地域リーダー論
社会やビジネスにおいて将来の予測が困難になっている「VUCA時代」。
地域でもとりまく環境が変化し、未来の予測が困難な中、多くの人たちを巻き込みながら、地域課題に取り組む「地域リーダー」と呼ばれる方々に注目が集まっています。
とはいえ、「地域の為に何か行動をしたい!」と思いながらも、長年築き上げられてきた各地域特有の文化や習慣によって、思ったように地域内でコミュニケーションが取れず、「物事をうまく前に進められない」と悩んでいる方も多いかと思います。
そんなアナタのために開催した「SHARE by WHERE」は、完全オンラインで行われたあらゆる業界・地域を超えた地域経済活性化カンファレンス。今回は、全国各地から参加された総勢70名以上の登壇者でセッションが行われました。
中でも本記事では、「地域リーダー論!地域を動かすリーダーやコミュニティマネージャーの育み方」をテーマに、山下 翔一氏(株式会社ペライチ 取締役会長)、渡邉 知氏(株式会社ファイアープレイス 代表取締役)、、田中 佑典氏(総務省 Public Meets Innovation理事)、林 篤志氏(NextCommonsLabファウンダー)、澤田 哲也氏(ミテモ株式会社 代表取締役)の豪華5名のトークをお届け。
地域と心を重ねながら、信頼と実績を築き上げていく「地域リーダー」の真髄に迫ります。
澤田氏(モデレーター:以下、敬称略):モデレーターを務めさせていただきます、ミテモ株式会社の澤田です。ではまずは皆様、自己紹介をお願いします。
山下氏(以下、敬称略):私は株式会社ペライチという会社で、誰でも簡単にHPやネットショップを作れるCMSツールの運営しています。“地域” に関する私の紹介をすると、オリンピックパラリンピックをつかって地域活性化を目指す「オリパラ首長連合」の企業代表を6年務めていたり、香川県東かがわ市で「わくわく課」の課長をやっています。
田中氏(以下、敬称略):総務省の田中です。これまで少子高齢化問題など、人口減少はよく課題としても挙げられますが、今限界集落では、実際に人がいなくなる現象が起こりはじめています。私自身もそんな集落の出身ですが、先日、出身集落の人口が統計上0になるという経験をしました。
田中:小さい頃から、暮らしている地域で人口が減っていくことを目の当たりにしてきた経験から、“地域活性化” といった取り組みだけではなく、“地域の看取り” という考えも必要なのではと考えていました。そういった発想から、地域・集落における歴史や文化、地域直属の受け継がれてきたものの中で、次世代に何を渡すのかを話し合い、明確化する「NPO法人ムラツムギ」の運営をしています。
渡邉氏(以下、敬称略):株式会社ファイアープレイスの渡邉です。2015年までは電通やリクルートでサラリーマンをしていて、日々 “勝つか負けるか” の世界で生きていました。
渡邉:私は仙台出身なんですが、東日本大震災の時、自分の父が行方不明になったんです。その時にはじめて、東京で勝つか負けるかの価値観が揺らいだというか、父親を捜しにいくことと、自分が東京でいい成績をあげること、どっちが大切なんだろうと考えさせられたんです。そのきっかけから、復興支援や地域創生、まちづくりといった、人との繋がりやコミュニティについて考える活動をしています。
林氏(以下、敬称略):私自身は10年くらい地域を現場に仕事をしていて、5年前にNext Commons Labという会社を立ち上げました。社名にある “Commons” は、共有材という意味ですが、「Commonsを設計デザインすることで、人生を謳歌できることが当たり前になる社会をどうつくるか」について日々考えています。
林:具体的には、地域おこし協力隊という総務省の制度を、起業家育成に特化した形で全国に広めた実績があります。いま140名強くらいの起業家が、私たちのネットワークで活動をしていて、恐らく地域おこし協力隊制度を一番使っている組織になっているのでは、と思っています。最近は、新しいパブリックをつくり、そこにどう大企業を掛け合わせるかを考える事業も行っています。
澤田:まずは地域を横断的に見られている田中さん、林さん、山下さんにお話をお聞きしたいのですが、皆さんの経験から、リーダーやコミュニティマネージャーが育っている地域と、そうじゃない地域に対して、どんな違いがあると感じていますか?
山下:今、色んな形のコミュニティがあると思っていて、私が東かがわ市で立ち上げた「わくわく課」のように、外部の人たちを巻き込む形でコミュニティを形成すると、地域の色に関係なく、多種多様な方々が入ってきます。その場合、地域において重要なのは、外部の方を受け入れる力や、コミュニケーションスキルがあることだと思っています。
澤田:わくわく課の活動を拝見して、山下さんは外部の人を組み込んでいきながら、みんなが発案できる場づくりを意識されていると感じるんですが、どんな形でコミュニティをつくられていますか?
