前略、100年先のふるさとを思ふメディアです。

LOCAL LETTER

インタビュアーはラーメン屋?山中散歩氏にきく、新たな物語を紡ぐ取材準備

JUN. 20

JAPAN

拝啓、ただ書くだけじゃない温もりあるライターになりたいアナタへ

※本レポートは2024年6月11日に行われたイベント「【インタビューライター養成講座 特別公開講義②】人を活かす、インタビュアーの頭の中」を記事にしています。

「100年先のふるさとを思ふメディア」をコンセプトとする「LOCAL LETTER」。地域で活躍するプレイヤーや、豊かな暮らしを模索する実践者にインタビューし、日々執筆。800地域・1,100記事以上の掲載をしてきました。

そんなLOCAL LETTERでは、蓄積してきたインタビュー/ライティングノウハウを惜しみなくお伝えする「インタビューライター養成講座」を開講しています。現在は、第5期目となる受講生を募集中です。(インタビューライター養成講座 詳細はこちら

今期のインタビューライター養成講座にて、講師の1人をつとめるのは山中散歩さん。greenzや東洋経済オンラインで連載中の「生き方編集者」さんです。ナラティブ・ケア・家族・キャリアブレイクなどをテーマに、記事を書いていらっしゃいます。

特別公開講義では人を活かす、インタビュアーの頭の中』をテーマに、山中さんが想うインタビューの価値や、インタビューの組み立て方など、普段は聞けない実践者の考えを深掘りしていきました。

モデレートするのは本講座の講師であり、株式会社WHERE代表の平林です。

「こんなことまで教えていただいてよいの!?」と聞き手の胸をドキドキと高鳴らせた、貴重な特別公開授業の中身をレポートします。

正解はひとつじゃない。アナタの好きな「味」を極める

平林(WHERE・モデレーター):「インタビューライター養成講座」第5期では、敬愛してやまない「生き方編集者」の山中散歩さんを講師にお迎えします。まず今回は、インタビュアーが何を考え、どのように実践されているのか、山中さんの「頭の中」を覗かせていただきます。

山中 散歩 氏:前提からお話すると、インタビューはラーメン屋みたいなものだなと思っています。ラーメン屋はいっぱいあるけど、どれが「正解」とかはないじゃないですか。インタビューもインタビュアーの数だけやり方があると思っています。

とはいえ、最初から自己流で行うのは難しい。ラーメン屋もどこかの店で修行して、先人の味をちょっと真似して、技を盗んで、そこから自分の店をつくるといったプロセスを辿るのが一般的かと思います。

インタビューも似ている気がしていて。「この人のインタビューすごくいいから、真似しよう」とスタートして、そこから自分の味を極めていく。

そういった意味で今日僕がお話しすることも、あくまでも僕のラーメンの味です。決して私のやり方が「正解」じゃないよとお伝えしておきます。

人それぞれ好きな味がある。僕の味がいいなと思ってくださる方には、何か参考にしていただければ嬉しいです。

山中 散歩 氏 生き方編集者 / 生き方編集者。文筆、編集、撮影、音声配信などを通して、生き方の物語をともにつくる活動に取り組む。「ほしい家族をつくる(greenz)」「キャリアブレイク(東洋経済オンライン)」連載中。ときどき友人と「ほめるBar」を開催。関心領域はナラティブ、ケア、家族、キャリアブレイク。散歩の合間に働いてます。
山中 散歩 氏 生き方編集者 / 生き方編集者。文筆、編集、撮影、音声配信などを通して、生き方の物語をともにつくる活動に取り組む。「ほしい家族をつくる(greenz)」「キャリアブレイク(東洋経済オンライン)」連載中。ときどき友人と「ほめるBar」を開催。関心領域はナラティブ、ケア、家族、キャリアブレイク。散歩の合間に働いてます。

3者の「新しい物語」を紡ぐ。なぜインタビューをするのか?

