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LOCAL LETTER

漁業の未来を切りひらけ。「課題だらけ」の壁はみんなで壊す、三陸のゲームチェンジャー

JAN. 07

IWATE

拝啓、第一次産業現場に興味があっても、課題感に怯えて一歩踏み出せないでいるアナタへ

第一次産業と聞いて、どんなイメージが浮かびますか?
「朝が早くてきつそう」「天候に左右されて大変そう」……そんな印象を持つ人も多いかもしれません。

第一次産業とは、自分の経験を生かしたり、新しいアイデアを出したり、職業の垣根を超えて協力し合うことのできる仕事。そして、そうした可能性を信じ、今までの第一次産業へのマイナスイメージを変えていこうとしている人がいます。

岩手県大船渡市三陸町越喜来(おきらい)崎浜(さきはま)で、漁業に従事する中野圭さん。人とのつながりを大切にし、漁業や海の環境による課題を打破するために、挑戦し続けています。

前編では、一度上京し自分の経験や知識を広げた上で、震災を機に地元である越喜来に戻り、家業の漁業を継いだ中野さんのこれまでの生き方や大切にしていることを伺いました。
(前編の記事はこちら

後編は、これまでの中野さんの活動と、人とのつながりがどんな活動を生み出すのか、漁業に従事することの魅力や大船渡・三陸で漁業に従事することの魅力を伺いました。

中野さんの前向きで漁業に光を灯し続ける姿勢は、漁業という第一次産業に関わること、生産の仕事をすることに不安を感じているアナタの不安を和らげ、その世界へ一歩踏みだす勇気をくれます。

中野 圭(なかのけい)氏 漁師 / 1986年岩手県大船渡市越喜来(おきらい)崎浜(さきはま)生まれ、漁師16代目。思春期に都会へ憧れ高校進学と同時に地元を離れるものの、2011年の東日本大震災によって地元が大きな被害を受け、Uターン。震災復興に携わるNPO法人を経て2016年より中野えびす丸にて漁業に従事。漁業を通して人のつながりを作り、日本一楽しい漁業を目指している。

課題だらけでも魅力がある、三陸の漁業

東日本大震災をきっかけに地元・越喜来(おきらい)に戻った中野さんは、2016年から中野えびす丸の船長に就任し漁業に従事しています。
ご両親から家業を継ぐ形で、50年以上続くホタテ養殖業を継いだ中野さんですが、以前は漁業をやりたいとは思わなかったそうです。

「幼少期から、漁業が好きだって思ったことはなかった。だから、自分で漁業をやりたいと思ったこともなかったです」(中野さん)

そう振り返る中野さんは、心境の変化を教えてくれました。

「震災で地元に戻ってきて、みんなで助け合っている時に、自分の親とか本当に近しい人が喜んでくれることを仕事にしたいと思うようになりました。それが海の仕事でした。周りの人が笑顔になってくれて、ありがとうって言ってもらえる。そんな漁業を仕事にすることを選びました」(中野さん)

ホタテ養殖作業の様子。

漁業を継ぐにも、震災の影響ですぐには動き出せない状態が5年ほど続きました。
それでも中野さんは諦めず、復興のボランティアやNPO法人で活動し、震災復興や若者のネットワークづくりに貢献。2016年、ついに家業を継ぎ、「中野えびす丸」の船長に就任しました。

漁業に従事して8年が経った今、改めて漁業に対する気持ちの変化を伺いました。

「今では、漁業に対する考え方が完全に変わりました。というのもそれは、実際にやってみたからこそ、魅力や面白さに気づけました」と明るい笑顔で答えてくれました。

そんな中野さんが思う漁業の魅力や面白さとはどういったものでしょうか?

