SUMMIT by WHERE
働き方改革やニューノーマルが謳われ、これからの時代の働き方に関するニュースが飛び交う中、働き方や働き甲斐について改めて考えるきっかけが増えています。
自分のいる場所での働き方にも新しい風を吹かせたいと願い、新しい一歩を模索しているアナタに、先を行く人たちの経験や想いを届けたい。
そんな想いから開催した、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「幸福度を高める働き方と地域の関係性」について、様々な立場から働き方の未来を見つめる、島田由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役)、蒲原大輔氏(サイボウズ株式会社 営業本部)、吉田基晴氏(株式会社あわえ 代表取締役)、鈴木哲也氏(ヤフー株式会社、LOCOAssociation 理事)の豪華4名のトークをお届け。
前編では、コロナ禍における働き方の変化について思うところを共有し、働き方と幸福度の関係の議論に入っていきます。
セッションのスタートは、モデレーターを務める鈴木哲也氏が、このセッションゴールを示すところから。
<セッションのゴール>
コロナ禍は働き方暮らし方を見つめ直す機会。
幸福度を高めるにはどうしたらいいか、自分の幸福とは何かを見つめ直す。
参加者(視聴者)自身が考え直しアクションできることがゴール
さらに続いて、鈴木氏が「働き方」と「地域の関係性」について、補足を加えます。
鈴木氏(モデレーター:以下、敬称略):副業・兼業とかテレワークに加えて、ワケーションを推進する方針も政府から発表されましたが、色々な手法や流行があると思っています。10年前ぐらいからプロボノという言葉もできたように、既に出ている以外にも様々なやり方があると思います。そのどれが正解ということはないと思いますので、いろいろな事例を聞きながらご自分の中でイメージをしていただけたらと思います。
これに続く最初のセクションは各自の自己紹介です。まずは、モデレーターの私から。
ヤフー株式会社の社会貢献事業で、地域で活動する方、社会活動する方のお金を集めるサポート「ヤフーネット募金」、ボランティア活動の人的パワー不足の解決を支援する「ヤフーボランティア」を担当しています。また、地域で自分たちがしていきたい暮らしの実現を支援する「一般社団法人ローカルコワークアソシエーション」を創設し、主にコワーキングスペース、シェアスペースの立ち上げをしています。3年くらい前から、地元の茨城で移住定住分野の活動にも携わっています。
蒲原氏(以下、敬称略):品川区役所に5年7ヶ月勤めてから、サイボウズ株式会社に転職しました。現在は「業務改善プラットフォームkintone 」を使って自治体の業務を変えていくことに携わっています。職員の方々にとって自治体の仕事がより面白くなるように、今回のテーマを借りると、幸福度が高い働き方ができることを目指しています。
もちろん、ツールを使うだけでは実現できませんので、公務員が日ごろ思っていることをプレゼンテーションするイベントコミュニティを作ったり、公務員のレンタル移籍制度といった新しい人事スキームの提唱なども行っております。
島田氏(以下、敬称略):ユニリーバ日本法人の役員として、人事・総務を担当しています。ユニリーバでは、働く場所・時間を社員が自由に選べる「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」という制度を2016年の7月に導入しました。2019年の7月からは、副業でユニリーバの仕事ができる仕組み「WAAP(Work from Anywhere & Anytime with Parallel careers)」を展開しています。
特にこの4,5年、個人的にも力を入れているのが地域で、昨年の夏には「地域 de WAA」という仕組みも取り入れています。どんどん地域で仕事すればいい、今だからこそ、行く先の地域の方、状況がOKであればどんどん行ったらいいんじゃないかという考えを持っています。
