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LOCAL LETTER

最新技術の活用で広がる地域の可能性。「自治体経営 × AIインパクト」(前編)

FEB. 19

前略、地域が最新技術を取り入れた、未来の姿を知りたいアナタへ

最新技術は、いつも私たちをワクワクさせてくれる。

この技術は、私たちをどんな未来に連れていってくれるのだろうか。この技術を使えば、私たちはどんな未来を描けるのだろうか。

とはいえ、AIを活用した事例の多くは、海外で実施されたもので、日本でどのように課題解決が行われているのかがわかりづらい。生活を豊かにするはずの手段なのに、どこか難しいことのように感じてしまう。次々と出てくる新しい技術をどのように活用すれば、日本社会の課題解決に役立てるのだろうか?

そんな最新技術を活用法を模索しているアナタのために開催した、地域経済を共に動かす起業家たちのサミット「SUMMIT by WHERE」。第一回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。

本記事では、樋口宣人氏(株式会社Fracta 日本法人代表)、出口岳人氏(国土交通省 半島振興室長)、太田直樹氏(株式会New Stories 代表)、平林和樹(株式会社WHERE 代表取締役)の4名が、最新技術自治体の協働、そして今後の地域のあり方について語った様子をお届けします。

見据えるのは「2050年問題」。AIやビックデータを活用して、水道管の劣化状況を把握する   

平林(モデレーター):このセッションのテーマは「自治体経営×AIインパクト」と、とても個性的な内容になっています。登壇者の皆さんもそれぞれ違う立場があるので、出口さんは行政の視点から、樋口さんは民間企業の視点、太田さんは分野を跨いだ連携推進を数々されている視点で、お話しいただければと思います。はじめに、登壇者の皆さんから自己紹介をお願いいたします。     

写真右上>平林 和樹(Kazuki Hirabayashi)氏 / ヤフー株式会社に入社し全社MVP、特許取得。退職後、カナダ留学/フリーのITコンサルティング/株式会社CRAZYを経て、現会社を創業。関係性0から4年で40以上の自治体と取引を実現。地域コミュニティメディアは約2万人の会員規模まで成長。人口900人の村で古民家をリノベした体験型民泊施設は開始9ヶ月で広告費0円、宿泊客180名を突破。
写真右上> 平林 和樹(Kazuki Hirabayashi)氏 株式会社WHERE 代表取締役 / ヤフー株式会社に入社し全社MVP、特許取得。退職後、カナダ留学/フリーのITコンサルティング/株式会社CRAZYを経て、現会社を創業。関係性0から4年で40以上の自治体と取引を実現。地域コミュニティメディアは約2万人の会員規模まで成長。人口900人の村で古民家をリノベした体験型民泊施設は開始9ヶ月で広告費0円、宿泊客180名を突破。

樋口氏(以下、敬称略):株式会社Fracta(以下、Fracta)で日本法人代表を勤めています樋口と申します。株式会社Fractaは、アメリカのシリコンバレーに本社を構えていて、水道管路の劣化診断を行なっている会社です。

「水道管路の劣化診断」って聞き慣れないと思うんですが、この事業を行なっている背景には「2050年問題」があります。「2050年問題」では、今後、人口が急速に減少すると同時に、社会インフラも劣化が急速に進行することが懸念されていて。     

業界では「水道崩壊」と呼ばれていますが、特に海外では、水を各家庭に送る水道管のメンテナンスが追い付かず、まち全体で漏水が発生している状況があります。地下に何百万、何千万と通っている水道管が劣化しているか否かを「効率的に」「効果的に」把握することは、とても重要なことなんです。

僕らは、この水道管の劣化状況をAIやビックデータを使って、短期間でマクロ的に診断する技術を育み、アメリカをメインに展開しています。

写真右下>樋口 宣人(Norito Higuchi)氏 Fracta日本法人代表 / 東大工卒、スタンフォード大学院経営工学修士(MS)。1990年三菱総研。専門はOR、意思決定分析。2000年ケンコーコム(株)を共同創業し常務取締役COOなどベンチャー経営に従事。2019年Fracta日本法人代表として日本事業を統括。同社の上水道配管を劣化診断するSaaSは販売開始2年弱で全米27州60社以上へ採用。2020年日本での事業展開を開始。
写真右下> 樋口 宣人(Norito Higuchi)氏 Fracta日本法人代表 / 東大工卒、スタンフォード大学院経営工学修士(MS)。1990年三菱総研。専門はOR、意思決定分析。2000年ケンコーコム(株)を共同創業し常務取締役COOなどベンチャー経営に従事。2019年Fracta日本法人代表として日本事業を統括。同社の上水道配管を劣化診断するSaaSは販売開始2年弱で全米27州60社以上へ採用。2020年日本での事業展開を開始。

平林:診断の精度はどれくらいなんですか?

