KUSHI,NAGO,OKINAWA
沖縄県名護市久志地域
目の前に出された料理は必ず食べる。
それが私の絶対ルール。料理を作ってくれた人、その食材を育ててくれた人、そして何よりせっかく生まれてきた食材の命が誰かに受け継がれずになくなってしまうのは「もったいない」と思うから。
そして「もったいない」は、決して机に運ばれてくる料理だけに存在するわけではない。
今回は、沖縄県名護市久志地域で行われたスタディツアーを通じて感じた地域の「もったいない」と、その「もったいない」に前向きに向き合う江利川夫婦の取り組みをお届けする。
そもそも何かを「もったいない」と思うのは、そのもの自体に価値があると自分自身が思っているからだろう。
江利川夫婦にとっての「もったいない」は久志地域で育てられているシークヮーサー。
「地域で余っているシークヮーサーですが、これは地域にとっての宝物だと思うんです」(江利川夫婦)
地域で昔から育てられているシークヮーサー。まちの所々でシークヮーサーが育っている景色は、地域の人にとってはごく当たり前の「日常」だ。そして、収穫しきれず、毎年久志地域では約400トンのシークヮーサーがそのままになってしまっている現状もまた、当たり前の「日常」として存在している。
そんな400トンのシークヮーサーを「もったいない」と思ったのは、江利川夫婦が移住者だったからかもしれない。日常に美味しくて健康的な(シークヮーサーには花粉症や冷え性改善、脂肪分解によるダイエット効果など多くの効能がある)シークヮーサーがある状況は江利川夫婦にとっての「非日常」だった。
せっかく農家さんが丹精込めて作ったシークヮーサーが収穫されずに放置されているのは「もったいない」。そんなふたりのもったいないから始まった活動が今、少しずつ変化を生み出している。
最初は江利川夫婦も何をしたらいいのかもよくわからなかった。中にはシークヮーサーにブランド価値をつけ、久志地域のシークヮーサーの何倍もの価格で販売している地域もある。いろんな加工を施し、市場で人気を集めている商品もある。
けれど、それはどれも久志地域には合わないやり方だと江利川夫婦は知っていた。
「あくまでも、余っているシークヮーサーがもったいないと思っているだけなんです。農家の皆さんはシークヮーサー以外にも多くの作物を育てていて、これ以上の大量生産や加工する体制があるわけではありませんし、それを望んでいるわけでもありません」(江利川夫婦)
あくまでも地域で余っている資源(宝物)を活用して、農家さんにもシークヮーサーを手にした人にも笑顔になってほしい。それが江利川夫婦の願いだった。
転機が訪れたのは、江利川夫婦が自身のInstagramに「シークヮーサーが大量に余っている」と投稿したことだった。瞬く間にコメント欄には「送ってほしい!」という言葉で埋め尽くされた。そして、投稿を見た料理人の江利川夫婦の弟さんが50kgのシークヮーサーを買取り、お店で提供してくれた。
「特産品のブランディングや商品開発ではなく、人と人が繋がることで地域の “もったいない” が活かされるのではないかと思いました」(江利川夫婦)
江利川夫婦はそんな仮説を元に実際に2018年11月に地域と県外の人たちを繋げるための2泊3日のスタディツアーを開催。
スタディツアー当日は、民泊体験などを交えながら、シークヮーサーの収穫体験をはじめ、シークヮーサー料理を食べたり、シークヮーサーの加工体験を行ったりする中で、久志地域やシークヮーサーを舞台とした新たな活用方法の話に花を咲かせていた。
特に江利川夫婦はじめ、現地のスタッフ(服部さん)が驚いたのは、シークヮーサーの収穫体験を受け入れてくれた農家さんの対応だった。
「今回収穫のお願いをした農家さんは、普段収穫のお手伝いにいきますねと言っても、畑にいないこともあり、正直スタディツアーの時にどうなるかなと不安だったんです。でも当日は誰よりも早く会場に来て、参加者のみなさんにイキイキと畑の話をしている農家さんの姿を見ることができて、本当に嬉しかったです」(服部さん)
そして、気づくとスタディツアーに参加した参加者は自然と「シークヮーサーが収穫されずに放置されているなんてもったいない」と口にするようになっていた。
スタディツアーの最終日になる3日目には、ただ「もったいない」という言葉だけではない、主体的な言葉が参加者の口から数多く飛び交った。
さらに、シークヮーサーの収穫体験を受け入れてくれた上里さんにも大きな変化があったそう。
「シークヮーサーの他にタンカンも栽培している上里さんは、今まで摘果したタンカンは全て廃棄していました。でもスタディツアー後は、摘果したタンカンをわざわざ僕たちのところまで持ってきて “ジュースにしてみんなで飲めえ!” と分けてくださるようになりました。」(江利川夫婦)
地域の人にとっては「当たり前」、江利川夫婦にとっては「もったいない」と思っていた地域の資源(宝物)。今回のスタディツアーを通じて少しずつ、地域の人も「地域の資源(宝物)」を再認識してきたのかもしれません。
久志地域に関わって、久志地域のことを好きになって、久志地域のことを一緒に考えてくれる人を増やしていく。江利川夫婦の挑戦はまだまだ始まったばかり。
それでも今回のスタディツアーを通じて、江利川夫婦や久志地域と参加者の間に見えない繋がりが生まれ、参加者自身が自ら「久志地域で何かしたい」と思いを馳せる場面が多かったことを考えると、江利川夫婦の想う “人が笑いながら” 地域をよくする未来に、久志地域が近づいたのは事実だろう。
江利川夫婦はこの経験を活かし、今後もシークヮーサーのスタディツアーをはじめ、久志地域との繋がりを作るイベントを開催していく予定。
まずはあなたも現地に足を運んでみてはいかがでしょうか? だって現地には、笑顔で大歓迎してくれる江利川夫婦と地域の人があなたを待っているのだから。
Editor's Note
「百聞は一見に如かず」
これは、ライターとして地域に関わる中で、私が日々感じること。現地に行って、自分の身体で体感しなければわからないことがある。むしろ、体感しなければわからないことの方が圧倒的に多い。この記事を機会に、久志地域や江利川夫婦、シークヮーサーに興味をもち、久志地域に足を運んでくれる方が一人でもいてくれたら嬉しいなと思います。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々