TOKYO-OITA
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「この人の人生が気になる!」そんな旬なゲストと、LOCAL LETTERプロデューサー平林和樹が対談する企画『生き方 – 人生に刺激を与える対談 – 』。
第13回目のゲストは、拡張家族やシェア(共有)の概念を広めるため、一般社団法人シェアリングエコノミー協会の立ち上げから報道番組のコメンテーターまで幅広く活動する石山アンジュさんです。
石山さんは、幼少期からのシェアハウス生活の経験や価値観をもとに、現在は血縁ではなく「拡張家族」というコンセプトで、意識と生活の場を共有する場、Cift(シフト)も運営しています。
石山さんの「シェア」の概念に出会ったきっかけや気持ちの変化に触れた記事前編でしたが、後編では、シェアすることで感じる豊かさや人、地域との繋がり方について語っていただきました。後編最初の話題は、肩書や鎧を手放した先の、生活圏で繋がるコミュニティについてです。
石山:私は、趣味やSNS上の繋がりではなく、生活圏にまたがるコミュニティを大切にしています。要は「自分は何者であるか」という初期設定をいわないところからはじまるコミュニティです。趣味やSNS、仕事のコミュニティは自分が何者であるかを自覚したうえで参加しますよね。
石山:一方で、生活圏にまたがるコミュニティは自分の実生活そのものです。たとえば、「すっぴんパジャマでご飯を一緒に食べて」という関係でそこに利害関係はありません。自分がどんな仕事をしているかはそのつながりの中では関係ない。「いろんな鎧や肩書を手放して『ひとりの人間』としての繋がりをつくることのできるコミュニティ」、そういう意味でシェアハウスという空間のなかでの出会いは大きいですね。
多拠点生活や地方での生活で新たな生活圏をつくってそこから繋がっていくことで、分断や分かり合えなさが顕在化している社会を繋げ直す、分かり合えるという希望が持てる社会に変えていけるんじゃないかと思います。
平林:テクノロジーが発展していくとどんどん最適化されていきますよね。たとえばYouTubeの画面を開くと自分の好みに適したおすすめのコンテンツが出てくる。コミュニティも同じで、一番の価値だった偶然の出会いや、最初は興味がなかったけど教えてもらうことで出会えたものがなくなってきているな、と感じます。
平林:アンジュさんが「拡張家族」を掲げるコミュニティ「Cift(シフト)」は、どういうコミュニティを意識していますか?
石山:拡張家族とは血縁は関係なく、相手を家族だと思って接することをお互いが同意して生活をするコミュニティです。価値観も職業も違う、これが家族かと言われたら(世間の定義では)違うと思われる方もいるかもしれません。
ですが、同じ空間の中で「家族だと思ってみる」という1つの意識から生まれる、その優しさや温かさを何よりも大事にしています。さらに、それが輪として広がっていく先で、世界が平和になっていくんじゃないかとも思います。
とはいえ、一緒に暮らすということは、面倒くさいこともあります。現代では、昔のようにテレビや風呂をシェアしたり生活をともにする必然性がなくなっているのでなおさらです。人とのかかわりのなかで面倒くささを共有することを消してきた世代でもあるので。
石山:そのなかで、自分と価値観が違う人のことを家族としていかに自分事だと思えるかどうかが大切ですね。たとえば、拡張家族のなかでは、「相手が困ったときに助けられるか」が常に問われるんです。手術費が100万円かかりますといわれて、「自分の財布から出せるか」「家族だと思えるか」、そうやって問われる瞬間はあります。
平林:今の話で思い出したことがあります。震災のとき帰宅しようとコンビニに寄ったらバナナすらなくなっていて。幸い実家が長野県で親が食べ物を送ってくれましたが、そんなときに隣に住んでいる人に助けを呼べなかったし声をかけられなかったことの異常さに気づいて。本来なら隣の部屋だし一番距離感として近いから共同でできたらいいのに、それができない日頃のコミュニケーションって少し寂しいなと思いました。
石山:そういう社会になった原因は2つあると思います。1つは核家族化で、単身世帯が多く占める世代の中で、人と共同するという経験自体が乏しいこと。2つ目は、自分で何とかすることを求められるから。「頼っちゃいけない」という考え方が変換されて、「自分でどうにかしないといけない」という考え方になる。そうやってどんどん社会が「シェア」から遠ざかり、分断してしまったんですね。社会の流れのなかに、自分たちの価値観が影響されてきたんです。
平林:なんでも自分でコントロールできてしまう社会ともいえますね。アンジュさんは大分県にも拠点をもっていますが、二拠点生活で変わった視点はありますか?
石山:地方で暮らすことによって、本当の意味でのシェアを体験することができました。大分の家がある集落は、山一帯を14世帯が共同所有しています。山から引いた水をみんなで管理したり利用したりするんです。生活のインフラを共有する安心や豊かさを感じますね。
一方で高齢化しているので、共同体の平均年齢を考えるとあと10年続いていくかどうか。確実に限界集落に向かっていくと思います。もう自分だけでどうにかなるものじゃないですが、こういう場所が全国にあることを考えると、どうしたらいいのかと日々感じていますね。
平林:長野県にも村民全員が山をもっているという地域があります。家をもち何年か経つと山の管理が求められるんです。それを守るためにも水源を管理していくという精神性が美しいなと思います。その一方で、人口でいうと900人くらいなので、どんどん世帯がなくなってしまう。そのもどかしさがありますね。
石山:高齢化する地域に人が移住するだけではなくて、定期的に通うことや帰属意識をもつ人を増やすことで全国に色んなものを分散させていくことが大切なんじゃないかと思います。
平林:自治体のリアルを体験したアンジュさんには、今後のシェアリングエコノミーに対しての目標がありますか?
