仕事術
学生の頃は、「このくらいの白いペンギン、探してるんです」って言いながらずっとナンパしていた。
今でも忘れない、これが私が初めてインプットした山田崇という男の情報だ。まだ私が大学4年生になったばかりの頃。「面白い地方公務員にあった!」と大興奮する友人が真っ先に教えてくれた情報。地方公務員のイメージからはかけ離れた「ナンパ師」という響きに、3回ほど聞き返した覚えがある。(笑)
今回は、そんな「一般的な地方公務員」から掛け離れた変人(?)を今回は取材。2014年のTEDトークが話題となってから、今なお挑戦を続ける山田氏の「自己実現方法」をお届けします。
現在はなんと18のプロジェクトに携わっているという山田氏。それだけ多くのプロジェクトに関わることに不安はないのだろうか?聞いてみた。
「目も前に『やりたい!』という人がいたら、いいじゃん!やろうよ!と思っちゃうんですよね。そこに『このプロジェクトなら成功しそうだ』という判断基準は存在しません。頭では全く考えていなくて、好き!面白そう!ちょっとそれ見てみたいかも!という感覚でしかないんです」
なるほど。とは言いつつも、誰しも「(できることなら)失敗はしたくない」と考えるのが自然だろう(というか、私が失敗したくないと思っているので)。半信半疑になり、山田氏もどこかではリスクヘッジしているのではないかと思ったので、もう少し深掘ってみる。
「本当に感覚だけで選んでるんですか?怖くないんですかね?」(筆者)
「怖くないよ。どう転んだって、最後は『死』という結末は、みんな一緒だからね」(山田氏)
予想外の「死」という答えにびっくりした私だが、どこか腑に落ちた感覚があった。話を聞くと、山田氏は中学2年生の時、両足を手術を行ったために一週間の入院をしていたことがあった。その時(なぜだったかは覚えていないらしいが)、彼の手には『ノルウェイの森』があったという。
「入院中はとても暇だったので、なんとなくその本を読んでみたんです。今でも覚えているのは、上巻の48ページに『死は生の対極としてではなく、その一部として存在している』と、唯一ゴシック体で書かれている部分。当時はこの言葉の意味はわかりませんでした。それでも本を読み進める中で何度も出てきた『死』という言葉に、将来決まっていることの一つが『死』だと感じたんです」
「死」というものが何かはわからない。けれど、たとえどれだけ失敗したとしても、最後にはみんな同じように「死」を経験するのなら、自分の好きなことをやる。これこそが山田氏の圧倒的行動力の源なのだ、と私は思った。
圧倒的行動を積み重ねてきた山田氏が最近気づいたことは、「自分が選択しない未来が世の中にはたくさんある」ということ。
自分が選択をしない未来が存在するなら、『自分で選択しない』ことで出会う新しい未来もあるんじゃないかと思っています。山田 崇 長野県塩尻市役所
目的や意味を考えず、目の前に機会をとにかく拒まずに掴んでみるのだ。
「思いっきり飛び込んでみると、まだ自分が見たこともない、ひょっとしたら陳列棚の中にあっても、普段なら絶対に自分が手に取らない経験や機会を得られることがあるんです」
目的を考えてしまうと、どうしても自分の行動に趣味嗜好が加わってしまい、無意識でも好き嫌いを判断してしまう。だからこそ彼は機会やご縁を大切にしているという山田氏。
「有難いことにたくさんの機会やご縁をいただき受け入れる中で、もしかすると失っているものもあるかもしれません。たとえば、今日こうして取材を受けている時間は他のことができません。作業を進めたり、他の人と出会ってりする未来もあったかもしれない。自分の未来はいつも一つではないからこそ、僕は巡り合った機会にものすごく集中することにしているんです」
数多くのオファーをもらうようになった今だからこそ、目的を持たずとにかく飛び込んでみる。そして、飛び込んだらどんなやり方でも、「圧倒的集中力」でやり切るのが山田氏のモットー。
