SUMMIT by WHERE
各地域で地域創生が叫ばれる現代。
自分の暮らしている地域をもっと盛り上げたい!まちづくりの手本となる事例をつくり、隣町や県全体、そして日本全国を元気にしたい!そう思いながらも、なかなか手法がわからないという方も多いのではないでしょうか。
そんなアナタのために開催した、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「地域資源の付加価値を高める事業創出」について、藤野 英人氏(レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役会長兼社長・最高投資責任者)、山中 大介氏(ヤマガタデザイン株式会社 代表取締役)、林 篤志氏(一般社団法人Next Commons Lab(ネクストコモンズラボ)代表理事)、高木 新平氏(NEWPEACE Inc.代表取締役)の豪華4名のトークをお届け。
地域創生で脚光を浴びているトップリーダーが、日本全国に散らばる地域資源を活用し、いかに明るい未来をつくる事業を展開するかについて語りました。
高木氏(モデレーター:以下、敬称略):僕自身、最近コロナで影響を受けている地元(富山県)の医療機関を助けるための活動をしていて、本日登壇いただいている藤野さんにもご協力いただき、総額1億円ぐらいの寄付を集めることができました。
そのきっかけで富山に帰ると、面白い若い子達が「地方を変えよう」というエネルギーで活動していて、このセッションのお声がけいただいたときに手を挙げさせていただきました。
登壇者の皆さんは地域の最前線でビジネスをやられてる方々ですが、このセッションは他のセッションに比べて視聴者の皆さんもかなりエッジが効いていると思うので、 視聴者の気になることやいただいた質問をポイントを聞いていきたいと思います。
まず前提として、「地域の可能性」や「ビジネスチャンス」を登壇者の皆さんはどのように捉えられてるかをお伺いしてもよろしいですか。
*1 VISIONING®︎
高木氏が提唱した、VISION+INGが組み合わされた新しい概念。WHYに立脚したその人格を前面に出したストーリーによって、社員から顧客、ステークホルダーを含む周囲が共感・参加できるコミュニティをつくり、社会に投げかけるアクションを拡げていく活動を指す(Wikipediaより)。
藤野氏(以下、敬称略): 「地域の可能性」は実はどこにでもあります。どの地域にも魅力的で美味しいお酒や、食べ物、見所のある歴史・文化の背景があって、かつ人としても面白い人が必ずいるんです。魅力のない地域なんてゼロですよね。地域資源というのはどこも非常に豊富なんです。
ところが地方銀行や地方の役所、そして地方新聞などから出てくる保守的な人たちがリーダーシップを取り、どちらかというと東京や他の地方のモデルを右に倣えという政策による支配があったのではないかなと思います。
そんな中、「地域資源をどのように活用して、面白いまちをつくるのか」に取組み始めた地域があります。それが福岡市や千葉市。非常にユニークな取組をいくつも展開していて、かつ実力があり、しがらみのない若い首長さんがリーダーシップを発揮して、トップダウンの面白い流れで熱量も高く、多くの地域の人たちを巻き込んでいるのが注目しているポイントです。
高木:なるほど、いくつかのモデルが生まれてきているということですね。
高木:山中さんはどうですか?
山中氏(以下、敬称略):2014年に山形に移住して今の会社を創ったんですが、今思うと、この山形庄内に住みながら働くことはすごく幸せだなと思っています。
これに対して最近自分なりに得た答えが、「経済性」と「環境性」、そして「人間性のバランス」を取りながら成長していくということが、これからの社会には求められて、それを実際に体現できるというのが地方で、日本が次に目指すべき都市像なんじゃないかなと思いながら事業をしています 。
高木:なるほど。「経済性」と「環境性」、そして「人間性のバランス」を取りながら成長するフィールドが地方にあるということですね。
高木:林さんはどうですか?
