NAGO, KUSHI
沖縄県名護市
突然ですが、アナタは日本の高齢化率を知っているだろうか?
「世界で一番高齢化率が高い」と言われる日本の高齢化率は、28.4%*1。
日本で最も高齢化率が低いと言われるのは、沖縄県。その高齢化率は、21.6% *1 。
しかし、これはあくまでも沖縄県全体の平均値であり、この数字だけに踊らされてはいけない。同じ “沖縄県” でも中心地から離れれば、たちまち高齢化率は引き上がり、中には約50% *1 に及ぶ地域がごく当たり前のように存在するのだ。
今回ご紹介するのは、沖縄県の中でも高齢化率の高い地区が集まる久志地域に移住し、地域コーディネーターとして、地域内外の「架け橋」として、地域の魅力を発信し続けている江利川夫婦。
学生時代から常に現場目線を大切に、数々の地域・プロジェクトに携わり、2020年2月8日には2020年最初の移住体験ツアーを運営するということで、その背景を取り上げるべく、取材を決行。
取材中、何度も江利川夫婦を訪ねて事務所にやってくる地域の人たちの姿に和ませてもらいながら、お話をする中でみえてきた、江利川夫婦流「地域と伴走しながら成果をだす地域コーディネーターの役割と心構え」をご紹介します。
久志地域の中でも、江利川夫婦が暮らしている嘉陽(かよう)地区は、人口86名・高齢化率43.02%。そのうち、江利川夫婦のような移住者が20名(若い夫婦および子ども)におよぶため、地元の人だけで考えると高齢化率はあっという間に50%を超えるという。
行政区/年齢 | 人口 | 高齢者人口 (65~) |
高齢化率 |
後期高齢者 |
後期高齢者 人口割合 |
久志 | 564 | 193 | 34.22% | 97 | 17.20% |
豊原 | 429 | 107 | 24.94% | 56 | 13.05% |
辺野古 | 1,886 | 355 | 18.82% | 176 | 9.33% |
二見 | 85 | 38 | 44.71% | 21 | 24.71% |
大浦 | 113 | 29 | 25.66% | 15 | 13.27% |
大川 | 66 | 29 | 43.94% | 19 | 28.79% |
瀬嵩 | 262 | 82 | 31.30% | 37 | 14.12% |
汀間 | 240 | 73 | 30.42% | 37 | 15.42% |
三原 | 253 | 100 | 39.53% | 52 | 20.55% |
安部 | 129 | 56 | 43.41% | 28 | 21.71% |
嘉陽 | 86 | 37 | 43.02% | 19 | 22.09% |
底仁屋 | 54 | 20 | 37.04% | 11 | 20.37% |
天仁屋 | 122 | 57 | 46.72% | 24 | 19.67% |
小計 | 4,289 | 1,176 | 27.42% | 592 | 13.80% |
2019年総務省「人口推計」調べ
「細かく数字を見ていくと、地域の脆さがあっという間にわかりますが、僕たち自身は、高齢化率が高いこと自体は地域にとってネガティブなことではないと思っています。もちろん、労働人口の減少によって地域に入ってくる収入が下がる等の懸念点もありますが、それ以上に嘉陽地区には “豊かさ” があるからこそ、僕らみたいな移住者が増えているのだと思っています」(江利川氏)
江利川夫婦が移住して5年がたった今でも、地域のおじいおばあの温かさに驚かされてばかりだというおふたり。ですが、その一方で地域の持続性を考えた時、高齢化は課題として捉える必要があるとも語ります。
「僕らは関係人口を増やしていきたいと思っているんです。例えば、僕らは今、地域の方々にご協力いただきながら、地域活性化に向けてホームステイ型の民泊 “久志の民泊” を運営していて、地域に初めて訪れるお客さんはまだ地域のことを何も知らないので、地域との関係値は0(無い)ですが、民泊を通じて地域や地域の人たちに関わることで、少しづつ関係値が上がり、関係人口に近づいていきますよね。さらに彼らに響くような形で、地域の課題をしっかり伝えることができれば、自分たちのできることは何かを主体的に考えてくれる人が増え、より強固な関係人口を作ることができると思っています。
どこの地域でも同じだと思いますが、都心から離れれば離れるほど、閉鎖的な地域も珍しくありません。地域側ももちろんですが、移住者自身が積極的に地域のルールに馴染む努力をしなければあっという間にコミュニティから浮いてしまいます。だからこそ、僕らは “無責任に人を呼びすぎても何もよくならない、むしろ悪化してしまう可能性もある” ということを念頭に置いて、まずは関係人口を増やしていきたいと思っています」(江利川氏)
今回運営する移住体験ツアーも、名前こそ「移住」を押しているものの、江利川夫婦は「まずは久志地域を知ってもらう、交流人口・関係人口をつくる第一歩として考えている」という。
「いきなり移住・定住してくださいはハードルが高すぎますからね。まずは交流人口、次に関係人口、そして最後に定住人口と一歩一歩ステージを上げていくのが大切。この基本的なステップを飛び越えて行動できる人はなかなかいませんから、入口と出口をしっかりと設計することで、目的を達成していきます」
もし万が一、「ツアーの参加者の中で “明日にでも移住したい!” というツワモノが出てきたとしても “そんなに急がず、落ち着いて決めましょう。まず10回くらい通いましょう。アナタの人生かかってますよ” と提案すると思う」と話す江利川氏。
地域の人にはもちろん、地域外の人の人生にもしっかり心を傾け、自分ごとのように接し続けているのだ。
