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※本レポートは、シェアリングエコノミー協会が実施するシェアの祭典「SHARE WEEK 2023」内のトークセッション「共助資本主義 〜セクターを越えた持続可能な共生社会のグランドデザイン〜」を記事にしています。
シェアリングエコノミーだ、SDGsだと、社会がなにやらそういう方向らしいのでとりあえず何かしなければ。そう考える人も多いのかもしれません。
前編記事では、共助とはどんなものなのか、共助の重要な視点である協同とは何かについてお話いただきました。
後編では、無理のない共助資本主義への展開の仕方について、登壇者に語っていただきました。
髙島氏(以下敬称略):共助について考える際に1つ重要なポイントとしては、企業は収益が上がることを頑張るということです。
日本人にありがちなことですが、SDGsを謳って儲けようとすること自体は小規模ですが悪くはない。でも欧米を見ているととてもしたたかです。例えば自動車だったら電気自動車に乗るよりも車そのものに乗らないことの方がどう考えても環境にはいいのに、そうではなく従来の自動車よりも洗練された高価格の、収益性の高い電気自動車を生み出して、それに買い換えさせるマーケットをつくり出したのがテスラです。
SDGsにしてもヨーロッパの風力発電のマーケットがだいぶ確立していて、風力発電が世界に広がっていくことは、ヨーロッパのいくつかの企業の収益を拡大していくことと繋がっています。
アメリカで子どもたちの肥満が問題になった時は、ハンバーガーとコーラが悪者でした。その時にコカコーラやペプシコーラがやったことはダイエットコークをつくったことです。コーラを販売することをやめたのではなく新しいコーラをつくり出し、マーケットを拡大してより巨大な企業になっていくアプローチでした。
社会を変える目的で企業が参加する際に、義務的にだけ「社会的に正しいことをやる」だけだと限界があります。「収益が上がるからやる」ことの方がインパクトがあって、その辺は欧米はとてもしたたかです。
日本だと例えば、SDGsに関しては「やらないと罰せられるルール」かのように捉えがちですよね。そうではなく新しいマーケットが生まれるチャンスと捉えた方がいいと自分は思っています。
共助資本主義とはそういうことですよね。役に立つことを、非営利団体のNPOや社団法人のみなさんと一緒に活動する中で、「自分たちも新しいビジネスチャンスが見つかったら収益を拡大するチャンス」ということです。だから共助と資本主義とはセットで考えています。
石山氏(以下敬称略):若い世代と話す中で、社会も企業もwin-winになるようなパーパスの設定や、共感を基点とした社会の変え方に、少しずつですが支持が集まってきているように思います。
一方、日本に中小企業が占める割合が約7割という中で、日本全体が企業と他のセクターを繋げる経営者を増やす、あるいは経営者だけではなく企業内でセクターを横断していくような取り組みを増やしていくには、何がキーファクターになりそうか。広げていく上での課題があればぜひ教えてください。
髙島:アメリカには植物由来のものだけを売っている、肉を扱わない食品会社があります。そこの社員に「なぜ動物性のものを扱わないのか」と訊くと、健康のためではなく「地球によくないから」という答えが社員の8割くらいから返ってきます。
普通の食品会社でもプラスチック資材はできるだけ使わないことを、何年も前から当たり前のようにやっていて、理由を訊くと「子どもの影響が大きい」という人が多いんですね。自分の子どもだけではなく顧客の子どもの影響もあるそうです。
例えばプラスチックのスプーンを出すと、大人はそうでもないけど子どもはとても嫌な顔をするらしく、その表情を見ていると自分が親として尊敬されなくなる気がするそうです。子どもたちからの「サステナブルな地球にしてくれという圧力」があるんですね。アメリカでは、それが世を変革する土台の力になっています。
サステナブルな地球にしようと牽引するアイコン的なキャラクターを持つ人から、子どもたちは強烈に影響を受けています。先に子どもたちを動かして大人たちに圧力をかける動きです。日本にはそういう存在の人がまだ現れていませんね。
石山:教育の違いなんでしょうか。
髙島:教育の違いもあるし、英語が直接子どもたちに伝える言語なのも一因だと思います。
その意味では、日本ではNPOがいくら頑張っても社会がついてこないと難しいのです。逆に「社会にいいことをやったほうが儲かるよね」というコンセンサスになれば、その方向にしようと経営者は頑張るじゃないですか。「社会にいいことをする方が儲かるよね」にするには、消費者が「社会にいい商品をたくさん買いたい」と思えるようにすることです。
日本では植物由来の食品があまり普及していません。それを普及させるマーケットをつくるためには子どもたちから変えていく、教育が大事ということです。そのほうが大人が変わるよりも早い。子どもが変わったらマーケットができ、大人が変わり、企業が変わる。そういう順番です。
