SUMMIT by WHERE
日本全国の様々な地域経済を動かす上で欠かせないものの1つが、農業である。
しかし、日本の農業を取り巻く現実は厳しいものばかり。
少子高齢化による離農、耕作放棄地の拡大、輸入生産物の存在、気候変動の影響を受ける不作……。その他多くの問題が、日本の農業の行く手を阻んでいる。
その一方で、従来の農業のやり方とは全く異なる視点で農業をやっていこう、農業をやってみたいと意欲を燃やす人たちもいる。
どうしたら、日本の農業を活性化できるのか? 日本の農業に希望を見つけたい!
そんな疑問をもつアナタのために開催した、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「多様化する次世代型農業」について、井本 喜久氏(一般社団法人 The CAMPus 代表理事)、松本 純子氏(農林水産省)、齋藤 潤一氏(こゆ地域づくり推進機構 代表理事)、福嶋 隆宏氏(埼玉県深谷市役所 産業ブランド推進室 室長補佐)、鈴木 高祥氏(株式会社カゼグミ 代表取締役)の豪華5名のトークをお届け。
それぞれが見てきた農業の可能性を、どこまでも熱く語る。
鈴木氏(モデレーター:以下、敬称略):SUMMIT by WHERE Session A-5「多様化する次世代型農業」、ここからはカゼグミの鈴木がモデレーターとして進行していきます。本セッションの進行ですが、最初は対談形式で、2:2で15分ずつ行います。その対談の前に、自己紹介がてら3分間ずつのトピックと課題、「最近こういう所に興味を持っています」というところを、簡単なスライドを作りましたのでそれに合わせてお話しください。その後全体セッション20分と、各メッセージ2分ずつでお願いします。
鈴木:今日の農業のセッションにあたって、9つのキーワード「労働力・個別宅配・テクノロジー・官民連携・海外・情報発信・6次産業化・気候変動・農薬(生産品質)」を用意しました。これらは個別に見ると一見農業に関しての課題に見えないかもしれませんが、人によってはそこがトピックとか、未来につながるような話になっています。そのあたりを踏まえて「こんなトピックを考えています」「今やっていることへの課題」などを絡めての自己紹介をお願いします。
井本氏(以下、敬称略):「The CAMPus」という名前の、インターネット農学校を運営しています。内容は、全国の成功している面白い農家さんたちだけを集めて、記事と動画を中心にWebマガジンを配信しています。
今、Webマガジンの「生徒(購読者)」は2,000人くらいで、「先生(面白い農家さん)」は70人くらい。Webマガジンを配信しながら、最近では「コンパクト農ライフ塾」というオンラインスクールも進めています。小さい農家が今後増えていくことが耕作放棄地を減らしていくことに繋がるんじゃないかと考えていて、「コンパクト農ライフ塾」をやりながら、都市部に住んで働いている人たちにどんどん農村に行ってもらいたいと思っています。そういう人たちが小さい農家として新規就農できる形をつくるために活動しています。
他にも、広島県竹原市田万里町というところで集落を再生するためのプロジェクトをやっていて、農村を元気にするために、農村自体のグランドデザインみたいなものを描きながら、自分自身でも実際に農業をやっています。小さい農家の成功パターンがどんなものなのかを自分でも進行形でつくると同時に、全国の小さくても本当に成功している農家さんのノウハウをしっかり集めて、それを発信しています。
松本氏(以下、敬称略):農林水産省に勤務している松本純子です。略して「マツジュン」と呼ばれています。農水省の広報室で、省の公式SNSをやっていて、Facebook、Twitter、YouTubeがあるんですが、メインでやっているのが「BUZZMAFF(ばずまふ)」という官僚系YouTubeチャンネルです。立ち上げから運営まで従事しています。
「BUZZMAFF」がなぜ誕生したかというと、もともと農水省のSNSってあんまり見られていなかったんですよ。農水省のYouTubeチャンネルも1万人くらい登録はあったんですけど、大臣の会見の動画だったり事業のPRの動画だったり、そんなに回数も再生されてませんでした。それが昨年の秋のことで、当時就任された江藤拓・前農水大臣に「YouTuberって流行ってるだろう?」と、「やってみたらどうか?」と言われまして。
