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LOCAL LETTER

地域の仕事と住まいとコミュニティに出会う場。「地域の玄関」を担う会員制スペースに迫る!

DEC. 22

拝啓、地域に外部人材を呼び込むため、試行錯誤されているアナタへ

※本記事は「ローカルライター養成講座」を通じて、講座受講生が執筆した記事となります。(第2期募集もスタートしました。詳細をチェック

地域に飛び込むときにネックになる仕事、住まい、そして地元の人たちとの繋がり。全く縁もゆかりもない場所であればあるほど、地域に入り込むのには勇気が必要です。

そんな中、それらすべての機能を担い、まるで地域の玄関口(ゲート)として地域内外を繋いでいる場所「瀬戸内ワークスレジデンス GATE」があるのをご存知でしょうか?

今回は「瀬戸内ワークスレジデンス GATE」を運営する原田佳南子さんを取材しました。地域の仕事と住まいとコミュニティに出会う場に込められた想いとは…。

原田佳南子(Kanako Harada)さん 瀬戸内ワークス株式会社 代表取締役 / 兵庫県生まれ、札幌育ち、東京出身。慶應義塾大学SFC卒業後、楽天株式会社入社。トラベル事業で9年間宿泊施設の営業、地方創生に関わったのち、2017年楽天を退社、2016年に出会った香川県三豊市へ2018年移住、讃岐うどんの文化を伝える宿、「UDON HOUSE」を立ち上げる。2019年4月 瀬戸内ワークス株式会社設立。2020年2月 地域の仕事と住まいとコミュニティを繋ぐ「瀬戸内ワークスレジデンス GATE」 をオープン。2021年1月 地元企業を中心に11社で出資し、瀬戸内の半島の宿「URASHIMA VILLAGE」 をオープン。

地域に人がいないという課題に真っ向から挑む。GATEを立ち上げたきっかけとは

穏やかな瀬戸内海に面する香川県三豊市。

「日本のウユニ塩湖」と例えられる「父母ヶ浜」がSNSで有名になり、一躍注目を浴びた地域です。

そんな香川県三豊市で「瀬戸内ワークスレジデンス GATE」を立ち上げられた原田さん。立ち上げのきっかけは、自身も直面した地方の人手不足の課題でした。

三豊市への移住前から、リノベーション担当として関わっていた体験型宿泊施設「UDON HOUSE」の仕事。そこで一緒に仕事をしたのが、UDON HOUSEを仕掛けたプロジェクトデザイナーの古田秘馬さんでした。

三豊に移住し、2018年にUDON HOUSEの代表として宿をオープンした1年後、原田さんが代表、秘馬さんが取締役という形で瀬戸内ワークス株式会社を設立。会社立ち上げ直後から、次々に新しいアイデアを生み出す秘馬さんを前に、「誰がそのアイディアを形にするのか」という問題で焦ったという原田さん。

讃岐うどんを学びながら作れる体験型宿泊施設「UDON HOUSE」。元は空き家だった古民家を改装し、2018年10月にオープン。

「秘馬さんは常に悔しくなるほど面白いアイディアを出してくれるんですが、これほどまでのアイディアマンと仕事をする以上、一生人手不足で苦しむなと思って。だからこそ、まずはそこで苦しまないように、『常に人がいる』状態をつくりたいと考えました」(原田さん)

地域の他の事業所にも聞いてみると、どこも同じように「人がいない」という課題を抱えていることが発覚。人手不足が地域全体の課題でもあると気づきます。

そこで原田さんが2020年に生み出したのが、地域の仕事と住まいとコミュニティに出会う場「瀬戸内ワークスレジデンス GATE」でした。

「みんな地域の中で人を採用してるんですけど、そこにはもう限界があるんだなと思って。地域の外から人を呼び込んでこれるように、GATEを始めたんです」(原田さん)

移住におけるアイドリング期間のような場所『瀬戸内ワークスレジデンス GATE』の仕掛けとは

GATEは会員制スペースという形態をとっており、個人会員、仲間とシェアして使うグループ会員、会社の福利厚生や地域ビジネスを学びたい法人の方向けの法人会員の3種類のコースが用意されています。

部屋は男女別のドミトリー仕様で、他にキッチン、コワーキングオフィス、ダイニングルームを完備。

外部人材の呼び込みを目的に生まれたGATEには、初めて地域に飛び込む時の不安や懸念を少しでも小さくするために様々な特徴があります。キーワードは「仕事」、「住まい」、「コミュニティ」です。