初めに、インタビューの目的を考えることがとても大事だと思っています。「インタビュー」とひと口で言っても、目的はバラバラだと思うんです。

例えば、ジャーナリストがするインタビューは、場合によっては権力の糾弾が目的なこともある。一方で、近所のおっちゃんとかの話を聞いて文章にまとめる「生活史」もインタビューの一つです。それぞれ目的が違うけれど、「インタビュー」という言葉でくくられます。

目的が何かによって、インタビューの方法も質問も事前準備も変わってくるわけですね。どう準備をするかの前に、なぜインタビューをするのか」という基礎を明確にしましょう。

インタビューライター養成講座では、「リサーチが9割」という前提のもと、目的から逆算した企画・構成を学ぶ。そのためにもインタビューの目的をじっくり考えていく。
photo by mocchy / インタビューライター養成講座では、「リサーチが9割」という前提のもと、目的から逆算した企画・構成を学ぶ。そのためにもインタビューの目的をじっくり考えていく。

ちなみに、僕がインタビューする目的は「物語をともにつくること」です。
目の前の取材対象者が自分でも気づけていない「物語」を一緒に見つけていく。例えば、インタビュー中に取材相手が「自分をこうして見ることもできるんだ」と新たな見方に気がつく。そうして深く話をしていくと、これまでにないインタビュー記事ができるんです。

それを読んだ読者も「こんな生き方があるのか」と気づいて、明日からのヒントになるかもしれない。つまり、インタビュー対象者と読者、そしてインタビュアー、それぞれが自分の物語をつくっていくきっかけとなるのがインタビューだと思ってます。取材準備もこの想いを前提に行っています。

講座では、取材相手から”個性”と”温度”を引き出し、物語を紡いでいく手法を身に着ける。
photo by mocchy / 講座では、取材相手から”個性”と”温度”を引き出し、物語を紡いでいく手法を身に着ける。

取材準備は何をしたらいいの?山中流、準備シートを公開!

具体的に事例を見せたほうがわかりやすいと思うので、最近僕が書いた記事の例を共有しますね。直近だと、greenz.jpで執筆している「ほしい家族をつくる」という連載で里親子を取材しました。これはまさに、取材対象者の方にすごく喜んでいただけた記事です。

【山中さんの執筆記事(greenz.jpより引用)】
「この子を可愛いと思えない」「大人を信じられない」。愛着の問題に苦しんだ里親子が、安心な関係をつくり「この家族で幸せ」と言えるようになるまで

この里親の齋藤さんという方は、里親に関する活動をしており、多くのメディアに取材されています。一方で、「良い親」としての側面ばかりが伝えられてしまう現状にご本人はちょっとモヤモヤしてると教えてくださいました。「私もいろいろ悩んできていて、完璧な親じゃない」と。

私は一緒に記事をつくる中で、きちんとリアルを伝えるように意識しました。結果、斉藤さんには「これまでで1番、私たちのことが伝わる記事になりました」と喜んでいただけました。

取材対象も新しい物語をつくれて、僕も里親という選択肢を深く知れて、読者にもこういう関係があるんだということを知ってもらえる。そんな記事になったんです。この記事についてどんな準備をしたかということを、ちょっとお見せしますね。

山中さん流取材準備シートの項目

このような項目で、取材ごとに下調べシートみたいなものを作っています。まず考えるのは、この記事の目的は何か、想定読者は誰かというところターゲットとしては、具体的にイメージできる人、たとえば友人や知り合いをイメージすると良いです。

記事を「手紙」だと考えると、相手の顔がイメージできないと言葉のトーンや内容が選べません。手紙の贈り相手は誰で、どんなことを知りたくて、どこで情報を得ているか。具体的に考えていきます。

次に、ベンチマーク。自分が触れたことがあるコンテンツで「こんな感じがいいな」「この本が近いな」「こんな感じの読後感にしたいな」と考えます。たとえば、『プロフェッショナル仕事の流儀』みたいな記事にしたいな、など、記事以外のコンテンツでもかまいません。そして、ターゲットとなる方にどういうことを届けたいか、伝えるメッセージを設定しますね。

取材準備のやり方もインタビュアーによってそれぞれ。内容を検討する際は、紙とペンで深めていく方も。
photo by mocchy / 取材準備のやり方もインタビュアーによってそれぞれ。内容を検討する際は、紙とペンで深めていく方も。

