レポート
近年、組織内部のイノベーションを促進するために、積極的に内部と外部の技術やアイデアを活用する「オープンイノベーション」という言葉が話題となっています。
そこで今回、北海道上士幌町を舞台に開催した地域経済サミット「SHARE by WHERE」では、「オープンイノベーションによって付加価値を生み出す地方創生」と題したトークセッションを開催。
「ただ人を集めればいいという訳ではない」「いかに心を開けるかが重要」様々な視点から意見が交わされた本セッション。最前線でイノベーションに取り組む登壇者の思い描く、オープンイノベーションとはーー。
高嶋:そもそも本当に地域でオープンイノベーションって必要だと思いますか?
五十嵐:内部じゃ進められないから、外から戦力を入れる必要があるってことなのかなと思っています。例えばサッカーならJリーグ開幕のときのアントラーズが、世界のサッカーをとりいれるべくジーコを呼んだみたいな。最初からオープンイノベーションをしようと思ってしたわけではないケースがほとんどだと思うんですよね。
地域でも、地元の人だけではできないから、もうこれ無理じゃんって外の風を入れることをイノベーションって言うと思うんですけど、そんな仰々しい言葉使わなくても至って普通のことですよね。
金澤:北海道ってホワイトコーンやワインのようにブランドできる物が多数あって、すごくポテンシャルを持ってるんです。でも、その価値を買ってくださる方にきちんと伝えるというのはまた別のスキルが必要でして。
他者が自分たちと違う優先順位で大切なものを持っていると認識した上で、自分と異なる人達と理解をし合うことが、オープンイノベーションの肝だと思います。
どちらのスキルの方が優れているということではなく、上士幌には農畜産物を始めとして素晴らしいスキルを持ち常に研鑽している人たちもいますし、都市には同じようにクリエイティブやマネジメントの研鑽をしている人たちもたくさんいます。
両者がお互いに敬意を持って、お互いの仕事の仕方などの違いを理解しながら、お互いのポテンシャルを引き出していけるかっていうのがオープンイノベーションの余地かなと。
森田:役場って日々の業務に追われてめっちゃ忙しいんですよね。その中で地方創生をやろうってなっても、人材のリソースが足りない現状があります。
課題も多様化してきてて右向け右ではもう対応できないし、公務員は公務員しかやってないから過去の成功体験以外の知見もない。なので、新たな発想を入れないと新たな解決策は見つからないと感じていました。
そんな中で僕らはアナザーワークスという複業人材の会社と出会って、DXと広報と人事といった複業人材を募集したんです。外部から役場に複業人材を入れて民間の力を借りたいなと思いまして。
森田:それが本当に衝撃体験でした。まず会議の仕方が違うんですよね。1時間なら1時間でどこまで進めるっていうアジェンダがあって、全然民間の人はダラダラしない。私たちは今まで何やってたんだろうって思いましたね。
あと民間の人と行政職員では喋ってる言葉が全然違う。職員はアジェンダなんて聞いたことがないし、文化の違いがあるんです。こういう刺激を受けて、職員から「分からないことが分かった」って言われたのが一番嬉しかったですね。人の変わるきっかけになれたので。
高嶋:たしかに、スキルが無いところに、外から持ってくるっていうのは、オープンイノベーションという文脈ではヒントになってくるかなと思います。
高嶋:福田さんから見て、これ失敗だった、これよかったっていう具体的な事例ってありますか?
福田:結構初期って意気込んでも上手くいかないんですよね。みんなの意見を出して一緒にやっていきましょうって話では難しいので、まずはとにかく「一緒に場を楽しむ」っていうところがスタートなのかなと感じます。
何でもいいんですよ、バーベキューでも。お互いに立場も違うし知らない人同士だったりするので、なるべくまずはお互いを知ろうっていうことで。
一緒に楽しい時間を過ごして同じ時間を共有するっていうところからスタートして、何か新しい価値を生み出すことを、少しずつステップアップして進めていくことがすごく大事だなっていう風に思います。
五十嵐:最初、外の風を入れようとしたら、多分みんなガード上げちゃいますよね。安定を求めて公務員になった人もいる中で、「変えるぞ」ってめちゃくちゃ大変だよなって思います。
森田:最初の声はほんと凄かったです。「なんでそんなことやるんですか」って。なので「こういう思いでやりたいんだ」っていうのを、めっちゃ話しましたね。
やってみたら真剣に町のことを考えてくれる熱い人が外部にいることに気づいたし、すごく変わっていきました。
金澤:森田さんが言ったような「言語が違う」は私も感じていて。同じ日本語話者同士で「言語が違う」というのは、話をするときの前提が違うということ。
同じ土地や職場で同じ仕事をしているとわざわざ言葉に出さなくとも伝わるものが多いですが、自分たちと違うキャリアや文化を持った人に説明するには、相手の分かる言葉にする必要があります。
言葉遣いだけではなく、例えばビジネスをするにしても、株主利益の向上を目指す上場企業と、雇用を守り、次の代にもつなげていくことを目指す地域企業では全く異なります。地域や関わる人によって、優先度の高いものは違うんですよね。
