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LOCAL LETTER

教育は、誰かを変えることではない。「共に学ぶ」教室で見つけた、私の原点

MAY. 26

MIYAGI

拝啓、教育の「あるべき姿」にがんじがらめになっているアナタへ

こどもが好き。誰かの支えになりたくて、先生を目指した。
でも現実は、思っていたよりずっと忙しくて、ずっと苦しくて。

こどもとまっすぐ向き合いたかっただけなのに、気づけば「何を大事にしたかったのか」さえ、見失いかけている。

そんなふうに、教育の現場で揺れている方はきっと少なくないはずです。

今回取材したのは、宮城県石巻市雄勝町(おがつちょう)という小さな漁村にある複合体験施設「MORIUMIUS(以下、モリウミアス)」で働く小川珠穂(おがわしゅほ)さん。

小川珠穂 氏 公益社団法人MORIUMIUSスタッフ / 2000年生まれ。埼玉県出身。大学卒業後、人口約1,000人の小さな漁村・雄勝町にあるモリウミアスに入社。こどもたちが迷いながらも自分で選び、挑戦し、未来を切り拓いていく。そんな瞬間に出会いたくて、こどもたちの“生きる”に寄り添う日々を重ねている。

2011年の震災で人口の8割が町を離れたこの地で、廃校をリノベーションして生まれたモリウミアス。自然の恵みや地域の営みとともに“暮らす”ことを通して、こどもたちが自ら学び、考え、行動する力を育む場です。

小川さんは、そんなモリウミアスに新卒で飛び込み、今年で3年目を迎えました。

かつて教員を目指し、教育実習も経験した小川さんがなぜこの場を選び、いま何を大切にこどもたちと関わっているのか。その実践と揺らぎから、公教育だけでは語りきれない“もうひとつの教育”のかたちが見えてきました。

「たくましく生きよ」暮らしの中で育む学びの種

モリウミアスは、「森と海と明日へ。」をコンセプトにした、こどものための複合体験施設です。

雄勝町の自然や人とのつながりのなかで、“暮らすように学ぶ”日々を通して、生きる力や探究心を育みます。地域の営みに触れ、まちの人々と関わりながら、こどもと地域の“明日”を共につくる場です。

モリウミアスが提供するのは、大きく3つのプログラム。
1泊2日/2泊3日の短期滞在「Meet MORIUMIUS」、夏休みなどを使った6泊7日の中期滞在「Live in MORIUMIUS」、そして1年間雄勝町の学校に転入して暮らす「漁村留学」。

プログラム中、こどもたちは親元を離れ、ともに参加する仲間やスタッフとともに暮らします。食事づくりや掃除、動物の世話といった日常の役割を分担し、生活の一部を自分たちで担っていくのです。

モリウミアスでは、16羽の鶏と1匹の豚を育てている。

朝6時半に起きて、鶏と豚の世話をして、朝ごはんの準備をして……。
モリウミアスでのこどもたちの一日は、自然を身近に、自ら暮らしを形づくる営みです。

森で枝を拾い、羽釜でご飯を炊き、薪でお風呂を沸かす。時には地元の漁師さんと一緒に海に出て、魚を自分たちで捌くこともあります。

決して「便利」とはいえない環境。だけど、刻々と変わる自然の表情や、人と人との関わりの中にあるあたたかさに、都市部とはまた違った豊かさが溢れています。

こどもたちは暮らしの知識だけでなく、「自ら考え、決める」という経験も積み重ねていきます。象徴的なのが「こども会議」と呼ばれる時間。滞在プログラムの一部の過ごし方を、自分たちで話し合って決める時間です。

「こども会議」の様子。1日の過ごし方や暮らしのルールをこどもたちが話し合いで決める。

「例えば、『ラバー(モリウミアスで飼育している豚)に“ありがとう”を伝えたい』って言い出した子がいたんです」と小川さんは語ります。

「命への感謝をこめて、ラバーを200回ブラッシングしよう!って決まって。その日はすごく雨が降ってたんですけど、みんなでレインコートを着て、ちゃんと数を数えながらやり切ったんですよ

こどもたちが何を思いつくかはわからない。でも、その分からなさにこどもたちの個性や想いが見えてくる。こども会議は、とても良い時間だなと思っています」(小川さん)

「期待しないように頑張る」こどもとの向き合い方

こどもたちの自主性を信じて見守ることは、簡単なようでいて、とても難しいことです。

特に「漁村留学」のような長期プログラムでは、モリウミアスでの暮らしが日常になるぶん、目に見える変化はゆっくりで、ときに分かりづらくなっていきます。

「もっとこうすればいいのに」と、思わずこどもたちに口を出したくなる場面もある——。
そんな揺らぎのなかで、小川さんが強く心を動かされたのが、ある保護者の言葉でした。

『この1年、期待しないように頑張っていました』

1年間、わが子を遠く離れた地に送り出す。それは簡単な決断ではありません。時間も費用もかかるなかで、「成長して帰ってきてほしい」と願うのは、親としてごく自然な思いです。

だからこそ「期待しないように頑張る」という姿勢に、小川さんは深く心を打たれたといいます。

「すごい覚悟だと思いました。『あれができるようになった』『こんなふうに変わった』っていう、目に見える成果ばかりを求めるのではなくて、こどもの中に確かに残っていくものがあると信じて、見守ってくれていたんだなって」(小川さん)

そして小川さんは、あらためて気づいたと言います。

「教育って、本来そういうものですよね。種をまいたら、芽が出るのを待つ。すぐに結果が見えなくても、ふとした瞬間に『あのときの経験が』と思い出してもらえたら、それでいい。私も、そういう関わり方をしていきたいんです」(小川さん)

