AKITA
秋田
「懐かしい」「可愛い」「綺麗」
このような感情や記憶が一度でも、ものに対して湧いてきたことはあるでしょうか。
小さい頃に使っていたお茶碗、お客さんが来る時に出していた湯吞み、家族で食事を囲んだテーブル。
私たちは自然とものに対して愛着を持ち、思い出を刻んでいます。生まれ育った実家に懐かしさを感じるのは、昔の記憶が蘇るものが周りに沢山あるからなのかもしれません。
そんな1人1人の「思い出」を大切に引きつぎ、使われなくなったものを次の人へつなぐ活動をしている方がいます。
今回ご紹介するのは、秋田県の湯沢市で「Recycleshop またたび」を営む鈴木璃歩さん。鈴木さんは湯沢市の地域おこし協力隊として地元へUターンし、空き家を改修してお店を立ち上げました。

なぜ地元へ戻り、リサイクルショップを開くことになったのか。古いものを活かすことに、どのような意義があるのか。鈴木さんの活動の原点を辿ると、そこには一貫した信念がありました。
湯沢市で生まれ育った鈴木さんは、大学で建築やデザインを学ぶために仙台へ移り住み、社会人としての一歩を建築業界で歩み始めました。
「大学を卒業してからも仙台に残り、リフォーム会社へ就職をしました。リフォームの現場ではまずすべての荷物を捨てる事から始まります。まずは捨てないと工事が出来ないからです。入社当時は私も捨てていましたが、次第に『勿体ない』と感じるようになりました」
初めて目の当たりにした、次々と古道具が捨てられていく現場の仕事。居ても立っても居られず、鈴木さんはとある行動に出ます。それは大家さんに「可愛いものは引き取らせてください」と相談をすることでした。
すると会社が管理する倉庫で、引き取ったものを持ち主の了承を得た上で保管できる事になりました。始めは1人で気になったものを回収していましたが、次第に会社の他の方からも色々なものが集まってくるようになったと言います。
「職人さんが『これもいるべ』と昭和の型板ガラスを取ってくれていたり、集まるスピードがとても早くなりました。でも集め続けていたら、倉庫にも置く場所が無くなってしまって。社長にも『璃歩さんこれどうするの』と言われるようになりました」

勿体ないという気持ちから、自ら行動を起こした鈴木さん。振り返ってみると、現在の活動の原点は新卒で入社した会社での経験にありました。
では、なぜここまで古いものや使われなくなったものに対して関心を抱くようになったのでしょうか。
「大学の頃から環境問題に関心がありました。建築は二酸化炭素の排出が多い分野です。その環境に身を置きながら、自らも使われないものを捨てている現状がありました。古道具の一番近くで仕事をしていたので、レスキュー活動を始めようと思いました」
話を聞いていると、単に可愛いからという理由で回収するのではなく、社会問題にも意識を向けた活動という事がわかります。
そして、リフォーム会社で3年間の経験を積んだ鈴木さんは会社の倉庫に眠る沢山の古道具たちと共に、リサイクルショップを始めることを志します。お店を始めるにあたって選んだ道は、生まれ育った秋田県の湯沢市へ戻る事でした。
リフォーム会社を退職した鈴木さんは、会社の倉庫に集めていた古道具を4トントラックに積んで湯沢へ戻ってきました。その時決まっていたことはお店を開く場所だけ。地域おこし協力隊として働くことも、Uターン後に話を聞いて決めたというのだから驚きです。
物件は仙台で働いている最中から探し始め、ようやく見つけた建物でした。鈴木さんは当時を「リスキーな事をしていた」と笑いながら振り返ります。
「会社が休みの日に湯沢に帰ってきて物件を探し回りました。最初は気になった物件を見つけると、近所の人に聞いて回りましたね。でも3ヶ月ほど探しましたが、理想の物件には出会えませんでした。最終的には不動産会社の方にお願いをして、今の場所に決まりました」

湯沢へ戻る事を決断した理由については、こう語ります。
「大学の時に長野県の諏訪市にあるリビルディングセンター(*)に遊びに行ったことがありました。その後短期で働いてみて、ここで働くのも良いかなと思いました。でも、地元にふと目を向けてみると空き家はそのまま残っているし、可愛いものは沢山出てくるのにゴミになってしまうのが想像できてしまって。
*リビルディングセンター:ReBuilding Center Japan(通称「リビセン」)。古材と古道具の販売・買取を行うリサイクルショップ。「REBUILD NEW CULTURE」という理念のもと環境負荷の少ない社会を目指して活動を行っている。
私から見ると、資源は沢山あるけど開拓されていない地域の1つが地元でした。それなら他の地域ではなく自分の生まれ育った場所で、資源をまた次の人に渡したいと思うようになりました」
他の地域の事例も勉強しながら、最終的に地元を選んだ鈴木さん。お店の周りに住む近所の方も「若い人が来てくれた」と大歓迎してくれたそうです。
購入した空き家は、1人で修繕しながら徐々に活動の輪を広げていきました。ほとんどやった事のなかった改修作業は、動画で勉強しながら日々実践。時間はかかりましたが、今では「左官が大好きで、上手にできるようになった」と自信に満ち溢れた表情が印象的でした。
少しづつお店が形になっていくと、壁塗りのワークショップを企画し大学生が手伝いに来てくれたことも。当日は知り合いに壁塗りのレクチャーをお願いし、2日間で塗り上げました。力を合わせて綺麗にした白い壁は、今では沢山の古道具に囲まれながら立ち寄るお客さんを出迎えてくれます。
時間をかけながらじっくりとお店作りに励み、約1年半。「Recycleshop またたび」として看板を上げる日を迎えました。