頭をひねって考えたのが、職員自らがYouTuberとなって、その個性やスキルを活かして日本の農業の魅力を発信したらすごく面白いチャンネルになるんじゃないかと。農水省の職員って実は面白い人が多いんですよね。例えば日本海を広めるために農水省に入ったとか、毎日釣りが好きすぎて、釣りをしてから出勤してくる職員がいるとか、個性豊かなマニアックな職員がいるので、そういう人たちが自ら発信することで、農業に興味ない人にも見てもらえることができないかなと思って始めました。現在、「BUZZMAFF」には約5万人の登録者がいます。
もう1つ、プライベートでやっているのが「NINO FARM」という農園で、職場の仲間たちや友達と週末に農業に触れる活動、いわゆる「週末農ライフ」をしています。
齋藤氏(以下、敬称略):宮崎県新富町という人口17,000人の町で、地域商社「こゆ地域づくり推進機構(以下、こゆ財団)」の代表理事をしています。
僕は今、スライドに映っているような1粒1,000円のライチを開発したり、ふるさと納税の運用や地元の特産品を販売して、その利益を起業家育成やベンチャー企業に投資することで、外貨を稼いで人を育てることをやっています。
元々はアメリカのシリコンバレーで働いていて、帰国して、東日本大震災をきっかけにビジネスで「持続可能な地域づくり」をテーマにやってきました。いろいろな地方創生プロジェクトをしていたのですが、2017年に新富町役場が設立した「こゆ財団」の代表にならないかと、お声がけいただいて、代表に就任して4年目になります。
新富町は農業の町です。この町の農業課題を解決して、上場するようなグローバルベンチャー企業を生み出そうということで、農業の収穫ロボットを開発しています。あとは「スマート農業推進協会」の開催もしています。後から登場する福嶋さんと似たような事業になるんですけど「あ、うちをパクったな?」と(笑)うちがパクったんだと思います(笑)
福嶋氏(以下、敬称略):埼玉県深谷市の福嶋と申します。埼玉県深谷市の「産業ブランド推進室」という、設立3年目の部署に勤務しています。
齋藤さんの新富町の取り組みを完コピしている埼玉県深谷市の福嶋と申します(笑)若干、新富町さんの方が早かったんじゃないかと思うんで、「パクってる」と言われると時系列的に否定しづらいものはあります(笑)
埼玉県深谷市の「産業ブランド推進室」という、設立3年目の部署に勤務しています。商品・産品のブランディングということだけではなく、産業そのものをブランディングしていきたいと発足されました。農業振興課とか商業振興課もあるんですけど、どうしても縦割りになりがちなので、そこを「横串を貫く」ような部署ですね。
産業のブランディングということですが、深谷の農業は産出額ベースで行くと全国20位くらいになります。「深谷市の強みって何だろうな」と考えた時に、やはり農業だなと思いまして、「農業を核とした産業のブランディング」「儲かる農業都市・深谷の実現」を一番上に掲げて行っています。
産業ブランド推進室は、5年間の時限組織になっておりまして、3つのプロジェクトに集中して取り組んでいます。1つは「VEGETABLE THEME PARK FUKAYA」。1年半後くらいに関越自動車道の花園インターチェンジの近くに、三菱地所・サイモン株式会社さんとキユーピー株式会社さんと共同で、農場とレストラン、ショップ、学べるような場所を作ります。年間推計650万人くらいの集客を想定していて、近隣の佐野市のアウトレットモールの話を聞きますと、レジ通過ベースで年間750万人ということでしたので、650万人の予想はあながち遠くはない数字かと思っています。
ただ、そこに来ても大資本の大手さんなのでお金は地域に落ちない。来た方々が地域全体、町全体を回っていただける観光の取り組みとして、町全体を「ベジタブルテーマパーク」に見立てたコンテンツづくりを行おうと考えています。
2つ目は(これは完全に新富町さんのパクリにもなるかもですが 笑)、「DEEP VALLEY」で、アグリテック集積都市を目指します。平たく言うと「農業版シリコンバレー」を目指すことによって、農業課題の解決と生産性の向上を実現していきたい。このあたりについては是非齋藤さんとお話をさせていただければと思います。
