Matching
副業兼業
企業の副業解禁が進む中、地域でも副業人材の活用が始まっています。多数の応募者が集まったというニュースを目にする一方で、人材の受け入れ先と副業兼業人材が合わない「ミスマッチ」がボトルネックになっているという声も。
副業兼業を通じて、継続的に地域に関わってもらうために、“良いマッチング” を生み出す秘訣とは?
今回は「副業兼業のボトルネックを解消。受け入れ設計と人材要件定義」をテーマに、石丸伸二氏(広島県安芸高田市 市長)、梶達氏(北海道上士幌町ICT推進室 室長)、大浦征也氏(パーソルキャリア株式会社 執行役員)、黒瀬啓介(LOCUS BRiDGE代表)の4名のトークをお届け。
地域で先進的に取り組む方々の想いと工夫、そして見ている未来とはーー。
黒瀬:先ほど梶さんからご紹介のあった『かみしほろ縁ハンスPROJECT』では、WeWorkのネットワークを使ったことで応募者が集まったというお話がありましたが(前編記事はこちら)、この集客の部分は結構悩ましいと思っています。
自治体単独では地域外のネットワークを持ってないので、集客はかなり難しいですよね。もっと自由にそういう人材が行き交う場を作れると、多分潮目も変わってくるのかなと思います。梶さんはそこら辺で考えていることはおありですか。
梶:おっしゃる通り、自治体が単独でやるのは無理なところがあるので、「広域で」という話はよく出ます。上士幌町で言うと、十勝広域や北海道で一緒にやりましょう!とかありますね。でも、隣接した地域が同じようなウリでやるよりも、全然違う地域の色々な人材募集があって、夏は北海道、冬は暖かそうな地域をお手伝いする、となった方が面白いかなとも思っています。
同じような想いを持っている自治体と連携して拡大し、マッチングプラットフォームサービスをビジネスとしてやれるようになるのは、将来的な構想として我々もぼんやり考えていることですね。
黒瀬:副業兼業の方が様々な地域で活動するためには、ベースとして、地域に入り込みながら寝泊りする場所など、広域での活動も見据えて用意しないといけないかもしれませんね。
梶:その点については、我々もシェアオフィスを整備しました。開業を控えているホテルもあります。また、副業兼業の方々に来ていただく上で、ネックになるのが移動なんですね。交通事業者さんとも相談して、例えばサブスクで、定額払えば滞在できて、シェアオフィスが使えて、宿泊ができる。さらに移動も使い放題で、行き来する航空料金も定額料金に含まれる、といったことをワーケーションで実証しようとしています。そういう総合的な受け入れ体制があるといいのかなと思っていますね。
黒瀬:集客できたとして、次は採用ですが、スキルがない人がスキルのある人たちをどう選んでいくのかも、かなり難しいと思っています。梶さんの『かみしほろ縁ハンスPROJECT』では、梶さんが役場として間に入っていますが、やってみていかがでしたか?
梶:地域の事業者さんも私たちも、募集スキルのある人を雇った経験はないので、アドバイザーの方に入ってもらい、都市部人材の方にどういうスキルを持っているのかをしっかりヒヤリングしてもらった上でマッチングを行いました。
それでもやはり難しくて、先ほどの19件募集して2件しかマッチングできなかったのは、応募していただいた方のスキルが偏っていたり、重なってしまっていたりしたことと、丁寧にヒヤリングしても、我々からは都市部人材のスキルが見えないというところがありました。まさにここが今年度やってみて感じた課題ですね。
黒瀬: 石丸市長は、副市長に応募された4,000人の方の2次審査をされている頃かと思いますが、採用の部分で石丸市長が気をつけられたのはどういう点だったのでしょう?