江利川夫婦が過去実施したプロジェクトを調べていくと、今回運営する移住体験ツアーに限らず、度々江利川夫婦がタイアップしている地域の福祉事業所「社会福祉法人名護学院 二見の里(以下、二見の里)」があった。
「二見の里は、久志地域のおじいおばあが通っている福祉事業所です。たまに僕も行くんですが、 “あんた嘉陽の家(ウチ)のもんだろう” とか、“あんた美味しい魚ばっかくいよって、ちょっと太ったんじゃないか?” とか、たわいもない世間話に花が咲きます。
自分が暮らしている地域で働くメリットはまさにこれで、自分の地域に暮らしている人たちと、すぐに顔がつながる関係がつくれるんです。これが住んでいる地域の外で働くとなると、地域のイベントが出勤日になってしまっていて参加できなくなったり、簡単に地域のおじいおばあと繋がる機会がなくなってしまいます」(江利川氏)
だからこそ江利川夫婦は、「地域に暮らし、地域で働く」ことが実現できるよう、二見の里とタイアップを行なっているという。
「もちろん、絶対的な強制力はありませんし、働き先をどこにするかは移住者の自由です。ですが、一つの選択肢として、“地域に暮らす” という部分は僕らがマッチングを担当し、僕らでは担いきれない、“地域で働く” という部分で二見の里さんと一緒に活動をしています」(江利川氏)
そうはいっても、具体的な仕事内容のイメージが思い浮かばない方や、偏ったイメージを持っている方も少なくはない “福祉業界”。だからこそまずは現場をみて、働いている人の話を聞ける機会をつくるために、江利川夫婦は、今回のツアーやふるさとワーキングホリデーなど、いくつかの接点機会を用意しているという。
「沖縄県はどこでも、どの業界でも深刻な人材不足で、二見の里さんもやはり人材不足です。一言に “福祉業界” と片付けるのではなく、まずは実際に雰囲気を体感できる機会として活用してもらえたらと思っています」(江利川氏)
いま、地域の人材不足と同じくらい江利川夫婦が懸念している地域課題は、「地域資源の継承困難」であり、そもそも「地域住民が地域資源の魅力に気づいていないこと」だという。
「地域の人たちにとっては、日常の中にある “当たり前のもの” であるが故に、地域資源を価値だと思っている人が少なく、このままでは知らず知らずのうちに地域資源が失われてしまうため、今、地域資源の掘り起こしと地域資源の継承にも力を入れています」(江利川氏)
大学時代はSDGs(持続可能な開発目標)*2 の研究を行なっていたという江利川夫婦。SDGsのスローガンである「誰一人取り残さない(no one will be left behind)」を念頭に、持続可能性、他者のためになるような社会貢献を常に大切にしているという。
「僕にとってSDGsは骨格(方針)で、骨格があることによって、その骨格をベースに肉をつけたり、血を巡らせる個人や企業が生まれてくる。これを地域に置き換えると、地域の骨格は地域資源だと思うんです」(江利川氏)
地域資源(骨格)は、地域に当たり前に存在するものであり、かといって、劇的に成長するものでもなければ、手をかけなければ、徐々に滅びていってしまう。
「僕の役割はこの骨格をベースに、肉をつけたり、血を巡らせることだと思っています。骨格の状態や周りの環境を見ながら、時には意図的に太らせたり、痩せさせることもする必要があるし、壊死しそうな場所があれば、しっかりと血を巡らせる信号を出さなくてはいけない。そして、久志地域には、まだまだ僕自身が見ている以上に大きな骨格が埋まっていると思っているので、骨格の掘り起こしも同時に行なっているような感覚です」(江利川氏)
移住してはや5年が経つ江利川夫婦だが、それでも久志地域での暮らしが “当たり前” にならず、常に新鮮な目で地域を見続けられているというから驚く。
「自分の子どもが少しずつ大きくなって、“星が綺麗だね” とか “海が綺麗だよ” と話してくれたり、ネイチャーガイドの仕事でお客さんと触れ合ったり、地元の親子向けの地域体験プログラムもつくっているので、日常にある “当たり前のもの” を別の角度から見せて、今まで気づけなかったものに気づいてもらえるように心がけているので、常に新鮮さが研ぎ澄まされているのかもしれません」(江利川氏)
地元の親子向けプログラムに参加した親御さんたちからは「こんな場所知らなかった!」「なんで知ってるの?!」と絶賛の声が相次ぎ、それがまた自分たちの力になっているという江利川夫婦。
「夫婦の決まりごとの一つに “良くしてもらったら倍返し” というものがあるんです。これはあくまでも夫婦のルールなので、他の人に押し付けるわけではありませんが、僕たちが常に大切にしていることです」(江利川氏)
地域の人でも地域外の人でも、常に相手の立場に立ち、気持ちに寄り添い、一緒に行動し続ける江利川夫婦。彼らの姿勢そのものが地域での信頼を獲得し、成果を生み出す一番の秘訣なのかもしれない。
*1 2019年総務省「人口推計」調べ
*2 SDGs(持続可能な開発目標)
2015年9月の国連サミットで採択された17のゴール・169のターゲットで構成される世界全体の目標。
https://www.jica.go.jp/aboutoda/sdgs/index.html
Editor's Note
いつだってパワフルで、笑顔が絶えない江利川夫婦。たった90分の取材中、江利川氏の元へ地域の方が訪れ、少し世間話をして帰っていくというシーンが3回も。それだけで江利川夫婦の地域への誠実さ、愛され度がとても伝わる時間でした。今すぐにでも久志へ戻りたい!
NANA TAKAYAMA
高山 奈々