SUMMIT by WHERE
コロナ禍により、同じ場所に“集う”ことが難しくなった一方で、オンラインコミュニケーションが急速に普及し、遠距離でも簡単に繋がれるようになってきました。環境が激変する中で、地域に“集う”ことを媒介としてつくられてきた地域コミュニティはどのように変わっていくのでしょうか。
そんな疑問をもつアナタのために開催した、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「オンラインとオフラインで地域コミュニティはどう変化するのか?」について、田端 将伸氏(埼玉県横瀬町役場まち経営課)、坂本 大祐氏(オフィスキャンプ代表、LOCO Associtation代表)、渡邉 知氏(株式会社ファイアープレイス代表取締役社長)、佐久間智之氏(PRDESIGN JAPAN株式会社代表取締役)、田村 悠揮氏(複業家)の豪華5名のトークをお届け。
前編では、地域コミュニティを主宰している登壇者が現場で肌身で感じている変化、そのポジティブな面とネガティブな面を共有し、ネガティブな面にどう対処していけるのかについて考えていきます。
セッションのスタートは、本モデレーターの田村氏がこのセッションのゴールを説明するところから。
セッションゴール
地域コミュニティに
“いま”何が起こっているかを知り
“今後”どう変わっていくかを考える
「今日は参加者と共に考える場にしていきたいと思っています」とのコメントに続き、本セッションにおけるコミュニティの定義の説明がありました。
田村氏(モデレータ:以下、敬称略):この話のベースになる「コミュニティ」とはそもそもなんぞやについてですが、それを話すとセッションが終わってしまうので、今日は一番広範な定義「地域や特定の共通の目的で人が集まっている場」として、登壇者各々が携わっているコミュニティについて話していただきます。田端さんがみなさんに相談したいこともあるそうなので、そういったリアルな課題を一緒に考えていくことをメインにしていきたいと思います。
まずは、登壇者皆さんの自己紹介からはじめていこうと思います。私は、秋田県鹿角市出身で、今は複業家を名乗り、IT、フィットネス、歯科矯正など様々な分野の仕事をしています。地域の文脈では、5年前から「ふるさとチョイス」を運営する株式会社トラストバンクで、ふるさと納税の啓蒙で100ヶ所以上の地域に訪問し、ふるさと納税を通じた地域活性の支援を行なっています。今日は4人の登壇者の方に話を聞いて、いろいろ質問していきたいと思っています。
坂本氏(以下、敬称略):奈良県東吉野村という人口1,700人の村に大阪から移住して15年目になります。国県村との共同事業で、「オフィスキャンプ東吉野」というシェアとコワーキングのスペースを5年前に開設しました。ここをきっかけに東吉野で暮らすようになってくださった人たちと一緒に会社を立ち上げたことから、共同体としてのコミュニティと、協力して働く協働体としてのコミュニティ(コーポレート)づくりをしています。両者の掛け算が持続性の高いコミュニティを生むのではないかと感じています。
佐久間氏(以下、敬称略):埼玉県三芳町で公務員を18年通い、今年2月に退職して現在はPRDESIGN JAPAN株式会社という会社の一人社長をしています。公務員時代に三芳町の広報・プロモーションを担当し、内閣総理大臣賞を受賞したことがきっかけで町が注目されるようになりました。この経験から、広報をフックとして日本を元気にしようと思って起業し、東京都中野区、高知県の四万十町他で広報アドバイザーという形で取り組んでいます。
田端氏(以下、敬称略):埼玉県秩父郡横瀬町で生まれ育ち、高校卒業後から横瀬町役場に勤務しています。税務担当、財政担当、観光担当を経験した後、4年前から「まち経営課」で総合計画の策定、官民連携を担当しています。 地域に45年おり、地域の人たちとは顔見知りなので、地域の人からいろんな話を聞いて、役場の職員に伝える役割が多いです。今日は私の方からもいろいろ聞きたいと思っていることがありますので、よろしくお願いします。
渡邉氏(以下、敬称略):僕は仙台市出身で、東日本大震災の時に家族や親族が被災したのをきっかけに、当時勤めていたリクルートの社内で地方創生に携われるポジションを希望して異動しました。今は株式会社ファイアープレイスという会社の代表として「つながりを創出する」事業を行っています。今日は西伊豆のアウトドア施設からの参加です。
田村:皆さんありがとうございます。ここからは、地域コミュニティに“いま”何が起こっているかを知るために、「コロナ禍でいろいろなことが急激に変化している、変化せざるを得ない状況で、実際に地域でどんなことが起きているのか」をお伺いしていきたいと思っています。
坂本:変化は2種類ありますね。ひとつは“ステイホーム”という暮らし方になったことですが、東吉野村という過疎が進んでいるエリアにおいてのステイホームはそれほど苦痛ではなかったんです。家が広いというのは大きな要素でしたし、近所に生えているお茶の葉を摘んでお茶を作ってみたりして楽しめたからです。
もうひとつの変化は、コワーキングスペースを使ってくれる人も問合せも増えたことですね。 中には企業の1セクションでこちらに来たいというケースもありました。エクソダスというか、都市から離れていこうとしている人たちがいることを実感します。
田村:渡邉さんはいかがでしょうか?