吉田氏(以下、敬称略):20年弱サイファーテック株式会社というITの会社を経営しています。若い頃は起業するなら東京と思っていたので東京で起業しましたが、東日本大震災の翌年2012年に、出身地の徳島県美波町にサテライトオフィスを作り、翌年に本社も移転しました。「仕事がない、仕事がない」と言って子供たちが出ていく町になっていたところに、外からいろんな会社が入ってきて地元の人たちにも喜ばれています。こういうことをもっと全国に広めたいと思って、2013年に株式会社あわえを美波町で設立して、100以上の自治体さんの地方創生を支援しています。
続いて、モデレーターの鈴木氏から「本日のセッションテーマを語るにあたって『働き方の変化』は避けて通れないところ」との導入があり、登壇者各自が感じている働き方の変化を共有しました。
島田:幸福度を高める働き方と地域には正の関係性があり、地域との関係性が密になって、繋がりと関わりが増えると、働き方の幸福度は確実に高まっていきます。このことは、ただ感覚的に言っているだけではなく、ポジティブ心理学で様々なデータとしてわかっていることです。
吉田さんのように地域と密接な関係性を持つ働き方を先んじて始めていらっしゃる方がおられるのはとても嬉しいことです。今こそ、コロナから得た学びで働き方をより良くしていくことをみんなで考えられたらいいなと思っています。9時-17時とか、オフィスでしか働けないなんて、本当にナンセンスだということだけはまず言っておきたいです。
吉田:なんとなく日本は、仕事と趣味とか、お金とやりがいとか、子育てと○○みたいな二者択一になっている気がします。社内で「欲望の千手観音」と言われているくらい欲しがりの僕も、そういう社会にイヤイヤ従っていました。でも、場所を変えたら両方できると思い立って地方に行き、本社も地方に移しました。
都会では自然の中で遊ぶのは特別な日のイベントでしたけど、ここでは朝釣りをしてから仕事ができます。昼休みに家に帰って子どもと一緒にご飯を食べる暮らしが普通にできるんです。こういう、仕事とそれ以外での役割が渾然一体とした生き方ができることが幸せへの道ではないかと思っています。
蒲原:僕の働き方は自治体職員からサイボウズに移ったことで大きく変わりました。自治体職員時代は、島田さんにナッシングと言われたようなガチガチの働き方で、9時-17時に決められた場所で仕事をするのが当たり前でした。転職してからは、いつでもどこでも仕事ができる環境にあります。
僕自身は仕事が好きで、ベッドに入って深夜にハッと閃いたら、そのまま朝まで仕事をしていたい人間です。でも、深夜に役所に忍び込んだら捕まるのでダメですから、そういった自分のワガママが以前は実現できませんでした。今は実現できていて、それがすごく幸福度につながっていると感じています。
ここから、働き方と幸福度の関係性について議論を深めていきます。「島田さんのマイクがオンになったので」と笑いながら、鈴木氏が島田氏にバトンを渡しました。
島田:吉田さんが言われた「二者択一だと思い込んでいることを疑って見直してみる」ことは凄く大切。「欲望の千手観音」は最高ですね。私も後で命名してもらいたいと思います(笑)
おふたりから出てきたキーワードにポジティブ心理学からの教えがたくさん含まれていますので、それに関連する「人間がハピネスを感じる3つのレバー」をご紹介します。
1つ目が、自分でコントロールしている感覚、sense of control。これが持てるかどうかはすごく大きいです。2つ目は、sense of progress。成長とか進化。3つ目はお二人も言っておられた繋がり、sense of connectiveness です。
地域との関係性というのはそこにすごく付随してくると思います。いきなり地域に飛躍しなくても、この3つの観点から、今の自分の毎日をどんな風に満たせているかを考えてみるだけでぐっと幸福度が上がるのではないかと思います。
