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Twitterフォロワー9万人以上、ゆるキャラグランプリNO.1の生みの親!超公務員・守時健の「ウケる」企画の作り方

OCT. 01

拝啓、「ウケる」企画をつくりたいあなたへ

私の記憶が確かであれば、私が初めて彼と会ったのは弊社のオフィス。確か彼は大仏の被り物をしていた。

私の記憶が確かであれば、私が二度目に彼と会ったのは高知県須崎市役所。確か彼はフランスからの出張帰りだったとかで、大きなフランス国旗(オリンピックで陸上選手が走り終わった後に身にまとっているやつ)をこれまた陸上選手と同じように身にまとっていた。「僕のことフランスさんと呼んでください〜」と、不思議な言葉を残して私の目の前を2回通り過ぎたと思う。

さて、この彼の職業がお分かりになるだろうか。彼は「公務員」だ。しかも、市の公式マスコットキャラクターをたった4年でゆるキャラグランプリに輝かせ、市のふるさと納税の納税額を2年間で200万円から10億円近くまで増やした超やり手職員。

彼の強みは何と言っても、ウケを狙ったPR。今回は彼が思う「ウケる企画の作り方」についてお話を伺いしてきた。

写真左:守時 健 氏、右:高知県須崎市公式マスコットキャラクター「しんじょう君」/ 1986年生まれ。岡山県倉敷市出身。高校時代はバンド活動と読書に明け暮れ、卒業後は愛知県豊田市で自動車メーカーの期間工として働いたり、大阪市でフリーター生活を送ったのち、大学へ入学。大学時代に訪れた高知県須崎市を気に入り、そのまま須崎市役所へ就職を決める。須崎市のマスコットキャラクター担当に自ら名乗りをあげ、その後「ゆるキャラ」と「ふるさと納税」を掛け合わせた事業で、2014年度には200万円だった市の納税額を16年度には10億円近くまで増やした。
写真左:守時 健 氏、右:高知県須崎市公式マスコットキャラクター「しんじょう君」/ 1986年生まれ。岡山県倉敷市出身。高校時代はバンド活動と読書に明け暮れ、卒業後は愛知県豊田市で自動車メーカーの期間工として働いたり、大阪市でフリーター生活を送ったのち、大学へ入学。大学時代に訪れた高知県須崎市を気に入り、そのまま須崎市役所へ就職を決める。須崎市のマスコットキャラクター担当に自ら名乗りをあげ、その後「ゆるキャラ」と「ふるさと納税」を掛け合わせた事業で、2014年度には200万円だった市の納税額を16年度には10億円近くまで増やした。

ゆるキャラNo.1を勝ち取った男にとっての「ウケる」とは「戦略的な共感」

醸し出される雰囲気やそのルックスに反して、「公務員」という肩書きを持つ守時氏。彼に信頼を置く上司からも「謎多き男」と称される彼は、取材スタートから、破天荒なエピソードを繰り広げる。

「大学時代には廃墟に(こっそり)侵入して、写真を撮る廃墟部というサークルを作りました。撮った写真をアップするサイトを運営していたんですが、めちゃくちゃ好かれるか、めちゃくちゃ嫌われているかのサークルでしたね笑。ちなみに(こっそり)侵入して撮っているので、いつも大仏の被り物をして写真に写っていました笑」

その一方で、須崎市役所に入庁後、圧倒的実績を叩き出している守時氏。5年前から公務員として、須崎市の公式マスコットキャラクター「しんじょう君」を開発、現在ではフォロワーはなんと9万超え、1回の投稿で3,000いいねがつく超人気キャラは、フランスのJAPAN EXPOに出演するほどまで広まっている。

まさに「ウケる」コンテンツを発信し、話題を呼び続けている守時氏。近年PRにおいてSNSが欠かせない中で、圧倒的な「ウケる」コンテンツを生み出し続けている守時氏にとっての「ウケる」とはなんなのだろうか。

僕にとっての『ウケる』は『共感』ですかね。人は共感をすると、興味を持ってくれる。この『共感できるもの』をネタにすることで、『ウケる』ものができると思っています。
守時 健 / 高知県須崎市

例えば「オカンが腹立つ」という発言に対して、共感する人は限りなく多い。けれど「納期ギリギリになってデザイン案を大幅変更するクライアントが腹立つ」という発言に対して共感する人は限りなく少ないだろう。

守時氏は、この広く浅く共感を受けるコンテンツと、狭く深く共感を受けるコンテンツ両方を織り交ぜることが「ウケる」をつくる上では大切だという。

「市のPRをする時って多くの方が『なになに市のなになにが〜〜』って紹介するんですが、ぶっちゃけみなさんそんなの興味ないじゃないですか。このみなさんが興味ないものをどう面白くみせていくかを大切にしていますね」

ヒットに至るまでの鬼のような分析

守時氏が「ウケる」を生み出す上で、大切にしていることはあるのだろうか。

世の中は同じことを繰り返していると思っていて、僕はご当地キャラクターが新しいものだとは思っていません。むしろ着ぐるみなんて太古の昔からあった。着ぐるみとSNSと掛け合わせたことによってブームが起こったのだと思います」

新鮮で「ウケる」ものは、突如として生まれるわけではない。古いものと古いものを掛け合わせることによって新しいものが生まれ、それが「ウケる」に繋がっていくと守時氏は考えているのだ。