「ここ三陸だけじゃなくて、漁業は課題だらけなんです。後継者や担い手不足、環境の問題もあるし、制度面の課題もあります。かつて日本の漁業は、世界をリードしていました。世界的には漁業は成長産業なのに、こんなにも追い込まれているのは日本くらいです」(中野さん)

一見すると、困難ばかりに見える漁業の現状。しかし、中野さんはこう続けます。

だからこそ、面白い漁業の魅力には色々な要素があります。課題に挑み続けられるチャレンジングな仕事だなと、毎日のように思えるかな」(中野さん)

中野さんご家族。

漁業の魅力は課題があることと語り、そのチャレンジングで前向きな考え方は三陸の漁業に光を当て続けています。

中野さんはどのような活動を行うことで、三陸の漁業に光を当て、課題を解決しようとしているのでしょうか。

漁師を超える。三陸のゲームチェンジャーの取り組み

まず、海の幸の美味しさを届ける6次産業化*プロジェクト「OKIRAI PREMIUM」。

*6次産業化…農林水産物を生産(1次)、商品を製造し(2次)、売る(3次)までを、総合的に行うことを6次産業化という。日本の豊かな地域資源を活用し、新たな付加価値を生み出す仕組みとして農林水産省が提唱。

「OKIRAI PREMIUM」は、水産業の6次産業化を目指して発足したプロジェクトです。出荷の時期や量に差がでてしまうホタテやワカメなどの生鮮食品以外にも、安定した供給のしやすい加工品の製造販売などに取り組んでいます。

OKIRAI PREMIUM公式サイトより(https://www.okirai.jp/

このプロジェクトに関わっているメンバーは、様々な分野のプロフェッショナルたち。そして、中野さんが東京の大学時代につながった仲間たちも含まれます。

例えば、ホヤ嫌いの漁師が作ったホヤの加工品「ホヤのレアスモーク」や、「ホタテのオリーブオイル漬け」など、素材に付加価値をつけ、販路を拡大しています。

中野えびす丸と採れたてのホタテ。

さらに中野さんは、6次産業商品の開発・販売のみならず、漁業や越喜来の海産物を五感で知ってもらうために、味わう以外の体験も展開中です。養殖体験ツアーや映像制作、noteでの発信など、ジャンルや職種の超えた取り組みを続けています。

三陸の漁業は、壊滅的な状態に追い込まれていると感じています。
震災だってコロナ禍だって乗り越えてきた水産会社や漁業者が、今、海の環境の変化に太刀打ちできずにいる。やめていく人が絶ちません。本当に高い壁が三陸にあるのだと痛感しています」(中野さん)

厳しい現状に向き合いながら、中野さんは続けます。

自分はそれをどういう風に乗り越えていけるんだろうか、とずっと考えています。
壁を超えるには、きっといろんな切り口がある。でも、何が効果的かはやってみないとわからないから、とにかく試すしかないんです。壁を越えられるのか、ぶち壊せるのか、いろんな角度から挑戦しています」(中野さん)

数ある課題中でも、「環境の変化」の一つであり、三陸の漁師たちを苦しめるホタテの貝毒*問題に積極的に取り組んでいます。

*貝毒…特定のプランクトンを貝が摂取することにより、毒を持ってしまう状態のこと。基準値を超えると出荷ができなくなる。(詳しくは前編を参照)

2018年、三陸で突如として問題化したホタテの貝毒。それまでは、三陸で「貝毒」という言葉を聞くことはなかったそうです。それまで問題なく出荷できていたホタテが、貝毒の基準値を超えるようになり出荷停止に。漁業者に深刻な打撃を与えることになりました。

売り上げの減少だけでなく、漁師たちのモチベーションの低下も招き、三陸の漁業全体が苦境に立たされています。

そこで中野さんは、貝毒の認知度向上を目指し、原因を正しく伝えたり安全性を知ってもらうことを目的とした企画を実施しています。

貝毒を正しく知ってもらうため、都内でもイベントを実施している様子。

こうした取り組みは、中野さんの漁業を通じてつながりが生まれた人たちが行動をおこして、行われています。元・大船渡市地域おこし協力隊の臼山小麦(うすやまこむぎ)さんも、その一人。

