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※本レポートはインバウンドサミット実行委員会主催のイベント「インバウンドサミット2023〜チャンスを活かせ〜」内のトークセッション「オーバーツーリズムをどう解決するのか?」を記事にしています。
コロナ禍での渡航制限も解除され、急速に回復しつつある海外渡航客の数。まちで訪日観光客を見かけることも、もう珍しくありません。そこで再び注目を集めているのがオーバーツーリズムです。
オーバーツーリズムとは、観光地の受け入れのキャパシティを遥かに超える観光客により、そこに住む人々が弊害を受けたり、旅行者の満足度を大幅に低下させたりする状況のこと。
本記事では、急速に回復するインバウンド需要を背景に、インバウンド事業の第一線で活躍する4名が、オーバーツーリズムの課題をチャンスと捉え、これから地域が何に着目して観光戦略を立てていくべきか語り合いました。
前編記事では、インバウンドや観光業に第一線で活躍する登壇者がそれぞれ「オーバーツーリズムをどう捉えているか」を主にお届けしました。
林氏(モデレーター、以下敬称略):続いて、泉谷さんにオーバーツーリズムの解決についてお話をお聞きしたいと思います。株式会社Airporterの取り組みを交えながらお話いただければと思います。
泉谷氏(以下敬称略):Airporterでは、インバウンドでいらした訪日外国人をターゲットにしています。彼らの荷物は大きいですし、数が多いです。これが、具体的にどこへ影響が出ているのか。 例えば、バスの中で荷物が邪魔になってくる。冒頭で林さんがおっしゃっていた、京都の市バスが一日乗車券を廃止してしまったことも、こうした荷物が邪魔になっていたことが原因の1つだそうです。
この問題に対してAirporterは「まちの中から荷物を無くしましょう」をテーマに事業を展開しています。観光客の大きな荷物が無くなったら、地元の方も普通にバスや電車に乗れるようになりますね。
基本サービスは、旅の最終日に東京のホテルで荷物を預けると夕方以降成田や羽田空港で荷物が受け取れるというサービスです。そして、さらにサービスを進化させ、東京のホテルで荷物を預けると海外の到着空港で受け取れるというサービスをつくりました。これをシティチェックインと呼んでいます。
泉谷:こうすることで観光客にはいいことが2つあります。1つ目は旅の最終日に重い荷物を運ばなくていいこと。 2つ目のメリットは、空港で荷物を預けるために航空会社のチェックインの行列に並ばなくてよくなることです。
なぜAirporterがこのサービスをつくったのか。もちろん私の経験もありますが、もう少しマクロに見ていくとですね、国際航空運送協会(以下、IATA)の発表が関係しています。IATAが発表した動画で「これからの世の中では、 まちの至るところで空港チェックインができるようになる」と言っています。 まちの至るところで荷物預けができるようになるということを、動画の中でものすごく訴えてるんです。
では、なぜシティチェックインを推進したいかという話ですよね。本日は観光に携わってる方が多いと思いますが、コロナ中に「2024年にならないと観光は元へ戻らない」と言われていたと思います。
加藤氏(以下敬称略):言われましたよね。
泉谷:当時は「あと3年か」と思ってました。その時のデータの出元が実はここでした。このデータを見ると、世界の旅客の推移が急激に下がったのがコロナ禍の時です。現在はインバウンドがだいぶ戻ってきていることがわかりますが、まだ100パーセントまでは戻ってきてません。
でも大事なのは、この先の予測値なんです。この推移予測は、2040年には現在の倍の数の旅行者が訪日すると示しています。その時に問題になるのが「どうやって受け入れるか」です。まず入口を増やすために、残り15年で空港の建設や滑走路を増やせるのか。なかなか難しいですよね。そこでIATAが提案しているのが、空港の持つ機能を空港の外に出していく、いわゆるオフエアポートです。
このオフエアポートという考えは主流になりつつあり、コロナ禍では非接触化が進んだこともあり、各航空会社がオンラインチェックインができるようになりました。日本の不思議なところは、人はオンラインでチェックインができるのに荷物を預けるために行列に並んでいることです。そこをAirporterは解決します。