教育は、誰かを変えることではない。小さなきっかけを手渡し、あとはその人自身のタイミングを信じて、そっと見守ること。

それが、小川さんがモリウミアスでの日々の中から見出した、自分なりの“教育のかたち”でした。

「先生」と「生徒」ではなく、フラットな立場で

モリウミアスで日々多くを学ぶ小川さんですが、教育の道を志した原点はかつての恩師でした。

「高校受験の時、塾の先生にすごく支えてもらったんですよね。勉強を教えるだけじゃなくて、自分の将来を一緒に考えてもらったりして。誰かにとってそういう存在になれるって、すごく価値があることだなって思ったんです」(小川さん)

その思いから教員を志し、大学では国語の教員免許を取得。教育実習にも参加しました。けれど実際に現場に立ったとき、小川さんにはふたつの違和感が芽生えたといいます。

「ひとつは、建物の中でずっと机に向かっているのが自分には合わなかったんです。外を動き回るのが好きなタイプだったので」(小川さん)

もうひとつは、「教える」ことへの違和感でした。

「文章の美しさや知識を伝えるのも素晴らしいことだけど、それ以上に、こどもと一緒に何かをやるとか、共に体験して学ぶ、という関係性に惹かれていたんだと思います」(小川さん)

「先生」と「生徒」という立場を超えて、「人と人」として関わる教育のあり方を探していた小川さんが出会ったのが、モリウミアスでした。

大学時代、インターンをしていた団体のコーディネーターから紹介されて知ったこの場所。自然と人と学びが混ざり合う環境に惹かれ、就職を決めました。

実際に働いてみると、理想とのギャップもあったといいます。こどもと関わりたくて入ったのに、宿泊業務、調理、広報、保護者とのやりとり…とやることは山積み。少人数で回す運営体制のなかで、日々葛藤は尽きません。

それでも、「名前で呼び合えて、1対1で向き合える関係がここにはある」と小川さんはいいます。

教室という枠を超え、大人もこどももフラットに関わり合うことのできる環境だからこそ、こどもをこども扱いせず、同じ目線で一緒に学ぶことができるのです。

私にとっての「モリウミアス」を探しに

モリウミアスでの日々も3年目を迎えた小川さん。今、ある新しい気持ちが芽生えつつあります。

「最近、旅に出たいって思ってるんです。今の仕事が嫌なわけじゃないけど、“このままでいいのかな”っていう迷いもあって……」(小川さん)

その迷いの背景には、日々こどもたちと向き合ってきた時間があります。

「モリウミアスに来るこどもたちにとって、ここでの体験って“大冒険”だと思うんです。親元を離れ、知らない仲間と出会い、慣れない暮らしに飛び込む。そんな中で、毎日ちいさな挑戦を積み重ねて、少しずつ変化していく姿を見てきました。

毎日ワクワク心を動かして、『やってみたい』自分の気持ちに素直に従ってる姿が眩しくて、ちょっと嫉妬しちゃうんです」(小川さん)

今の自分は、どうだろう?いつの間にか、心を動かす時間が少なくなっているのではないか。そんな問いが、胸の内で膨らんでいきました。

学生時代はヒッチハイクで日本中を旅し、新しい人や見知らぬ世界との出会いに胸をときめかせていた小川さん。こどもたちがモリウミアスでの暮らしに挑戦するように、自分も新しいことに挑戦してみたいと思うようになったといいます。

「これまで私は、こどもたちに“種を渡す”ような活動をしてきました。でも最近、自分の中の“種”が減ってきたなって感じるようになって……。だったら一度、自分の“種”を増やす旅に出るのもいいかもって思ったんです」(小川さん)

教育には関わり続けたい。けれど、ずっと同じ場所にとどまることだけが正解ではない。
動き、学び、自分の心をもう一度震わせること。それもまた、教育者としての大切なあり方なのかもしれません。

「こども」のように学び続けたい

教育に関心がある。けれど、何が正解なのか分からない。

そんなふうに揺れている人にとって、小川さんの言葉はきっと背中をそっと押してくれるはずです。

かつて小川さんは、新しい教育のあり方を求めてモリウミアスに飛び込みました。

でも、モリウミアスという環境も変化する。体験学習以外のコンテンツにも挑戦を始め、そんな変化が刺激になる一方で、自分が本当にやりたかったことからは離れていくような迷いがあったといいます。

「でも、分からなくなったなら探しにいけばいい。これから自分がどんな道を選ぶとしても、何かを諦める「大人」ではなく、自分のやってみたいに従う「こども」のように生きてもいいじゃないかって」(小川さん)

教えるのではなく、学び続けたい。
こどもたちのように、自分の心が動く方向へ正直に進みたい。

「もしも将来、モリウミアスを離れることになっても、やっぱりこどもと関わることは好きだから。また教育の世界に戻ってくると思うんです」(小川さん)

こどもたちと一緒に、立ち止まり、迷いながら、また歩き出すこと。

その姿そのものが、小川さんの信じる“教育”のあり方なのかもしれません。

※モリウミアスでは現在、一人でも多くのこどもたちに豊かな学びを届けるため、クラウドファンディングを実施しています。(支援募集期間:5月30日(金)23時まで)

クラウドファンディングサイト:https://readyfor.jp/projects/moriumius_10th 

 

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Editor's Note

編集後記

「本当に大人気ないけど、こどもたちの持ってる無限の可能性に、嫉妬しちゃうんだよね」そう迷いなく言い切るまっすぐさが強く印象に残っています。こどもらしくいることを諦めない。それがこどもたちと真摯に、対等に向き合う力になっているのだなと感じました。
小川さんがこれからどんな道を歩んでいくのか、取材を終えた今も、私はその未来に、静かなワクワクを感じています。



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