樋口:まず診断方法としては、水道管を「ハイリスク群」と「非ハイリスク群」に分けていきます。すると、その後に生ずる漏水事故の7〜8割が「ハイリスク群」に分類された管から生ずる感じになります。

平林:通常の診断の場合、予算はどれくらいかかるのでしょうか?

樋口:漏水に関する調査だと、基本的には「音調」といって、音を聞く作業を行います。この調査はどうしても多くの「時間」と「人員」がかかる。それに対して、「いかに早く、効果的に診断するか」が世界の先進国での共通の課題です。

平林:今、Fractaの事業は国内だと、何地域くらいでやられているんでしょうか?

樋口:今だと、実証検証の場所も含めて、10以上の自治体でこの技術を使っていただいています。

平林:Fractaがもつ水道管劣化診断の技術は、違う業界にも応用できるのでしょうか?

樋口:今は上水道を中心に技術を展開していますが、ガス管や下水道管の劣化診断への転用はできると考えています。また、劣化診断を行う際の水道管の重要度評価は、まちの重要施設や人口密度にも関係してきます。そうすると、私たちは「まちのどこが重要なのか」という情報を取得することができ、この情報は、ハザードマップづくりと近しいものにもなるんですよ。

ハザードマップには、平時と有事を繋ぐ役割があって。私たちがデータ提供を通して、ハザードマップ作成に取組むことで、「インフラの劣化診断やリスク評価は専門分野に特化した狭い問題の話ではなく、日常生活とも繋がりがある」ことを、住民の皆さんにも理解してもらいやすくなると思っています。

住民自身が、テクノロジーを活用し、行政の課題解決を行う仕組みづくりをする

太田氏 (以下、敬称略):私は今「4足のわらじ」を履いています。1足目は、総務省でITや情報通信に関わる仕事。

2足目は、株式会社New Storiesの代表で、New Storiesは、福島県会津若松市と兵庫県豊岡市を拠点に、セクターを跨いで未来のサービスのプロトタイプを作るという事業をしています。

3足目は、今回の話の中心になると思いますが、「シビックテック *1」というテクノロジーを使って、住民が行政と連携しながら地域の課題を解決するという構想に関わる活動をしています。

4足目は、風の谷をつくるという構想をしています。これは一言でお伝えすると、都市集中型の未来に対して代替案を色々な人と連携してつくろうというものです。

*1 シビックテック(CIVIC TECH)
シビック(Civic:市民)と(Tech:テクノロジー)を掛け合わせた造語。地域の課題解決を、行政に頼るのではなく、住民がテクノロジーを活用することで行政とともに課題解決をに取り組むという考え方。

写真左下>太田 直樹(Naoki Ota)氏 株式会社New Stories代表 / ボストンコンサルティンググループで、 シニアパートナーとして情報通信企業中心にプロジェクトを推進。総務大臣補佐官在任中はIoT、AI、ビッグデータ政策立案の一方、中央と地方の分断にも問題意識が移行し。現在は、セクターを越えた連携やシビックテック活動を行い、地域経済と地方の本当の豊さを創る仕組み作りの支援をする。
写真左下> 太田 直樹(Naoki Ota)氏 株式会社New Stories代表 / ボストンコンサルティンググループで、 シニアパートナーとして情報通信企業中心にプロジェクトを推進。総務大臣補佐官在任中はIoT、AI、ビッグデータ政策立案の一方、中央と地方の分断にも問題意識が移行し。現在は、セクターを越えた連携やシビックテック活動を行い、地域経済と地方の本当の豊さを創る仕組み作りの支援をする。

平林:ありがとうございます。まずは「シビックテック」の取り組みについて伺いたいと思います。

太田:取組みについてお話する前に、前提として2つの話をさせていただきます。1つ目は、自治体についてで。2018年から総務省と経産省で「自治体戦略2040構想研究会」をやっています。