「VEGETABLE THEME PARK FUKAYA」がお金を取ってきて、「DEEP VALLEY」で生産性を高めるということで、更に地域内でお金を回すしくみとして「深谷市地域通貨negi(ネギー)」があります。これはカード型とスマートフォン型があり、アプリも開発していまして、実際に「1negi=1円」でお金を回しております。これはかなりチャレンジングな取り組みです。
鈴木:みなさん、ありがとうございます。私自身、農業に携わっていなくても食べること、買うこと、手伝うこと、実家が農家だとか、いろいろな農業との関わり方があると思っていて。そんな中でも、今回のセッションのゴールは、登壇者・参加者の皆さんと一緒に、一見農業と遠いと思うようなところでも、現状起きていることを理解することで、「社会変革のアプローチに繋がるかな」とか「日本の農業が変わって自分たちの食卓も変わっていくかもな」と身近に感じられるといいと思っています。
ここからは、登壇者2名での15分セッションを2回行っていこうと思っていて、2名の組み合わせなんですが、福嶋さんから「宮崎の齋藤さんの取り組みが気になる」と伺いましたので、あらかじめ福嶋さんから齋藤さんに質問を投げかける形でまずは始めていきたいと思います。
福嶋:(これは井本さんにも関連ある質問かもしれませんが)齋藤さんに、「スマート農業とか、アグリテックは日本の農業を救うのだろうか?」とお伺いしてみたいです。いきなりハードな質問ですかね?(笑)
齋藤:実はこの問いは、以前井本さんとも話したことがあるんですが、やはりスマート農業とか、アグリテックは手段でしかないというのが結論だと思っています。この手段をゴールにしてしまうと、機械を作ることが目的になったりしてしまう。本質的には「しっかりと楽しくて稼げる農業」が実現できれば、人は集まってくると思っています。
先日Forbesにも寄稿しましたが、農業業界で大事なのは「農業のアントレプレナーシップ(起業家精神)」だと思うんです。例えば僕たちは今自動収穫ロボットを作っていますが、ロボットって結構真似されやすいんですよね。もしかしたら、アメリカとか中国の企業が、私たちが今作っているロボットを一瞬で吹き飛ばすロボットを作ってしまうかもしれない。要は機械に振り回されてはダメで、どれだけソフトの部分をブラックボックス化できるか、データ化するかが重要だと思います。
ただ僕はさらにそれも吹っ飛ばして、農家の精神性(アントレプレナーシップ)が重要だと思います。それを真面目にやっているのが井本さんの「コンパクト農ライフ」ですね。ハウツーとか手段よりもブランドづくり。福嶋さんもされてますが、「ブランドづくり」ってある意味、精神づくりとか哲学づくりみたいなところがあって。
「スマート農業」は手段の1つでしかないので、使う人がいてもいいし、使わない人がいてもいいけど、僕が一番悲しいのは「美味しい食べ物がなくなっていくこと」なんです。
例えば、「新富ライチ」は1粒1,000円で売れるようになってから、新富ライチを生産する農家さんが増えて、生産量も恐らく去年の1.5倍になっています。儲かっているから増えていくんです。嬉しかったのは、僕たちだけでなくて、西表島や福岡の糸島でもライチづくりを始める人が出てきたことです。
深谷市の「DEEP VALLEY」さんも存じてましたし拝見していました。もっと情報を共有して「どうなってるの?」って言い合いながら、日本の国力を上げて行くことこそが大事だと思いますね。
松本:「BUZZMAFF」が今ウケているのは、例えば宮崎出身の大臣会見だと、大臣の言葉に方言が入っていて意味が理解しにくいことがあったんです。それをBUZZMAFFのユーチューバーが、アフレコを入れて発信しています。そうすると、「ようやく大臣会見の内容が理解できました」という人が出て来たんですよね。そういう風にちょっと違った切り口でやっているのが「BUZZMAFF」です。
齋藤さんとか福嶋さんがされている「スマート農業」も、やっていることを伝えるのは難しいですよね。これはまだオープンにはしてないんですけど、例えば「桃太郎のおばあさんはスマート農業をやってたんじゃないか?」という切り口で発信したら、面白いんじゃないかと思います。
齋藤:福嶋さんがやっていることって、いろんな他のアツい自治体職員がやりたいって思っていることじゃないですか。なかなかできないことを、自治体内部でガンガンやってる。中での軋轢みたいなものはないんですか?
