リカレント教育
現在、全国的に『コミュニティ・スクール』の設置が進んでいることをご存知でしょうか?
コミュニティ・スクールとは、教育を軸として地域コミュニティの醸成をしていく新たな公立学校のスタイル。
しかし「地域と学校が手を取り合う」と言っても、「具体的な取り組みが分からない」「そもそも制度自体を知らない」という方が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、NPO法人 教員支援ネットワークT-KNITが主催したイベント「地域未来創造カイギ 〜コミュニティ・スクール設置率100%!特別支援学校のコミュニティ・スクール実践事例から考える教育の未来〜」の様子をお届け。
NPO法人 教員支援ネットワークT-KNIT で代表理事を務める塩畑貴志さんと、特別支援学校のコミュニティ・スクール運営を5年間に渡り続けている宮本慎太郎さんに、コミュニティ・スクール実践事例から考える教育の未来を考察していただきました。
塩畑(以下、ソルティー):コミュニティ・スクールとは、「地域の意見も取り混ぜながら、一緒に学校教育を作っていきましょう」という制度のことです。一般的に、外部から学校教育に関わる地域側の人には、PTAや学校評議員の方がいますが、基本的に彼らには教育についての権限がないため、意見が反映されず、学校教育と地域の声がズレてしまうことも多い。ですが、コミュニティ・スクールは学校側と立場が対等なので、時には校長や教育委員会にも物申せるんです。
ソルティー:『コミュニティ・スクール』という名の学校があるわけじゃなくて、地域と結びついて学校教育をコーディネートしていく制度ということですね。コミュニティ・スクールは、「みんなで学校運営を通じた地域づくりをしていこう」と「学校運営協議会」が立ち上がると開始できる制度です。
ソルティー:今日のイベントでは山口県立周南総合支援学校の宮本慎太郎先生にお越しいただき、宮本先生が実施されてきた事例を踏まえてコミュニティ・スクールについて深ぼっていけたらと思います。
宮本:宮本慎太郎です。今日は私が今勤めている山口県の特別支援学校でのコミュニティ・スクールの取り組みをお話させていただきます。
宮本:そもそも特別支援学校コミュニティー・スクールの原点は、京都市の総合支援学校のコミュニティー・スクールに出会ったことです。ここでは、地域で子どもたちを育てる風土があり、この「共生社会の実現」をしたいと目指すところからはじまります。
宮本:ただ「共生社会の実現」というのは、コミュニティ・スクールだからというわけではなく、一般的な学校でも目指している目的なので、「コミュニティ・スクールに求めたいものはなんだろうか」と考えながら、地域ならではのコミュニティ・スクールの方向性を模索していきました。
宮本:地域でコミュニティ・スクールの学校運営協議会を立ち上げ、コミュニティ・スクールの方向性を考える中で、学校の卒業生にアンケートを実施して。「楽しかった行事は何か?」「田布施総合支援学校のいいところは何か?」「未来はどんな学校になって欲しいか?」などを、卒業生や保護者に対して質問しました。
宮本:特に多かった回答は「地域の人と仲良くなりたい」「社会体験を増やしてほしい」「学校をもっと紹介してほしい」という意見でした。このアンケートの回答結果が田布施総合支援学校のコミュニティ・スクールを運営する上で、大きなポイントとなっていますね。
アンケートの回答の中でも参考になった声は、「田布施総合支援学校が知られていない」という言葉です。学校が知られてないということは、もしかすると、障害(をもつ生徒のこと)に関しても認知されていない可能性があり、その事実が私たちの活動を大きく変える一言となり、広報範囲を広げて、「共生社会に向けての発信をしていこう」と意識統一を行いました。
宮本:ここからは、私たちが実施したコミュニティ・スクールの事例を抜粋してお伝えしていきます。
宮本:まずは、コミュニティ・スクールの広報「コミスクだより」。現在71号まで発行しており、全て自分たちの手でつくっています。
