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「観光史上、最悪の年」ともいわれる2020年。
言わずと知れた新型コロナウイルスの影響により、全ての業界が多大な影響を受ける中、特に苦しんでいる業界の一つが観光の分野。根幹となる人の移動が渡航制限や自粛で激減し、緊急事態宣言下では旅行需要は壊滅的状況。事業者の経営を直撃した。
今回はそんな観光業界で、一度はほぼ全ての案件を失ったにも関わらず、新たな挑戦として、2030年の観光業界を担う次世代リーダー養成スクール「POOLO NEXT」を立ち上げた、TABIPPO代表・清水直哉氏を弊社代表の平林和樹が、LOCAL LETTER メンバーシップ会員限定の公開インタビューにて取材。
26歳で起業し、7年。固定概念に縛られない挑戦を続けてきた清水氏が見据える「観光の未来」、そして求める「次世代リーダー」とはーー。
平林(インタビューアー):早速ですが今、清水さんを含む全ての観光業界の方々は本当に大変な時期だと思うのですが、清水さんはこの危機的状況の中、自分たちのことよりも観光業界全体のことを優先して活動されたじゃないですか。その決断力って本当にすごいと思っていて、自分たちが苦しい中で、「まずは業界のことを盛り上げよう」と決断された背景にはどんな想いがあったのでしょうか。
清水氏(以下、敬称略):皆さんも同じだと思いますが、2020年はとにかく生き残るのにすごく必死で、毎日悩んで、毎日いろんなことを考えていました。でも、コロナが起きたことで目線が上がったというか、どこの旅行系企業さんも雇用調整や助成金を貰って耐え凌ぐ中だからこそ、逆にいうと、今頑張っても売り上げにならない=頑張らなくてもいいんだって思ったんです。起業してからはずっと忙しく仕事をしてきたので、どうしても足元のことばかりに目がいきがちなんですけど、危機的状況に陥って視点が上がった時に、“今だからこそ本質的なことをやったほうがいいんじゃないか” と考え始めました。
平林:めちゃくちゃ興味深いですね!
清水:今、観光業界はピンチの状況なんですけど、だからこそ同時にチャンスであり、変革のタイミングでもあると思っていて、とにかくいろんな人を巻き込みながら、今まで出来ていなかった業界に対するアクションを起こし続けようと走りましたね。もちろん資金繰りとかいろんな悩みもありましたけど、「売り上げは中長期的に見れば必ずついてくるから、観光業界に価値のあることをやっていこう」と信じて行動していました。
平林:今回清水さんが立ち上げられた「POOLO NEXT」は、“次世代リーダーを育てる”をテーマに掲げられていますが、この “育てる” という感覚がすごくいいなと思いました。
清水:ありがとうございます。今、観光業界で活躍している仲間(リーダー)って、僕らの世代(20代後半~30代前半)にはなかなかいなくて。ここに危機感を持っています。
観光業界で活躍されているのは僕らよりも上の世代の方が圧倒的に多い。「観光業界は変わらなきゃいけない」というのに、ここで何もしなかったら多分10年後も同じように「若い人は元気ないね」って言ってると思うんですよ。そんなの正直ダザいじゃないですか。それなら、僕らから変えていけることを何かやりたいって思ったんです。そのことに共感してくださった方々が今回の講師やメンターになっていただいて、「次世代リーダーを育てる場」として「POOLO NEXT」を立ち上げることになりました。
平林:清水さんは、これからの観光業界をどう捉えられているですか?
清水:今、本当に大変な時で、観光業界から離れた方もたくさんいるんですよね。確かに今だけを見ると、「コロナ禍に観光の仕事は…」と思われるかもしれない。ですが、その一方で、1年後には国内旅行や海外旅行をする人たちが、世界中でもう少し出てくると思うんです。きっと5年後10年後には僕らが当たり前に旅ができていた時代にも戻れると考えています。
清水:今、多くの方が「苦しいからこそ、変革の時だ」と言われていて。変革の時ということは、たくさんのチャンスがあるってことで、チャレンジしてみたら、めちゃくちゃ楽しさも感じると思うんです。特に現代は、若い人が活躍できる領域がたくさんある。DXとかデジタル化なんて、まさに若い人が力を発揮できる領域ですし、マーケティングでもテクノロジーでもデザインでもなんでもいい。想像以上に若い人が活躍できる幅があることを知ってほしいですね。だからこそまずは僕が「今が楽しいんだぞ!」「もっと多くの人に観光業界へ携わってほしいぞ!」と強く伝えたいと思い行動しています。
平林:本当にそうですよね。コロナで苦しいこともありますけど、多くのものが一回ゼロベースというか、全く新しくなることはチャンスなんですよね。
平林:POOLO NEXTが掲げている「次世代リーダー」ですが、清水さんが考えるリーダー像とはどんなものなのでしょうか。
清水:特に決まったリーダー像はありませんが、強いてあげるとするなら、熱をもっていることは大事だと思いますね。あとは、垣根を越えていける能力があること。この2つはこれからの時代に求められる力だと思っています。例えば、観光業界にこれまで関わってこなかった人が外から飛び込めるかとか、他の人たちを巻き込んで動けるかとか、新しいのスキルを取り込めるかとか。そういう様々な垣根を越えて、いろんな方々とコラボレーションできるかどうかが重要だと思います。
平林:清水さんも、元々は他業種から参入されたんですもんね。