山下:わくわく課は「熱量がありながらも、地域のしがらみで動けない、そもそも動き方がわからない」という方々のために、“積極的にトライして失敗できる場” としてつくりました。
わくわく課は、東かがわ市の市役所外の組織なんですが、開始2ヶ月で530名ほどの方が集まって下さり、そのほとんどが市外の方で構成されています。ある意味特定地域の課題や資産にに向き合うんですが、地域性の垣根をぶっこわすことを意識していますね。結果的に約2ヶ月で20個以上のプロジェクトが生まれていて、スピード感含めて、おもしろい変化が起こっていると感じています。
澤田:市役所外の組織でありながら「わくわく課」という、「あたかも市役所の一組織」にみせる表現をされている点もおもしろいですね。
山下:そうですね。市役所の中に組織を作ってしまうと、プロジェクトの自由度が低くなるし、スピード感が遅くなると思っています。ですので、“市役所を巻き込むところ” と “巻き込まないところ ”のすり合わせを最初にして、いろんなプロジェクトを同時に走らせるという方法を取っています。
澤田:なるほど。今のお話を聞いて、発案できるアイディアやノウハウがある方々に対して、適切なコミュニティをつくってあげられるかどうかも、リーダーが育っている地域と、育っていない地域の差異になりうるのかなと思いました。
山下:私の経験ですが、プロジェクトを地域で進める上で “出された意見を否定しない環境づくり” はとても大事だと思います。シンプルですが、「喋ることを笑わない」とか、「バカにしない」とか。例えば、東かがわ市には、ホワイトタイガーで有名な “しろとり動物園” があるんですけど、「香川=うどん=白=ホワイトタイガー」ということで「ホワイトタイガーうどんチョコ」を作ろうと提案したら、「それいいね」と賛同され、3,4日後には地元のパティスリーと連携して、つくった試作品を市議会議員が試食してる動画が送られてきたことがあったんですよ。
その「ホワイトタイガーうどんチョコ」が超おいしそうで。一人一人が何かを考えながら、わくわく課の人たちに「これどう思いますか?」と投げかけたことから、形になるまでのスピード感には結構驚きました。つまり「うどん?ホワイトタイガー?チョコ?バカじゃないの?」と言わないコミュニティだからこそ、皆がスピード感を持って「やってみよう」と思える。それが地域づくりの秘訣だったりするんじゃないかと。
田中:地域におけるリーダーシップは、4つの段階に分かれていると思っています。1段階目は「地域課題に対して、何かをする意志がある人がいること」。2段階目は「地域課題に対して、解決策を考えて行動を起こすこと」。3段階目は「仲間を増やしてコミュニティ化していくこと」。そして最後の4段階目に「つくったコミュニティを継続していくこと」。
僕の経験でいうと、1~3段階目は、ある程度できている地域が多い。しかし、4段階目の “継続面” では、団体・地域において格差があるのが正直なところだと思っています。金銭面の難しさももちろんですが、地域で活動されている方は自分で別の本業をしながら、ボランティア的に関わっている方も多いので、一定数のコミットメントを継続的にしてくれる人をなかなか見つけにくいんです。途中でいなくなっては新しい人が現れて、またいなくなる、が繰り返されている印象で、継続性の担保のしずらさが課題だと感じています。
林:時代の変化のスピードが異様に早くなってきて、地域や自治体っていうフレーム自体が崩れつつある中、“新しいものをつくっていく時代のリーダー像” と “従来の地域の中におけるリーダー像” ではずいぶん差があると思います。それこそ、差がありすぎて一人のリーダーで対応できる代物ではないんですよね。
「その地域に必ずいて、地に足をつけて活動をする従来型の地域のリーダー」も必要だし、「たまにふらっときて、格言残して帰っていくようなリーダー」がいてもいい。だからこそ、地域がいかに多様なリーダー像をバランスよく受け入れていくことができるかどうかがポイントだと思いますね。
Editor's Note
地域づくりにおいて「否定しない環境が大事」という言葉に感銘を受けました。
登壇者が話をされていましたが、私自身の経験からも、地域においてプロジェクトの継続性の担保の難しさ(ボランティアでの参加者が多く、モチベーションが続かない等)を感じていました。
しかし、その継続性に関する課題をカバーするように、「否定をせず、まずはやってみることの後押し」を地域で担っていくという組織づくりが、個々の自主性を育むことに繋がり、結果的にスピード感を持ってプロジェクトを進めていく鍵になるのでと考えさせられました。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香