商店街
※本記事は「ローカルライター養成講座」を通じて、講座受講生が執筆した記事となります。(第2期募集もスタートしました。詳細をチェック)
多くの住人が行き交い、まちのシンボルだった商店街。
いつしか、若い世代の姿が見えなくなり、シャッターを閉めたままの店も増えてきた昨今、昔の賑わいを取り戻したいと悩む人も多いのではないでしょうか。
そんな中で、 “あえて” シャッター商店街で自分の店をオープンし、次から次へと事業を立ち上げる一人の男性がいます。
彼の名は、今川宗一郎さん。
完全未経験から自身の豆腐屋「宗一郎豆腐」を創業し、10以上の事業を並行して手掛ける今川さんから、彼が大切にしている“まちづくりの極意”を伺いました。
近年、 “日本のウユニ塩湖” として注目を集める、香川県三豊市の「父母ヶ浜」。
今では年間45万人が訪れるようになった大人気スポットから、 “あえて” 離れたシャッター商店街の一角に、今川さんの似顔絵がアイコンになった、豆腐屋「宗一郎豆腐」があります。
そもそもなぜ、未経験から豆腐屋の道を選んだのか、そしてなぜ観光地から離れた場所を選んだのか、店主の今川さんに伺いました。
「世代を超えて集まれる場所を作れたらいいなと思っていて。それってなんだろうってなった時に、老若男女に愛されているもの=(イコール)豆腐だなと。だから豆腐はあくまでもツールです。
元々ここ(豆腐屋)をやるってなった時に、父母ヶ浜がブレイクして年間45万人が訪れる観光名所になってたんです。そうしたら今度地元であがるのは、あそこだけ盛り上がってるぞ、みたいな話題。
僕の中で言うと、父母ヶ浜だけが自分の町じゃなくて、ここ全体が自分の町だから、じゃあ今度は全く人が来てないところでやろうと思い開業しました」(今川さん)
「町中に豆腐屋があるってなんか良くないですか?」と嬉しそうに話す今川さん。どうやって豆腐作りを学ばれたのか伺うと、驚きの答えが返ってきました。
「実はオープン2日前まで豆腐が固まらなかったんですよ(笑)。固まらなさすぎて、YouTubeとかGoogleで調べてました。豆腐やることとコンセプトは決まってるけど、豆腐だけ固まらない(笑)。
本当に困って師匠にアドバイスしてもらったら、初めて豆腐が固まりました。それで何とかギリギリ、予定していた日にオープンを迎えることができました(笑)」(今川さん)
「この町のためなら何でもやりたい」という気持ちで、地元のかまぼこ屋やかき氷カフェの継業、さらにコーヒー屋の創業など、今では10以上のわらじを履いて活動する今川さん。
いきなり事業を始めることに対して、恐れや不安はなかったのでしょうか。
「好奇心ですね。ビジネスの仕組みを知るのがめっちゃ面白いなっていつも思ってて。あ、こうやってみんな事業をやってるんだって知るのが面白くて。裏側がわかるわけですよ。そこに僕は好奇心が生まれるんですよね」(今川さん)
「自分が好きな町を自分たちで作って、好きな毎日を送れるってそんな幸せなことはないですね。そこを目指してる、そこを作りにいく過程がもはや幸せなんじゃないかと思って。
豪華客船に乗りたいっていうよりも、イカダ船でみんなで海を渡りたいって気持ちが強い。誰かと比べてるわけじゃなくて、自分らで作る方が圧倒的に楽しいなと思えるんです。
別にボロボロでもいいじゃんみたいな。それより、ちょっと進んで沈んで、やべえみたいな方が絶対楽しいし。
豪華客船でシャンパン持っている写真とか映えるし、いろんな人がいいね押してくれそうだけど、それがやりたいわけじゃないんです。そういうある意味お金で買えることではなく、イカダ船のようなみんなで進む経験ってお金じゃ買えないですよね。そういう楽しみとか冒険心とかは、絶対一生忘れない経験になると思ってます」(今川さん)
「みんなで」という言葉を繰り返し使われていた今川さん。事業を進めていく上で仲間の存在は大きいと思いますが、周囲の人たちを巻き込むために意識していることを伺いました。
「できるできないは別として、あいつがやろうとしていることは、いいことなんじゃないかと思わせる、最低ラインの信頼は必要だと思います。うまくいくかはわからないけど、信頼は大切。
信頼を得るためには、これをやることで、世の中に対してこんなインパクトを与えられるみたいな話を、ちゃんと “自分の言葉” で説明できるかが大事。そして、それを行動で示し続けられるか。
色々やってるとその分、信頼もついてくるじゃないですか。『あ、あいつやるやつだな』みたいな。そうなると後がやりやすくなるなと。初めはなかなか難しいですけど。
もちろんその中には、うまくいってないものもあるんですけど、少しずつ信頼を培っていくことで、いろんな人が応援してくれるようになると思います」(今川さん)
たくさんの人に応援されながら、自己実現と地域活性を両立させている今川さん。逆に、仲間とうまくいかなかった経験もあるのでしょうか。