渡邉:コロナは予想だにしないことが起きた時に「人がどう意思決定し、行動するか」の踏み絵みたいなものになったような気がします。自分で決める人と決められない人がいて、両者の間に差が出てきていますよね。
自分はオンラインで繋がりがたくさんできました。例えば、坂本さんとはオンラインで何度か交流していて、実際にお会いしたことはないけれど、とても知り合っている感があります。他にもオンラインで交流していてリアルで会ったことのない人が百人単位で増えました。オフラインで会わないと知り合えない、知り得ないと思っていたのが、そうではないことがわかったのはポジティブなことでした。
渡邉:一方で、逆の人もいるわけですよね。誰かとオンラインで繋がったことがないとか、オンラインの会議方法がわからないとか。そうなると、オンラインでコミュニケーションできる人とできない人とで、コミュニティの分断が進んじゃうと思うんですよ。
これを受けて田端氏も、分断・格差は地域コミュニティでも出てきている実感があると自身の体験を披露します。
田端:今、僕がいるAREA898は、移住者も含めた地域の人たちの交流の場です。4月にオープンしてすぐにコロナでクローズになってしまいましたけど、その前の1年間はプレオープンとしていろいろやってみて、使われた方を研究したんですよね。いろんなイベントをして地域の人と移住者、役所の人間もリアルに繋がったことで、リアルな関係が深まりました。
田端:今は、大きなイベントは自粛状態ですが、小さなイベントは今日も開催していてオンラインで配信もしました。でもこのコロナ禍のなか、オンラインで見たいという地域の人は少ないんですよね。高齢者が多いので、オンラインで見られる環境がない、そこまでしなくてもいいかなという人が多いです。 渡邉さんが言われた分断、格差は地域コミュニティでも出てきていると実感しています。
ポジティブな変化としては、移住を検討する人が増えていることや、オンラインでそういう方の相談を受けていることがありますかね。
田村:コミュニティにはインナー、アウター両方のコミュニケーションが必ず発生します。コミュニケーションデザインという部分でどんな風にしていったらいいのか、佐久間さんの見解をいただきたいと思います。
佐久間:先ほどから出ている「分断」は「格差」とも言えると思います。コロナ禍の状況で、オンラインで情報を得る人と得られない人で格差が生まれてしまっています。例えば、「三密を避ける」ことを自分たちは当たり前に知っていますが、高齢者の中には密の感染リスクを知らずに外に出て密集して井戸端会議をしてしまうことが結構あったりします。
オンラインを使えない・使おうとしない人にも情報をしっかりと届けることが行政としての課題です。オンライン上のコミュニケーションができない人向けの伝達手段は広報誌などアナログなものになりますよね。オンラインとオフラインを共存させた上で、情報格差を生ませないコミュニケーションデザインが必要だと思います。
田村:情報を発信する側、受け取る側、両方で努力しないと分断ができてしまいますよね。
佐久間:そうです。受け取る側も必要なものは、チャレンジしながら選択肢を増やしていかないと格差はできてしまいます。コロナ禍でオンラインの良さがわかったと同時にオフラインの良さもすごくよくわかりました。今後、両者が融合して新しい地域コミュニティが生まれるのではないかとポジティブに期待しているところもあります。
田村:僕も今日の登壇者の皆さんそれぞれと事前に顔合わせをさせていただいた時、最後に毎回、「会いに行きます」と言っていました。同じ場で同じ空気で同じ匂いを感じながら、その人が今いるその場を一緒に共有することを欲している自分に、オンラインやりながら気づくところはありますね。どちらかではなく、両方。それぞれの良さをうまく組み合わせていけたら一番の理想ではありますね。
コロナ禍によってオフラインで集まることが難しくなった状況での地域コミュニティの“いま”の変化を話し合う、セッションの前半はここまでです。
変化のポジティブな面としては、距離のデメリットがなくなったことにより、地方のメリットが浮かびあがり、都市の人たちが地方に目を向け始めたこと、実際に地方に移転しようとする動きが強く出てきていることを、地方でコミュニティを主宰しておられる方々の実感として共有していただきました。
一方、ネガティブな面は、オンラインを使える/使えない・使う/使わないで生じる分断や格差が都市地方問わず課題となっていることで意見が一致しました。これを解決する方法として、オンラインとオフラインを共存させた情報格差を生ませないコミュニケーションデザインの必要性が指摘されました。
情報格差・分断を生まないためには、受け手側の努力も必要との指摘もありました。そこについて、セッションの後半では田端氏から、「誰もがオンラインで受発信できる場」を用意しようとしていることが語られていきます。
(後編はこちら)
草々
Editor's Note
機材トラブルでセッションの開始が遅れハラハラしましたが、参加者からのチャットは苦情どころか、「よくあること」「みんなで応援しよう」という温かいものでした。モデレーターの田村さんの場の温め方、登壇者のみなさんの考え深く誠実なお話しぶりに、この分野に関わる方々の在り様が感じられ、胸が熱くなりました。
ここで語られたコロナ禍での地方への移住者の増加や、オンラインを使わない人との情報ギャップは、自分も身近に感じています。分断や格差を生まないために、コミュニケーションに関わるライターという仕事で、自分に何ができるかを考えていきたいと思います。
FUSAKO HIRABAYASHI
ひらばやし ふさこ