林氏(以下、敬称略):僕はかれこれ東日本大震災前から10年以上に渡って、日本のローカルに関わって仕事をさせていただいてますが、一貫して変わらないのは、地方には「余白」がいっぱいあるということ。
例えば、土地が安かったりスペースも余っていたりと、日本の北から南まで豊富で多様な資源がまだまだ残っていて、色んな事にチャレンジできるのが凄い魅力で、可能性を感じています。
*ソーシャルプロトタイピング
直訳は社会的な試作。林氏はセッションで自社を実験の創発と取りまとめをしているような会社と話している。
高木:なるほど。どんどん突っ込んで聞いていきたいと思います。
高木:林さんは、国や企業の予算をハックして地域に人を送り込んでますよね?経済の新しい流れとして、地域にお金の流れが生まれているのは、地域にビジネスチャンスがあると捉えているからでしょうか?
林:そうですね。資本というのは、国や前時代的なところが持っていて、今はそこから、新しい社会をつくっていく人たちへ投資する流れが生まれているんです。そのフィールドとして地域が認められ始めてるというのは、この10年を見ていても、ここ数年の流れだと思います。
例えば、『Next Commons Lab』の場合だと140名ぐらいの起業家の卵が活動していて、総務省の地域おこし協力隊という制度を活用しているんですが、自治体によってはうまく活用できていないし、活動期間である3年を満了しても人材が定着しきれず、別の地域に移り住んでしまうことがあるんです。
地域おこし協力隊は、だいたい一人当たり年間400万円ぐらい、国の予算が使えるのですが、うまく使いこなせる人が多いわけではない。だからこそ、地域資源を使ってビジネスを起こすための起業家育成に特化し、全国12ヶ所に拠点を広げて活動しています。
高木:僕が初めて林さんの話を聞いた時に、『Next Commons Lab』は面白いなと思ったのは地域おこし協力隊の予算を、ベーシックインカムをもらいながら誰でも起業ができるみたいな感じで、「地域を起こしたい人向け」ではなく、「起業したい人向け」のパッケージに変えた発想の起点です。
高木:山中さんがやられている『ヤマガタデザイン』は、山形県内の資本でやられてますよね ?
山中:そうですね。でも最近はフェーズが変わって、先般はクールジャパン機構(株式会社海外需要開拓支援機構)から15億円調達したんです。僕の場合だと民間主導という考え方があって、言葉の表現というのが難しいんですけど、民間行政という考え方がこれからの時代は必要なんじゃないかなと思うんです。
山中:山形庄内でチャレンジをすることに対して当初は、地域の人達だけの夢だと思っていたんです。でも今は、「日本に一つモデルを作るということは日本全国の夢なんじゃないか」と発想を切り替えて、日本中からヒト・モノ・カネを集めてひとつの成功モデルをつくるのが当社のアイデンティティになりました。
高木:なるほど。元々は資本金10万円で始められて、徐々に地方銀行や企業からも信頼を得て、今は第三フェーズ的に日本全国規模の投資ファンドから資本を受けているということですね?
山中:おっしゃる通りですね。最初はものすごく乱暴に言うと、全部の事業をガッチャンコしたんです。超分野横断的な地域のまちづくり会社を作ったんですけど、人には投資モチベーションっていうのがあって、農業に投資したい人もいれば、ホテルやロボットに投資したい人もいるから、じゃあ会社を分けるべきだと学んだんです。
『ヤマガタデザイン』という会社で大きく括らせてもらうんですが、その中のテーマごとにあった投資を募って日本全国でできる結果として応援してもらえるような会社をつくりつつあります。
高木:山中さんの活動、すごく面白いですね!地域の中ではお金の流れが一つの課題だと思うんです。地域資源は、自然環境だったり、人や文化とか色々ありますよね。「経済をいかに上手く新しく組み直し、循環させるか」というのは林さんも山中さんもやられてきたことだと思うんですが、投資の専門家の藤野さんは、この論点をどのように捉えられていますか?
