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※本記事は約3年ぶりの開催となった『ONE KYUSHU サミット』のセッション内容をレポートにしております。
新型コロナウィルスによる社会変動により、新しい生活様式や、デジタルトランスフォーメーションといった抜本的な変化が起こっている昨今。
企業に属しながらも、社内で挑戦をし、新たな価値を生み続ける「イントレプレナー(社内起業家)」に注目が集まっています。
今回は『ONE KYUSHU サミット』の中でも、「大企業を内側から進化させる挑戦者たち〜九州のイントレプレナー大集結〜」と題して行われたトークセッションをお届け。
大手企業の最前線で挑戦し続けてきたイントレプレナーたちが語る、壁の乗り越え方、繋がりの大切さとはーー。
武内(ファシリテーター):政府の後押しもあって、「アントレプレナー(起業家)」人材が全国的に充実してきておりますが、本セッションは大企業の中で奮闘し、改革を起こし続けている「イントレプレナー」の方々にお集まりいただきました。壁の乗り越え方や、想いの背景にポイントを絞ってお伺いできればと思っております。
小池:JR九州の小池です。JR九州は鉄道会社ですが、私は鉄道ではなく、駅ビルなどの町づくりをはじめとする「非鉄道事業」を中心に20数年間仕事をしてきました。今も新しい仕事をどんどんつくっている最中です。今日はよろしくお願いします。
濱野:NEXCO西日本で非道路事業で地域共創活動をしている濱野です。5、6年前までは道路事業に従事していましたが、今は高速道路をいかに地域の皆さんに使ってもらうかを考える旗振り役として働いています。今日はよろしくお願いします。
武内(ファシリテーター):脇さんは登壇者の中で唯一の公務員。レガシー企業は公務員の世界にもあるのでは、ということでご登壇いただきました。
脇:全国の公務員を繋ぐ活動を2010年から行っていましたが、コロナ禍になってからはオンライン上で集う『オンライン市役所』をつくりました。今では全国1,788自治体の7割ぐらいの方が個人で入ってくれるプラットフォームになってます。
脇:今日の『ONE KYUSHU』もそうですが、一人では解決できない地方課題も、横に繋ぐと見えてくるものがあるかもしれない。私たち行政も繋がることで誰かの町の役に立つ、そんな世界をつくりたいなと考えています。
武内(ファシリテーター):コロナ禍での奮闘を、小池さんと濱野さんにお聞きします。
小池(JR九州):私たちの事業は、人が集まってこそ成り立つものだったので大打撃を受けましたね。ようやくコロナ前に戻りつつありますが、コロナ前の数値をもう1度求めていくというよりは、コロナ禍の状態を前提としてどうしていくか、会社として問われていると感じています。
武内(ファシリテーター):その中で小池さんはどんな行動に出られたんですか。
小池(JR九州):僕がずっと考えているのは「ディスティネーション(旅行目的地)」をいかにつくれるかなんですよね。
小池(JR九州):「鉄道会社だから」ではなく「九州のまちづくりを行う場として、もっといろんなことが出来るんじゃない?」と思って活動していています。それを自分たちだけじゃなく、「いかにいろんな人たちとつくり上げられるか」が私のモチベーションになっているんです。
濱野(NEXCO西日本):僕らもJR九州さんと同じで、移動というインフラを支えてる企業なので、「コロナ=人が動かない」ことで大打撃を受けました。
濱野(NEXCO西日本):そこで、「地域の皆さんと一緒に、既存のインフラの使い方をもう一度考えなおそう」と取り組んだのが「高速道路を起点とした町づくり」。市民の方々や大学・地域の起業家の方々と一緒になりながら、新しい高速道路の使い方の取り組みを始めて約4年になります。
武内(ファシリテーター):組織内で改革をしていくと、思わぬ壁に当たることがあると思うのですが、行政の脇さんはどうお考えですか?
