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LOCAL LETTER

地域間で競合しなくていい。言葉の定義が難しいからこそ、広がり続ける「関係人口の可能性」に迫る

AUG. 05

JAPAN

前略、生産性のある「関係人口づくり」のヒントを学びたいアナタへ

地方創生の新しいキーワードとして2017年頃から使われはじめた、定住人口でも交流人口でもない、地域や地域の人と多様に関わる人のことを指す「関係人口」。

地域のファンを増やそうと、全国で様々な関係人口事業の施策が行われる中、移住や定住よりも実態を捉えづらく、どのようにすれば生産的な関係をつくれるのかと、日々頭を抱えている方も多いはず。

そこで今回は、「関係人口をまちの資産として活かし活かされる関係性」をテーマに、山田 崇氏(長野県塩尻市役所 地方創生推進係長*1)、坂本 大祐氏(合同会社オフィスキャンプ代表 クリエイティブディレクター)、坂倉 杏介氏(東京都市大学 都市生活学部 准教授)、菊地 伸氏(北海道東川町役場 東川スタイル課課長)、杉山 泰彦氏(株式会社WHERE根羽村支社 / 一般社団法人ねばのもり代表理事)の豪華5名のトークをお届け。

後半では、予測できない時代における、関係人口の可能性について迫ります。

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予測できない時代だからこそ、重要なのは、偶然の成果に価値を見出す「柔軟さ」

坂本氏(以下、敬称略):皆さんの話を聞いて思ったのは「計画ができないことが出てきている」ということです。今までもそうだったとは思いますが、コロナで分かりやすく明示されたと思っていて。

例えば、「今回の事業は 種から木を育ててリンゴを収穫します”」っていう計画とゴールを決めたとします。でも、育てていく中で、結果的にミカンができてしまったら、一般的にはそれは失敗になるじゃないですか。でも「リンゴはできなかったけど、ミカンができたことによる価値がある」と、まずは何かが生まれたことに価値を見出せる柔軟さって、すごく大事なのではないかと思うんです。

写真中央> 坂本 大祐(Sakamoto Daisuke)氏 合同会社オフィスキャンプ代表 クリエイティブディレクター、一般社団法人LOCAL COWORK ASSOCIATION 代表理事/  身体を壊したのを機に、東吉野村へ移住。商品や店舗のデザインなどを手がける。2015年には県と国と村でタッグを組みコワーキングスペース「オフィスキャンプ東吉野」を設立し、運営を担う。また、クリエイティブスクール「OKUYAMATO CREATIVE SCHOOL」を奈良県と共に実施。
写真中央> 坂本 大祐(Sakamoto Daisuke)氏 合同会社オフィスキャンプ代表 クリエイティブディレクター、一般社団法人LOCAL COWORK ASSOCIATION 代表理事/  身体を壊したのを機に、東吉野村へ移住。商品や店舗のデザインなどを手がける。2015年には県と国と村でタッグを組みコワーキングスペース「オフィスキャンプ東吉野」を設立し、運営を担う。また、クリエイティブスクール「OKUYAMATO CREATIVE SCHOOL」を奈良県と共に実施。

坂本:その柔軟さは、関係人口にも言えることだと思っていて、事業で行うということは、最終的な結論・評価をどこかのタイミングで出さなければならないと思いますが、計画ができない時代だからこそ「A以外は全て失敗!」ではなく、「結果的にBができた」という、評価に対して柔軟な発想を持つことができれば、効果が図りにくいとされる関係人口そのものの価値が上がっていくんじゃないかなって思いました。

「関係人口」という名前づけで起きたメリット・デメリット

坂倉氏(以下、敬称略):関係性って偶然の積み重ねだと思うんです。人と人がどう関わるかって、本来は外から決めることではないですし、そこから何が生まれるかは誰にも分からない。つまり、関係人口という構造は後からできるのであって、大事なのはそこで常に熱が交換がされて動いていることだと思うんです。動いていればいろんなことができるけど、最初に構造をつくっちゃうと、それをまわすためにどんどんコストがかかってしまったり、「あれ?なんか違うな」っていう違和感が生まれやすくなってしまう。