地域に飛び込むときの最大のネックともいえるのが「仕事」。GATEのWebサイトでは、ホストカンパニーとして農業、漁業、観光、建築など多様な地元企業を計14社、紹介しています。さらに長期滞在者には、近くのオリーブ農園やみかん農家の収穫のお手伝いなどの仕事紹介も。

そして「住まい」。住む家がないと移住することはできません。インターネット上に公開されている地域の物件はほんの一部で、地域の外から来る人にとって、思い通りの住まいを探すことは意外と難しいことが多いです。しかし、地域の中に入ってみると、知り合いづてに外には出ていないような物件情報が流れてくることも。実際に、移住を検討している人が最初にGATEに住み、地域の人との関係性を作っていくなかで、自分に合った住まいを見つけて引越しするケースもあるといいます。そうした移住における「アイドリング期間みたいな場所がGATE」と原田さんは語ります。

最後の「コミュニティ」は、人と人とのつながりのこと。何らかのコミュニティと関わりができると、仕事や住まいを探す際にも役立つことがあります。

「結局、よりたくさんの人に出会って、たくさん友達ができた方が、次に来るきっかけになりやすいし、たくさんの人と繋がっていた方が、困った時に助けてくれる人がいそうだよね、ということだと思っています。多種多様なプレイヤーがいることが三豊の魅力だと思っているので、そういった地域プレイヤーにも出会えるような場所を作り出したくて」(原田さん)

地域の人に出会える仕掛けとして、希望者には三豊の人を巡って、関わりを生み出すツアーを行ったり、宿泊者のやりたいことや今までの経歴などから接点がありそうな人や場所を紹介したりも行っています。

三豊市の地元スーパー3代目の今川宗一郎さんが営む「宗一郎豆腐」。三豊で生まれ育ち、自らも楽しみながら地域をより良くするため様々な事業に取り組んでいる地域プレイヤーです。

さらに、GATEで生まれるつながりは地域住民だけでなく、シェアハウスだからこそ生まれる宿泊者同士のつながりもあります。

「GATEで良いなと思っているのが、昨日から滞在している1日三豊歴の長い先輩が三豊のことを教えてくれるっていうこと。必ずしも、住民だけではなくて、お客さん同士の交流もあります。別に私が説明しなきゃいけないわけでもないし、色々な人の口から三豊が語られることがすごく良いなと思っています」(原田さん)

今までGATEに住んだことがある人のうち、5,6人ほどが三豊に移住。移住者の中には、仕事も何も決めないままGATEでの生活をスタートさせ、その中でいろいろな地域の方と繋がって、地域の会社で働いたり、お手伝いをしながら、自分の夢に向かって今も努力しているメンバーもいるのだとか。まさにGATEが、三豊という地域に飛び込む「玄関」になっています。

人がたくさん来ることは必ずしも喜ばしいことじゃない。地元住民と観光客の間に良い関係性を作るためにしていること

外からの人材を呼び込む入口として機能しているGATE。一方で、地域では地元住民と移住者など外から来た人たちとの軋轢(あつれき)などもよく耳にします。三豊ではそのような問題は起きていないのかお聞きすると、「外から人が入ってくることによって、今のところ、とてもいい化学反応が起きている」と原田さんは言います。

では、地元住民と外から来る人たちとの良い関係性を作るために意識されていることはあるのでしょうか?

「(前職のトラベル事業部で)ホテルや観光業の人と関わる中で、人がたくさん来ることが必ずしも喜ばしいことじゃないことを地域の皆さんの反応から感じる部分があったんです。観光業って人が来れば来るほど、事業者が疲弊してしまう側面もあるというか。だからこそ、相手の声を聞くことは私自身がとても大事にしていることなんです」(原田さん)

最初のうちは人を呼ぶために地域も頑張りますが、いざ人が来過ぎてしまうと、今度は地元住民からクレームが出てきて、観光業者も疲弊してしまう現場を見てきた原田さん。「なんて報われない業界なんだろう」と思ったと同時に、何が原因で、何を変えたらお互いにとっての良い関係性を作れるのかに興味が湧いたと言います。

そして原田さんが、地元住民と外から来る人の間に欠けている要素として導き出したのが、「お互いを知らなさすぎる」こと。

「誰が何をしに来ているのかを地元側が知れるというのは、一つ重要なことなんじゃないかなと思っていて。もともと地元住民と観光客の関係性を作ることをやりたいなあとぼんやりとは思っていたんですよね」(原田さん)