石山:「子どもが起点」には非常に共感します。サステナビリティやSDGsを企業が取り入れていく一方、形だけのSDGsに終わっているなど大人の中ではダブルスタンダードになっているところがあります。そういった矛盾を子どもはちゃんと見ているからストレートに問題提起をするのでしょうね。
去年、11歳の起業家がこのカンファレンスで「未来への提言」というお話をしてくれました。「子どもたちも、社会を決めていく議論に混ぜてほしい」という提言をいただいたことが印象的でした。
石山:最後はこのセッションの大元となる、シェアリングエコノミーという新しい経済概念について、髙島さんに期待や可能性のお言葉をいただきましょう。
髙島:シェアリングエコノミーとは「自分というリソースをシェアすること」ですね。自分も企業経営者ですが、非営利団体を受け入れることによって共助の内容がとても明確になりました。異なる団体間を繋ぐ、物事を進める上で橋渡しになるための共通言語的な会話ができる人が少しずつ増えてきています。いわゆる団体を横断するバイリンガル、通訳的な存在です。
石山:そのような人のことをトライセクター・リーダー(注:Tri-sector Leader あるセクターに身を置きながらいくつものセクターとも協同し、越境して課題解決を図る人材)と言ったりしますね。
髙島:要するに自分が培ってきた時間や体験をシェアしているわけです。それを複数のところにまたがってやることによって、スキルを身につけることができます。ソーシャルセクターとビジネスセクター、若者と年長者、日本と海外、いろんなことへの橋渡しに、今は価値があります。
総力を挙げて社会課題を解決しないと間に合わないので、異なるセクターを一丸とする繋ぎをしていくことが重要です。そういうことは若ければ若いほど有利に体験できるんじゃないかと思っています。
石山:「自分シェア」、素敵なキーワードをいただきました。一方で「経営者は本業に集中すべし」のような感覚の方も中にはいらっしゃると思います。その中で自分シェアをしやすい環境、理解を得ていくには、どのようなことを心がければいいでしょうか。
髙島:経営者は経営で評価されますから、いい時も悪い時もあるのでそもそも理解してもらいにくい仕事です。経営のかたわらでを共助をするためには見える化をして、ちゃんと芯を持つこと。「SDGsが流行っているからやる」のではなく、「共助は長期的にみて自分の会社の価値を上げるという信念を持つことに尽きます。
石山:シェアリングエコノミーそのものについては、市場自体は黎明期から成長期にありますが、消費者にとっても当たり前の選択肢になりつつあるのかなと思いますがいかがでしょうか。
髙島:シェアリングエコノミーが進むことと、自分シェアが進むことはイコールだと思うんですね。シェアリングするサービスが増えると、サービスを提供する側はいろんなことが経験値になります。また今は働き手が少ないので、シェアリングしないと経済環境が持続できません。
僕の本業は農業に近いですが、農家さんのことを百姓って言いますよね。この仕事をする前は「農家さん」というほうが丁寧で「お百姓さん」というとちょっと乱暴な言い方かなと思っていたんです。
でもそれは逆で、百姓って「百の仕事ができる」という意味なんですね。農家だけど家をつくる、壁を塗る、消防士もする、祭りもする。自分が今、NPOをやったり経済同友会をやったり企業の経営者をやったりしている原点は農家さんにあって、僕が接している農家さんは、僕の前では農家の顔だけど時には違う顔なんです。だから自分たちも違う顔を持つことができるかもしれないと気がつきました。
1人の人が1つの仕事をするようになった時期は、日本で言うとごく最近です。しかもそれはごく一部の人の働き方だけです。日本人はいろんなことを同時にできるDNAを持つと思っているので、シェアリングエコノミーは得意なはず。短い時代の間にできたルールや規制にとらわれず、シェアリングエコノミーをどんどんするべきです。
石山:「自分たちを、まずシェアしよう」という行動が必要なんですね。最後に本セッションを締め括るにあたり、AIデジタル時代の中の共助資本主義を今後どうつくっていけばいいかという視点で、メッセージをお願いします。
髙島:実際、シェアリングって大変だと思うんですね。うまく行かないとか、もがいたり足掻いたりして。でもこのもがいたり足掻いたりの体験は、AIにはできないのではないでしょうか。
人間らしさって、悔しかったり嫉妬したり喜んだり楽しんだりという感情そのもので、未来がAIだらけになったとしても、その経験は人間ならではの特権です。人間の業というか、愛らしい人間のもがきこそが僕ら人間の領域ですから、これからも僕はみんなと楽しくもがいていきたいと思っています。
Editor's Note
シェアリングエコノミーという言葉からは、どことなく自分たちからは遠い話ではないのかという響きも感じられます。しかしながら人と人との関係を横断してつなぐことはAIには決して真似できない人間らしい行動で、古の先人たちも実はそこを行動してきたからこそ今の私たちがあるということに、改めて気がついた次第です。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子