スポーツ × まちづくり
スポーツは「する」のが好きですか?
それとも「応援する」のが好きですか?
プレイヤーとして「する人」。観て「応援する人」。ボランティアやマネージャーとして「支える人」。スポーツの門戸は広く、老若男女も言葉も関係なく、誰もが参加することができます。そんなみんなの想いが集まる集積地が、スタジアム。
様々な人がフラットにつながり、地域の憩いの場にもなるスタジアムは、まるでシリコンバレーのような無限の可能性を秘めている場所でもあります。
そこで今回は、「スポーツ × まちづくり」に精通した豪華4名、矢野将文氏(株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役社長)、テイト永渕氏(三浦工業株式会社 企画統括部長)、井上貴至氏(内閣府 地方創生推進事務局)、米田惠美氏(公認会計士 米田公認会計士事務所 代表)のトークをお届け。
後編では、FC今治の事例から考えるスタジアムの未来について、白熱した内容をお伝えします。
米田氏(モデレーター:以下、敬称略):後半では、より具体的に2023年完成予定のFC今治の里山スタジアムについて話をしていきたいと思います。テイトさんは、里山スタジアムについてはどのようにお考えですか?
テイト氏(以下、敬称略):以前、「里山スタジアムに人が来てもらうにはどうしたらいいか?」を矢野さんと議論をしたことがあります。弊社のお客様は全国にいらっしゃるので、実際に現地にも足を運んでいただき、ファンを増やしていきたいと考えていて。実際に弊社では、里山スタジアムにできるVIPルームの一室をお借りし、お客様に見せるショールームとして使いたいと考えています。
テイト:お客様をスタジアムに連れて行く時、(FC今治の)試合がある日は試合を理由にお客様を連れて行くことができますが、ほとんどの場合は試合がない日だと思います。空いている時間帯にどのようにVIPルーム活用していくのがいいかなと考えているところなので、「里山スタジアム全体でどんなコンテンツを作っていきたいか」、矢野さんにお伺いしたいですね。
米田:この質問は、全国にあるスタジアムの課題にも通じますね。矢野さん、いかがでしょうか?
矢野氏(以下、敬称略):実は、私たちがスタジアムを作るにあたり、市からお借りした土地は、準工業用地域(主に軽工業の工場やサービス施設等が立地する地域で、危険性・環境悪化が大きい工場のほかはほとんど建てることができる)で、一般的な場所は公園法に基づくと様々な制約がありますが、里山スタジアムは、基本的には自由度が高く何をやってもいいんです。
例えば今は、公園でボール投げをしてはいけない時代だと思いますが、里山スタジアムには、色々な空き地があり、さらにアトリエや工房、ランニングコース、カルチャーセンター、畑など様々な施設がスタジアムの周りにできる予定です。
一方で、私たちだけではイベントや事業の全てを担うことはできないので、協業者の皆さんと一緒に作っていきたいとも思っています。三浦工業様については、買っていただくVIPルームを利用してもらい、お客様をおもてなしする場所としてご活用いただくような想定をしていますね。
米田:スタジアムを365日稼働させることは、本当に大変です。スタジアムは行政の所有であることが多いのですが、里山スタジアムの場合は、民間で作りあげるという大きなチャレンジをしているので、尚更稼働させないといけないと思います。
「防災」という観点でいうと、他のチームでも、スタジアムで防災キャンプを実施していますね。地元の小学生を呼び、星空を観るツアーなど、このようなコラボの企画を作るのも楽しそうだなと思いました。井上さんは里山スタジアムについて、どのようにお考えでしょうか?