2024年には、臼山さんの故郷である長野県で「Hotate Meetup」という交流イベントを行いました。

「ただ単に、大船渡のホタテを食べて美味しいよ、という内容では終わらせずに、学びのコンテンツも入れています。そもそも貝毒という名前や、それによりホタテの出荷ができていない現実を知らない人も多いです。実際に圭さんに来てもらって直接お話ししてもらって、味を知り、現状を知り、交流が生まれる場を作りたいと思いました」(臼山さん)

臼山さん以外にも、おてつたびにきた人が地域の人たちと知り合い、何度も越喜来に訪問していたり、海洋系の研究をする学生と学内イベントを開催したりなど、活動の幅は日本全国に広がっています。

その中心にいるのが中野さん。
地域の人と外部の人をつなぐ架け橋であり、最初の受け入れ場所のような存在です。

周囲が動き出す。中野えびす丸から行動を生み出し、人をつなぐ

中野さんを中心にして、関わった人がどんどん自ら次の行動を起こしていっています。私もその一人です。中野さんはどんな人に対してもフラット。お客さん扱いではなく一人の人間として扱ってくれる。だからこそ、大船渡にそれまで縁のなかった人たちも、受け入れられていると感じるのだと思います」(臼山さん)

大船渡市出身者や市外から来た人、そして地域外に暮らす人たちまで、たくさんの人との交流の真ん中にいる中野さん。

中野さんが交流を通じつながりを大切にしているのには、理由があります。

「地域のことを知ってもらって、実際に地域の人や家族や仲間たちと関わることで、お互いの知識や経験の共有ができると思っています。そうやってつながりが生まれていくのが楽しい。それは、一度東京に出て様々な分野の友人ができたことや、震災をきっかけにボランティアの人がたくさん来てくれて、交流をすることができたから。人とのつながりの大切さに気づけました」(中野さん)

「貝毒って、なんとなく怖い」「漁業って大変そう」。
知らないことに対して、私たちは時に不寛容になってしまいます。

中野圭さんが越喜来から育む「つながり」は、そんな不安や偏見を取り払う力を持っていると感じさせます。人と人が出会い、語り合うことで、少しずつ寛容性が育まれ、それはやがて地域全体へと波及していきます。

中野さんの誰に対しても寛容な姿勢は、多くの人々を受け入れ、漁業に関わる多様な機会を創出中。つながりがよい未来を作っていくと語りながら、越喜来を拠点に、市外や県外へと、つながりを広げる交流や発信を続けています。

そして、岩手県大船渡市では現在、地域おこし協力隊を募集しています。

同市では新たな取り組みとして「団体委託型」の地域おこし協力隊を導入しました。「団体委託型」とは、企業や団体等から隊員と共に取り組もうとする地域課題の解決のための活動を提案してもらい、企業や団体等を「受入事業者」として隊員を募集するのが特徴です。

中野さんは2024年の団体委託型の受入事業者に選ばれ、中野えびす丸で一緒に働く地域おこし協力隊員を募集しています。中野さんに、どんな人と一緒に働きたいかを伺いました。

「僕はね、このとてつもない大きな三陸の漁業の壁っていうのを、どうにかぶち壊すなり乗り越えるなりしていきたいと思っているんです。
厳しい状況をむしろ伸びしろだと思う人に来てほしい。どんな課題も前向きにとらえて一緒にやっていける人と働きたいと思っています」(中野さん)

大船渡市「夏虫山」からの景色。

第一次産業の未来を、三陸のまちから照らし続ける中野さんと一緒に、あなたの知識や経験を生かす、一歩を踏み出してみませんか?

三陸の漁業の大きな壁を一緒にぶち壊して乗り越えようとするアナタをお待ちしています。

大船渡市地域おこし協力隊「大船渡の海を活かした新たな”海業”の開発」の募集についてはこちら

LOCAL LETTERでは中野さんのように第一次産業に従事している方や、地域おこし協力隊で活躍している方の記事をメールマガジンで配信しています。

Editor's Note

編集後記

越喜来には、中野さんがいる。この言葉で人が集まり、つながり、新たな世界が広がっていく。中野さんの飾らない人柄にどんな人も安心して、行動をおこしたくなる。一歩踏み出すのなら、まさに今だと思います。

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