Nichinan, MIYAZAKI
宮崎県日南市
【概要】
日時:2018年1月12日(金) 19:15 – 21:30
場所:H.I.S.旅と本と珈琲とOmotesando
【登壇者】
田鹿 倫基(たじか ともき)さん
宮崎県日南市マーケティング専門官。株式会社リクルートにて、インターネット広告の新規事業の立ち上げや、位置情報と口コミを使った新サービスの立ち上げに携わる。その後、アドウェイズ中国法人に転職し、中国人スタッフと共に北京事務所を立ち上げ、大手会社のプロモーション、外国人観光客向けのWEBマーケティング、観光庁や大手百貨店のWEBマーケティングを担う。2013年から宮崎県日南市のマーケティング専門官として着任し、ベンチャー企業との協業事業や、自治体のブランディング活動、企業の誘致、起業家の育成・誘致、農林水産業の振興など、地域の人口動態を踏まえた幅広い地方創生関連事業のマーケティングを行う。
田鹿さん
「宮崎県日南市」というと「油津商店街」が取り上げられることが多いのですが、ここは4年前まで、「シャッター商店街」で、ネコすら歩いていない場所でした。一方、4年後の現在「油津商店街」には、約30店舗のお店が入り、そこにやってくるお客さんで賑わいをみせています。「シャッター商店街」をどうにか再生させようという取り組みは、全国各地で行われていますが、こんなに短期間にここまで復活した場所はありません。
そこで今回は、私が日南市で働き始めた5年前と今を比べて、どのように町が変化していったのかをお話していきたいと思っています。
田鹿さん
今、日本の各地で地方自治体が「地域活性化」に向けて、様々な取り組みを行っていますよね。では、なぜそもそも地域活性化を行う必要があるのでしょうか?この答えは、各地域で異なりますが、日南市の場合でお答えすると、永続性(持続性)を高めたいからです。
では、永続性(持続性)を高めるためには何をすればいいのでしょうか?その方法は次の二つです。
1)財政の健全化で収支をきちんと図り、借金が増えない状態をつくる
2)人口ピラミッドをドラム缶型にする
2)において大切なことは、人口を減らさないことではなく、人口ピラミッドをドラム缶型にする(各年齢層の人口を均一にする)こと。例えば、都会では「認可保育園」の問題がよく取り上げられますよね。一方、地方では「限界集落」などの問題が取り上げられており、現在日本の人口ピラミッドが歪な形をしているのは明らかです。
人口の絶対数を考えることも大切ですが、人口ピラミッドをドラム缶型にする(各年齢層の人口を均一にする)ことができれば、地域の永続性が高まり、財政が優しくなることで、地域の伝統性も維持されやすくなります。
そして、人口ピラミッドをドラム缶型にするために重要なのが、「出生率を上げる」を上げるために、20 ~ 30代の若者を地域に呼び込む*1 こと。
*1 20 ~ 30代の若者を地域に呼び込む
生まれる95%の子どもは、20 ~ 30代の若者から生まれている。そのため、20 ~ 30代の若者を地域に呼び込むために、仕事の創出や「子どもを産んで、育てたい」と思える環境作りが、地域活性化において大きなポイントになるのです。
日南市の社会増減を見てみると、ようやく去年から取り組みの成果が出始めておりまして、去年は今までで一番、社会増減が少なくなりました。
私は、毎月このようなデータを見ているのですが、しっかりとした統計を元に、対策を打ち出していくことが大切だと思っています。
田鹿さん
それでは、ここからは、日南市が行った実際の取り組みをご紹介させていただきます。
まず、日南市の取り組みを直接行っているのは、私ではなく、木藤さんという福岡でコンサルタントをしていた方です。木藤さんは、4年前に日南市が募集した「商店街再生請負人」で応募者333人の中から選ばれた方です。
木藤さんは、当時、シャッター商店街であった「油津商店街」に4年間で20店舗誘致するという目標を掲げ、大きく分けて3つの取り組みを開始しました。
