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LOCAL LETTER

だから僕はここで挑戦する。予約がとれない宿の立役者が語る、いなかまちの可能性

NOV. 10

NAGANO

拝啓、自分が今いる場所に満足できないアナタへ

ここは長野県信濃町。長野県の北端に位置する小さなまち。

夏は長野県内で2番目に大きい湖・野尻湖を中心に賑わう避暑地である一方で、特別豪雪地帯に指定されている雪国でもある。

夏は活気に溢れ、冬は静まり返る。そんな野尻湖畔で1年中あたたかい明かりを灯しているのが、フィンランド式サウナ「The Sauna」が話題を呼んでいる複合宿泊施設「LAMP野尻湖」だ。

今は連日人足が絶えず、「予約がとれない」とも言われることがあるLAMP野尻湖だが、株式会社LAMPの代表を務める岡本共平さん(通称、マメさん)は、自身がLAMPで働きはじめた当時を振り返って「めちゃくちゃ暇だった」と語る。

LAMP野尻湖を人気店に押し上げた立役者のひとりであるマメさんは、なぜこのまちで挑戦をはじめ、この地に根を下ろすことを選んだのか。

いなかまちの持つ可能性と、マメさんが見つめるこのまちの未来について話を伺った。

慣れるのに時間がかかった。今まで暮らしたことがない“田舎”でのリスタート

岡本 共平(Kyohei Okamoto)さん 株式会社LAMP代表取締役社長 / 埼玉県出身。20代から東京で料理人として活動。長野県信濃町にあるゲストハウスLAMPで料理長・支配人を務めたあと、2020年より現職。photo by mocchy
岡本 共平(Kyohei Okamoto)さん 株式会社LAMP代表取締役社長 / 埼玉県出身。20代から東京で料理人として活動。長野県信濃町にあるゲストハウスLAMPで料理長・支配人を務めたあと、2020年より現職。photo by mocchy

東京で料理人をしていたマメさんが、信濃町に来ることになったのは2015年のこと。フリーランスの料理人として、企業向けのケータリングや個人宅への出張料理などを手掛けていたときに出会ったのが、ゲストハウスLAMPの運営会社だった株式会社LIGの代表吉原ゴウさんだった。

「ケータリング会場で料理を出していたときに、長野のLAMPってとこで料理長を探しているって言われたんです。ゴウくんに『ゲストハウスはじめたんだけど興味ある?スタートアップだけどやってみる?』って聞かれて。その場で『いいよ』って即答しました。このままケータリングの仕事を続けることには疑問を感じていたし、東京に住み続ける意味もないと思っていたから、東京を離れるいいきっかけかなと」(マメさん)

4月の野尻湖
4月の野尻湖

はじめて信濃町に来たときの印象を尋ねると、「やばいところだなと思いました」とマメさんは笑う。彼がはじめて野尻湖を訪れた4月は、スノーシーズンが終わり、グリーンシーズンがはじまる前の時期。人通りはなく、「第一印象はグレー」だったという。

その後住むところも決まり、トントン拍子で話が進んで料理長としてLAMPで働き始めたものの、埼玉の新興ベッドタウンで生まれ育ったというマメさんが、このまちに慣れるには1年ほどかかった。近くにコーヒー屋がない、虫が多い、というようなごく些細なことの積み重ねが、田舎という環境を馴染みにくいものにしていたという。

信濃町に移り住んだ人から「慣れない」とよく聞くのは冬の雪の量。しかしマメさんにとっては雪はそこまで大きな問題ではなかった。日々の暮らしをポジティブにしてくれたのは、小さな意識の転換だった。

「僕はもともとインドアだから、外が山奥だろうが、雪が降っていようが結局関係なかったんですよね。住み心地のいい家さえあれば、外の環境はどんなところでもいい。それなら空気がきれいで、人が少なくて、窓を開けたら景色がいい場所のほうが生きやすいなって。ある朝、自分の家のテラスでコーヒーを飲んでいるときに、これは都会では簡単にできない、お金では買えないなと気づいたんです。今思えばそれが、このまちに慣れた瞬間だったと思います」(マメさん)