そういう意識できていない違いを埋めずに「合理的だからやりましょう」というのはやはり乱暴で、それを埋めるためには町長や役場と話すだけではなく、住民の人と友だちになる。最初に福田さんがおっしゃっていた「バーベキューで仲を深める」というような、違いがあっても乗り越えて一緒にやりたいと思える関係性をつくることから始めるのが全てだと思います。
金澤:役場の人たちも、外から来た人たちを仕事としては相手にしてくれますけど、自分の地域内での信用を貸し与えてでも地元の仲のよい人を繋ぎたいと思うかどうかは値踏みします。そこに応えられる熱意と仕事の品質をもって、役場の人と仕事をすれば地元住民の人に会わせてもらえるかなと。
「よくわかんないけど、この人と一緒にやってみたいな」っていうような関係。そこから入ってもらわないと、なかなか地方でものはできないと思いますね。
高嶋:オープンイノベーションってつまり心をオープンにするって事なんですかね。
金澤:そうですね。まずは心を開かないと。相手が違う文化にいるのをちゃんと理解した上で心を開かないとダメです。経営資源を主にお金で獲得する都市と、お金と地域内の関係性の両方を経営資源に使っている地方とはビジネスでもコミュニティでも原理が違うので。
海外の企業を買収するときは、原理が違う前提でコミュニケーションがとれるのに、東京から北海道へ行くと、なぜか東京と同じように振舞ってしまうんですよね。
高嶋:人と知りあうという意味では五十嵐さんも場づくりに力を入れてると思いますけど、どんなきっかけだったんですか?
五十嵐:「場」って結構広い範囲の話だなって感じたんですよね。何億という大金をかけて大きな建物を作るより、面白い人が1人でも2人でも地方へ移住したほうが町は変わるじゃんって思ったのがきっかけです。
高嶋:場があると人が寄ってきますけど、人が繋がっていくのはまた別の話かなと思っています。都市のコワーキングスペースはオフィスの代替えでしかなくて、繋がる体験はあまりないように感じます。
五十嵐:そもそもコワーキングスペースは「家賃高い」「カフェ満席で打ち合わせ場所を探すの大変」という都市だから成り立っているもので、地方では成立しない部分って多いんです。でも、その場自体に意味がないことは無くて、旗印としての機能があるんですよ。
例えば、旅行やUターンで地元にもどった時に立ち寄ってみると、地元で新しいことをやってる人の話を聞けるという意味はあるかなって思ってます。
森田:結局は人なんですよね。楽しい人たちが楽しいところに集まってきて、そこに地元の人が交流する場をどうデザインするかっていうのは、すごく大事だと思います。
五十嵐:だからスナックでもいいんですよね(笑)。
高嶋:前半はオープンイノベーションって大事なのは人だよね、変化だよねと話が展開していったと思うんですが、オープンイノベーションの必要性についてはどう思いますか?
金澤:場合によりけりですね。オープンイノベーションを地域側が何に使いたいかという目的を持つことが必要ですね。あくまで手段でしかないので、目的化してはいけないかなと思います。
森田:私は絶対必要だと思いますね。コロナ禍を通じて、町が変化に強いか弱いかでこれから差が出てくるなと感じています。
今までできなかったことができるようになるのに「やるか、やらないか」で大きく変わってくるし、地元の人もやれることとか、やりたいこと、もっと自由にできると気づいてくるので、各所の連携をしっかりとすることが大事だと思います。
森田:私が最近言ってるのは「まちづくりを行政はやめる」ってことなんです。インフラと福祉は絶対にやるけど、皆さんのやりたいことをやってることがまちづくりじゃないかと思うので、そういう人たちにどう伴走してやりたいことを実現していくかを考えています。
福田:私は心をオープンにすることが本気で必要だと思っているので、そういう意味では必要だと思ってます。イノベーションは絶対1人では無理ですしね。
五十嵐:北海道は課題先進地域と呼ばれていて、僕が今関わっている積丹町は人口1,800人でかつ、1年で出生者は4人の、まさに課題先進地域。
温泉も税金で運営してたのに、もう立ち行かなくなって民間で誰かやってくれないかという声があがったので、僕が始めたんですけど、これもオープンイノベーションって呼ばれるようになるのかなって思います。単純に温泉をやるだけじゃなくて、仲間や企業、地元と一緒にこの地域の可能性をつくっていこうっていう。
五十嵐:積丹町は、オープンイノベーションがないと、きっとこのまま滅びていく町なので、絶対にオープンイノベーション必要だと思うし、私は今ちょうどそこを仕掛けていこうと思ってるので、チョー皆さんに悩みを相談したいところなんですよね!
一同:(笑い)
福田:すごい心開いたね!(笑)
高嶋:皆さんの話を聞いていて、スナックとかで住民同士が「この街がもうなくなるからどうしようね」って、課題を話し合うとかくらいまで、自分事化する場を作るか、どうやって巻き込んでいくかってところはすごく重要かなと思いました。本日はありがとうございました!
YUYA ASUNARO
翌檜 佑哉