「基本、笑わせようと思って生きていますし『ウケる』にも傾向があるので、めちゃくちゃ分析しています。写真の画角とか、動画の長さとか、基本ビビリで能力も高くないので、本をたくさん読んで勉強で補填しています」

大学時代は推測統計学を専門に学んでいたという守時氏は、鬼のように分析を欠かさない。しかしそれでも「いける!」と思ったものが全くウケなかったり、反対に「これは無理かな」と思ったものが、ものすごくウケたりするときもよくあるんだそう。「成功したものよりも失敗したものの方が多いかも」と守時氏は笑う。

「あとは、他のご当地キャラがやらないことを積極的にやっています。もともとキャラクターとか全く好きではないんですよ(笑)だから俯瞰できている部分もあるのかもしれません」

守時氏は、早くからしんじょう君にストーリー仕立てのブログを取り入れるようアドバイスしたり、最近では市にできた海洋スポーツ施設の滑り台から海に飛び込むといった挑戦までしているのだそう。

「そもそも『ウケる』をつくるのにご当地キャラは、効率がいいんです。キャラクターは『情報発信ツール』だと思っていて、究極キャラクターでなくてもいいんですが、市の広報誌は読んでくれない人でもキャラクターなら見てくれたりするじゃないですか。キャラクターはできることも多いので、バリエーションが広がるんです」

絶景や食とは違い、キャラクターはファンと触れ合うことも、移動することも、海に飛び込むことだってできるため、『ウケる』幅が広くつくれることまで分析した上で、守時氏は市の公式マスコットキャラクターをつくることを決めた。

しんじょう君が4年でゆるキャラグランプリの王者となったのは、決して偶然なんかではなく、守時氏の「事前情報収集力」と「分析力」の上に裏付けされた「必然」なのだ。

どんなに怪しい撮影でも怪しまれない、公務員だからこそ生み出せる「ウケる」

そもそもここまでヘンタイ(2回目)の守時氏が公務員という道を選んだのは、どうしてだったのだろうか。

「田舎暮らしにずっと憧れていて、大学生の時に偶然、旅行で須崎市に来たことがあったんです。その時やっていたメジカ祭りで、酔っ払ったおばあちゃんがステージに乱入して警備員に捕まって連れていかれるのを見て、『うわっ、この人たち大学生みたいなノリで生きてる、ここでなら楽しく生活できるかも』と思って、気づいたら須崎市役所を受けただけで就活が終わってたんです」

もうこれは「守時氏らしい回答」とすら思えてくる私は重症だろうか(笑)「何か実現したいものがあって須崎市役所に入ったわけではない」という守時氏だが、一方で市役所にしかできない、けれど今までやれてこなかったことをしたい、という気持ちが最初からあったという。

「例えば近所のお寿司屋さんに行って『キャラクターの面白動画を撮影してもいいですか』って言っても、怪しまれて許可をもらえないことがほとんどです。でも公務員だと、安心して許可してもらえることが多いんですよ」

例え自分が絶対に『ウケる』コンテンツを思いついたとしても、実際にそれを実現させるためには周りの理解や協力が必要な場合が多い。社会的に信頼を置かれている公務員だからこそ、例えどんなに怪しい動画の撮影であったとしても怪しまれずに挑戦できる『ウケる』があると守時氏は言います。

型破りな公務員は、誰よりも公務員らしい公務員だった

須崎市役所に入った当初は髪を短く整え、ネクタイにメガネ姿だったという守時氏が、今ここまで個性を発揮しているのは、入庁1週間後にある人から言われた一言だった。

その人物とは、楠瀬市長(現高知県須崎市市長)。「個性を生かし、やりたい事をやってみたら」と声をかけられたという。

それをきっかけに、町おこしに必要な産業転換、都市計画、情報発信の中から「情報発信なら、1人でも努力すればできる」という理由から、キャラクターを使った情報発信のあり方をA4用紙70ページの提案書にまとめ、5年でゆるキャラグランプリを制覇すると宣言。グランプリ制覇の目標を1年前倒しで実現し、2014年度に200万円だった市のふるさと納税額を16年度には10億円近くまで増やした。

しかし、この大成功に守時氏は至って冷静なように見える。なぜだろうか。

ゆるキャラグランプリもふるさと納税も、あくまでツールのひとつだと思っています。僕の最終的な目標は、市民の暮らしを少しでも良くすることなので、どちらも通過点にすぎないんです。
守時 健 / 高知県須崎市

目の前にチャンスがあるなら、無理してでもやる道を選択するという守時氏。最後にその原動力について聞いた。

「僕執念深いからな(笑)何より、しんじょう君のファンに喜んでもらうためにやっています。本当に多くの人に支えられてここまできたと思っているので、最大限の努力と結果を出さなければと思っています」

守時氏は、しんじょう君の認知度を上げ、ファンをつくることで実際に須崎市に足を運んでもらい、須崎市の活性化にも繋げてきた。公務員としての実績も、プライベートも型破りな一面を持つ彼は、誰よりも市民とファンを大切にする誰よりも公務員らしい公務員でもあったのだ。

Editor's Note

編集後記

これまで取材した方の中でもずば抜けて破天荒な守時さん。ですが、その根っこには、真面目で誠実な思いや地域との向き合い方があると感じる取材でした。

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