井上氏(以下、敬称略):「里山」という名前がついているので、薪ストーブなどを使い、焚き火やキャンプができたらいいなと思いました。
矢野:そうですね。今の世の中はとても便利になったからこそ、「手触り感」のようなものがとても貴重になっていると思うので、里山スタジアムでは、人間性を取り戻す場所にできないかなと考えています。
井上:スタジアムに泊まってもみたいですね。
米田:みなさんとお話ししている中で、「泊まりたい」という話はいつも出ていますよね。今治は、造船の街でコンテナがあるので、私はコンテナをスタジアムに持っていけないかな? と考えています。
米田:テイトさんと井上さんに、スタジアムへの関わり方についてお伺いしたいです。企業の部屋を買うなど、スポンサーとしての拠出を想定した場合、どのようなリターン設計で考えているのでしょうか? ご自身でも関わるメリットや、考え方を教えてほしいです。
テイト:会社の立場で考えると、何人の人をスタジアムに呼び、何%の人が製品を購入するか、何%のリターンがあるかという話をします。例えば、スタジアムに弊社の機器を納入し、スタジアムに来たお客様のうち一部の人がそれを気に入って買ってくれるという想定をしますが、これは二枚舌の「表」のように、絵に描いた餅となってしまっている部分もあって…。
二枚舌の「裏」の部分でいうと、SDGsなど地域貢献を行うことで、企業の価値が認められるようになっていくと考えていますし、今治.夢スポーツが行なっているような地域貢献活動に対して、「私自身も貢献をしていきたい」という想いも強くあります。
あとはスポンサーとしてお金を出すだけではなく、社員の地域貢献度の気持ちを高めたり、地域の人を呼び込み、その方々と一緒に地域で活動をする喜びを伝えていくことで、最終的に企業の価値が上がると考えています。
米田:パートナーシップの見本のようなお答えですね。
テイト:この話は理想論だとおっしゃる方も多いと思いますが、今後は先ほど述べた二枚舌の「裏」の部分が「表」になっていくと考えているからこその発想なんです。
米田:そうですね。クラブとしても地域貢献をしていかなければと思いますが、「最初は持ち出しでも循環してクラブに返ってくるリターンのほうが大きい」という話は、私もしていました。
例えば、仲間が増えたり、チームを好きと思ってもらえる人が増えれば結果として跳ね返ってくると。今は、短期的な財務価値やリターン価値を求めがちな世の中ですが、これからの時代は「信頼・共感」という無形な資本を構築していけば、財務資本は後から返ってくるという考え方になるのではないでしょうか。
テイト:あと10年ほどしたら、これが正しかったとなりそうですよね。
米田:これは関わった人でないと良さはわからないんですよね。やっぱりまずは、一回地域に来てみてほしいですね。
米田:井上さんは、行政目線と個人目線でスタジアムをどのように捉えていますか?
井上:僕自身はアスリートのセカンドキャリアについて、企業も行政も取り組むべき部分があると思っています。まず行政目線からいうと、部活動をクラブスポーツ化するべきだと考えていて。僕は柔道をやっていますが、フランスでは、黒帯を100万近い人が持っている一方で、日本は20万人を切ってしまうんです。この差は部活動とクラブスポーツの違いなのではないかと。
フランスでは「部活動の顧問の先生」ではなく、「クラブスポーツの先生」という一つの職業が存在していて、子どもから大人にまで教えているので、仮に生徒が100人いて、受講料を1万円とると、年収1,000万くらいになります。日本は、サッカーをしたことない人が、サッカー部の顧問をやってることも珍しくなく、クラブスポーツ化していかないと広がっていかないなと感じています。
米田:行政からみたスポーツの価値はどのように考えますか?
井上:スポーツはとても面白いと思っています。携帯電話やパソコンは時間が経つにつれて価値が下がっていきますが、コミュニティビジネスは、時間が経つほど価値が上がっていくので、変化の激しい時代だからこそ、コミュニティビジネスが重要だと感じますね。
米田:今治.夢スポーツは、共感資本(信頼・共感)を大切に経営しているので、これからの時代を先取りしていますよね。
テイト:米田さんに聞きたいのですが、松本山雅FCやV・ファーレン長崎など他の地域でも頑張るサッカーチームはたくさんあると思いますが、地域の違いはありますか?