石丸: 視聴者からのコメント欄にも、似たような質問があったので、そこにもお答えできるように少しお話をさせていただくと、外から人を招くということは、大前提、かなりの摩擦を組織内に生むだろうと思っています。特に自治体行政というのはそこに対するアレルギーみたいなものはあると感じます。
そこで、今回は3段階の選考をとっていて、2段階目の選考を職員に任せるという工夫をしました。全職員に投票してもらって自分たちの代表を選挙で選んでもらい、選ばれた数名の面接官に完全に判断を任せます。私は2次選考には一切関与せず、2次選考をやってもらい、その結果選ばれた13名を3次選考で私が選ぶというステップを踏んでいます。
黒瀬:すごくいいですね。勝手に市長が選んで、どえらい奴連れてきた!となると、どうしてもハレーションが起きてしまいますけど、みんなで選んだとなると、採用の段階から合意形成できていることになりますし。
石丸:市長自身は選挙で市民に選ばれますが、職員からすると、自分たちのトップが思いも寄らない人になることもあると思います。だからこそ、ちゃんと了解を得たといいますか、全員で判断するステップを踏めたのはすごくいいのかなと感じました。
石丸:私の方から質問というか、提案があります。大浦さん宛がメインになるかと思いますが、先ほどのお話の中で、公募の縁を一期一会で終わらせないというお言葉があったかと思います。(前編記事はこちら)
私も、この副市長の公募を、ここからどう発展させていくかを思案しているところです。今回の公募によって、小さな自治体の副市長という仕事をやってみたい方が全国に4,000人いらっしゃることがわかりました。そして、意欲や能力をお持ちの方がこんなにもたくさんいるという事実をより多くの方々に共有していきたいなとも思っています。
他の自治体さんも含めて、広く知っていただくことで、もっとたくさんの方がこうした活動にのってきてくださることが期待できます。そうすると人材に厚みが出ますので、マッチングもしやすくなり、自治体にとっては歓迎すべき社会になっていくんじゃないかと思います。例えば、プロ経営者ならぬプロ副市長という役割を人材ビジネスの一端に加えていただけると面白いかな、とかも思っています。
大浦:非常に興味深いですね。我々のような人材会社がプラットフォームをもっと大きくすることもそうですが、そういった機能をぜひ自治体の皆さんにもお願いしたいと思うんですよね。
安芸高田市として、ないしは広島県として、そういうデータベースを作ることができれば、ある企業様でニーズが出たときに、以前、広島県の何らかの案件に応募してそのときは落ちた方が、そのポジションだったらピッタリというマッチングもできると思います。人材会社も頑張りますし、自治体も一緒になってデータベース作りができるといいなと感じています。
黒瀬:都市部人材の方もそう思ってほしいですよね。「応募したけど合わなかったから、もう地域とやらない」ではなくて、「今回は方向性が違ったんだな」と考えて、ぜひ再度チャレンジしていただきたいなと思います。
大浦:例えば、地域側が、今の流れにのって副業人材を受け入れてみたら、ミスマッチしてしまい「やっぱり副業人材は良くないな」という話になったり、地域で副業を始めたメンバーが、1回やってみたけれども「何かちょっとやりづらいな、いちいち議会の承認とか面倒くさいな」と、地域での副業を嫌だなと思ってしまったり。
そうならないように、受け入れ側も、入り込む側も、お互いに失敗を繰り返しながら、自分たちの魅力をどう伝えたらいいか、どんな人を採用したらいいかに習熟してくるものなので、トライアンドエラーができるといいなと思います。
黒瀬:ではセッションの残り時間もわずかとなりましたので、最後に皆さんから一言ずついただきたいと思います。
梶:私は副業兼業の専門でもなく、皆さんから参考になる話をいただけて、ありがたかったです。最後にちょっと本当に個人的な感想なんですけど、副業兼業が言われている中で、一番遅れているのが自治体職員だなと。
ぜひ黒瀬さんには、先ほどプロ副市長って話ありましたけど、プロ公務員として公務員に戻っていただいて、長崎県平戸市のふるさと納税も上士幌町もやるプロ公務員としてですね、自治体職員の副業兼業も広げてほしいです。ありがとうございました。
黒瀬:梶さん、ありがとうございます(笑)。今、自治体の方が副業しながら地域に貢献できる仕組みのアイディアがありますので、また声をかけさせてください。
大浦:大変楽しい時間でした。副業というと、ジョブの切り出しみたいな話になりがちですけど、やっぱり人と人とのマッチングをどうするかがポイントだと思うんですよね。何の仕事を、どんな経験スキルを持っている方にやってもらいかを感覚だけで進めてしまうとやっぱりミスマッチが起こると思います。どんな課題があり、どんな人に来てもらいたいのかがちゃんとPRされて、人と人とのマッチングが進むことが、ミスマッチを解消していく気がしました。どうもありがとうございました。
石丸:今日は「地方にこういう課題がある、人手が足りない」という需要サイドのお話をさせていただきましたが、市役所のトップという立場にいますので、逆に公務員を副業人材として世に出すこともできると思っています。
私は公務員ブランドというものは、ものすごく強いと思います。公務員は、皆さんのイメージの通り真面目で仕事が丁寧で、携わっている業務が非常に多岐にわたります。この能力をもっと活かせるのではないかと思っていますので、この公務員の供給の話を、また別の機会で黒須さんにコーディネートしていただいてディスカッションできればなと思います。今日は本当にありがとうございました。
黒瀬:大浦さんもおっしゃっていましたが、結局人と人が仕事してるんだなというのを、私は行政から民間に来て改めて感じているところなので、ぜひ上士幌町と安芸高田市が率先してこの課題に取り組んでいただき、人材の動きをどんどん作り上げていただきたいと思っております。皆さん、本日はどうもありがとうございました。
Editor's Note
1度のミスマッチで諦めずにトライアンドエラーを繰り返すことは本当に重要だと思います。繋いだ縁を一期一会で終わらせない工夫と共に、今後の展開が楽しみです。
FUSAKO HIRABAYASHI
ひらばやし ふさこ