SUMMIT by WHERE
働き方改革やニューノーマルが謳われ、これからの時代の働き方に関するニュースが飛び交う中、働き方や働き甲斐について改めて考えるきっかけが増えています。
自分のいる場所での働き方にも新しい風を吹かせたいと願い、新しい一歩を模索しているアナタに、先を行く人たちの経験や想いを届けたい。
そんな想いから開催した、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「幸福度を高める働き方と地域の関係性」について、様々な立場から働き方の未来を見つめる、島田由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役)、蒲原大輔氏(サイボウズ株式会社 営業本部)、吉田基晴氏(株式会社あわえ 代表取締役)、鈴木哲也氏(ヤフー株式会社、LOCOAssociation 理事)の豪華4名のトークをお届け。
後編では、「自治体職員がやり甲斐をもって楽しく働けるには」という問いかけから、個人の強みを生かせる仕事、感情を共有できる場の必要性へと議論が発展していきます。
鈴木氏(モデレーター:以下、敬称略):今回、蒲原氏から他登壇者の方へ質問があるとお伺いしました。こちらをぜひお聞きしたいのですが、いかがでしょうか?
蒲原氏(以下、敬称略):ありがとうございます。今、国家・地方公務員の離職が続いていて、このままでは、地域を支える重要なプレーヤ―である自治体が空疎なものになってしまうのではないかという問題意識を持っています。
本セッションの前半で(前半はこちらからご覧いただけます)、登壇者のおふたりから、人間らしく働ける環境を自分で選べることが、個人が幸せに働く上で大事というお話がありました。それをお聞きになっている自治体職員の皆さんは、職員の方々にそういう環境を提供するにはどうしたらいいのかが気になっていると思います。
「組織としてどんな風にそういう場を作れば、よいチームワークを保ちながら、個人が幸せに働けるのか」をおふたりに伺いたいです。
島田氏(以下、敬称略):まずは、「あなたは何のためにこの仕事を選んだのですか?」というとてもシンプルな問いかけをしてみてほしいです。日本をもっと良くするでもいいし、おばあちゃんの生活を楽にするんだでも何でもいい、どのレベルでも構わないから、自分が持っていた本来の目的を思い出すということ。お互いに問いかけたり、部署のリーダーがそういう話をする時間を少し設けたりするだけでもすごく変わると思います。
島田:もうひとつ、今の仕事で「自分の強みを使っていますか?」と、声を大にして言いたいです。 働き甲斐のスタートポイントは「強みを使っているか」にあります。私は意味のないジョブローテーションはやるべきではないという考えを持っています。新しい経験から得るものもありますが、幸福度を高める近道は、その人が好きで得意なことを伸ばしていくことにあります。
蒲原:自治体の場合、僕のように事務職として採用されると、3年から5年に1回、いろいろな部署を回っていきます。希望を出せる制度はありますが大半は叶えられず、いきなり情報システム部門に入って3年経ったら税金の徴収、次は子ども関係とか、いろいろなところへ行きます。
そのような環境なので、40歳になった時、自分がどこでどうしているか全くイメージできません。僕はそこにすごく不安を感じ、自分で主体的に選べるところに行き、そこから自治体を支援しようと思って、サイボウズに転職しました。
島田さんがおっしゃったように、本人の主体性や納得感が伴わないジョブローテーションというのは人間らしく働くことを大きく阻害しているという点で非常に共感しました。
島田:人の成長に関わっていくという観点から、もの凄く気をつけていることは、対話をすることです。一人ひとり全員違いますから、一人ひとりと向き合います。それは、役職に関係なく、1番小さい単位のチームのリーダーの責務です。
異動についても、対話を通じて互いに納得することをすごく心がけています。
蒲原:ありがとうございます。「対話」という言葉が心に刺さりました。役所では異動の理由が説明されないことが多く、ブラックボックスなんです。だから自分で決めている感覚はなくて、人に決められている感覚を持つ人が多いことに、今ハッと気づかされました。
吉田氏(以下、敬称略):一緒に仕事をする自治体職員の方が「こんなに公務員が楽しいと思わなかった」と涙を流されて、もらい泣きしたことが何度もあります。
そういうエモーショナルな感情を持った瞬間に立ち会えた方が、嫉妬などない状態でいかに情報共有して語れるか。そんな場をもっともっと役場とか市役所さんの中で持てればいいんじゃないかなあと思います。業務連絡ではなく、「こんな感動をした」が共有できれば、直接体験した人以外も変わっていけるのではないかと思います。
蒲原:役所の中では、情報共有の場に「事務連絡」というタイトルがついており、最低限の業務情報をシェアする場とみなされていて、感情の共有は確かにあまりないと思います。
心理的安全性を作る上で、嬉しいことも不安などもオープンにできる環境は重要だと感じていますが、それが今の役所の中ではやり辛いというか、やってはいけないことという思い込みがあると思います。そこに風穴を開けられると、もっと人間らしいコミュニケーションの場に変わっていけるのかなという気がしました。
島田:ポジティブ感情とネガティブ感情のどちらもあってはじめて人間なのに、どこかでネガティブ感情があってはいけない、感情は表現するものじゃないという思い込みがあるから、特にポジティブ感情を表現すると「なんでそれ示すの?」となっていくわけですよね。
ポジティブな体験や感情を遠慮や恐れなくシェアできる場が、心理的安全性の条件のひとつです。 今日、聴いてくださっている皆さんが、「そんなことあったんだ、良かったね」と言ってあげたり、「ちょっとこれは怖いの」とか「嫌なの」と言うことがスタートなんですよね。
蒲原:自治体の内部でやりとりしているメールとメモ1個でさえも情報公開の対象なんです。だから、お役所の中で「不満に思った」などのネガティブな感情をメールなどで残すことは嫌がられるケースが多いんです。
僕が一昨年くらいから始めた公務員LT会は、自治体職員や国家公務員が5分くらいのショートプレゼンで、ネガティブな感情も含めた自分の想いを吐露して、互いに共感したり、オープンに議論したりして盛り上がっています。
そういう場を役所の中外どちらに作るのかはさておき、感情をシェアする場は大事だということに、お二人の話で気づくことができました。
鈴木:視聴者の方から「自分の強みは、どうしたらわかるのか」という質問がありましたが、島田さんいかがでしょうか?