福嶋:(ガンガンは全然やれていないんですけど)都市・町の規模感って施策を打つ上では、重要で。深谷市は145,000人とか150,000人弱の人口がいるので、あんまりすっ飛ばして施策をやると、スタンドプレーになってしまいがちです。人事異動もありますから、せっかく作ったプロジェクトが壊れちゃうのも嫌なんです。だからこそ、ビジョンをきちんと掲げて、議会から何からみんなのオーソライズを立ててやっていくスタイルは、こだわってやっています。その代わり指標設定とか戦略書とかをきっちり作り込みます。担当の想いだけでは、せっかく積み上げたものが無駄になってしまうこともありますし、スマート農業やアグリテックって、そんなに簡単に浸透していくものじゃないとも思っているので。
あと、スマート農業やアグリテックは、早ければ早いほど副作用が発生すると思っています。井本さんがおっしゃるように「農を中心とする」気持ちの部分ともシンクロさせながらやっていかないと、地域の1次産業とかが壊れちゃうんですね。なのでそういう事については非常に神経を使いながらやっています。
とはいえ、今の動きをさらに広げたいと思っていて、皆さんの取り組みと連携しいくことで、逆輸入じゃないですが、うちの内部でも広がっていくと思っています。
齋藤:僕も横のつながりってすごく大事だと思っていて、パクりとか真似って単語こそありますけど、それは日本の文化に非常に合っているので、よい方向に使えばいいんじゃないでしょうか。
こゆ財団は2020年8月に農林中金がやっている、AgVenture Lab(アグベンチャー・ラボ)さんと一緒の包括連携協定を結ばせてもらったんですよ。それは何かというと、「AgVenture Labに加盟している人は新富町のスマートアグリバレーを使えます。アグリバレーはAgVenture Labを使えます」というものです。そういう意味では、深谷市さんと僕らがこれをきっかけに何か連携協定、一緒に何かやっていくぞみたいなことを「LOCAL LETTER」が取材するのも面白いですし、そこを「BUZZMAFF」が動画にするとかでもいいし、まとまりますね(笑)
鈴木:立場が違うからこそ、部署や団体を超えて戦略を立てることは重要ですよね。次の松本さんと井本さんのセッションに行きたいと思います。おふたりは「小さな農業を応援したい」とか「いかに面白いことを世の中に出していくか」という情報発信を戦略的にされていますが、いかがでしょうか。
松本:農水省の「BUZZMAFF」は「職員の所管の業務の枠を超えて自分の好きなことが仕事になる」というコンセプトで、職場の業務と関係ないところで好きなことを発信できます。私自身、井本さんがやってた「世界を『農』で面白くする」というような、ポジティブな考え方にすごく共感していて、井本さんは、「『農』の面白さ」をどんな風に発信しているんでしょうか。
井本:「危機に対して、どう対応するか」というアプローチもあるんだけど「いろんな社会課題をチャンスと捉えて、どうアプローチするのか」ということに僕はポイントを置いています。「楽しいよね?」っていう心が人を動かすんじゃないかと思っている訳ですよ。だから「BUZZMAFF」のやり方は素晴らしいと思っていて、逆に僕がBUZZMAFFのことを訊きたいくらいですね(笑)
「BUZZMAFF」はまさに「面白いでしょ?」と人を引き込むのがとても上手いなあと思うわけです。多分ですが「BUZZMAFF」を作っている人たちは「こうやったら、『僕は』『私は』面白いと思うんだよね!」って、作り手が1番楽しんでいてるんじゃないかと。それが1番大事だと思うんだよね。例えば「農水省は……」って言い過ぎると「何の話なんだ?」ってことになるし、担当が異動で変われば、面白くなくなっちゃう。
こゆ財団が面白いのは、縦横無尽にやっていく体制を確立しているからだと思うんですよね。例えば深谷市で「行政だから」とか「自治体だから」という部分でストッパーがかかってしまうところを「財団だから」という言語で発信すると、縦横無尽に行ける。人が変わらない、FIXしていける体制をつくると、実際に中にいる人たちがみんな「僕は……」「私は……」という言語で前に進めていけるから強いですよね。地域を変えていく上で、当事者意識を持つことはすごく大切なことになります。
「私たちはね……」が面白いから、そこから更に「私がやる」と言える人が増えたら益々いいなと思う。でも「BUZZMAFF」は素晴らしい活動なので、そのままでいいですよ(笑)
松本:「BUZZMAFF」は、始めた時から「上司は一切口を出さない」ルールを設けてやっています。例えば、大臣アフレコなんていうものも本来の決裁ルートに流したら絶対ボツになると思うんですけど、それを勇気を出してやってみたら本当に面白かった。「今、コロナの中で、買い物をするときの注意点について理解ができました」というポジティブなコメントがすごく多かったんですよね。
実際始める前は、「炎上するんじゃないか」と夜も眠れないくらい恐れていました。でもやってみると、YouTubeの高評価率で「BUZZMAFF」は、約96%の高評価をいただいています。始める前は本当に怖かったけど、ふたを開けてみると「面白いね」って言われると、自分が大好きなものや、熱量が届いたのかなって思っています。
井本:「BUZZMAFF」の振り切れた面白さには、注目しますよね。
齋藤:「BUZZMAFF」の編集ってどこか外注してるんですか? 誰かやってるのかなって。
松本:それすごくよくある質問で「D通さん入ってますか?」ってよく訊かれるんですけど、一切入ってないです。
人件費はあるんですが、職員自らが企画・撮影・出演・編集・納品まで全てやっています。手作り感満載です。
井本:手作り感すごく大事!