「ありました。昔、ある大物の方がこの町を気に入ってくれて、一緒に企画を進めることになったんです。自分の中でいいと思ってたんですけど、後ろを向いたら誰もついてきていなくて。詰まってないことが多すぎて、全員ポカンとしてたんです。
それ以来、一人で誰かと会うのはもうやめようと決めました。同じ価値観、同じ想いでやれる仲間がいないと無理だなって。いろんな人に僕も会わせてもらいますけど、必ず誰かと一緒に会います」(今川さん)
最近は20代の若者が移住してきていて、一緒に事業をすることも多いという今川さん。地域の人口流出が問題視される中、人が集まる地域の特徴について伺いました。
「絶対そこで暮らす人たちが楽しんでるかどうかだと思うんですよ。親が毎日超楽しそうだったら、いいなぁみたいになると思うんですよ。その典型が、祭りとかに行く若い衆だと思っていて。親の姿を見てて、めっちゃ大人楽しそうやんみたいな。
だから地域で暮らす大人たちが、楽しんでる姿を見せることが結構大事だなと。ディズニーランドって楽しいかどうかわからないですけど、楽しそうな感じは伝わるじゃないですか。あれでみんなテンション低かったら行こうってならないじゃないですか(笑)。ミッキーとかめっちゃしんどそうにしてたら、なんか大変なんやなみたいな(笑)。
そこにいる人たちが楽しむっていうのは最低ライン。絶対必要だと思うんです。ずっと楽しいことなんてどこへ行ったってない。だからこそ、自分がいる場所でどれだけ楽しめるか。結論、自分たち内側の話だと思うんですよ。場所とか関係なくて」(今川さん)
まずは自分たちが楽しむことが、地域を盛り上げる上で何より重要と語ってくださった今川さん。
一方で、地域のシャッター商店街を何とかしたいという想いが強く、「楽しむ」気持ちとは距離を置いて「課題感」や「責任」を感じている人も多いと思います。
そういった悩みを抱える方に対して、今川さんの意見を伺いました。
「本当にその商店街でやる必要があるのか、という問いは必要だと思います。『この商店街が好きでたまらないから、この商店街がいい』って言うのと、『どうにかしないといけない』って課題として捉えているのだと、状況が全然異なると思っていて。
僕らは課題解決をやってる感覚はあまりないんですよね。自分たちで新しい価値を作ったり、新しいものを作ったりすることには好奇心が強いです。
『どうにかしなくちゃいけない』みたいになると、しんどくなってしまいます。『この商店街が好きで、どうにかしたい』みたいな方がやりやすいと思いますね」(今川さん)
最後に、10年以上まちのために活動を続けてきた今川さんに、まちづくりのあるべき姿について伺いました。
「いろんな人がどんどん入ってきてもらわないと、町ってよくならないと思います。でも地域の商店街って、みんな家賃高いんですよ。誰も人が通ってないのに家賃10万円とかあります。
でもこの辺(三豊市仁尾町)で月1,2万円とかだと、じゃあやろうかなってなると思うんです。よく地価をあげようみたいな話になりますけど、地価より町の価値を上げることのほうが大事だと思うんです。その方がたくさん人が来てくれます。
そうやって新しい人の流れができると、僕の豆腐が売れる可能性も増えるじゃないですか(笑)。それを皆でやる。でも本来、商店街ってそういうものです。みんなで集客するものなので。
自分一人が儲けてめっちゃ勝つみたいなのはないです。みんなで勝つことが一番大事。
養老孟司さん(日本の医学博士)も『ひとつが残るためには全体が残らないといけない』ということを仰っていて。やっぱりそういう意味なんですよ。全体としてどうあるかが大事なんです」(今川さん)
自分一人で事業を押し進めるのではなく、町全体をひとつのチームのような存在として見立て、町にいるみんなで助け合い、町にいるみんなで一緒に勝つことを大事にしている今川さん。これこそが今川さんが大事にされている“まちづくりの極意”。
そして今、そんな彼の在り方に共感し、頼りになる仲間と、次世代を担う20代の若者が今川さんの周りに集まってきています。
今川さんの今後の活動と、そして三豊市仁尾町の未来から目が離せません。
〒769-1407 香川県三豊市仁尾町仁尾丁223-1(Googleマップ)
公式サイト:https://www.soychirotofu.com/
Instagram:https://www.instagram.com/soychirotofu/
Editor's Note
未経験な分野であっても「自分がやりたいからやる」という気持ちで事業をされている今川さんのお話を聞いていると、難しく考えがちな自分の頭が柔らかくなって、自然と行動したい気持ちが湧いてきました。今川さんの周りに勢いのある20代が集まってきているのも、とても納得できました。今後の仁尾町の展開と、今川さんの活動、そして次世代の若者たちの活動が本当に楽しみです。
REN MIYASHITA
宮下 怜