1)市民から資本金を集め、会社を立ち上げる
まず木藤さんは、地元の人たちと市民に資本金を募り、「まちづくり会社」を立ち上げました。なぜ、市民から資本金を集めたかというと、会社に市民を巻き込んでいくためです。自分が資本金を出している会社なので、みんな気になって、積極的に関わるようになってくれます。資本金を出してくれた方が、別の方をご紹介してくださるといったような流れをつくって、関わる人をどんどん増やしていきました。
2)一つの成功例をつくり、積極的に企業を誘致する
次に木藤さんは、昔、市民の憩いの場になっていた純喫茶を、現代風のカフェにリノベーションしました。そして、リノベーション当初は、「絶対に儲からない」と思われていたカフェの経営状態を昔の喫茶店より好調になるよう維持し続けました。「絶対に儲からない」と思っていたカフェの経営状態が好調であれば、「自分もここでお店をやろう」と、お店を出す人がどんどん増えていきました。現在では、市民の交流スペースや、IT企業のオフィス、コワーキングスペースなど、様々な店舗が出店しています。
そして、地域に若い女性が勤めるようになると、保育園を商店街の中につくり、オフィスのすぐ近くに子どもを預けることも可能になりました。
もしかすると皆さんは「地方には働く場所が少ない」と思っているかもしれませんが、実際は、そんなことないんです。ただ、若い人たちが「働きたい」と思える職場がないんです。「地元で働きたいけど、都内に出ざるを得ない」という方の流出を止めるために、若者向けの会社を誘致していきました。
現在では、10社のIT企業が日南市に拠点を置いており、約80名ほどの方が働いています。そして、彼らがランチや飲み屋で商店街を利用してくれるので、きちんと商店街で循環が生まれているのです。
3)ビジネスコンテストの実施
その他にも、「油津商店街」には様々な機能が追加されるようになりました。その一つが大学生が商店街の中に立ち上げた「ゲストハウス」です。
このゲストハウスは、日南市で「ビジネスコンテスト」を開催した時にグランプリを獲得した事業で、現在、このグランプリを獲得した学生は、休学をして会社を立ち上げ、ゲストハウスの経営を行っています。そして、このゲストハウスに地域の外から若い人が泊まりに来ることで、地域はますます活性化しています。
Q.
企業を誘致する時にどういう基準があるんですか?
A.
12,13社来ていただいているのでそこからの紹介が多いです。企業を誘致する時に自治体が最も懸念するポイントは、「数年で出ていってしまうのではないか?」という部分です。その不安を減らすのに最も良い方法が信頼関係のある相手と仕事をすることです。なので、日南市の誘致の場合は、信頼できる人からの紹介が多いです。「信頼できる人が信頼できる人を呼んでくる」という方が効率的に誘致できます。
その他に私たちが見るポイントは、「ビジネスモデル」「社長の人柄」「財務状況」です。そして、基本的に私たちは、常に人材獲得に困っていて、大企業よりも先に地方に行くことで、優秀な人材を確保しようとしている中小企業やベンチャー企業を積極的に誘致しています。
Q.
シリコンバレーの会社はどうやって誘致されたんですか?(日南市には、シリコンバレーの企業も誘致しています)
A.
起業家支援をやりますというイベントでたまたまシリコンバレーにある会社の社長さんに出会い、その方が宮崎出身の方だったんです。そして、その方が「宮崎で理解のある自治体は日南市だよね」と言ってくださり、誘致が決まりました。本当に偶然だったんです。
(END)
田鹿さんの地域再生請負人の記事はこちら
Editor's Note
全国に続々と増えている「シャッター商店街」。その裏には、人口減少や、企業の誘致の難しさなど、様々な問題が隠れていることが今回のイベントでわかりました。今回のイベントを踏まえ、地域性にあった仕事の創出や「子どもを産んで、育てたい」と思える環境作りを改めてもう一度、考えてみてはいかがでしょうか?
KOHEI TAKENOUCHI
竹之内 康平