島田: 強みは誰にでもあります。気づかないだけです。強みを見つけるためにやれることを2つお伝えしておきます。
1つ目は、自分の強みだと思うことを紙にペンで書くこと。2つ目は、少なくとも5人、できれば10人以上の自分のことをよく知っている人に、自分の強みを聞いてください。「ここがいい」と言われた時、「そんなことない」といった意味のない遠慮をしないこと。「ありがとう」と言って、全部受け取って、それを紙に書いてください。
これをやるだけで大きく変わります。脳科学的にも心理学的にも大きなことなので、騙されたと思ってぜひやってみてください。
鈴木:今やるべきことを簡潔にお伝えいただき、ありがとうございます。聞いてくださってる皆さんもぜひすぐやってみてください。僕もやりたいと思います。
鈴木:残り時間数分となりましたので、登壇者の皆さんからひと言ずついただいて終わりたいと思います。
蒲原:これをご覧いただいている自治体職員さんや実際に関わっている方々に刺さるキーワードがいくつもあったと思います。
僕自身としては、今日この場で話したことを何かしらのアウトプットにして自治体職員の方々にシェアし、役所の中でどういったことができるかを導き出していきたいと思います。それを次のアクションとする宣言をして今日は終わらせていただければと思います。ありがとうございました。
吉田:私も非常に勉強になりました。先ほどの自分の強みを見つける方法を僕もやってみようと思います。やっぱり閃いたことをいかに行動に移せるかだと思います。
それ誰が決めたんだっけというルールは自分の中にもたくさんあります。「不思議だな」「なんでだっけ」みたいなことをもっと追い求めて、もっと欲張りに「全部山盛りでください」という人生でいいんじゃないかと思います。私もそうやって生きていきたいなと。今日はみなさんありがとうございました。
島田:本当に超勉強になりました。とっても面白かったです。伝えたいことをひとつだけ。「1秒ずつ死んでいってるんだよ、私たち」ということを最後に言いたいです。
「自分はなんのために生きているんだっけ?」ということを思い出してみて、本当にやりたかったことがあるならぜひやってほしい!1ミリでも動くと全部が変わるから。今日の皆さんが少しずつ、私達も含めて、1ミリでも、何か楽しいと思うことができたらいいなと思います。どうもありがとうございました。
鈴木:僕もさっきのお話を聞いて非常に勉強になりました。違う機会でまた僕も登壇者として話したいと思います。ぜひ今後ともよろしくお願いいたします。
自治体職員が働きやすい環境への問いかけから、自治体に限らず全ての職場に共通した議論に発展しました。
働きやすく幸福感を持てる職場であるためには、自分で選んだという実感が持てる、対話による納得感が得られる、感情の共有ができるといったことが必要。そういう場が与えられるのを待つのではなく、自らが動くことから始める。
それが今日の結論と言えるでしょう。
固定観念にとらわれず、自分の強みを生かしながら、情熱を忘れずに、地域の中で働き続けたいものです。アナタもワタシも。
草々
Editor's Note
島田氏の歯切れのいい話しぶり、吉田氏のユーモアを交えた語り口、お二人に向かう蒲原氏の真っすぐな姿勢。いずれも気持ちよく、爽やかな後味のセッションでした。
その数時間後に、蒲原氏が早速、「自治体の人事異動に『対話』を持ち込みませんか?という話」という記事を公開されました。セッションの熱気と蒲原氏の想いが伝ってきます。ぜひ、こちらもお読みいただきたいと思います。
FUSAKO HIRABAYASHI
ひらばやし ふさこ