「この人になら話したい」と思わせる、2種類の準備と質問

最後は、取材前の下調べです。僕は関連情報と派生情報を調べています。
関連情報は、取材対象についての下調べです。今回でいうと家族の成り立ちの経緯や、齋藤さんのご経歴など、項目で分けていきます。これまでに出ている記事などから調べていきます。

加えて、派生情報も調べていきます。主に、取材対象者にまつわる分野や関連テーマなどです。

例えば、今回の取材の場合は「杉並里子虐待死事件」についても調べました。派生情報があるとインタビューをするときも厚みが出る関連情報だけを調べている時よりも、話の深まりが違ってきます。

また「ファミリーサポート」や「真実告知」のような専門用語も調べます。専門用語を知っていると、この人なら話して大丈夫だなと、より深く話してくれるように思います。

「この人に話してもしょうがないな」と思われないように派生情報を調べておくことも大事ですね。

こうしたリサーチをしたうえで、質問項目を考えていきます。取材で本当に聞きたいのは、過去のインタビューでいっぱい語っていることはありません。過去の記事に載ってないことをいかに引き出すかという視点で、質問を考えていきます。

齋藤さん親子の場合は取材時間が2時間とたっぷりあったこともあり、15ほどの質問を用意した。質問数は5~6個程度の場合も。重要なのは質問の数ではなくその内容。
齋藤さん親子の場合は取材時間が2時間とたっぷりあったこともあり、15ほどの質問を用意した。質問数は5~6個程度の場合も。重要なのは質問の数ではなくその内容。

質問には「幹の質問と枝の質問」があると思います。「幹の質問」というのは「これは必ず押さえておく」という質問例えば、「家族のかたちを教えてください」とか「今の活動ではどんなことやっていますか?」など前提の部分です。

しかし前提だけだと、これまでに出ているインタビューと同じになってしまう。これまでに語っていない話が出てくるような「枝の質問」も仕込んでおきます。

例えば、過去のインタビューから情報を拾って「以前こういうことをおっしゃっていましたが、具体的にはどういうことですか?」と、さらに深掘りする質問。他にも「僕はこう思うんですが、〇〇についてどう思いますか?」と、これまで誰も入ったことのない路地に入っていくような質問も事前に考えてから取材に臨みます。

平林:具体的なターゲット設定や丁寧な準備があってこそ、山中さんは取材相手から言葉を引き出し、読者にとっても価値があるコンテンツをつくっていらっしゃるんだなと、改めて感心しながら聞いていました。

こうした基準を知ったうえで、実践してみる。そうしたプロセスがより良いインタビュー記事執筆のために大事だと思っています。ぜひインタビューライティングのスキルを身につけたい方は、山中さんからのフィードバックもいただきながら、一緒に講座で学んでいきましょう。本日はありがとうございました!

やわらかく、丁寧に分かりやすくお話してくださった山中さん。聞きやすい雰囲気に、参加者の質問が止まりませんでした。
やわらかく、丁寧に分かりやすくお話してくださった山中さん。聞きやすい雰囲気に、参加者の質問が止まりませんでした。

山中さんのできるだけ伝え尽くそうという熱が伝わり、参加者のみなさんからは、

「インタビューという行為に対しての考え方が変わりました。」
「取材対象者、読者、インタビュアー、その3者が『一緒に』物語をつくるというのが目から鱗です」
「ペルソナの設定、手紙で置き換えるのめちゃくちゃわかりやすいです」
「派生情報を持っておくとインタビュイーは安心感がありそうですね」

など、たくさんの感想がチャットにあふれました。その後も、30を超える質問に丁寧に回答してくださった山中さん。「インタビューライター養成講座」第5期では、山中さんからひとりひとりフィードバックが受けられる貴重な機会を豊富に設けています。

山中さんと一緒に「新しい物語をつくる」実践をしてみませんか?

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Information

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Editor's Note

編集後記

山中さん流の取材シートを早速活用させていただいています!「ケア」するように取材していく、対象者に寄り添った姿勢にとても感動しました。たくさんのヒントをありがとうございます。

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