や岩牡蠣、サザエなど、海士町には当初から魅力的な特産品が沢山ありました。ですが、生産者の方々はどのように打ち出していけばいいのかということが分からずにいたんです。そういったところを僕らが担えたところで、大きな意義を果たせたんじゃないかなと思っています」(大野さん)
*CAS商品…CAS(Cells Alive System)と呼ばれる凍結技術で加工された農林水産物。長期間にわたって鮮度を保持することができ、解凍後もとれたての味をそのまま食することが可能になる
また高校の卒業式には大野さん自らが出向き、島を離れてしまう学生たちへ「3年間の感謝の気持ちを込めて、いつか海士町へふるさと納税をしてくれないか」と、メッセージを伝えることも。こうした、いわゆる関係人口へのアプローチもふるさと納税を大きく伸ばす要因になったのではないかと大野さんは語ります。
ふるさと納税の寄付が増えていく中でも、常に次のステップを意識していた大野さん。その意識の根底にあるのが「海士町が海士町らしく居続けるためのループ図」だといいます。
「ループ図は2017年くらいにまちが作ったものです。僕はこのループ図をつくるメンバーには入っていなかったんですが、これは本質的な内容だなと思っていて」(大野さん)
「ループ図の中で矢印が多く集まる『挑戦する人』、とくに下の方からは誰もアプローチができていなかったんですよね。そこにある問題をどう突破していくかをずっと考えていました」(大野さん)
ループ図では、挑戦する人に向けて「雇用・投資・所得」の矢印が下からのぼっています。
ふるさと納税を闇雲に積み上げていっても意味がない。そう考えていた大野さんが次に取り組んだのが、挑戦する人を応援し、新しい仕事を増やすこと。すなわち、活動の原点にある「戻ってきたい」と思える仕事を増やすことでした。
「ふるさと納税を原資とする『海士町未来共創基金』というものを考案しました。
積み上がった基金をまちが一般社団法人に補助金として出す。そして、 その一般社団法人が行政の意志決定の影響を受けすぎない形で、挑戦する人に投資できる仕組みをつくる。
これは、徐々に民間を強くしていきたいという想いで始めました」(大野さん)
海士町ではこれまでも事業への支援は行われていましたが、補助金や交付金を原資にした「公助」の比率が大きく、「自助」とのバランスがとれていなかったと感じていた大野さん。
ふるさと納税で集めた税金を「海士町の未来へ繋がる民間事業」へ投資する。公と民が一体となった「共助」の発想を膨らませていきました。そうして、島の未来への投資循環を狙う海士町未来共創基金は誕生。
「既に海士町がつくったループ図が土台にあったので、どんなことをやれば海士町の魅力が増えるのか行政との共通認識があったのは大きいですね」(大野さん)
大野さんは、海士町未来共創基金を通じて「より多くの人たちに挑戦してほしい」と語ります。
「挑戦することを強制するのではなく、 やりたいことができる環境をつくることが大事だと思っています。
例えば専業主婦として頑張ってきた方が起業して食にこだわる宿をやりたいと思っても、島にはサポートの手立てがなかなかないわけですよ。たまたま僕の知人だったら、相談してもらうことで突破できるかもしれないですが、そうした点の支援ではなくて、もう少し面でサポートできないか?ということを考えています」(大野さん)
構えずに挑戦できる環境をつくりたい、その想いから生まれた海士町未来共創基金ですが、その審査をクリアするのはとても難しいのだそう。そこには「趣味でも本業でも挑戦の度合いは変わらない」という、大野さんの願いが垣間見えます。
「新規事業を始めたいと思ったときに、例えば売上5万円・50万円・500万円のビジネスがあるとします。金額面だけ見ると、それは趣味・副業・本業と区別できるかもしれません。でも、僕はどう挑戦するかが違うだけで、挑戦の度合いは変わらないと思っています。
趣味でコーヒーを売って5万円を稼ぐのだとしても、そのコーヒーが地域の人たちの彩りを作ることはあります。ただ、その売上だけで本業としていくには厳しい。
そういった場合、様々な問いを投げかけていくんです。例えば、このまま趣味で続けていってもいいと思うけれど、本業にしていきたいのか?なぜそう思うのか?仮に本業にしていくとしたらどういったプランが考えられるのか?もし本気でそれを考えるなら500万円の資金調達に挑戦してみませんか?と。
もちろん500万円も必要ないという方もいるので、そういった人たちのためにまちと連携してクラウドファンディング型のふるさと納税を案内するなど、挑戦したい皆さんに合った資金調達の準備ができないかを常に考えています。
資金調達のバリエーションを揃えられると、挑戦のバリエーション、出口戦略のバリエーションが豊富になり、より多くの人が挑戦できるようになるんじゃないかと思って」(大野さん)
海士町未来共創基金の申請条件は2つ。
ひとつは海士町の未来に繋がること。
もうひとつは調達金額が500万円以上であること。
この条件には、本気で挑戦する人を応援したいという気持ちと海士町の未来のために仕事をつくりたいという気持ち、そして大野さんの厳しくも優しい人柄が現れているように感じました。
Editor's Note
「趣味でも本業でも挑戦の度合いは変わらない」そう言い切れる大野さんからは、とても大きな優しさ、熱意、愛情を感じました。誰もが胸の内に秘めている挑戦への野心を決して否定せず、どこまでも真摯に向き合い続ける姿勢がとてもカッコよかったです。後編はもっともっと大野さんの魅力がたっぷりです。ぜひ。
Yuki Miyazawa
宮澤 優輝