お店がオープンを迎えると、新聞の取材もあった事で様々な場所から古道具のレスキュー依頼が入るようになりました。中には家まるまる一軒を見せてもらいながら、引き取りを進めた事もあったそうです。
「レスキュー活動を始めた事は、地元の新聞や同級生の知り合いを通じて広まっていきました。特に新聞の力はとても強いです。掲載した瞬間から、電話が何本もかかってきました。新聞には『古いものがあれば、次の方におつなぎします』というような内容で書いてもらいました」

依頼が増えるという事は、それだけ捨てることに戸惑いを持ち、悩んでいる人がいるという証。増えるレスキュー依頼を、またたびではどのように受け入れているのでしょうか。
「確実に次の人につなぐことができるかという事と、本物を残したいという思いがあります。
またたびでは基本的にプラスチック製品はレスキューしていません。環境問題への関心が根本にあるからです。プラスチックのような石油由来の商品は新しく掘り起こして作ったもの。それよりも自然に還るものや、何回も綺麗にすれば使い直せるものだけを引き取るようにしています。
また、『思い出も一緒にレスキューしたい』という思いがあります。引き取った後に捨ててしまうと思い出も捨ててしまうことになってしまいます。次の人がみつかるものだけを引き受けるようにしていますね 」
「環境への負荷をかけないという事が一番意識しているポイント」だと鈴木さんは続けます。
今ある資源を活かしていく、かつて誰かが大切に使っていたものを確実に次の人へつないでいく。鈴木さんの柔らかな表情の中に、リサイクル活動に対しての熱い思いと強い信念を感じた瞬間でした。

またたびの店内に並ぶ古道具。中には、鈴木さんが手を施したリメイク商品も売られています。ガラス製の食器の一部を削り、オリジナルの照明カバーも自ら製作しました。
お店のInstagramでは、リール動画で湯呑を植木鉢に変える方法などリメイク商品の紹介もしており、投稿を見て来てくれたお客さんもいたそうです。
このように古道具のレスキューから管理、販売まで1人で行っている鈴木さんですが、どのようにお店を運営しているのでしょうか。
「レスキューした商品は基本的には買い取っています。中には『お金は要らないよ』という人もいらっしゃいますが。商品の値段は、パッと見て直感的に決めています。フリマサイトなどを見ていると、次第にどれくらいの値段で売れるか分かってきます」
店内には「レスキュー記録」が置かれていて、救出した古道具たちがいつ、どこで、どのように使われていたか誰でも読めるようなひと工夫も。
「お店のロゴに描かれている船のように、古いものが次の人のもとへ『また旅に出られますように』との思いで日々活動しています」

鈴木さんは、実際にお店を営んでいるからこそ感じる大変な部分についても語ります。
「リサイクル活動は綺麗にするまでの掃除がとても大変です。お手伝いをしてもらいながら、何とかここまでやって来れました。壊れているものをレスキューすることもあるので、一度取り外して直してからつけ直すこともあります。ひと手間がかかりますが、そこが楽しさでもあり大変な部分でもありますね。
それと、リビルディングセンターの方に言われたのが『分かりにくい事をしていると自覚した方が良い』という話です。古いものを集めてどうするのかと思う方も一定数います。事業をしっかりと成り立たせるには、どんなことをするのか分かりやすく説明していく事がとても大切です」
リサイクル活動は相手がいて初めて成り立つもの。事業を始めるには、単純にものを回収するだけではなく周囲への理解と信頼を築いていくことが大切だと、鈴木さんは教えてくれました。
湯沢へUターンして3年目。生まれ育った地元を「人が親切で、空気や緑が綺麗」と表現する鈴木さん。これから、どのような未来を描いて活動していくのでしょうか。
「空き家問題は全国的にずっと言われ続けていますが、いよいよ本格的にやらないといけない時期に来ているなと思っています。またたびとしては、家財道具の中から次の人につなげられるものをレスキューする活動を続けていきたいです。
あとは空き家を発掘してリノベーションをしたいですね。とにかく、可愛いまちにしたいです。またたびだけで頑張るのではなくて、湯沢全体が可愛くなっていけば歩いて回遊できるようになるのかなと思います。今後、色々とどうなるかなという感じです」

まだ見ぬ未来に対して夢を語る姿には、ふるさとを良くしたいと願う鈴木さんの強い意志を感じます。
「今は地域おこし協力隊の活動としてお店をやっていますが、協力隊卒業後は設計の仕事もしながらお店を続けて行きたいと思っています。長野のリビルディングセンターが古材を集めて、デザインから手掛けているように、私も古材を使ったデザインや設計などをしていきたいです」
大学の卒業設計では、湯沢を舞台にエリアリノベーションについて研究をしたという鈴木さん。当時思い描いた理想のまちの実現に向けて、少しづつですが夢に近づいているように思います。
古いものを活かし、確実に次の人へつないでいく。コストや利便性が重視される現代において、資源の大切さについて気づかされる取り組みではないでしょうか。
今、アナタの周りでも使わなくなってしまった古いものたちが行き場をなくしているかもしれません。それは時間が経てば経つほど、世の中から姿を消しているのが現実です。
まずは自分のものでも、知り合いのものでも良い。次の人へ渡せるものがあればレスキューしてみませんか。レスキュー活動が、多くの人の思い出と一緒に「また、旅」に出られるような世の中になっていくはずです。
Editor's Note
リサイクル活動の根底にある「確実に次の人へつなげるか」という一貫した姿勢に、鈴木さんの古道具への愛がとても伝わってきました。新しいものがすぐに手に入る時代だからこそ、今ある資源を大切に守り使っていく。またたびに並ぶ可愛らしい古道具の1つ1つから、自然とそう思う事が出来ました。
KOICHI AKANUMA
赤沼 孝一