JAPAN
日本全国
心身ともに良好な状態を意味する「ウェルビーイング」という言葉を、頻繁に目にするようになりました。
企業にとってのウェルビーイングは、主に健康経営の文脈で語られています。では、地域とそこで暮らす人にとってのウェルビーイングとは、どういう状態なのでしょうか?ウェルビーイングであるためには、何が必要なのでしょうか?
そこで今回は、「人口減少時代の幸福論!地域と人のウェルビーイング」と題して、島田由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)、東修平氏(大阪府四條畷市 市長)、石山アンジュ氏(社会活動家 / 一般社団法人Public Meets Innovation)、柴田涼平氏(合同会社Staylink 共同代表)の4名のトークをお届け。
企業、パブリック、トライセクター、それぞれの視点から考えるウェルビーイングとは?
柴田氏(以下、敬称略):本セッションのテーマとしていただいている「人口減少時代の幸福論」について、少し聞いてみたいと思います。「人口減少とか全然関係ないでしょ」でも、「人口減少下だからこそ、こういう考え方や取り組みが大事だよね」でも、それぞれ思うところがあると思います。
石山氏(以下、敬称略):人口が減ると税収が減り、これまでと同じように公共のサービスを提供し続けることは難しくなる。かつ、そこが過疎地域であるならば、経済合理性で動く企業はそこから資本撤退する可能性が高い。そうすると公共の手も行き届かないし、企業の資本の手も行き届かない場所が今後増えていくんじゃないかと予想しています。
それをどういう風にサステイナブルにするかが、共助をシェアリングエコノミーで再構築するという考え方です。市民同士で子育てや介護をシェアできるコミュニティや共同体を新しい形で再構築することが、持続可能な地方の生き残りの一つの選択肢なんじゃないかなと。
石山:地域の自治会や地域団体が崩壊していっている中で、市民が町づくりの担い手になる仕組みもなかなか考えられてこなかったと思っていて。関係人口といった新しいものを組み合わせて、どうやって市民が自分たちで担い手となって地域をサステイナブルにしていくかが重要だと考えています。
東氏(以下、敬称略):うちは大阪府の地方自治体で、都心部に電車で15分ぐらいで出られるようなところですが、まだまだ市民は主体的ですし、民生委員さんや消防団も非常に活発に動いてくれています。
東:人口減少というよりも、年齢構成上、新陳代謝が起きにくくなっているので、次の世代に紡ぐ人たちの割合が減っている。そこにどう対処していくのかが、私たちが現実的にすごく考えないとならないところです。
例えば、四條畷市には斎場があるんですが、今後数十年の内に一気に高齢者世代の方がお亡くなりになる際に必要な斎場の規模は、その後には不要になります。建物は40年、長寿命化すると80年保ちます。人口の減り方と建物の寿命が合わないので、ここをどうマッチングさせていくかが妙味というか、市長としてのやりがいになるのかなと思います。
柴田:そうですよね。ピークに合わせたものを作ったときに、その後どうするんだという考えがとても重要になってくると思います。再認識させていただきました。
島田氏(以下、敬称略):今まで通りの仕組みと思うから、「人口が減ったら困る」と思うだけで、みんな素晴らしい頭も美しい心もあるから、良いように変わっていくだろうなと思うので、私自身はあんまり心配していません。
ただ、なぜ今新しく生まれてくる命の数が減っていっているのかを考えた時に、もしかすると任せられるご親戚やご家族がいないから、不安で産めないという方もいらっしゃるかもしれない。
島田:人が幸せを感じる要素は3つあることがわかっていて、幸せの3つのレバーと言います。その一つであるセンスオブコネクティブネス、即ち「繋がり」が、人口減少とともに少なくなっているのか、人口が減るから繋がりが減るのか、どちらが先かわからないけど。
東京生まれ東京育ちで故郷のなかった私が、ここ5,6年でいろいろな地域の方との繋がりができて、「ジャガイモができたよ」と送ってくれたりするんです。縁と所縁ってつくれるものなんだなと感じています。こういう関係性がどんどん広がっていくのが、今の日本にとってすごく大事なことだと思うんですね。また、企業からしたらBCPの観点で、どこか行ける場所があるのはすごく大事だと思うから、ワーケーションは、大変重要な仕組みの一つだと思っています。
石山:私も横浜生まれで、親戚もみんな首都圏にいるので、いわゆる僕の夏休み的な田舎がなかったんですよ。大分で生活してみて、ゴキブリをクモが食べて、死体があったら蟻が全部持っていくみたいな感じで、日々の暮らしの中で生態系を感じます。サステイナブルって人間中心社会の中で、人工的に作られたものを消していくことではなくて、この地球というものをどうやってちゃんと捉えるかが最も重要だと感じます。
あとは、いわゆるコモンズと言われる領域だと思うんですけど、全てを区分して、何か物の取引をするっていう価値観ではない、所有共同的なコモンズのあり方がまだ地域には残っていることをすごく感じています。それぞれがそれぞれの気づいたことをやることで、結果的に地域の治安が守られ綺麗さが守られ、循環している。
都会では、マンションの共同のゴミ捨て場って、別に誰が捨てたかわかんないからめっちゃ汚くしていく人、いるじゃないですか。そういうことをどうやってコモンズ的な意識にできるかって思いますね。
柴田:質問がいくつか来ていますので、皆さんに投げかけたいと思います。まず1つ目ですね、「皆さんは普段どんなことでウェルビーイングな状態を保っているのでしょうか」という質問です。
島田:私は、まず自分の状態に気がつくように努めています。今日はちょっと調子がいいなとか、良くないな、ちょっとイラっとしているなとか。そのためのスキルとして、マインドフルネスを常にやるようにしていますね。