清水:そうです。元々インターネットの広告代理店からこの業界に入ったのですが、結果的に他業界での経験が今、僕の強みになっています。そういう風に業界や人の垣根を越えて、熱をもって行動を起こせるような人が増えたら、これからの観光業界は面白くなると思います。あと「リーダー育成」というと、どうしても起業を想像する方が多いですが、僕は別に起業家を増やしたいわけではないんです。結果増えたらいいですけど、別に起業しなくてもいい(笑)。
平林:その感覚、めっちゃわかります(笑)。
清水:会社を創るのって辛いですもん。人を雇うのも辛い(笑)。僕や平林さんは起業しましたが、全員にお勧めできるかって言われるとそうじゃない。だからこそ、僕らのいうリーダーの形はさまざま。自治体や大企業でもリーダーシップを発揮できる人は必要不可欠だと思うので、所属に関係なく、柔軟に捉えてもらえたら嬉しいですね。さらに、若い世代からリーダーになれる人が増えていったらいいなと思います。
平林:POOLO NEXTは、スクールとコミュニティの中間の役割だと思いますが、清水さんが考えるPOOLO NEXTの強みを教えてください。
清水:まずスクールについてですが、観光業界について学べる場所ってあまりないんですよね。ビジネスを学べる場所はたくさんあっても、観光業界のビジネスを学べるところはまだまだ少ない。だからこそ、僕らは次世代に向けて新しい価値観にアップデートした学びを届けたいし、今実際にチャレンジしている人たちに講師やメンターになってもらうことで、机上の空論ではなくリアルな学びを提供したいと思っています。
POOLO NEXTの最大の強みは「コミュニティ」だと思っていて。僕らはこれまでかれこれ11年間ほど、TABIPPOとしてコミュニティをつくり続けてきて、OBOGだけでもすでに4,000~5,000人のメンバーがいます。受け身の学習を加速させるためには、学び合える・教え合えるコミュニティがとても重要で。コミュニティ運営のノウハウを地道に培ってきた僕たちだからこそ、できると思っています。
平林:なるほど。コミュニティがしっかりとあることで、学習が加速することはもちろん、コミュニティ内での共通言語が生まれるからこそ、文化としても根付きやすい。つまりはコミュニティのメンバー同士が繋がりやすくなるわけですよね。
清水:そうなんです。今回POOLO NEXTは新シリーズとして約50人の募集を行いますが、僕たちはPOOLO NEXTの前に「POOLO」とういうスクールを開校していて、今現在開講しているPOOLOの2期が終われば、トータル約300人の卒業生がいることになります。今後もPOOLO、POOLO NEXTを続けていくもりなので、卒業生のコミュニティは500人、1,000人と増え続ける。さらに卒業生だけでなく、講師やメンターの方々もコミュニティの一員と捉えてやっているので、メンバー同士の繋がりが一層強くなる。そこが他のスクールとの差別化でもありますし、TABIPPOでしかできない唯一無二の要素だと思っています。
平林:POOLO NEXTでの繋がりから、将来の自分の仲間が生まれる可能性があるってことですよね。ちなみに今はどんな人が集まってるんですか?
清水:さまざまな人が集まってきていてます。バリバリのIT系出身の方や、起業家の方、自治体の方もいらっしゃいますね。多種多様なメンバーなんで、集まったら最高にカオスでめっちゃ面白いですよね。
平林:大企業の方にも “企業研修” として来てもらえたりしたら面白そうですよね。
清水:まさにそうです!あとは、旅行系ベンチャーの方が来てくれても楽しくなりそうだなと思っていて。皆さんのおかげで本当に面白いコミュニティになっていて、とてもワクワクしています!
平林:最後の質問になるんですが、今真摯に観光業界と向き合われている清水さんは、同時に世の中の「経済性」とも向き合われていると思っています。清水さんの経済性への考えを教えてほしいです。
清水:僕はお金をガソリンと捉えていて。お金のために働くことはしないけれど、文化をつくるためのエネルギーとして、お金は必要だと思っています。
観光業界に対する課題感でもあるんですが、観光業界は生産性が異常に低いんですよね。旅行系の会社って人気企業ランキングでは上の方にあるんだけど、業界をみるとやたら年収が低いとか…。旅行業界って案外泥臭い仕事だったりもするので、そういった業界に関するネックな点も、今後の僕らのアプローチで変えていきたいと思っています。
会社単位での問題というより、業界の構造や付加価値の付け方に問題があると感じるケースも多いので。まさに今、観光業界におけるさまざまな問題点に、改めて向き合っているところですね。
平林:コロナ禍の大変なときだからこそ、それをチャンスと捉えて、改めて観光業の本質について向き合われているんですね。お話すごく楽しくて、まだまだ話足りないのでコロナ禍じゃなかったら飲みにいきましょう!って感じですけど(笑)。
これからの観光業を担う未来のリーダーたちの育成、そしてそこで生まれたリーダーたちの今後の活躍をとても楽しみにしています。本日は貴重なお話ありがとうございました。
Editor's Note
今、誰もが気になる観光業界の裏側について、じっくりお話を聞けた貴重な1時間!観光業界が歴史的な被害を受けているのにも関わらず、「ピンチがチャンスに。チャンスだからこそ楽しい」と語る清水氏の未来の展望、そして次世代のリーダー像を知ることができました。ピンチの時だからこそ、業界の本質に奔走した清水氏。その清水スピリッツを受け継いだ次世代リーダーの活躍を期待せずにはいられません!
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香