藤野:山中さんの今のつながりで言うと、地方銀行がヤマガタデザインの活動にコミットしたことは素晴らしいですね。これから地域創生で大きなカギを握るのはまさにそこで、地銀さんも地域金融機関による地元企業の地産地消をもっとするべきだと思うんです。
藤野:地域金融機関の地産地消が進むためには2つの要素が必要で、1つ目は、業をおこしてワクワクする事業をつくる起業家の存在。2つ目は、ワクワクする事業をよく理解し、それに対してお金を寄せていく専門家の存在。この両方の存在が今はまだ不足してる状態です。
しかし、そういうキラリと光る存在の人達が地域資源を使える枠組みをもってポツポツと同時多発的に出てきたので、 この人達にうまくお金をつけてあげたり、足りない所を支援してあげると、地域で結構面白い会社がどんどん出てきて、かつコロナでそれが加速する可能性もあると、私自身期待しているところです。
高木:『ヤマガタデザイン』の取組は、アウトプットがトップクラスだなと思っていて「あっ、これが東京ではできないラグジュアリーを作ってる感じだな」って思います。山中さんはかなりお金を集められていると思うんですけど、クオリティや価値を見出すためにどんな意識をされていますか?
山中:そうですね。絶対やっちゃいけないことは、「プチ東京をつくる」みたいな考え方だと思っています。地域にはそのカッコ良さがあるし、それを引き出すことがまちづくりにおいては最も大事で、地域からすると当たり前の風景が東京から来た人にとってはとても価値あることなので、そういったことを逆に安売りせずにきちんとした価値として売ってあげる事が、すごく大事だと思っています。
地域の企業さんは、実は誰よりも地域に対して諦めてる方が結構多くて、自分が本当にやりたいと思って旗振りしたところで、総論賛成・各論反対で有耶無耶になっちゃう。だから「地域は何やってもダメだ」という感じで、地銀さんや企業さんが地域に投資をすることは、地域ではほとんど行われていません。
でも、地域企業の人達が自分が本当にやりたいと思うことにコミットするベースが絶対に必要です。だからこそ、大手企業さんが地域創生をよく理解していない中で、いかに地域から事業をおこして、その事業にコミットできるかをデザインすることが重要だと思っています。
高木:なるほど。面白いですね。今ちょうど世の中に生まれようとしている一つのモデルが、ヤマガタデザインのような形なのだと思います。
高木:林さんは、いろんな地域と関わられて今は大企業や国の予算を組み込みながら活動されてますが、地銀だったり地域で資産を持ってる人と違いを感じることありますか?
林氏:実はそんなに違いはなくて、地銀さんも出したいとは思っているものの、「どこに出したらいいか探し方が分からない」というケースが多く、僕たちがその間を取り持っているのです。企業も地銀も地域の人たちも、どういうまちを作っていくのか共通の絵がないことが今の課題だと思っています。
自治体がどんどん財政難になっていく中で、高木さんの『NEWPEACE』が掲げているビジョニングが必要で、共通言語が一旦できてしまえば、みんなしっかりそこに乗って自分たちのリソースを入れていく流れがつくりやすいと思います。
あと、もう一つ僕が見てきた10年のローカル史で変わってきた潮目みたいなものがあります。この2、3年で増えてきたと感じているのが、自治体からの「公共バスや集落の地区センターなどを民間ベースでやってもらうことはできないだろうか」という相談で、僕たちのような地域外の企業が地域に関われる可能性を感じています。
(後編記事はこちら)
草々
Editor's Note
藤野氏と山中氏とは富山県朝日町の地方創生セミナーでお会いし、実際にご本人に質問をさせていただいたりアドバイスもいただき、その後も様々な地域づくりの勉強会に参加しています。
地域の魅力と情報の発信は、イメージや看板となる重要なもので、地域づくりについての知識も自身に落とし込む必要があると考えており、後々は行政と地域の間に立って様々な活動を支援するいわゆる中間支援機能を持つメディアへと成長できればと考えています。
このセッションでも大きな刺激と多くの学びを得ることができました。
TAKAYUKI NAKANO
中野 隆行