GUNMA
群馬
コロナ禍で加速したブームが落ちつき、市場の変化が叫ばれるアウトドア業界。
その中でもガイドは、仕事の量が季節や天候に左右されやすく、ガイド業のみで生計を安定させるのが難しい職業と言われています。
自然が好きで、ガイドの道へ。
やりがいがあるからこそ、新しいビジネスチャンスを模索したい。
変化の時代に、チームの形は?
好きなことだからこそ、スタッフやガイドの想いも大切にしたい。
そんなアナタに紹介したいガイドチームがあります。
群馬県みなかみ町を拠点に、アウトドアサービスを提供するワンドロップ株式会社。
冬は、雪山でバックカントリーやスノートレッキング。夏は、湖や川でカヌーやパックラフト(ひとり乗りボート)、山でトレッキングやキャンプ。
さらに、廃校を活用したキャンプ場や、キャンプ・アウトドアグッズ専門店なども運営しています。
そんなワンドロップは、アウトドアスポーツの聖地と呼ばれるみなかみ町で、「最強ガイドチーム」と呼ばれています。代表の宝利誠政さんに、そのチーム作りの秘訣を聞きました。
雪山用のスノーブーツにギア、焚火鉈。
まわりを囲む、タイダイ染めのTシャツやダルマ、オリジナルでつくる蜂蜜。
みなかみ町内にあるワンドロップのショップには、ブランドも種類もさまざまな商品が並びます。ガイドやスタッフそれぞれが、「欲しい」と思った道具・アイテムをそろえた、こだわりのお店です。
スタッフさんいわく「メンバーがそれぞれセレクトしているので、統一感はないですよね。でも、それが楽しい感じに仕上がっていて」。
商品のディスプレイにも、個性が出ます。たとえば、木材で製作した木のボード。知らぬ間に別の商品のディスプレイに使われていることも。
「気づいたらディスプレイになってて。ほんと、自由ですよね」と言いながら、スタッフさんが楽しそうに店内を案内してくれました。
個性のハーモニーに、まさに「ずっといても飽きない」場所でした。
ワンドロップが、利用者から「最強チーム」と言われる理由の一つが、多彩なスタッフ。
山岳ガイドやラフティングなど協会公認の資格を持つプロフェッショナルだけでなく、染め物職人、ネイリスト、ダンサーまで。
「好き」も「得意」も、まったく異なるメンバーが集まっています。
自然を体験するガイドツアーのほか、染め物体験やショップ、宿泊施設・キャンプ場の運営なども。メンバーそれぞれが得意なことを活かして、事業領域を広げてきました。
「同じ場所、同じツアーでも、ガイドによって楽しみ方は変わる。それができるのは、チームでアウトドア事業をやる強みじゃないかな」とワンドロップ代表の宝利さんは言います。
たとえば、湖をボートで周遊するツアー。宝利さんは、ガイド中は喋らないスタイル。一方で、話術で場を盛り上げるスタッフも。
「半日のツアーなら、2時間ぐらい。ずっと喋って楽しませることができて、それが得意なスタッフもいるんですよね。むしろ、僕はあまり喋らないんです。風や虫の音、動物や鳥の鳴き声。そこに耳を傾けてもらいたいから」(宝利さん)
ひとりひとりのスタイルを大切に。自由に、伸び伸びと。
「自分が好きなことを、熱意を持ってやってもらいたいんです。やりたいことをできるのが、一番モチベーションも高くなる。モチベーションが高くなれば、たとえば発信するブログの一言にも力が入る。それを見たお客さんには、感じてもらえることもあるんじゃないかなと」(宝利さん)
異なるバックグラウンドや経験を活かすことが、ビジネスにも直結するのでは。
こうした思いを背景に事業が広がってきたと、これまでを振り返ります。
事業が広がり、スタッフが増える中で、チームとしての活動に難しさも感じているそうです。
「正直、自由にしすぎたかなと思うところもあって。少ない人数で活動する中で、事業が多岐にわたっており、デメリットを感じることもあります」(宝利さん)
個人の「やりたい」と、ビジネスをつなぐ難しさ。
「たとえば、それぞれがやりたいことと、ビジネスとしての考え方が、チームの中でだんだんとずれてきて。具体的にいうと、求める働き方の違いとか。それが表面化して、チーム内で対立してしまったときもありました」と、苦い経験を振り返ります。
その壁を、どのように乗り越えてきたのでしょうか。
きっかけは、「チームビルディングの手法を学んだこと」にありました。
以前、みなかみ町がファシリテーターの養成講座を開催。
チームビルディングをまちの一つの強みとし、学校や企業の誘致を図ろうとした取り組みの一環でした。
その講座へ宝利さんも参加し、チームビルディングの手法を学びます。その後、さらに学びを深めた宝利さんは、自身がチームビルディング研修の講師に。ガイド業と並行して10年以上、まちの内外で研修するなど活動してきました。
「それまで、20代からずっとアウトドアガイドをしていて、僕もまわりもみな我が強かったんです。だから、『自分はこうだ!』と、つい意固地になる。ミーティングをしても結局、『みんなで頑張ろう』とはならなかったんですよね。
もちろん、やりたいことがあるのは、いいこと。自分のやりたいことを言うのもいい。
けれど、相手の話を聞いて肯定したり、真逆の意見でも『そういう考え方もあるか』と受け入れたり。その上で、相反する意見同士の接点を探し、落ちどころを見つけることも大事だと、身をもって学んでいきました。
チームビルディングの手法を学んでからは、相手に寄り添う気持ちや時間が増えました」(宝利さん)
今後は、これまでのチーム形成や研修での経験を活かして、チームビルディングのプログラムづくりにも力を入れていきたいと考えているそうです。