泉谷:Airporterとしては先ほど言いました通り「荷物を全部無くしてしまおう」ということに挑戦しています。これがオーバーツーリズムの問題の1つを解決することに繋がってきています。シティチェックインは、「MUIC Kansai」(ミューイックカンサイ)の支援を受けて関西で実際に実装が始まっています。
林:Airporterの取り組みは、まち中の公共交通期間の混雑緩和という意味で、オーバーツーリズムとダイレクトに結びついているんですね。
—以下候補—
①DXとインバウンド消費でマネタイズ。課題解決のビジネスモデル
②並ぶ、待つ、難しい…。外国人観光客の悩みをDXのチカラで解決する
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林:それでは加藤さんにも、オーバーツーリズムの解決の取り組みについて聞かせていただきましょう。
加藤:WAmazingという会社が、オーバーツーリズムのピンチをどうチャンスに活かしているのかをお話します。冒頭で紹介した「住んでよし、訪れてよし」ですが、オーバーツーリズムによってバランスが崩れてしまっている状態だと思っています。
WAmazingの取り組みとして3つ紹介させていただきます。1つは「労働力不足の解消」です。お客さんはどんどん来るけど、担い手やサービスが足りないていないという事業者の悲鳴をよく聞きます。
2つ目は「人数と消費額のバランス」です。 私は鎌倉に10年間ほど住んでいました。 鎌倉には年間2,000万人の観光客が来るんです。こんなにたくさん人が来ても、泊まるところがほとんどなくて日帰りばかりで、観光客はランチ代とお土産代で数千円しか使わないんですよ。
加藤:宿泊旅行になると、1人当たりの消費単価は5万円ほどと大きく変わります。ここが崩れてしまうと、たくさん人は来ても地域に経済効果がなくなってしまう。鎌倉については住んでいた時に、実際にそう感じていました。
3つ目は、さっき久保さんのお話にもありましたが「場所や時間を分散化していく」ということですね。
オーバーツーリズム解決策の事例の1つとしてJR東日本の成田空港駅の施策を紹介します。コロナ前、成田空港駅のJR 東⽇本訪⽇旅⾏センターには2時間の行列ができていたんです。JR6社合同で発売している「ジャパン・レール・パス」やJR東日本が発売している「JR TOKYO Wide Pass」などインバウンド向けの乗り放題パスの発券行列でした。
加藤:訪日外国人向けのサービスなのでパスポートやバウチャーの確認を窓口の方がする必要があるんですが、チケットごとに確認方法が異なる煩雑さがあり、窓口の数も限られるので行列ができていたんです。数時間かけて日本に着いたと思ったら、ここでさらに数時間並ぶという事態が起こっていました。
そこでWAmazingのOTA(=オンライントラベルエージェント)サービスで、JR東日本の発売するインバウンド旅行者向け乗り放題切符をいくつか販売させていただけることになりました。購入すると二次元コードが発行され、空港などにある発券機で二次元コードとパスポートを読み取ると切符がで受け取れるようになったんです。
この発券機は成田空港にもあり、24時間稼働しているので窓口営業時間外に到着した旅行者も切符を受け取れるし、行列に並ばなくても切符が受け取れます。例えば、24時間シフト制で窓口で対応できる外国語も可能な職員を配置するのは大変なことなので、労働力不足・人手不足の1つの解決策にもなるのではと思います。
加藤:次に「人数と消費額のバランス」についてです。2019年のコロナ前ではインバウンドで来た3,188万人が4.8兆円を日本国内で使っていました。1.7兆円が買い物による消費で、その内1兆761億円が消費税免税で購入されていました。 しかし、当時は免税を受けるためには、煩雑な手続きが必要で、こちらにも行列ができていました。
消費税には、消費税法という根拠税法があり、その上で消費税免税の手続き方法も決まっています。この消費税法が2021年10月に改正されました。例えば1つの改正ポイントが、免税手続きの完全電子化で、もう紙やハンコを使っての手続きはできなくなっています。