2019年末に元WIRED編集長の若林恵さんが『NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方』という本を出していますが、それのベースとなったのが経産省の「21世紀の公共」というスタディで、これら全てが出している結論は「自治体だけで公共サービスをするのはもう無理民間と連携していく必要がある」ということなんです。だからこそ、住民自身が、テクノロジーを活用して、行政サービスの問題や社会課題を解決する取組み「シビックテック」が重要です。   

2つ目が、今お話しした通り、住民が行政サービスの課題を解決することが重要という結論が出ているとはいえ、今の自治体のシステムでは、インターネットと遮断されすぎていて、住民との連携が取りづらい状況があるということ。     

この2つの前提の中で、「シビックテック」は民間と連携をして、一緒に公共サービスを実施していこうという流れが日本でも生まれてくるのではないかと考えています。

平林:そういう意味では、太田さんが取り組んでいる地域では、徐々に「シビックテック」が始まってきているということでしょうか?

太田:日本で初期に「シビックテック」を始めた地域の一つが、福島県会津若松市なんですが、ここは結構特殊で、1,500人ほどのエンジニアが暮らしている地域なんですよ。会津若松市の事例をみると、行政にテクノロジーを理解している人がいると、できることの幅が広がることがよくわかります。現状、行政の中には、ほとんどITの専門家がいません。この状況を変えていくところにチャンスがあると僕は思っています。

地域のプロモーションにAIを活用し、移住者を呼び込む。愛媛県西条市の戦略づくり

出口氏(以下、敬称略):2020年6月末まで、愛媛県西条市で副市長として自治体経営全般に関わっていました、出口と申します。その中でスマートシティの担当もしていました。現在は国土交通省の半島振興室で、22道府県194市町村の半島の振興をしていて、2020年度からは、離島地域の課題解決に向けた、ICTやドローンなどの新技術の実装を図る取組み「スマートアイランド」の実証のお手伝いもしている次第です。

写真左上>出口 岳人(Taketo Deguchi)氏 国土交通省半島振興室長 / 2020年6月まで愛媛県西条市副市長。「地方創生にはマーケティング思考が不可欠」と考え、西条市では行政改革/スマートシティ/移住定住/シティプロモーション/観光/ふるさと納税等に注力。地方創生一丁目一番地の移住施策では「密着軸戦略」を掲げ、たった2年で認知度の低かった西条市を「住みたい田舎若者世代全国1位」へと導く。
写真左上> 出口 岳人(Taketo Deguchi)氏 国土交通省半島振興室長 / 2020年6月まで愛媛県西条市副市長。「地方創生にはマーケティング思考が不可欠」と考え、西条市では行政改革/スマートシティ/移住定住/シティプロモーション/観光/ふるさと納税等に注力。地方創生一丁目一番地の移住施策では「密着軸戦略」を掲げ、たった2年で認知度の低かった西条市を「住みたい田舎若者世代全国1位」へと導く。

平林:ありがとうございます。出口さんのこれまでの取組みについても詳しく伺わせていただけますか?

出口:私も先に、前提条件のお話しをさせていただきます。自治体では平成の大合併が行われ、「人口増の中で経営をする」拡大の時代から、現在は、縮充の時代に変わっているという、大前提があります。

その前提の中で、先ほど太田さんからも出ていた「自治体戦略2040構想研究会」という報告書があり、この報告書の内容が「人口が縮減して、市役所も職員も半分の規模になっても機能する状態にしないといけない」となっているんです。

この報告書の内容を達成する上で重要になってくるキーワードが、太田さんもおしゃっていた通り、「官民連携」や「協働の社会」、さらには、「AI」や「RPA」といった最新技術を使って、どう行政を運営していくのか? だと考えています。

出口:その上で愛媛県西条市の事例としては、「プロモーション」に関するものがいいかなと思っています。西条市は、株式会社NTTドコモ(以下、NTTドコモ)と連携して、NTTドコモのお客様のデータをAIで読み込み、「西条市に移住者を呼び込むプロモーションに活用できないか」という検証を実施しています

NTTドコモのサービス自体はすごくシンプルで、NTTドコモの会員情報とAIを活用して、愛媛県西条市や移住に興味がある人に向けて、西条市の移住に関する情報をダイレクトに届けていく、デジタルマーケティングを実証しています。