だからこそ、「まずは肯定から」というマインドをスタッフにも伝えています。
「チームビルディングの研修を利用者に勧めていくのだから、自分たちができるようにならないと。チームビルディングを学び、日々意識するようになって数年経って、会議で声を荒らげるようなことはほとんどなくなりましたね」(宝利さん)
事業の展望については、こう語ってくれました。
「ワンドロップで提供するのは、新しい形のチームビルディングにしたいんです。せっかく、みなかみという場所で行うので。
これまで何度もチームビルディングの研修に参加しましたが、場所や内容が変わるだけで、結局、話し合いの時間が中心になっているものがほとんどでした。それは誰でもできるし、おもしろくないなと。
自分たちだからこそできるフィールドワークをしながら、マインドやモチベーションを変える。それで、チームワークを高める。そんな研修を目指しています」(宝利さん)
チームのあり方を常に変化させてきたワンドロップ。それは、事業づくりにも通じます。
たとえば、ガイドが生み出す体験価値の一つ、ツアーのエンターテインメント性。
ガイドは、演出のために、10メートルの岩場からバックフリップをしながら飛んだりすることも。
「20代なら一日に何十回もできるものが、40代50代になると、怪我をしたりと、だんだんリスクになってくる。
自分も含め、近い年代のスタッフも、どうしても身体的なパフォーマンスは落ちてくるんですよね。でも、この業界でずっと働きたい。パフォーマンスが落ちても、継続して活動していけるような展開をつくっていきたいんです。それが、一つの展望です」(宝利さん)
これまでワンドロップが提供し続けてきた、「お客さまを楽しませるツアー」。スタッフの特性に事業を合わせる形で、これからは、講習や登山教室といった新たな事業へのシフトを模索しています。
つまり、常に成長し続ける、ということでしょうか。
その問いに、宝利さんの答えは。
「チームを変えなきゃいけないというのは、常に思っています。毎日、思っています。
『明日は今日と同じ』ではダメだと。チームを変えることを、ずっと考えています。
成長して、それが混乱して、また戻って。それがまた成長につながって。一度、成熟したら、解散して。それをずっと繰り返すイメージです」(宝利さん)
「一滴から始まる大自然。お客様と作るツアーは楽しみ無限大!」
「ワンドロップ」という会社名に込められた想いです。それは、夏は川や湖、山。冬は雪山。一滴からはじまる冒険をずっとしてきたから。
みなかみ町に移住する前は、カナダに住んでいた宝利さん。日本雪崩ネットワークのプロフェッショナルメンバーに認定され、ワンドロップでは雪崩講習会も開催しています。
それゆえか、取材の中でたびたび言葉にしていた「リスク」というキーワード。
リスクも伴う雪山のツアーは、ツアーを5段階のレベルに分けています。ワンドロップのツアーに初めて参加する場合は、入門ツアーや初級ツアーから。中級以上はステップアップして参加するスタイルです。
そのリスク管理に対する真摯な姿勢は、利用状況にも表れています。
湖のツアーは新規の利用者が約8割〜9割に対して、雪山のバックカントリーなどのツアーは、新規の利用者は3割ほどになるそう。
スタッフの個性や得意をもとに事業とチームを変化させながらも、「ここぞ」というリスク管理は外しません。
そんなツアーでは、リピートする利用者から、「タフ」と言われることが多いのが宝利さんのガイドツアー。
「いつも終わった後に、『やりすぎた』と。そういう感じですね。それはスタッフにも言われます(笑)。ちょっとやりすぎでしたね、と。
よく利用されるお客さんには、『トモさん(宝利さん)のツアーでは、大丈夫ですか?と聞かれたら、大丈夫と言ってはダメだ』と言われています。先に行っちゃうんです。自分が楽しくなり過ぎちゃって」(宝利さん)
みなかみ町でアウトドアガイドをはじめようと思ったのも、宝利さん自身の「楽しそう」が根っこにあります。
「みなかみ町は首都圏から近いけれど、まるで未開の地のような場所。すごく奥が深い地域です。
谷川連峰は、玄関口が谷川岳のみ。アプローチとしても、登山口や登山道はありますけど、基本的に歩かなくてはいけない。自分の足で行かなきゃいけない。
この場所にビジネスチャンスを感じたというよりも、僕がまず行きたいなって」(宝利さん)
「リスク」と「楽しむ」ことへのこだわりに、リーダーとしての「冷静」と「情熱」のバランスを垣間見たようでした。
「いつも最高の笑顔で、タフにガイドをしてくれるワンドロップさんは、チームビルディングのファシリテートの経験値もとても豊富で、このグルーヴ感は彼らだからこそ生みだせる体験」。
チームビルディング研修に参加された企業の声です。
個性が響き合うビジネスに、変幻自在に進化するチーム。
そこから生み出される唯一無二の「グルーヴ感」に、事業を切り拓くヒントがあるのかもしれません。
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本記事はインタビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。
Editor's Note
取材前に印象的だったのが、「楽しすぎてもう少し体験したかった」「はしゃぎ過ぎた」というツアー利用者の口コミ。取材を終え、その世界感にちょっと触れられた気がしています。「最強チーム」からどんなチームビルディング研修が生まれていくのか、とても楽しみです。
Mayumi Yanai
柳井 麻友美