米田:それぞれの地域で全然違う歴史を持たれていますが、松本山雅の場合は「喫茶山雅」という喫茶店に集まっていたメンバーが立ち上げたクラブ何ですよね。私もJリーグの理事時代に、様々なクラブを回らせていただきましたが、松本山雅さんに行った時は、とにかくボランティアさんが幸せそうなのが印象的でした。「自分のクラブに来てくれてありがとう」と満面の笑みで迎えてくれる姿が、とても幸せな光景で。ボランティアの方も「自分のチーム」という感覚をきちんと持っている気がします。
あとは、最初から一番面白い部分を体験してもらえるように、クラブスタッフだけではなく、サポーターや後援会がファンを増やす工夫をしてきたと聞いています。例えば、一見初心者が一番ハードルが高そうなゴール裏に連れていき、応援を体験してもらうことで、なんだか楽しかったという感覚で帰ってもらえるのだと。
土地柄という部分でいうと、自由民権運動の中核を担った土地だからか主体的な人が多いところも松本市の特性だと聞いています。
V・ファーレン長崎は、ジャパネットたかたの高田明さんが社長として入られていました。高田明さんは私もとても尊敬する経営者ですが、「相手はどうしたら嬉しいんだろうか?」「どうしたら伝わるんだろうか」ということを常に考えてらっしゃる方だと感じています。一般的に、試合を見ている社長とお客さんの顔を見ている社長は違うといいますが、高田社長がスタンドのお客さんを見て、色々と考えてらっしゃる姿はとても象徴的でした。
テイト:今の2つ事例を聞いていると、今治は条件が揃っているように感じますね。
米田:今回、スタジアムの土地を今治市が30年無償で貸し出しという話もありましたが、行政がこのような意思決定をすることはなかなか難しいのではないでしょうか。この点については井上さん、いかがでしょうか?
井上:まず、大多数の住民の皆さんが応援をしていない中で、行政が先に応援をするということは税金を使う面からも難しいので、行政は最後の応援になります。今回の無償貸し出しも、FC今治の活動が根付き、住民のみなさんが「それはいいよね」と応援をしていたからこそできたことだと思います。
米田:立ち上げ1年目だと難しいですね。今治市の場合は、6年間の月日の中で、地域に貢献をしていく空気を感じて、行政も一緒にやりたいとなったのでしょうか?
矢野:実は、今治市さんの場合は、2015年の開始当初から行政職員の皆さんが応援をしてくれました。「しまなみサイクリング」、今治市のPRキャラクター「バリィさん」、今治タオルの高級産地化など、既に今治市が商社マン的な動きを数年間経験されていて。
さらに約1,700自治体がある中で、今治市に元サッカー日本代表監督の岡田氏が来てくれたことを行政の皆さんが感度高く感じてくださったことで、最初から応援してもらった印象を持っています。企業の皆さんは当初、野球のまちであったこともあり、「何しに来たんだ」という雰囲気はありましたが、少しずつ僕らを認めてくださった印象です。
矢野:もともと、今治市の人は地元のものを自慢せず、卑下する傾向にあったと、日本酒酒造メーカーの社長さんが言っておりました。今はしまなみサイクリングやバリィさん、FC今治があるから地元の方の意識が変わったという話を聞いています。
米田:意識が変わり、自分たちの土地に誇りが持てることはとてもすごいと思いますね。
米田:里山スタジアムは夢が膨らむスタジアムですよね。岡田さんは、「里山スタジアムでワインを作りたい」というお話をされていましたが、矢野さんはどんなスタジアムにしたいか、想像していることはありますか?
矢野:僕は、山のことを勉強した時間が5年間ありまして、自分で何かを作るということに関心があります。みなさんが里山スタジアムのアトリエに来たら、手触り感のある何かが作れるプログラムを提供したいですね。あとは、仕事とは違う横のネットワークを持っている方が、活動の拠点として利用してもらうのも面白いと思っています。
テイト:サッカーに興味がなくてもそこに集まれるような場所を作りたいですね。主体的な人を増やし、サッカーに興味がある人を増やすような活動になればいいと思いま
す。
井上:サンフランシスコのジャイアンツスタジアムに行った時、子どもが試合に飽きたら滑り台を滑っていたり、大人が野球を観ずにお酒を飲んでいたり、海で飛んでくるホームランボールを待っている人がいたりと様々な関わり方をしていました。里山スタジアムもこんな風に、いろいろな関わり方をしながら、お互いが認め合う場所になれば素敵ですよね。
里山は高い木もあれば低い木もありますし、人工林と違い、いろいろな動物もいて、多様性があるからこそ、そんな里山スタジアムで、人間の本来性を取り戻せたらいいなと思います。
米田:とてもいいですね。みんなが入り浸ってしまいますね。
矢野:コロナになってから、散歩をしたり、ジョギングをしたりと自分の身体を見つめる活動をしている人が増えていると感じていて、外で身体を動かす、身体を使うことは、人間の根源的な営みの一つだと思います。
コロナをきっかけに、そういった根源的な営みが廃れていることにみなさん気づいたからこそ、私たちは健康に関するサービスをお金にならなくても提供しないといけないと感じましたね。
米田:心身の健康ですよね。例えば、認知症の人は施設に入っているからこそ、外に出たいという気持ちがあると思うので、スタジアムの敷地内だったらどこにいってもいいよ、というオープンな空間があってもいいなと思います。
矢野:そうですね。社会福祉法人様と話をさせてもらう中で、障害者の方に日常的に公園の管理を担ってもらうなど、役割分担できないかと話をしており、インクルーシブな環境を作りたいと考えています。
米田:支援・被支援みたいな関係ではなく、お互いさま・おかげさまという関係性ができればいい世界になりますね。
テイト:先ほど、サンフランシスコのジャイアンツの話もありましたが、米国で試合を観に行くと、子ども連れが多いんですよね。子どもを楽しませるような環境づくりがきちんとされているように感じますが、今回の里山スタジアムには子どもに対する仕掛けはありますか?