もう1つが、今まで対面で人を介して行っていた手続きを、機械を通して行っても良いという風に変わりました。そこでWAmazingが新しい税制に合わせ、DXされた免税体験をつくったんです。専用のECサイトでインバウンド旅行者の方には旅マエもしくは旅ナカに買い物(購入予約)していただきます。今1万点ほどの商品が掲載されています。
最後に受け取り空港を選んでいただきます。最終日に空港で「購入予約完了2次元バーコード」と「パスポート」を機械に読み取らせ、受け取りにきた購入予約者ご本人の顔認証をするとロッカーが開いて商品を受け取れるということになります。
加藤:これで旅中は手ぶらで観光できます。さらに泉谷さんのAirporterと組めば、到着空港で受け取れるというようなことになりますね。
最後に、先ほどから散々話題になっている京都の市バス問題です。京都の市バス乗り放題切符は一応廃止されたんですが、実は新しい切符が登場しています。市バスと市営地下鉄の組み合わせで、1日乗り放題で1,100円です。京都市としてもバスで行ける範囲だけではなく、電車を利用してもらって分散させたいんですね。
現在この切符を先程JR東日本の事例で紹介した発券機で販売することを提案してます。 ただ、1,100円という単価だと、機械へチケットを詰める人件費や機械設置のテナント代などを考慮するとWAmazing側利益が残らない可能性があります。そこで久保さんからお話いただいたネイキッドさんが提供しているような高付加価値な体験と組み合わせて、交通切符付きの1万円の体験チケットだったら京都での消費額も向上できるし、場所の分散化もできる上に、さらに労働力の削減にもなるので、三方良しになるのではないかと思っております。
WAmazingとしては、これからもDXとインバウンド消費で日本と地域経済を再興して「住んでよし、訪れてよしの国づくり」に貢献したいと思っております。
林:最後に皆さんから、今日のセッションを踏まえて一言ずつコメントをいただきたいとおもいます。では、泉谷さんからお願いします。
泉谷:今日みなさんとお話して思ったことがあります。今日話したことって、たぶん「見えてるオーバーツーリズム」についてだなと。「見えてないオーバーツーリズム」があると思っていて。それは、僕たち受け入れ側の心持ちの話ですよね。
幼いころに上海へ引っ越したことがあって、バスの乗り方1つでも文化が違うってことに驚いたんです。インバウンドが増えていくなかで、そうしたカルチャーの差によるオーバーツーリズムが絶対増えてきます。日本全体でインバウンド受け入れましょうという心持ちが必要だなと思います。それが最後に気になったところですね。
林:ありがとうございます。では、久保さんお願いします。
久保:日本は人口が減少しているので、国内の消費はどう頑張っても上がりづらい。そうなると国際化の流れの中でビジネスをしていくことがマストな状況です。やはりこのオーバーツーリズムの問題に対してしっかり向き合うことが、一番のチャンスではないかと今日お話を聞いていて思いました。
林:ありがとうございます。最後に加藤さんお願いします。
加藤:どうしてもオーバーツーリズムというとネガティブな報道が目立ちます。でも2030年にインバウンド消費が15兆円になると、これは日本最大の外貨獲得産業になるかもしれないんですよ。自動車輸出を超えていきます。
消費意欲満載の旅行者に日本の素晴らしい所やものをたくさん消費していただくという観点はすごく大事です。これをきっかけに、オーバーツーリズムをネガティブなだけでなく前向きに向き合って、しっかり儲けていくことができればなと思っています。
林:それでは、セッションを終了したいと思います。オーバーツーリズムという裾野が広いテーマでしたが、皆さんにもお示しいただいた通り解決策もたくさんあるとわかりました。ありがとうございました。
Editor's Note
インバウンド消費が自動車輸出額を超える可能性が大きいことに驚きました。それほどの受け皿が日本に整っているのでしょうか。自分の住んでいる地域で、訪日外国人向けにどんなコンテンツが創出できるか、みなさんも考えてみるとビジネスチャンスが見つかるかもしれませんね!
DAIKI ODAGIRI
小田切 大輝