吉田:拡大前提の社会において、効率化のために、働く場所と寝る場所が違う社会になったんだなと思います。この 田舎では職住遊、全部同じ場所です。それに加えて、都会ではオンオフもくっきり分かれてしまっているなと感じます。例えば、電車の中で化粧している若い女性をよく見かけます。オフィスに入る瞬間にオンになって、それ以外はオフみたいな。
田舎はオフの匿名性がなくてしんどい面もありますけど、職住遊、オンとオフが複雑に絡み合っている中で生きていくのは味わい深いと思って、それを楽しんでいます。
蒲原:先ほどの吉田さんの話がすごくしっくりきました。いろんなことが渾然一体としている、仕事とプライベートが明確に別れているのではなく、いつでもどこでも自分の理想が選べることが、働き方と幸福の関係性ではないかと感じました。僕も自分で選べるという主体性が重要だと思っています。今の社会というか、僕が見てきた自治体という業界には、それを妨げる要素がいっぱいあります。それを1個1個取り除く努力をすることで、そこで働く人もハッピーになるんじゃないかなという感想を持ちました。
ここで吉田氏が、「15年前は自治体と民間経営者が一緒に社会を変えていくことなどできなかったけれど、今はできる」例として、 「デュアルスクール」という教育制度を提言して取り入れられた経験を上げられました。「それ、吉田さんだったんですか?!」と驚く島田氏。
吉田氏が「この経験を含め、税金や選挙以外でも社会に影響を与えることができると思えてから、仕事や経営が楽しくなった。そんな社会にもっともっとなったらいい」と語ると、鈴木氏が「自治体の方々との連携、今どういう形でやられているのか、10年スパンで変化してきたことを教えてほしい」と要望しました。
吉田:個人では、美波町参与と、ある部分での町長アドバイザー。株式会社あわえは美波町の地方創生のパートナー企業になっています。僕が経営するサイファー・テックを皮切りに、 美波町にIT企業など20社ほどが入ってきて、地域に変化を起こしています。
僕が美波町に戻ってきた当初は自治体職員さんから「どうせ」という言葉をしばしば聞いた記憶があります。「どうせ美波町は厳しい」「どうせ田舎は厳しい」、もっというと「社会全体、これからの時代が厳しい、どうせ無理」という感じでした。
外から企業が入ってきて小さな変化が起こることで、最近は「もっとできるのでは」という雰囲気が出てきて明るくなってきたと感じます。見られ効果というのでしょうか、外から評価される成功体験が「もっともっと」という循環になりつつあるのかなと思います。従来は、最初の小さな成功体験を味わえる場が自治体職員の方には少なかったのかなと感じています。
吉田氏のご経験から、「都会だから」と諦めていた生き方が、地方では可能になることが実感を伴って伝わってきました。都会と地方という二者択一ではなく、両方手に入れるために、新しい制度を提案し、自治体と共に実現してこられたお話に励まされた方も多いのではないでしょうか。
蒲原氏の転職前後のご経験談は、時間に縛られない働き方を選べることが幸福度を高めることを立証しています。
それらのベースになる知見を島田氏が披露してくださるという絶妙な布陣になりました。
自分にとっての幸福とは何か、どういう生き方が自分にとって幸福度の高い生き方なのかを見つめ直し、二者択一ではなく、両方、さらにはもっと多くを得られる道を探っていくことがこれからの時代のスタンダードになるのかもしれません。
草々
(後編記事はこちら)
Editor's Note
コロナ禍が一過性のものではないという認識が定着するにつれ、個人も企業も都会から他の地域へ拠点を移す流れは確実に強まっています。本セッションを聴いて、地域で働くようになる人と、受け入れる地域の人たちの両者が幸せであるような新しい働き方と暮らし方の必要性を痛感しました。
また、在宅ワークが広まり、「オンオフの切り替えが難しい」ことが問題点とされている中、「オンオフを渾然一体とさせる」暮らし方に次の時代の重要なヒントがありそうだと感じています。そもそも「仕事がオンでそれ以外がオフ」というところから自分なりに見直すことで、新しい何かが生まれてくるのがとても楽しみです。
FUSAKO HIRABAYASHI
ひらばやし ふさこ