お客様の純粋な声が聞こえる。それがこのまちでビジネスをする楽しさ

photo by mocchy
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冒頭で触れた通り、マメさんがLAMPで働きはじめたころの状況は決して幸先の良いものではなかった。当時客足は多くなく、時間を持て余すことも多かったという。

「時間があるからスタッフ同士で思いっきり遊んで、それをインスタグラムに投稿したりしていましたね。暇だからって立ち止まっていても仕方がないので。世の中に僕たちよりかっこいいことをしている人なんてめちゃくちゃたくさんいるんですよ。でも僕たちは僕たちにしかできないことをやるというのがすごく重要で、価値があると信じていました」(マメさん)

マメさんはレストランメニューを一新し、積極的に地元の食材をメニューに取り入れた。自分たちにしかできない、ここでしか味わえない料理で人々を惹きつけていく。

「信濃町のような田舎に住んでいると、旬じゃない食材を手に入れるほうが難しいし、四季の変化に敏感になります。都会でヘトヘトになって働いている料理人がつくる料理より、田舎でのんびり暮らしながら『今の時期においしい食材ってこれなんだ』というのを自然発生的に感じ取って表現する料理のほうが絶対おいしいって僕は思うんです。こっちに来たら料理人としての感覚が磨かれるなと感じますね」(マメさん)

画像出典  LAMP通信 https://lampinc.co.jp/article/4276/
画像出典 LAMP通信 https://lampinc.co.jp/article/4276/

そうして自分が表現したものを、価値に見合った適正な価格をつけて提供できるところが、田舎でビジネスを行う利点だとマメさんは語る。

「都会は修行の場としてはとてもいいと思うのですが、自分が求めるものを自分で形にするというフェーズに入ったら、田舎の方が表現の可能性が広がると思います。田舎は競争相手が少ないので、価格競争の中で価格を決めるのではなく、価値に対して適正な価格をつけて勝負ができる。自分で商圏範囲を捉えてマーケットをつくってくことができるので楽しいですよね。ただ、質が高いか否かを判断するのはお客様。自分が本当に良いと思って純粋にアウトプットしたものに対して、純粋なお客様の声がいただけるというのはやりがいがあります」(マメさん)

このまちの強みは大自然 ✕ アクセスの良さ。都会から離れて「人生の余白」を見つけることができる場所

画像出典 LAMP通信 https://lampinc.co.jp/article/4809/
画像出典 LAMP通信 https://lampinc.co.jp/article/4809/

ゲストハウスLAMPの支配人を経て、2021年に株式会社LAMPの代表に就任したマメさん。現在はLAMP野尻湖だけでなく、LAMP豊後大野(大分県)、LAMP壱岐(長崎県)の3店舗を束ねている。「ここから豊後大野に行くのは、ハワイに行くよりも時間がかかるんですよ」と苦笑しながらも、定期的に現地を訪れて、直接お客様やスタッフと話すのは欠かさないという。

「ラーメンを食べたことがない人が、ラーメン屋になれるわけがないのと同じで、その地に行ったことがない人が、そこに滞在するお客様の目線に立つことはできない。だから大分に行っても長崎に行っても、熊本・宮崎・鹿児島などその店舗の商圏範囲にあるようなエリアを回って、その地のエスプリを感じるようにもしています」(マメさん)

いろんな土地を見ているマメさんだが、自身の拠点を信濃町から他へ移すことは全く考えていないというのはなぜなのだろうか。2015年に移住して8年が経った今、信濃町の魅力はどこにあると思うか尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。

photo by mocchy
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「立地がすごく有利だと思いますね。もちろん水や空気がきれいで野菜がおいしいっていうのも魅力ではありますが、そういうところって日本中探せばたくさんあるんですよ。でも東京から最短2時間程度の距離で、これだけの大自然があって、2000m級の山々に囲まれていて、雪が2メートル積もる場所って他にないと思います。人口7700人ぐらい(2023年7月現在)で、ちょうどよく人が少なくて生活しやすいまちがこの立地にあるというのは、自分の人生を過ごす場所としてとても良いですし、ビジネス的な側面を考えてもすごい強みです」(マメさん)