GATEをきっかけに、地元住民と外から来た人との関係性が生まれれば、他人ではなくなる。そうした関係性が、不信感を取り除き、お互いへの配慮を生むきっかけになると原田さんは考えています。

そしてもう一つ、原田さん自身が三豊でGATEをはじめとする事業を進めていく上で大事にしていることがあります。

「最近、サステナブルツーリズムという言葉もありますが、地域の人が大事にしている価値に共感する人たちを集めることもすごく重要だと思っていて」(原田さん)

ここで難しいのが、「地域の人が大事にしている価値」の言語化。

「まずは自分たちが何を大事にしているかを言語化していく。これは当然、私一人ではできないことなんですけども。そういう意味で地元の人たちと話をする場をたくさん作っていきたいと思っています。こういう町が良いよねとか、こういうのは違うよねとか、本質的な話が普段からできるような関係性を築いていくことがとても大事です」(原田さん)

父母ヶ浜で見かけた看板。かつては浜の埋め立て構想もあったが、地元住民は浜を守るために会をつくり、清掃活動を実施。その後、開発計画はなくなり、浜の環境は守られました。

「UDON HOUSEもGATEもちょっとひねくれた宿ではあって、UDON HOUSEは6時間うどんを打たなきゃ泊まれない宿ですし、GATEは地域に関わりたい人は泊まれるスタイル。いわゆる父母ヶ浜に来て写真を撮ってすぐに帰りたい観光客の方は暗にお断りしてるんです。でも、それが一つ私たちのこの地域の価値に共感することのスクリーニングだと思っています」(原田さん)

地域の人が大事にしている価値をサービスにして提供することで、そこに価値を感じてくれている人たちを呼び込む。地域を大事にする思いから生まれた方針です。

夕方、多くの観光客で賑わう父母ヶ浜。

サービスの試行錯誤に終わりはない。地域のハブになる『GATE』のこれから

GATEが2020年2月にオープンして、約2年半。GATEは地域にどのような影響をもたらしたのでしょうか。

「GATEを立上げ、地域の外から人が訪れ、実際に地域に移住するまでのハブとなっている感覚がある一方で、地域の人材が潤うまでの結果は出せていないので、そこをもっと追求していきたいなという気持ちはありますね」(原田さん)

現状に満足せず、より良い形に向かって試行錯誤を続ける原田さん。GATEの今後の展望についても伺いました。

今あるサービスがゴールだとはあまり思っていなくて、もっと良くなる方法があるんだとしたら、全然サービスの形を変えていってもいいなと思っています。人の資産も含めて、サービスは柔軟に変わっていくべきかなと思っているので。そういう意味では、今、若いメンバーが関わってくれていて、ちょうど新しい形になりそうなので、彼らにどんどん好きなように挑戦していってもらいたいなと思いますね」(原田さん)

UDON HOUSE、GATEに続き、最近では市民大学「瀬戸内暮らしの大学」と、次々と新しい事業を地域でつくられている原田さん。次から次へプロジェクトが生まれていっているからこそ、立ち上げて終わりではなく、今も、そしてこれからも「これで良いのだろうか」と常に考え続けているといいます。そこでもし、より良い方法が見つかったのならば、世代関係なく、サービスの変化も積極的に受け入れたい考えです。

変わることを恐れず、常に地域にとって大切な価値とは何かという内への目線と、外からやってくる人に向けた外への目線をもって、事業をつくられている原田さんの今後の活動がとても楽しみです。

地域に外から人を呼び込みたいが、ビジネスモデルがうまく構築できていないアナタへ。

GATEや原田さんの活動が気になられた方は、ぜひ一度現地へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

「瀬戸内ワークレジデンス GATE」

〒769-1404 香川県三豊市仁尾町仁尾乙282-10
https://swr-gate.jp/

Editor's Note

編集後記

地域に暮らす一住民として、そして外からやってきた一移住者として、両方の視点で地域に関わる原田さんの考え方に刺激をもらいました。自身の目標達成のためにシビアに課題に取り組みつつも、地域の持つ魅力や良さをさらに引き出すためにはどうすれば良いかを真剣に考え、取り組まれている姿勢はとてもかっこ良かったです。現状に満足することなく、常にこれで良いのかと考え続けられている原田さんの今後の活動が気になります!

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