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※本レポートは、株式会社WHEREが主催するトークセッション『地域経済サミットSHARE by WHERE in 東海』のSession1「ローカルファイナンスのゆくえ。社会性と経済性の評価論」を前後編で記事にしています。
近年、インパクト投資をはじめ、資金調達の選択肢は多様化しています。
一方で、地域に根ざした事業のなかには、課題の大きさだけでは測れない、そこに暮らす人々にとって大切な文化や価値が存在しています。
そうした地域性と経済性をどのように評価し、持続可能な環境をどう実現していくのか。東海地方で活躍中のプレーヤーがそれぞれの視点から語り合いました。
小西氏(モデレーター、以下敬称略):投資をはじめとした資金調達の手段が多様化する中、地域に根ざした事業には金銭には換えがたい文化や価値があります。このセッションでは、そうした地域性と経済性をどのように評価し、持続可能な環境をどう実現していくのかについて議論していきます。
まずはパネリストに自己紹介をいただき、その後それぞれの取組について深堀りします。では、古里さんからお願いします。
古里氏(以下敬称略):私は岐阜県の飛騨信用組合で12年金融業務に携わりました。今は独立し、自治体や企業の新規事業支援を手がける「株式会社リトルパーク」を運営しています。今回のディスカッションでは、金融の視点から地域内でお金を循環させる仕組みづくりについてお話しできればと思います。
藤田氏(以下敬称略):MTGという、美容や健康のプロダクトを作っている会社の投資子会社「MTG Ventures」で、スタートアップ投資をしています。
新卒からずっとVC(ベンチャーキャピタル)なので、キャリアは27年ぐらいです。その内22〜23年は名古屋にいて、もしかすると世界で一番名古屋で投資してる人かもしれません(笑)。
今はそれとは別に、地域課題を解決を目指すシード起業家に投資する独立ファンドもやっています。先週は福井、来週は沖縄、と全国を飛び回ってます。
秋元氏(以下敬称略):愛知県岡崎市で「岡崎ビジネスサポートセンター」という中小企業の相談所を12年前に立ち上げまして、ずっとセンター長をやってきました。
地域の小さなお店や会社の売上を上げる、新しいビジネスをつくるサポートをずっとやってきて、数えてみたら12年間で4,100社、2万7,000件くらいの経営相談を受けてきました。新しい事業も1,000件以上立ち上がっていて、テレビや新聞、雑誌、ラジオなどでの広報支援も2,500回以上やってきたと思います。
もともとは岐阜県岐阜市の出身で、今から24年前に「G-net(ジーネット)」というNPOを立ち上げたのがキャリアのスタートです。G-netで16年、岡崎で12年、地域に根差した取り組みをしてきました。
この2〜3年は東京の武蔵野大学で教授をしながら「次、何やろうかな」と考えていたんですけど、やっぱり岐阜に戻ろうかなという気持ちが強くなってきていて。次のチャレンジを見据えている今日この頃です。どうぞよろしくお願いします。
小西:今回は地域×ファイナンスをテーマに、地域を基盤にした融資、投資、事業支援と、それぞれのパイオニアである3人をお迎えしております。 どなたのお取り組みもすごく興味深いので、ぜひ深掘りしていきたいなと思っております。
まず、古里さんに聞かせてください。古里さんが導入に関わった、飛騨信用組合の地域通貨「さるぼぼコイン」。
可愛らしい名前が印象的ですが、成功例として全国的にも注目されています。なぜこの仕組みが生まれ、うまく機能しているのか、ぜひ教えていただきたいです。
特に、地方自治体と金融機関が共同で立ち上げた点がユニークだと思います。これまでも名古屋の「金シャチマネー」や東京都のPayPay連携キャンペーンなど、地域通貨の前例はありましたが、市民しか利用ができなかったり、行政の予算頼みで一時的な取り組みだったりしました。
さるぼぼコインは誰でも使え、しかも持続的に回る仕組みです。どのようにビジネスモデル化できたのでしょうか?