齋藤:そうそう。手触り感がいいし、行政・農業・一般の人たちの垣根を越えるのがデザインの魅力だったりするので、いいなあって思いました。
福嶋:同じ行政の職員なんで、炎上に対する気持ちはわかりますね。みんなが「BUZZMAFF」の動画で和んで、応援したいって気持ちになったし、個人的には「農水省って変わってきたな」って思いました。これまでは「補助金がどうのこうの」って話だったものが、そうじゃなくて「一緒に組んでできることがないか」と考えたりして、企業さんと組むような感覚を感じました。
松本:福嶋さんがおっしゃる通りで、コロナが起きる直前くらいに「BUZZMAFF」が始まったんですが、当初は自治体さんとのコラボをどんどん進めていこうって思っていたんです。もっといろんな層に知ってほしいので、戦略的に母数を増やすためにいろんな所と繋がりを持って発信したいなと。なので、私の今日の目的でもあるんですが、深谷市さんと是非コラボしたいなって思っています。
鈴木:松本さんに1つお伺いしたいんですが、企画から制作、発信まで職員さんがされてるってことは、担当職員とか、協力者がいますよね。職員内で話していて「BUZZMAFFの企画が来たな!」ってざわつく感じってありますか?
松本:そうですね。「BUZZMAFF」って結構好き勝手にやってそうに見えて、実は30ページくらいの分厚いマニュアルがあるんですよ。「撮影時の注意点」とか「炎上しないために」とか。あとは職員がいろんな施策とBUZZMAFFをコラボしたいときの提案様式とか作ってるんです。「BUZZMAFFとコラボしたいときにはこれに書いてください」って(笑)省の元のYouTubeチャンネルって登録者1万人なんですけど、「BUZZMAFF」は5万人超えたので、「BUZZMAFF」で発信する方が施策のPRになるので、人気なんです(笑)
井本:松本さんがやっているもう1つの活動の、NINOFARMの話も聞きたいですね。
松本:自分は農水省の職員なんですけど、いろいろ情報発信をやってる理由は「日本の農業のため」とか「生産者のため」というのももちろんですが、まず第1に「自分のため」っていうのがあるんです。例えばこういう場でお話させていただくのにも、自分が畑を耕してないと話す権利もないかなって思うんですね。国家公務員なんで5回くらい転勤してるんですけど、いつも0からのスタートで、土地勘が必要だったんです。
NINOFARMを始めた時も、「日本の農業を考えるファーム」ってことで立ち上げたんですけど、第1に自分が農について知る場を設けたいと思ったことが発端です。NINOFARMに来る人には「ジャージ履いていかなきゃいけないんですか?」とよく訊かれるんですけど、「NINOFARMには、飲み会の前のワンピース姿で来てください」ってお答えするんです。その日の作業がちょっとした手入れとか水やりとか収穫だけで、全然汚れないこともあるので、もっと農業のイメージを身近に感じてもらいたいと思って。
「来たいときにやっていいよ」にすることで、やりやすくなる。そして発信しないと人は集まってこない。発信すると倍以上返ってくるのもありますし、人を繋いでもらえることもあります。そういう考えで、NINOFARMで農業をしながら、発信もしているんですよ。
(後半記事はこちら)
Editor's Note
都市部に住んでいたら、恐らく小売店やスーパーなどに行くくらいのことでしか身近に感じられないのが、農業なのでしょう。日本の「食」の根幹の一翼を担うはずの農業は今、大きな転換期にあります。日本の農業をどうしたら将来に向けて継続し、発展させていけばいいのでしょうか。
本セッションでは、単に消費者目線だけで農業を見ていたら絶対にわからない、現在の農業スタイルの模索がありました。ここに出てきた数々の取り組みはどれもユニークで、参加することにメリットしかない企画ばかり。そこには従来の、「農業に携わる人たちだけで解決しなくては!」という切羽詰まった概念はなく、「まずは自分が楽しんで、参加した人にも余裕をもたらすもの」でありたいという狙いが見えてきます。
官民が縦横無尽に手を取り合って、協力し合うこと。どの立場であっても当事者意識を忘れずに「楽しむ」ことが、重要なキーワードになるように思います。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子