西条市では、まちの戦略の軸として「密着軸」を掲げていて、プロモーションも、まちの戦略に合わせて、一貫性を持ってアピールする中で、「相手の行動変容を促していこう」とAIを活用しながらトライしていますね。

地域のデータ収集・技術活用において、重要なのは「住民の理解」   

平林:出口さんのお話は、「広告運用がAIに成り変わった」ということなのかなと思いました。AIを使うときには、「データの収集をどうしていくか」と「収集したデータをいかに活用してアルゴリズム組んでいくか」が肝になってくると思うのですが、住民の皆さんにデータ収集の時点で、協力もしくは、参画してもらうためにどうしたらいいか、皆さんはどのようにお考えでしょうか?

太田:先ほどお話ししました、会津若松市の場合は「DATA for CITIZEN(データは住民のもの)」というビジョンがあります。今から8年前に「シビックテック」の取組みの一環として、スマートメータの実証をやったんですが、この実証を通して起こったことが2点ありました。

1点目は、住民が「データが住民たちものになることで、どんな意味があるのか」をきちんと理解していただけたこと。

2点目は、地域のIT化を推進しようとすると、どうしても既存の大手企業ベンダー(売り手)の存在が壁になるということ。自治体の予算は4000億あり、既存の安定したものから、新しいものへ乗り換えるのは大変だということがわかりました。

樋口:Fractaで使っているデータは主に3つなんです。水道管の管路網のデータと、過去の漏水実績、そして環境に関わるデータ。基本的にこれらのデータは、国や自治体が公開しているオープンデータで、こういったパブリックデータを応用して分析・診断に活かしていくことは、これからの国土強靭化を進める上では意味があると思っています。

平林:データ収集に関して、アメリカと日本の違いはありましたでしょうか?

樋口:日本でアメリカと同じようなデータがどこまで取れるかは、最初の実証検証の一つのテーマでした。データに関しては、日本の方が細かくありましたが、データの形式や取得方法は少しずつ異なるので、この違いを事前にどのように処理をするかは、企業の技術になります。

平林:ありがとうございます。出口さんはいかがでしょうか?

出口:行政の場合は、紙データがまだたくさん残っています。この状況をいかにデジタルに寄せていくか。申請や窓口のサービスでも、できるだけICTを活用する方に誘導していくことを少しづつやっているところです。

データ提供に関しては、住民の方にいかに自然に参加してもらえるか自分たちもまちづくりに関わっている、その上で最新技術の活用はまちにとって意義があることだと理解をしてもらうことがとても大事だと感じています。

平林:ありがとうございます。紙データに関して、樋口さんから何かありますでしょうか?

樋口:「行政に紙データしかない」という状況は、私たちも実際に事業をやる中でぶつかる壁です。紙データをデジタル化するのは、かなり負荷がかかるので、最近は、既にデジタル化されているデータからアナログのままのデータを推測していくというアプローチをとっています。先に大雑把にデータをAIで推測して、それを過去データと付き合わせて正確性を確認する方が圧倒的にスピード感があるし、理に叶うと思っていますね。

平林:デジタルデータから、ある程度の予想はできるものなのでしょうか?

樋口:できると思っています。水道管路の場合、アメリカで12万km以上のデータを学習しています。そのため、「どんなまちに」「どんな道路や管が」「どう作られているか」というパターンが見えてきます。同時に同じデータから漏水リスクもわかります。実は今、これらのデータを援用して、地図データや地形データと漏水データを連携し、リスク判断を行う仕組みも実証中です。

草々

(後編はこちら)  

Editor's Note

編集後記

違う立場で、違う事業を展開しているはずの3人が話す内容が、不思議なほどに繋がり合って新しい未来を描いていた。

同時に、私事ではあるが、このトークライブは「なぜ、私は就活の時にIT業界を選んだか?」を筆者に思い出させてくれた。「ITを使えば、こんな新しいことができて、それでより良い、ワクワクするような世界をつくっていけるんだ」と、学生時代にそう感動したからこそいまIT企業で働いているのだということを。

単純に日々の作業をこなすだけの仕事では、決して面白くならない。「この技術を使えば、自分ならどのような課題を解決したいか。あるいは、解決できるのだろうか。」「どんなよりよい世界が描けるのか。」を考えることがきっと重要なのだと、そう思った。

これからもSUMMIT by WHEREの応援をよろしくお願いします!

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