それとさっき申し上げた通り、私には自然の中にいることがすごく大事です。周辺視野から入ってくる情報が、脳の前頭葉の活性化に影響するんです。無意識に家の壁を見ているよりは、海や山や空が見える方が自分にはいいので、ワーケーションで整えるように気をつけています。
東:面白くない答えになってしまうかもしれないんですけど、私が大事にしてることは、要はウェルにしすぎないことです。こうなるとすごく嬉しいとなると、そうでない時とのムラが生まれてしまいます。定常的にいられるためには、「とってもハッピー!」にはならないっていうことなんですよね。
柴田:先ほども「ビーイングであり続ける」とおっしゃっていただいたので、東さん、仏みたいな人だと思います。
石山:私は根っからのシェアラーなので、他人に心を寄せる余裕があるかが、自分がウェルビーイングかどうかの物差しになっています。自分の心に余裕がなく他者のことを考えられなくなった時は、どんなに忙しくても一旦仕事を止めて、シェアハウスの2歳児のお弁当を作るとか、頼まれてないのにみんなに朝ご飯を作るとかしながら、自分の心を開くことを意識していたりします。
島田:伺っていると、お二方とも自分に気がついていることが共通点ですよね。だって、「自分がどうだったら、どうなるんだろう」というのをわかってらっしゃるから。
柴田:由香さんありがとうございます。おこがましいですけど、全く同じことを言おうとしていました。
柴田:もう1つ、質問がきています。「地域にコミットする意識はいつ、どんなきっかけで生まれたのでしょうか」。これは東さんにお聞きしてみたいかなと思います。
東:地域という存在やものにコミットをすることはなく、やっぱり「そこに住んでいる人がどうあってほしいのか」ということだと思うんですね。私の場合だと、四條畷市は生まれ育ったまちなので、親兄弟あるいは同級生、その友人知人みんなが住んでいます。家族や昔からの友人は心から大切で、「彼ら彼女らのような、この市で暮らす人たち皆に、今後もウェルビーイングでいてもらえるような行政運営をしていきたい」という想いが根っからにあります。地域に対してどうこう、ということではないかもしれないです。
柴田:おっしゃる通りだなと思っていまして、地域も組織も企業も国も、細分化していくと、1人の人が連なってできているものだと思うので、半径1mの人の幸せを究極的に考えたときに、その行動が結果的に地域のコミットと呼ばれるものに繋がってくるのかなと思わせていただきました。
石山:今、私たちが学んでいることは、国も資本主義も完璧じゃない。どんどん格差も広がっているし、いろんなことがカオスになっている状況の中で、唯一信じられるものは自分でしかないということだと思います。自分が自分をどうやって守ってあげられるかみたいなことも、地域にコミットすることの一つの視点になるんじゃないかなと思います。
東:ちょっと違うかもしれないですけど、そもそも国家がシェアであるっていうのを忘れがちです。軍隊や警察という機能を一人ひとりで抱えられないから、国家というものに渡してみんなでシェアしているので、人類はそもそも生まれ落ちた段階からシェアなんですね。消費するとか与えるってアンジュさんよくおっしゃってますけど、意識が変わっているだけでやっていることはシェアなんですよね。
島田:私も少し違う視点になっちゃうかもしれないんですけど、好きな人に誘われて行ったことのない地域に行ってみて、こんなに自然があるんだ、こんなにお水もご飯も美味しいんだと衝撃を受けました。かつ一次産業と言われているものが、どれほど重要なものかに、この年齢になってから気がつかされて、ショックを受けました。そして現地にいらっしゃる素敵な人たちにまた会いたいとか、この人とまた喋りたい、地域に関わりたいなって思いました。
柴田:私もNPO法人を経営していて、宿内で認可を取って学童保育、不登校生向けの居場所作りをしているのですが、地域の人たちと子供たちが「行ってきます」「ただいま」「お帰り」というような関係性が築かれているのを見ていて、会いたい人や挨拶を交わせる人が周りにいるってすごく幸せなことなんじゃないかなと思います。
柴田:残り時間わずかとなってしまいました。最後にお1人ずつ、クロージングトークとして、視聴者の皆様へ一言ずつもらえればと思います。
東:私個人としては、これだけ3人バラバラの意見がある中で、これを纏めないといけなかった涼平さんのウェルビーイングが著しく下がっているんじゃないかなとばかり心配してました(笑) 私はもう今日お伝えしたいことはお伝えできたので、ぜひお二人の時間をとってください。
柴田:ありがとうございます。仏だ、東さん。じゃあ由香さん、お願いします。
島田:ありがとうございます。すごく楽しかったですし、とっても新しい刺激のある視点で勉強にもなりました。ウェルビーイングについては、自分がどうだったら調子がいいかを知っていることが大事で、それは自分なりのものでいいってこと。それが今日、お三方のお話からもすごくわかった。ありがとうございました。
石山:他者の物差しで生きないっていうことですね。豊かさというのが本当に多様化しているし、選択肢も増えている中で、何が自分にとって幸せなのか、豊かさなのか。これをとことん突き詰めること。それだけ頑張ればいいという風に思っています。
柴田:ありがとうございます。皆さん、本日はお時間いただきありがとうございました。
草々
Editor's Note
4名の方々が異なる立場・視点からウェルビーイングを語られ、立体的な奥行きのあるセッションでした。
人によって「幸せ」も「豊かさ」も異なり、「地域」という言葉から無意識に思い浮かべる場所もそれぞれ。その全てを包摂し、支えられる社会と人の在り方とは?そんな宿題をいただいた気がします。
FUSAKO HIRABAYASHI
ひらばやし ふさこ