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プロモーション
自分のまちのボランティア活動に参加してまちの良さを知ったり、住民と一緒になってまちを面白くしたりと、まちの人と一体感を得ることで幸せを感じることをたくさんの人に共有したいと思う方もいるのではないでしょうか。
今回は「編集の力で地域イメージを変える。地域デザインの先にあるものとは。」をテーマに、大垣 弥生氏(奈良県生駒市役所 広報広聴課長)、松下 麻理氏(一般財団法人 神戸観光局 神戸フィルムオフィス代表)、藤川 明美氏(兵庫県尼崎市役所 広報課課長)、北見 幸一氏(東京都市大学 都市生活学部/大学院環境情報学研究科 准教授)の豪華4名が行ったトークをお届け。
まちの魅力を伝えるために、行政はどうあるべきなのかについて語りました。
北見氏(以下、敬称略):「関係人口」という言葉もありますが、私自身、地域住民でなくても関わってくれるならウエルカムな風土って素敵だと思っています。この辺り、皆さん、いかがでしょうか?
大垣氏(以下、敬称略):視聴者の方から『行政が「らしさ」を作るものなんですか?』と質問をいただいていますが、私は市民の皆さんや市外の人たち活動の集合体が “らしさ” につながっていく気がします。
地域によって関わる方法は様々だと思うので、住宅都市である生駒は何をすれば、地域内外の方が関わる場をつくっていけるんだろうといつも悩んでいます。
松下(以下、敬称略):大垣さんの周りには熱量の高い市民の方々がたくさんいらっしゃいますよね。以前、オンラインのセッションでお会いした時に皆さん、まるでわが子のように自分のまちのことを自慢していらっしゃいました。
あの時、大垣さんはよくここまで皆さんの気持ちを引き出されたなあと驚きました。市民の皆さんの心に火をつけるきっかけを創る方法があれば教えて欲しいです。
大垣:きっかけづくりは得意なんです(笑)。社会貢献、地域ボランティアでない軸で地域の方々が出会える場をつくったり、発信したりして、自然に人間関係をつくっていくんです。私とじゃなくて、地域の方々同士で。
でもその火が広がる土壌を創るのはなかなか難しいと感じています。例えば、宣伝部の方が「地域活動を始めた」と周りに伝えたら、周りのお友達にさーっと引かれてしまったとおっしゃっていて。まだまだ地域に関わることが楽しいという雰囲気をつくることができていないんだと思います。
だからこそ、地域を楽しんで、その輪を広げてくださる人の存在は貴重です。
松下:藤川さんは、シティプロモーションで紹介する方をどのように見つけていらっしゃるんでしょうか?
藤川氏(以下、敬称略):そうですね。いろんな人から紹介してもらったり、自分たちも動き回って探していますが、そうしてできた人とのつながりで新たな活動が生まれることもありますね。
藤川:尼崎は、まちづくりに向けた地域振興体制の再構築を行っていて。尼崎には行政区が6地区ありますが、市民の皆さんが身近な地域で活動したり学んだりできるように、シティープロモーションの部分だけでなく、様々な側面から行政がサポートする必要があると思っています。
北見:プロモーションすると、自分には関係ないと思う人が多いと思うんですね。情報発信をする中で、当事者意識を持ってもらったり、共感を得るために気をつけていることはありますか?
松下:そうですね。神戸を好きな人の気持ちは、恋に似ていると思うんです。「恋に理由なんてない」というように、恋をすると何が好きなのか分からなくなって、他人から「神戸ってどこがいいの?」と聞かれると、「全部いい」って言われる方が多いんですよね。
でも一つひとつ、「なぜいいのか?」を語れないと周りの人には伝わらないので、それを編集していくのが私たちの仕事だと思っています。
松下:神戸は、かつて開港して外国人が入ってきたときに、他の開港都市にはない「日本人も外国人も住める雑居地」が広い地域でした。
そこから多様性がたくさん生まれて、かつ、いろんな人が文化を育てているまちだと気づかされることがあるんです。このような事実をどんどん発信していくことに力を入れています。
藤川:私たちも広報やシティプロモーションにおいて、「ターゲットを絞れ」と結構言われているのですが、実はあんまり絞り込んではいないんです。
最近は利便性や家賃の安さから、転入者がファミリー世帯だけではなくて、20代が多いので、ファミリー世帯の予備軍をターゲットにしながら、徐々に広げていくことに力を入れています。
私からも松下さんに質問したいのですが、生駒だったら “ママが自分らしく輝けるまち” ということで、専業主婦層がターゲットになっていたと思うんですが、『BE KOBE』は全世帯がターゲットだったんでしょうか?