古里:さるぼぼコインの特徴は「金融機関が主体で事業化している」点です。飛騨信用組合が新規事業として立ち上げたため、持続するために利益を上げていくのはもちろん、公的な金融機関として、地域の社会課題解決につながる側面も重要視して来ました。
当初から「事業の持続可能性、地域貢献」という両輪を意識していたところがポイントかなと思います。(※2017年12月に始まったさるぼぼコインは、飛騨市・高山市・白川村で利用され、すでに2万人以上のユーザーがいる。)
秋元:なるほど。僕はみなさんみたいに金融機関出身でも、ファイナンスの専門家でもないから、そもそもの話で2つお伺いしたいんですけど。「地域通貨って何?」「これで儲かるの?」という点が単純に気になります。
もう1つは「儲からないから自治体がやってるんじゃないの?」というイメージがあったので、なんで飛騨信用組合でやると、それが収益が成り立ってビジネスになったのか、これも不思議でしょうがないです。ぜひ中学生にもわかるレベルで教えてください。
古里:ありがとうございます、さるぼぼコインは地域限定通貨で、高山市・飛騨市・白川村に住む方々と事業者が使える仕組みです。観光で訪れた方でもアプリをダウンロードすれば利用できますので、全国の電子地域通貨と同じ形態です。
それで、ここからは少し専門的な話なんですが、金融機関が主体なので、銀行業法の枠内で多くのことができるんです。
自治体や民間が専用に始めると、送金などの過程でいちいち許可が必要になる場合も多いですが、信用組合の場合は既存業務に組み込めるので、新たな部署や複雑な運用フローを作らずに済み、コストを大幅に抑えられたんです。
古里:あとは、これがあることで銀行の預金の量が増えるんです。
秋元:え!さるぼぼコインを回してると預金が増えるの?それはなぜですか?
古里:結局、飛騨信用組合の口座の中でお金が回る仕組みになってるんですよね。ユーザーも加盟店も組合の口座を経由してお金をやり取りするため、外部に資金が流出しません。たとえば組合に預金していたお金を引き出して他行に移すのではなく、代わりにチャージしてさるぼぼコインで使えば、そのまま組合内に預金が残り続けるわけです。
その結果、金融機関にとって投資の原資となる預金とその歩留まりを増やすことができます。つまり単に地域を盛り上げるだけでなく、組合の収益基盤も強化される仕組みになっているのです。
秋元:すばらしい話じゃないですか!でも、なぜ他の金融機関は同じことをしないのでしょうか?
古里:視察は100件以上来ていますが、金融機関として新規事業に取り組むことへの抵抗感が大きいようです。融資や預金業務とは全く違う活動を始めるわけですから、どうしても「慣れないことにはリスクが高い」という考えが先行してしまうんでしょう。
秋元:なるほど。逆に言うと、そこが1番の障壁なだけで、ビジネスの仕組みとしては、地域の金融機関がみんなこれをやれるってことですか?
古里:はい、なので僕は地銀・信金はみんなやった方がいいと思っています。なかなか増えてはいきませんが…。深谷市の地域通貨「ネギー」などで導入例はありますが、あれは行政主導なので補助金が切れれば継続は難しい。さるぼぼコインは当初からビジネスとして回しているからこそ長続きしているわけです。
秋元:ちなみに中野区の「中ペイ」という地域通貨がありますが、結局PayPayの方が便利でそちらを使ってしまう人も多いと聞きます。さるぼぼコインのユーザーはなぜPayPayではなくこちらを使うのでしょうか?
古里:早く普及させたことが大きいと思います。地元の小規模店のようにさるぼぼしか対応していない場所ではさるぼぼコインを使って、量販店や大手チェーンではPayPayを使ったりと「二刀流」で使い分けされています。
古里:あともう1つ、みなさんが何かを消費する度に必ずしも経済的・合理的な判断はしてないということはあると思います。むしろ習慣や愛着で使う手段を選ぶ傾向が強いんです。
使い続けることに気持ちよさを持ってもらい習慣化するというのは、実は設計当初からすごく狙ってやってました。
秋元:ということは、さるぼぼコイン使ってる人は損得っていうよりは、さるぼぼコインへの愛着もあるし、「LOVE飛騨」という気持ちもあるんですか。
古里:そうですね。そういう人もいると思います(笑)
藤田:あとは実際、さるぼぼコインで税金も支払えるんですよね?
古里:はい、たとえば市税や自動車税など、公共料金の多くもさるぼぼコインで納められます。しかも、チャージ時に常時1%のポイント還元があるため、実質的に1%引きで支払っているのと同じです。この還元率は、PayPayと比べてもかなり高い水準です。
小西:いや〜面白かったです。地域内で回るお金が増えて、信用組合にとっても、地域にとっても、そして使う人にとってもメリットがある仕組みというわけですね。
また使われ続ける理由が「便利さ」だけではなく、「サービスや地域への愛着」というのも興味深かったです。まさに経済性と社会性の両輪で、上手い設計だなと改めて感じました。
Editor's Note
サービスを使うとき、「地域貢献しよう」と意識することは少なくても、愛着や信頼が、結果的に地域内でお金を循環させ、経済を支えているのだと感じました。無理なく地域に関わるローカルファイナンスの仕組みとして、ひとつの実例を学べる時間でした。
HONOKA MORI
盛 ほの香