脇:組織がしっかりしていればしているほど壁があって、何かを実現していくのは難しいですよね。でも僕は、壁を乗り越えようと中で戦うよりも、外の人と面白いことを実施することにシフトしちゃう。
脇:例えば小池さんも濱野さんも立派な方なので、部下の立場から話しかけるとなると緊張しちゃうじゃないですか。でも、外から見るとただのおじさんですよね(笑)。
企業内だと縦の関係にこだわりすぎてしまうのですが、一人の人間として、横や斜めの関係の人たちと一緒に面白いものをつくっていく。その行動が周知されることで「あなたの組織にはおもしろい人がいるね」と組織内でも認知され、結果的に組織の中でも行動しやすくなる。だから、壁とは戦わずに外に出るイメージですね。
小池(JR九州):10年ほど前、我が社の中期経営計画の中に「異端を尊ぶ」という言葉があったんです。今、組織内の壁のお話があったんですが、私たちの会社は元々風通しが悪い会社ではないんですよ。ただ、鉄道が本業なんで「いかに安全に正確か」が求められる。
ですが元々国鉄からJRに民営化した際は、鉄道事業も真っ赤。だから鉄道以外でその会社として存続するために、いろんなことをやらなければならず、20数年前に入社するときでさえ「不安定企業だから」と会社から言われ続けてきました。
小池(JR九州):そこから約20年、諸先輩方と一緒にチャレンジをし続けてきたことで、今でこそ「安定企業」みたいな雰囲気があるかもしれませんが、チャレンジャー精神を持たざるを得ない社風と状況だったこからこそ、最初に話した「異端を尊ぶ」という言葉が当時の社長から出たんだと思っています。
濱野(NEXCO西日本):今小池さんが話されたように、我々としても元々高速道路がゼロだったときは、フロンティア精神で立ち向かっていましたが、高速道路が出来て何十年も経っていく中だと、「いかに守るか」というマインドになっているのも正直なところです。
守るマインドからつくるマインドへ1個ギアを上げるためには、時間がかかるとも思っていますが、今コツコツと壁を乗り越えている最中です。
小池(JR九州):何でもかんでもチャレンジする人ばっかりでも、企業は成り立たない。このバランスは企業フェーズで違うのかもしれないですけど、どっちもゼロになっちゃうのは駄目なんだなと感じましたね。
脇:今の話からも思ったんですが、濱野さんってすごく翻訳家ですよね。多分誰よりも高速道路のことを愛していますし、だからこそ、会社の人たちの悩み事とか課題感を翻訳して、「これだったら町のためにもなる」って伝えて実行に移すっていう壁の乗り越え方をされているんだろうなって。
濱野(NEXCO西日本):自分が考えたことを発信すれば、応援してくれる人が増えることを実体験で学んでいるので、言葉は大事にしていますね。
武内(ファシリテーター):皆さんを見て感じるのは、人との繋がりの深さ。心掛けられてることはありますか?
濱野(NEXCO西日本):高速道路起点の町づくりは誰もやってないので、社内では「誰ができるのか」って話になりがち。ですが、社内に限らず外にも素晴らしい方々がいて、「そういう方とも連携ができる」という選択肢をまずは社内に知ってもらおうと思っています。
1個事例ができると、それを次に繋げることができるので、失敗も成功も含めて「やることに意味がある」ということは、社内で言い続けていますね。
脇:行政も同じですね。僕自身は行政も「助けて」ってもっと世の中に叫んでいいんじゃないかと思ってる。みなさん困ったら行政に来てくれるんですけど、行政だけで解決できることってそんなに多くない。
だからこそ、社会課題をもっとオープンにして、いろんな人たちと対話し協力することで、小さな事例ができるし、当事者意識が芽生えて、町のみんなの顔つきも変わってくるみたいな。そういう好循環が生まれるんじゃないかと思っています。
小池(JR九州):よく社内の人から「小池さんだからできるんですよ」と言われるんですが、大きな誤解。僕は0から1を生む力は能力はないからこそ、たくさん知って見て勉強する。
たとえば「九州の町づくりをどうするか」を考えるとなると、徹底的に勉強するし、必要とあれば海外にも出向いて見聞きし続けます。そうした上で「僕はこれがわからないけど、誰か知ってる人いませんか」って叫び続けると、「教えてあげるよ」って数珠繋ぎでネットワークが広がっていくんです。今日は「ONE KYUSHU」がテーマですけど、特に九州は皆さんが温かいし、助け合う土壌があると思います。
武内(ファシリテーター):最後に、3年後のビジョンを教えてください。
脇:一つは「1,788自治体、どの町にも顔が見える人がいる」そんな状況を作りたいなと思ってます。もう一つは、僕自身初海外が台湾だったんですけど、台湾と九州との繋がりを強めていきたい。台湾だけでなく韓国や中国のアジア圏から見た時に、日本の中で沖縄の次に近いのって九州じゃないですか。そういう意味で、アジアの公務員との繋がりもつくっていけたらなって思っています。
濱野(NEXCO西日本):今まで高速道路は旅中の装置でしかなかった。でもこれからは高速道路を起点にして、いろんな結びつきを生んでいきたい。例えば、JR九州さんのクルーズトレイン「ななつ星」が来た時って、町の人たちからすごく歓迎されるじゃないですか。それと同じように、マイカー客が来た時も町の人から歓迎されるようにできないかなって。これからも旅に誇りが生まれるような町づくりをしていきたいですね。
小池(JR九州):人口減が止められない状況の中で、いかに交流人口・関係人口を増やしていくかを考え、価値を創造していかなければ永続できないと感じています。最近思っているのが「儲かる」という言葉は「続けられるのか」という言葉に置き換える必要があるということ。
つまりは我々の挑戦は、地域の永続のためであり、そのためにはケースバイケースで形や事業スキームを変えることも考えます。まだまだたくさんの挑戦を行っていきますが、小回りの利く企業を目指したいですね。
Editor's Note
大企業の中で奮闘し続けるイントレプレナーの存在!「組織がしっかりしているほど壁がある」という話が特に納得。その中でも、「地域のため」を合言葉に繋がり走り続けるみなさんを、とてもかっこよく思ったセッションでした。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香