写真左下> 坂倉 杏介(Sakakura Kyousuke)氏 東京都市大学 都市生活学部 准教授 /  コミュニティマネジメント研究。地域コミュニティの拠点「芝の家」や大学地域連携の人材育成事業「ご近所イノベーション学校」の運営などを通じ、地域づくりのプロジェクトに多く携わる。2014年からは「24時間トークカフェ」を定期的に開催し、2019年からは「一般社団法人おやまちプロジェクト」の理事を務める。
写真左下> 坂倉 杏介(Sakakura Kyousuke)氏 東京都市大学 都市生活学部 准教授 /  コミュニティマネジメント研究。地域コミュニティの拠点「芝の家」や大学地域連携の人材育成事業「ご近所イノベーション学校」の運営などを通じ、地域づくりのプロジェクトに多く携わる。2014年からは「24時間トークカフェ」を定期的に開催し、2019年からは「一般社団法人おやまちプロジェクト」の理事を務める。

坂倉: “関係人口”と名前が付けられる以前も、“地域との関わりを持つことは大事” とみんな潜在的に知っていたと思います。ですが、“関係人口” という言葉で名付けれられた瞬間、“関係人口をつくっていくことは大事” という周知に繋がる一方で、“関係人口は、測れるものという勘違い” が生まれてしまった。

“関係人口” って、そもそも測る・測らないとか、計画する・しないとか、そういうことじゃない現象のことを指していたのに、それこそ「関係人口をつくりにいく」みたいな不自然なことが起きて、現場では「求めていた関係ってこれだったのかな?」という違和感がではじめているのではないかなと思いました。

「偶発的なコミュニティ」が予測不可能を越えていく備えになる?

山田氏(以下、敬称略):塩尻CxO Lab」っていう、官民協働で地域課題解決に取り組む実践型オンラインコミュニティをやっているんですが、第一期は27人のメンバーが15,000円を払って参加してくれているんです。今はさまざまなことが予想できない時代になっていて、例えばコロナはもちろんのこと、天気予報では台風がくるって分かっていても、予想以上の水害が起きてしまったり。

写真右下> 山田 崇(Yamada Takashi)氏 長野県塩尻市役所 地方創生推進係長*1 / 1975年長野県塩尻市生まれ。空き家プロジェクトnanoda代表、信州大学ローカルイノベーター養成コース特別講師地域ブランド実践ゼミ、内閣府地域活性化伝道師なども務める。また「MICHIKARA」という "市民・企業・行政” の3つの力が紡ぐ新しい地域未来をつくるプロジェクトの立ち上げや、地方創生プロジェクト・シティプロモーション等を担当する。著書「日本一おかしな公務員」(日本経済新聞出版社)。
写真右下> 山田 崇(Yamada Takashi)氏 長野県塩尻市役所 地方創生推進係長*1 / 1975年長野県塩尻市生まれ。空き家プロジェクトnanoda代表、信州大学ローカルイノベーター養成コース特別講師地域ブランド実践ゼミ、内閣府地域活性化伝道師なども務める。また「MICHIKARA」という “市民・企業・行政” の3つの力が紡ぐ新しい地域未来をつくるプロジェクトの立ち上げや、地方創生プロジェクト・シティプロモーション等を担当する。著書「日本一おかしな公務員」(日本経済新聞出版社)。

山田:そういった予想不可能な時代だからこそ、すぐ動ける多様な人たちのコミュニティをつくっておくことが、予測不可能な未来に備えることになるんじゃないかと思って、オンラインコミュニティをやっています。それがつまりレディネスだと思うんです。

坂倉:なるほど、予測できない未来に対し、偶然が起こる枠を事前につくっておくわけですね。しかも関わる人からお金をとって運営する。組織を組む側が「何かをしてあげられますよ」でも「何かをしてください」でもなく、「何が起こるかわかないけどその船に乗ろう」という人をちゃんと集めてくる。素晴らしいですね。