矢野:学校終わったあとの学童保育や、地元の保育園事業者と一緒に何かできないかと相談しています。天然芝生のグラウンドに入ってもらっても、子どもであればそこまで芝生が荒れないので、園庭的に使ってもらうのもいいかなと思っています。
米田:皆さん、ここまでありがとうございます。終わりのお時間が迫ってきましたので、最後に、視聴者のみなさんにメッセージをいただけますでしょうか?
井上:ぜひ、FC今治に来てほしいです。僕も少し寄付をしただけですが、オーナー気分になれました。みなさんも少しお金を出してもらえたら、喜びが味わえますし、オーナーの気分を味わえます。(笑)
米田:里山スタジアムも寄付を受け付けていますか?
矢野:里山スタジアムでも、企業版ふるさと納税と個人版ふるさと納税を始める予定です。
テイト:寄付の話もありましたが、我々企業に向けてでも構いませんので、スタジアムのアイデアがあったら、いつでもいただけたら嬉しいと思っています。
矢野:里山スタジアムは、日本で初めて親会社のないスポーツクラブの運営会社が民間民営のスタジアムを作り、さらに365日賑わせようとしている壮大なプロジェクトです。私たちの取り組みがうまくいけば、日本全国に形を変えて広がっていくと思っています。企業の皆さまやファンの皆さまと共に、何としてでも成し遂げたいと思いますので、お力を貸していただければと思います。
米田:皆さん、ありがとうございます。少しでも里山スタジアムや今治.夢スポーツのワクワク感がみなさんに伝わっていたら嬉しいです。視聴者の皆さんもぜひ参画していただければと思います。今日はありがとうございました。
※本記事は2021年2月に開催された、地域経済活性化カンファレンス「SHARE by WHERE」の登壇内容をレポート記事にしたものです。
LOCAL LETTERでは、学びと出会いの地域共創コミュニティ「LOCAL LETTER MEMBERSHIP」をはじめました。
LOCAL LETTER MEMBERSHIP とは、「Co-Local Creation(ほしいまちを、自分たちでつくる)」を合言葉に、地域や社会へ主体的に関わり、変えていく人たちの学びと出会いの地域共創コミュニティ。
「偏愛ローカリズム」をコンセプトに、日本全国から “偏愛ビト” が集い、好きを深め、他者と繋がり、表現する勇気と挑戦のきっかけを得る場です。
Editor's Note
自分のまちを卑下しがちであった方が、FC今治など様々なコンテンツが生まれていることで、自分のまちに対する誇りを持つようになったという話を聞き、大きな感動を覚えました。
まちの景観を変えることはお金をかければできることかもしれません。ですが、一番変えることの難しい人の気持ちを変え、「シビックプライド」を持ってもらえたことは、今治.夢スポーツのみなさんが、熱量を持ち地域のために活動し続けてきた大きな成果だと思います。
今回セッションを執筆させてもらうなかで、すっかりFC今治のファンになってしまいました。これから、私も何らかの形でFC今治に携わっていきたいと思いました。
AZUKI KOMACHI
小豆 小町