石山:「地道に1人ひとりにアプローチしながら、『シェアすることで得られる豊かさを感じられる人』を増やしていくしかないな」と思っています。いま、シェアする社会からどんどん遠ざかっている気がして危機感を覚えているんです。
もちろん私の考えを共感してくれる友人や同じ世界観を目指している仲間が数としては増えていますが、自分が大事にしている「シェア」の概念の前提は、人との信頼とつながりです。
マクロな視点で社会を見ると、戦争も終わらない、殺人事件や強盗事件も増えている。それによって「鍵を閉めよう」「防犯カメラをつけよう」など、「ひらく」よりもどんどん「閉じる」社会になっているな、と。
人と積極的につながっていくことよりも、人を簡単に信用してはいけないという方向に社会全体が向かっているような気がして、それをどうしたら食い止められるのかを考えています。
平林:他者とコミュニケートを取るよりも、囲い込むという方向にいっているということですね。
石山:個人や国という視点で近年の社会を見ていると、「自分ができることはないんじゃないか」と心がすさんでしまう時期もありました。
でも多拠点生活やシェアエコ協会での活動をするなかで、社会はすぐに変わるものではなくて、1人ひとりの価値観や社会の捉え方の総量で変わっていくと信じていて。1人ひとりにアプローチしながら、コツコツとシェアによる豊かさを感じる人を増やしていきたいです。
平林:シェアの概念を持っている人がいる一方で、興味がない人もいますもんね。
石山:そうなんです。テレビに出ることによって、より多くの人の考えを想像できるようになったのは大きいです。また、大学の講師や探求学習など、「シェア」の概念を伝える機会も増えました。
なので今後どのようにして、「シェア」という概念から遠い人たちに共感してもらうか、新しい物差しや考え方にどう意識変容していくかをミッションに感じています。
平林:アンジュさんのお話を聞いていて、温かな方だなと思いました。その温かさと強さ、自分自身が社会に生きる1人、地球に住む人の1人としてどういうアクションをしていくか、自分自身に問いながら行動されているのは素敵だな、と。
石山:自分でもどうしてそう思ってしまうのかは分からないんですよね。でも社会を変えようとか崇高な話ではありません。今の自分が食べるもの、消費すること自体が未来を変える、直結しているというリアリティを考えています。
崇高なビジョンではなくて、実生活のその先に未来ってどうなっていくのかの想像を働かせるだけで、イメージがわいてくる。その気持ちを大事にするだけでいいんじゃないかな、と思います。それを人に話すことで仲間ができてそれが団体やプロジェクトになる。私はそうやって広げた結果、いろんなことをしているんだな、と。
よく取材で「何を目指しているんですか」と聞かれますが、何歳で何者になってというキャリアプランは特にないんです。
平林:目の前の起こることに対して地道にやっていくということですか?
石山:在りたい姿や在りたい社会のことは想像するけど、自分自身はどうなりたいかはあまり考えていないですね。
平林:石山さんの在りたい姿や社会の姿は、8/11に発売される新著『多拠点ライフ – 分散する生き方 – 』にまとめられているんですよね。最後に、どのような想いで書かれたかお聞きしてもいいですか?
石山:はい。今回の新著『多拠点ライフ – 分散する生き方 – 』は、誰もが複数の拠点を持てる時代になったこと、誰もが家も仕事も人間関係もシェアする生き方をはじめられる入門書の位置づけで執筆しました。
一方で分散する思考そのものが社会を変えていくキーワードになっていくことも伝えたいと思っています。
石山:今までは何もないところから積み上げる成長やキャリアップこそが豊かさだと思われていました。しかし分散する思考こそ、これからの豊かさが詰まっていると考えます。
何が起きてもおかしくない時代だからこそ、複数の選択肢をもって「何があっても大丈夫」と思える強さというか。社会のモデル自体も、積み上げて拡散していくものから、複数の選択肢を分散させることが大切だと思います。
いまはコロナによってテレワークや地方移住の関心が高まり、移動しやすい環境が整ったタイミングです。1人ひとりが多拠点ライフをすることで、地方にいろんな人と資産が分散されていくんです。
そうやって小さなところから一緒に社会をつくっていく、一緒に社会を変えていく、そういう想いを込めて本をつくりました。
平林:ありがとうございます。特別な誰かができるのではなくて、誰しもができる機会があるよ、ということですね。僕も広げていきたいと思います。
石山:「社会を変える」と聞くと大きなことのように思え、自分の生活とつい切り離して考えてしまいがちです。ただ、「1人ひとりの考え方や小さな行動が少しずつ社会を変えていくんだ」という意識をもつことがまずは大切だと感じますね。
石山アンジュさんの新著『多拠点ライフ-分散する生き方-』が、2023年8月11日に株式会社クロスメディア・パブリッシングより発売されました。
多拠点生活実践者でもある石山さんが、多拠点ライフで変わる新しい社会と生き方、今から始められる実践方法を提示した1冊となっております。気になる方はぜひお手に取ってみていただければと思います。
Editor's Note
「何かあったらどうしよう」ではなく「何があっても大丈夫」と思えるようになるために、複数の選択肢や1つのものをシェアする暮らしをする、そんな石山さんの考え方に心動かされました。人との繋がりの中で得られる豊かさに目を向けて暮らしていきたいと改めて思いました。
MISAKI TAKAHASHI
髙橋 美咲