松下:そうです。基本的に全市民です。でも、それを見て神戸に憧れて来てくれる地域外の方でも構わないと思っているので、「ここ」というターゲットは決めていないんです。
ただ、今私がやっている観光プロモーションだと、神戸の魅力は衣食住に関わることが多く、女性のほうに響くだろうということで30~40代の女性がメインターゲットにしています。そこをターゲットにプロモーションをすれば、周りのターゲットには置いていない層もついてくるだろうという考え方です。
大垣:生駒は専業主婦率が高いこともあって、当初は地域で自分の夢を叶えたい女性をターゲットにしていましたが、今は自ら多様な暮らし・多様な働き方を実践しながら「生駒暮らしを楽しまれている方々」をメインターゲットにしています。
まちづくりへの参画者を増やすことがプロモーションのゴールなのかなと思っていたこともありましたが、最近は生駒で買い物したり、生駒の友達と遊んだりと、まちを楽しむ人を増やすことが結果的に生駒のプロモーションになるんじゃないかなと思っています。
北見:なるほど。今回のテーマでもある「地域デザインの先にあるものとは」の部分も聞いていきたいんですが、この辺りはいかがでしょうか?
松下:持続可能な社会を創っていくためには、行政だけが頑張るのではなく、まちの人たちが、みんなでまちを良くしていくところに結びつけることが最終ゴールだと思います。
まちを好きになってもらうとか、誇りを持ってもらう、そしてまちのために何かをできる人になってもらうことがプロセスにおいて重要なんじゃないでしょうか。
藤川:私はまちで暮らす中で、いろんな人と出会って、楽しいとか、このまちに住んで良かったと思ってもらうことが、良いまちづくりのための最終的な目標なのかなと思います。
大垣:私自身は市職員になって、まちなかで声をかけてくださる人が徐々に増えていくに連れて生駒のことが大好きになりました。
地域に友達がいっぱいいて、この人たちとなら地域をつくっていけるというグリップ感を持ってもらうことが目標かなと思います。
北見:ありがとうございます。参加者からのコメントを共有させていただければと思うんですが、「行政ができることはブランディングというより、評判を高めることが近い気がします」とありますが、この辺り皆さんのお考えはいかがでしょうか?
大垣:ブランディングと評判づくりの違いをよくわかっていないのですが、評判とかイメージを高めることは関わるか関わらないかに直結するように思うので大切だと思います。
藤川:外部から評価されるとか、評判を上げることだけでなく、中身が充実してないといけないので、まちの価値をどう高めていくのかが大事だと思います。
松下:私も同感です。行政が決めつけても誰もついてこない反面、結果を出して評価することが行政の強みでもあるので、ブランディングも評価を高めることも両方やっていく必要があるのかなと思います。
北見:学会ではブランドとレピュテーション(評判や評価)という話で議論になるんですが、僕としてはレピュテーションってフロー(一定期間内に流れた量)でブランドはストック(一時点において貯蔵されている量)だと思うので、レピュテーションの積み重ねがブランドになっていくと考えた方がいいのではないかと思っています。
続いて、「持続可能なまちは、単に自治体の名前が残ることではないと思いますが、どのような状態や状況が持続可能だと思いますか?」というご質問をいただいています。
松下:私は持続可能というのは、そこに暮らす人たちが「どう暮らしたいのか」という想いをもって実現させていけることだと思います。
大垣:このまちが好きで住み続けたいと願う人たちが一定数存在することだと思います。
藤川:行政にできることは限りがあるので、市民の皆さんや事業者の方など、いろんな人が関わりながら、義務ではない活動に参加して楽しみを得ることが、まちを持続させるために大事なのかなと思います。
北見:皆さん、ありがとうございます。そろそろ終わりの時間が近づいてきましたので、最後に一言ずつお願いできますか。
大垣:私は、ほんとにピュアな気持ちで「生駒を好きな人が増えたらいいな」と思って働いていますが、それだけではなかなか前に進んでいかないので、多くの人が良い出会いを重ねて関係を構築し合える方法を模索していきたいなと思いました。
藤川:まちの “らしさ” って他と比べたらダメだと思うんです。自分のまちを見直して、尼崎らしさをどう出していくのか。今回のセッションでヒントを得たように思うので、これからも頑張っていろんな人たちに届けていきたいです。
松下:今日は皆さんのお話を聞いて「なるほどなっ」と思うことがたくさんありました。その上で、これからのまちや世界のキーワードのひとつに「寛容であること」は絶対的に広めていくべきだと改めて実感しました。みんなが認め合えるまちになれるように、仕掛けていく必要があると感じたセッションでした。
草々
Editor's Note
このセッションを通じて共有したいのですが、ある地域で出会った当事者が、「情報発信で、同じテーマや内容でも、地域の人によって伝え方、伝わり方が異なり、より多くの人の心に届けるには、個性豊かな複数の発信者が大切である」と伝えていた言葉が、とても印象に残っています。
シティプロモーションの本質は、造語や映える言葉に捕らわれて発信者のエゴになってしまうのではなく、地域の人たちの想いに耳を傾けることなのだと思います。
記事を読まれて、このセッションから地域の魅力の伝え方の大切さを見出すことにつながれば幸いです。
TAKAYUKI NAKANO
中野 隆行