東京圏から少し遠出という距離感で、ダイナミックな自然を味わうことができるまち。ここに来たら一番やってもらいたいことは、意外にも“何もしないこと”だとマメさんは続ける。

「この自然環境の中でアクティビティを楽しんでほしいという気持ちもあるのですが、何もしない時間も味わってほしいです。人生の中にどう余白をつくっていくかというのが、これからとても重要になると感じていて。都会だと外でただ座ってボーッとできる場所を見つけるのが難しいんですよ。LAMPに来たら芝生の上でもテラスでも、どこでもボーッとしてもらえるので、ここがお客様の人生の中で一歩立ち止まる場所になればうれしいですね」(マメさん)

信濃町で、観光で戦っていく。生きたい生き方を実現するためにこのまちに来る人が、住みやすいまちにするために

photo by mocchy
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マメさんはLAMPの社長に就任した際に「人生を明るく」という理念をかかげた。遡って考えると、料理の道へ進むことを決めたときも、フリーランスから再度組織の中で働くことを選んだときも、いつもマメさんの心には世の中を少しでも良くしたいという、LAMPの理念のベースとなる想いがあったという。その根本には彼自身が感じていた“生きづらさ”がある。

生きづらい世の中の原因になっているものをひとつでも減らしたいんです。LAMPでサウナに入っておいしいごはんを食べて、夜寝る前に空を見上げて、『生きててよかったな』って。そう思う人が増えたら優しい世界になるって僕は本気で信じています。僕1人で飲食店をやっていたら、どんなに頑張っても年間3000人ぐらいにしかリーチできない。僕が叶えたい社会を実現するには、ある程度の事業規模である必要があるんです」(マメさん)

現在のLAMPの年間来客数は延べ4万人。マメさんが移住した当時から目標にしているのは、観光分母10万人を野尻湖で達成することだ。LAMPという“点”を強め、野尻湖や信濃町のなかで“面”をつくって人を呼び込むイメージを頭の中で描いているという。

photo by mocchy
photo by mocchy

このまちに人を呼びこむことが、ここに住む人にとって住みやすいまちをつくることにも繋がってくると思っています。僕は従業員には必ず、『働き方よりも生き方を優先したほうがいい』と伝えるんです。自分がどんな生き方をしたいか考えて、その後に働き方があるべきじゃないですか。その生き方を叶えるために信濃町に来たうちの従業員や若者が生きやすいまちにするためには、10万人は集客が必要。そうすれば経済が回って、生きるのに不自由ない場所になると考えています」(マメさん)

マメさんが描く未来は、LAMPで人生を照らされた人が、その人の周りにもひとつずつ明かりを灯していく、優しさが広がった世界だ。その未来を実現させるため、このまちの良さを理解してそれを最大限に活かし、このまちでの事業を通じた目標達成へと向かってただただ走り続けている。

「自由と責任は比例します。自分が自由な生き方を優先するなら責任も大きくなるから努力しないといけない。でも努力は絶対に裏切らないから」(マメさん)

マメさんが地方で挑戦することに迷いがなかったのは、自分が努力する姿を疑わなかったからに違いない。

Information

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Editor's Note

編集後記

久しぶりにお邪魔したLAMP野尻湖は、サウナを楽しむ人、レストランで食事をとる人、地元の人、都会から来た人、いろんな人が行き交っていてとても賑やかでした。マメさんが「暇だった」と語る日々が想像もできないほど。
「田舎だから難しい」と決めつけず、自分のいる地域の可能性を信じてチャレンジし、上昇を続けるマメさんとLAMPの皆さんの姿に、たくさんの勇気をいただいた取材となりました。

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