宮本:最初は教員と保護者だけに配布していましたが、学校周辺地域への回覧、町内の各施設(町役場、学校)への掲示へと広げ、さらにホームページからも発信しています。あとは県内の他の総合支援学校にも配布していて、結果的に「見学したい」「教えてほしい」と問い合わせも増えています。
宮本:私たちが参考にしたコミュニティ・スクール『京都私立西総合支援学校』で実施していたアイディアを元に、子どもたちの作品を地域に展示する企画「地域作品展」を行なっています。地元の郵便局の一角をお借りして作品展をはじめ、現在5年目になります。
宮本:これまでの運動会では、児童生徒全員が集まって踊るだけでしたが、コミュニティ・スクールの導入が始まってからは、児童の中に保護者や地域の人たちも入って、全員でダンスを踊っています。
宮本:「先輩お母さんと語ろう会」や「障害年金についての勉強会」などの勉強会・交流会も企画しています。毎回50人ほどのお母さんが集まり、その後の交流も深まっています。
宮本:「特別支援学校の子どもたちの指導で悩んでいる教員がいる」と知ったことがきっかけではじまった教職員研修もあります。地域の総合支援学校の教職員に呼びかけて「悩みを聞く会」を開き、勉強会、教材研究にまで発展しています。教員の通常の研修と絡む部分もあり、有意義な企画になりましたね。
宮本:チラシを配って有志で大掃除をしたことも。最初は10人くらいだったのに、回を重ねるごとに人が増え、最後は子どもがどんどん来てくれて、約50人くらいで一気に学校の大掃除をしましたね。
宮本:その他、ゲストティーチャーを招き授業をしてもらったり、アート作品を展示したり、さまざまな企画を実施してきました。
宮本:さらに、2020年9月に田布施総合支援学校の高等部が他所へ移転するため、余った農園や空き教室の使い道も話し合っていて。地域の方も含めた協議会で話を進めていきました。
宮本:協議会メンバーと相談する中で出てきたのが「コミスク農園」。学校の子どもや地域の人たちと一緒に、安納芋の苗を植えて収穫する一連の体験をしています。
宮本:これまでは私たちが実施してきた事例を紹介をしてきましたが、ここからはこの5年で生まれた変化についてご紹介したいとおもいます。
まず、コミュニティ・スクールを始めたことで大きく変わったのは「学校に関わる人たちの多さ」です。当初は、学校と密接に関係する人たちだけの関わりでしたが、現在は町のクラブやメディア、地域の小中学校や老人クラブまで、多岐に渡った関わりが生まれています。
宮本:もちろん新型コロナウイルスの影響で、学校の休校や、コミュニティ・スクールの活動制限などもありましたが、ホームページを駆使して子ども達の旺盛な意欲を取り上げてもらった結果、外部への発信は広がっています。
さらには、コミスク便りを参考にしてくれる学校も出てきており、私たちとしても非常に嬉しく思っています。このような活動が評価され、時事通信社が主催する教育奨励賞の優良賞も受賞しました。
宮本:個人的には、教育は社会の基盤であると思っていて、人を作ることは地域を作ることであり、地域がよくなるとそこに人が来るという循環だと思うんです。その好循環を生み出す起点がコミュニティ・スクールです。
今日改めて5年間を振り返りながら思ったことは「教育のフィールドを広げる」ことの重要性です。コミュニティ・スクールは学校・保護者・地域、いろんな人と関わることによって広い視野でものごとを見つめることができる、最良のシステム。これは特別支援学校だけではなく、他の学校全般にも言えることだと思います。
Editor's Note
「コミュニティ・スクール、総合支援学校のことを知らせたい」、その情熱が広がって成功した秘訣は、総合支援学校に寄り添った企画であることと、宮本先生ご自身が積極的に人とのつながりを持たれたことでしょう。共生社会を目指す最初の一歩は、人との関わりを真摯に持つこと。その大切さを学ぶことができました。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子