その枠の中で発生したことを、「予定通りかだったかどうか」で判断するよりも、「なぜそうなったんだろう」とか「どういった可能性や意味があるんだろう」とか、しっかりと吟味して次の打ち手を考える。多分そういうところから、関係性やコミュニティが育っていくんだと思いますね。

組織変容の鍵は、「レディネス」と柔軟性」にあり

菊地:結局のところ、行政の柔軟性が大事だと思うんですよ。よくあるのが、5年、10年の総合計画をつくったら、その計画通りに進めようとするあまり、進むべき道を間違えてしまっているということ。行政は予算が無ければ物事を進めることができないですし、制度も議会通さないとできない。でも、いろんなことに臨機応変に対応できる柔軟性を、行政がどう持つのかが鍵だと感じていますね。

写真右上> 菊地 伸(Kikuchi Shin)氏 北海道東川町役場 東川スタイル課課長/  人口8000人ほどの町である東川町役場の職員で、ふるさと納税等を担当する「東川スタイル課」で課長を務める。一般的なふるさと納税と違い、ふるさと納税の寄付を「投資」と捉え、寄付者が参加する「株主総会」を通じ町づくりに参加してもらうユニークな取り組みが話題に。2016年には北海道東川町の全貌に迫る「東川スタイル」(産学社)が発売される。
写真右上> 菊地 伸(Kikuchi Shin)氏 北海道東川町役場 東川スタイル課課長/  人口8000人ほどの町である東川町役場の職員で、ふるさと納税等を担当する「東川スタイル課」で課長を務める。一般的なふるさと納税と違い、ふるさと納税の寄付を「投資」と捉え、寄付者が参加する「株主総会」を通じ町づくりに参加してもらうユニークな取り組みが話題に。2016年には北海道東川町の全貌に迫る「東川スタイル」(産学社)が発売される。

菊地:東川町では、補正予算を12回くらい行うんです。行政としては多くて、毎月補正予算をやっているような感じです。私自身も町の総合計画をつくったことがあるんですけど、とりあえずこの先10年くらいの考えられることを全部羅列しておく程度のもので、「今後何が起きてもいいように」という、柔軟さを持った想定でつくっています。東川町では、予算や計画、議会設備にしても、何にスピード感をもって対応しなければならないのかを柔軟に考えて行動できているので、非常に恵まれてるなと思いながら仕事をしています。

杉山(モデレーター:以下、敬称略)気付けば残り時間が迫ってきてまして、締めに入らなくてはいけないんですけど、今日の話を聞いて、絶対に間違いないと思ったことは、未来は予測できないってことなんですね。

そのなかで、関係人口を生み出す有効な手段として「レディネス」っていう話と、「柔軟性」は重要なテーマだと思いました。関係人口がきっかけで普段出会わない人と関わる。特に、まちづくりの話でいうと、地方公務員と都内の民間企業が関係人口になることって、組織の変容をおこす鍵だと思っていて。

写真左上> 杉山 泰彦(Sugiyama Yasuhiko)氏 株式会社WHERE根羽村支社、一般社団法人ねばのもり代表理事 /  株主会社WHEREにて、地域PR・移住定住サポート事業で20地域の案件を担当。現在は地域おこし企業人の制度を使い、長野県根羽村でPR担当を担い関係人口の創出を手掛ける。2020年8月に一般社団法人ねばのもりを設立し、森林や山村をフィールドに学びの事業を提供している。
写真左上> 杉山 泰彦(Sugiyama Yasuhiko)氏 株式会社WHERE根羽村支社、一般社団法人ねばのもり代表理事 /  株主会社WHEREにて、地域PR・移住定住サポート事業で20地域の案件を担当。現在は地域おこし企業人の制度を使い、長野県根羽村でPR担当を担い関係人口の創出を手掛ける。2020年8月に一般社団法人ねばのもりを設立し、森林や山村をフィールドに学びの事業を提供している。