抱くと決めたら抱く!相手がコミットするのなら、どんなに時間をかけてでも、自腹を切ってでも成功させるために全力を尽くします。山田 崇 長野県塩尻市役所
なんとも、元ナンパ師ならではの表現でその覚悟を語ってくれた。
自分で選択をせずに、とにかく飛び込み続ける山田氏。彼の最大のリスクヘッジは、彼が「地方公務員」であることだろう。
「どんなにやったって地方公務員のお給料は変わらない。クビになることもありません。それなら自分の、自由意思に素直になった方がいいと思うんです」
地方公務員は儲けを出すことを目的にしていないからこそ、利益を考える必要が一切ない。だから自分が心からいいと思えるものに注力することができるのだ。なるほど、これは「公務員」という立ち位置をとてもうまく活用している。
「週168時間という時間がある中で、私の場合、週40時間は税金でお給料をもらって地方公務員として働いているけれど、残りの128時間は私も一市民です。だからその時間では自分のやりたいことをやっています」
地方公務員という立場をとることで、自分のお給料やクビを気にする必要がなくなる。だから挑戦がしやすい。それが、山田氏の「公務員」という立ち位置の捉え方だ。
ここまでの取材でも私の中ではとても学びが深い取材だった。そんな山田氏に今後、「公務員」という立ち位置を通じて実現したいことを聞いてみた。
「僕は60歳を過ぎたら、大学の先生(または講師かな)になりたいと思っています。だからそれまでに、とある『先生』から教えてもらったことを、若者にペイフォワード(恩返し)するために経験を積む必要があるんです」
その先生とは明治大学政治経済学部に所属する牛山久仁彦教授。
「先生にお会いした時に、『国に言われた事ばかりをやっていた地方自治体が、地方自治法第一条第二項が新たに追加になったことにより、国、県、市の上意下達が横並びになって、各自治体にできることが増えた』ということを教えてもらいました。これはつまり、目の前にいる住民の声を聞いて、自治体が自分たちの施策を作れるということです」
「地方公務員は今、全国に約92万人。全人口の122人に1人が地方公務員。だから、1人あたりの地方公務員が121人の声を聞けば、全国民の声を反映させた施策ができる。それをまずは僕が実現することが大事だと思っております」
この他にも山田氏は牛山先生から、地方公務員のやりがいや考え方など、多くの影響を受けており、山田氏の一番最初の講演の機会をつくったのも牛山先生と、誰よりも彼のことを応援している恩師なのだという。だからこそ、山田氏は「挑戦」をすること通じて牛山先生への恩返しを果たしているという。
彼の真の行動の源、それは「恩返し」にあった。
「地方公務員」という職業を聞いた時、あなたはどんな仕事を想像しただろうか? いわゆる「お堅い」というイメージがあるだろう。
ただ今回の取材をつうじて私には新しい発見があった。それは”お堅い職業”をあえて選ぶことで、「自分の自由を広げられる」という選択肢があったことだった。
山田氏が地方公務員という職業についていなければ、彼は自分のやりたいことを追求できなかったのだろうか。きっとその答えは「No」になるだろう。彼はどんな職業に就いていたとしても、自己実現をし続けているに違いない。
彼は決して環境に依存しているわけではない。自分の環境を客観的に捉え、環境に存在する理を生かして、自分のやりたいことを追求しているのだ。
自分の環境をマイナスに捉えるのではなく、いかにその環境の中で自分のやりたいことを追求していくか。私もさっそく明日から、彼の取材を通じて得た学びを自分の人生に生かしたいと思う。
Editor's Note
年々、進化を遂げ続けている山田さん。常にインプットとアウトプットを繰り返し、今の地域や自分とも向き合う。一般の人の何倍速で生きているのだろうか、、、と驚くその思考回転、行動力に熱くなる取材でした。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々