杉山:さっき菊地さんがおっしゃってた補正予算12回って、民間企業の話でいうと、ある意味毎日の話じゃないですか。でも行政の中では多い。なので、普段出会わない人との関りがきっかけで、それぞれのスタンダードを知ると、行政の在り方に柔軟性が出てきたり、予測不可能な未来が起きたときに、「あの人たちのやり方を参考にしよう」と早急に動けるんじゃないかと。そういった意味で関係人口創出には、「レディネス」と「柔軟性」がキーワードなのかなと思いました。

言葉の定義が難しいからこそ、広がり続ける「関係人口の可能性」

坂倉:関係人口はコミュニティと一緒で、外から見ても分からない。そこにいい関係人口があるかどうかは、中に入って実感できるかどうかでしか分からないと思うんです。その実感が伴うかどうか」という点にしっかりと目を向け、「何が起こり、何が必要なのか」を考える。そこには先ほど言っていた「レディネス」や「柔軟性」が問われると思うので、行政はそこをどう対応できるのかが試練なのではないでしょうか。

一方で感じている怖さは、「関係人口創生」が情報として消費されてしまうことかなと思います。今って魅力的なものってたくさんあるじゃないですか。そのたくさんの誘惑に負けないように回避して、いかに粘り強くコミュニティをつくっていくかが重要なのではないかなと思いました。

坂本:事前ミーティングで「関係人口って定義難しくないですか」っていう問いをさせてもらったと思うんですけど、今回自分の大きな気づきは、関係人口って許容範囲の広い言葉ともいえるということです。ですので、「関係人口がもつ許容範囲の広さを利用して、言葉の中で上手に実験する」、「わからないこと、可能性があるものは関係人口に全部くっつけてチャレンジできる」といったことが、関係人口の広がり続ける可能性なのかなと思いました。

関係人口は競合じゃない!ノウハウを共有し、明るい未来へ

菊地:今日みなさんのお話を聞いて、関係人口づくりにおいて「民間だから」「行政だから」っというのは全然ないのかなと改めて感じました。わたしは行政の人間ですが、個人の立場でいったら民間です。だからこそ、行政も民間も同じなんだという感覚で今後もやっていきたいと思います。両者の感覚がしっかり交わった時に、本当の意味での生産的な良い関係人口づくりができるのかなと感じましたね。

山田:私自身、日本のさまざまな地域の公務員が仮想市役所に集まり、地域の課題を模索する取り組みである「市役所をハックする!」という活動を2019年9月から行っているんですが、その活動の中で、「元々市役所ってどういう願いで生まれたんだっけ」とか、「コミュニティって何の役割なのかな」ということを深く考えるようになりました。

その中で、私が担わなければならないポジション=公務員だとしたときに、不確実な世の中だけど私たちはクビになりなりにくい性質があるので、民間の方たちや市民の方が行動しにくいことに対して、更に挑戦していかなければならないと実感しました。

ある意味、私自身が塩尻市の関係人口だと思うんです。つまり、行政という立場ではなく、市民の立場として塩尻市にできることがあると思っていて、その挑戦をする背中を見せることでいろんな人たちが共感を覚えてくれて、10年、20年後の市役所職員だったり、市民になってくれているかもと期待しますね。

杉山:関係人口って競合じゃないんですよね。地域ごとも競合じゃないし、みなさんそれぞれの活動を共有し合い、ノウハウをつくりながら、共に明るい未来をつくっていけたらいいなと思っています。

「関係人口に答えはない、可能性は無限大」ということで、今日感じていただいたインスピレーションを各々が行動に移していただけたら嬉しいなと思います。本日はどうもありがとうございました。

*1 山田 崇氏の肩書き「地方創生推進係長」は、本カンファレンス登壇時の所属になります。現在は、「官民連携推進課 課長補佐」としてご活躍中です。

草々

Editor's Note

編集後記

私自身「関係人口」の関連イベントに数回参加したことがありますが、参加者側と運営側の期待値の不一致が起こる等、関係人口づくりの難しさを肌で感じていました。

しかし、今日のお話を聞いて、偶発的に生まれてくるものに大きな可能性が潜んでいると気付くことができました。私自身、移住者であり地方と関わる一人ですが、予測できない時代だからこそ、ワクワクしながら地域の未来へ梶を切ろうと思いました。

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